アジア諸国の中でも、ジェンダー平等に関しては劣等生である日本。「女性活躍」という言葉が盛んに叫ばれ、これまで政府や企業によりさまざまな取り組みが行われてきたにも関わらず、大きく実を結ばなかったのはなぜなのだろう。
2020年11月27日の「MASHING UP Conference vol.4」では、「30%を乗り越えるには?意味も価値もある大きなチャレンジ」と題してトークセッションを開催。
G7諸国の民間セクターにおけるジェンダー平等を推進する国連プロジェクト「WE Empower」日本コーディネーターの大崎麻子氏をモデレーターに、30% Club Japan 創設者であり、デロイト トーマツ コンサルティング ジェンダー・ストラテジー・リーダーの只松美智子氏、30% Club Japan インベスターグループボードメンバーであり、りそなアセットマネジメント執行役員責任投資部長の松原稔氏、そしてOECD東京センター所長の村上由美子氏を招き、ジェンダー平等を取り巻く日本の現状を世界の動きと比較しながら語った。
ジェンダー平等における日本の順位は最下位
OECD東京センター所長の村上由美子氏
日本のジェンダー平等についての課題を語るにあたり、まずは現状とこれまでの経緯を理解する必要があるだろう。大崎氏によると、はじまりは1990年に2000年までに意思決定における男女平等を達成するために、まずは1995年ままでに指導的地位における女性割合を30%にするという目標が国連で合意されたこと。日本では2003年の小泉政権のもと、社会のあらゆる分野において、指導的地位に就く女性の割合が2020年までに少なくとも30%となることを期待するという目標が掲げられた。
その後、2013年には安倍政権によって成長戦略の中に女性活躍が位置づけられたが、2019年のデータを見ると民間セクターでの指導的地位における女性割合は課長レベルが11.4%、部長レベルが6.9% 役員レベルは5.2%と、未達成であることがわかる。
これを国際社会の中で見るとどうなのだろうか。「OECD加盟国の中では、残念ながら日本はビリです」と村上由美子氏。
「日本と韓国は、いつもOECD加盟国の中で最下位を争っている一方、欧州では30%をクリアしている国がいくつもあります。アメリカはしばらく20%前後でしたが、ここ2年くらいで州ごとに女性の取締役の割合増加を強制的に求めるという動きが進んでいるので、大きく変わってくると思います」(村上氏)
社会の持続的成長の実現を目指す「30% Club」
デロイト トーマツ コンサルティング ジェンダー・ストラテジー・リーダーの只松美智子氏(リモート登壇)
意思決定層における女性の割合上昇に大きく貢献してきた組織がある。2010年にイギリスで創設された、企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を通して、企業の持続的成長の実現を目指す世界的なキャンペーンである30% Clubだ。2019年に日本でも発足した同クラブが、目標が更新されるばかりでなかなか進まない日本のジェンダー平等において、存在感を発揮している。
「企業の持続的成長だけでなく、社会全体の持続的成長をも見据えた活動です」と只松氏が補足する同クラブは、現在は世界16カ国で展開され、日本は昨年14カ国目として活動を開始した。英国では2018年に目標の割合を達成するなど、30% Clubは展開国において女性役員の増加に大きな実績を示している。
「30%」は化学反応が起きる分岐点
ここまでの流れで、なぜ「30%」にこだわるのかと疑問に思った人もいるだろう。只松氏によると、30%とは、変化を起こすために必要な最低限の量「クリティカルマス」なのだという。
「取締役会の30%に至れば、意思決定に影響を及ぼすことが可能。世論の30%なら、社会的ムーブメントにつながります。ここで注目していただきたいのが、30%が分岐点であり、そこに到達するまでは効果が見えにくいということ。30%に至ってから、はじめて化学反応が起こり始めるのです」(只松氏)
また、30% Clubの実績の背景には、3つの成功要因があるという。「1つは、メンバーに企業の構造を変えることができるトップが揃っていること。もう1つは、最終判断を下す意思決定機関の多様性を促進することに注力していること。 そして3つ目は一番重要な統合的アプローチ(コレクティブ・インパクト)ができているということです」と、只松氏。
統合的アプローチとは、複雑に絡み合った問題に対処するために、同クラブなら企業や機関投資家、メディア、また政府、大学やコンサルティングなど重要なステークホルダーが協働する仕組みを構築し、お互いに補強しながら影響を与えていくことを指す。
2020年7月末のデータでは、女性役員(取締役と監査役)比率がTOPIX100企業で12.9%、30% Clubに賛同する企業では21.3%と大きく差をつけている。イギリスでも同クラブの発足から急速に伸びたことを考えれば、日本でもこれまでよりぐっと速いスピードで女性役員が増えていく可能性がある。
30%は経済合理性にかなうものである
りそなアセットマネジメント 執行役員責任投資部長の松原稔氏
松原氏が執行役員責任投資部長を務めるりそなアセットマネジメントも、30% Club Japan のインベスターグループに参加している。機関投資家の立場から、どのように30%に貢献するつもりなのだろうか。
「企業が変わるためにはトップの意思が変わる必要があります。そのトップを支えるのが私たちだと思っています。株式に投資し、株主であることで、私たちの声を継続的に企業に届けたいと考えています」(松原氏)
企業が変わり、強くなることは、30%というクリティカルマスを実践する上で、とても重要だと松原氏。機関投資家の間では、今後ますます、企業のジェンダー平等や多様性に対する視点は、企業と対話する上で欠かせない要素となるという。 これには、外資系金融機関に長く勤務した経験を持つ村上氏も同意する。
「私の古巣であるゴールドマンサックスでは、幹部に多様性のない会社は、IPOの支援をしないと表明しています。これはアメリカとヨーロッパの企業が対象ですが、チャリティではなく、100%経済合理性に基づいた施策です」(村上氏)
30%達成には職場のジェンダー平等の推進が不可欠
また村上氏は、日本の男女賃金格差が解消した場合、日本の潜在成長率は倍近くになるという衝撃的なデータを披露した。ここまでわかっていながら、日本で30%が達成されてこなかった理由について、大崎氏はこう指摘する。
「日本が他の国と比べて特殊だったのは、『女性の皆さん、家事はきちんとやったうえで、仕事で役員まで目指してください』と女性にばかり負担を強いるものだったということです。管理職だけでなく役員レベルで女性を増やすには、職場のジェンダー平等推進が不可欠です」(大崎氏)
そこで、2010年に国連グローバルコンパクトと国連女性機関(UN Women)が企業のための指針として策定した「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」が紹介された。「企業トップがリーダーシップをとることと、積極的な情報開示が重要視されています。機関投資家へのアピールにもなるので、日本の署名企業数も増えています」と続けた。
最後に参加者へのメッセージとして、「30%に到達するまで、目に見える効果は限定的ですが、数字を見ても着実に良い方向へ向かっている。参加者の皆様の企業においても、ダイバーシティの促進を強力に進めていって欲しいと思います」と只松氏。
また松原氏も「機関投資家は、皆さんの年金を預かって、企業と対話をしているのです。皆さんが、これからどんな社会になってほしいのかという意識を持つことが、豊かな社会への原動力となっていくと思います」と力強く語った。
村上氏は、「コロナの危機はチャンスだと思っています。この前例という教科書がない時代において、危機に対応するためのさまざまなアクションは、同じ考えを持っている人だけでは解決しません。これを機会に、多様性に関する考えを見直してみてはいかがでしょうか」と語った。
日本のジェンダー問題において、絶望を感じることもあるが、30%Club Japan はオセロの石が盤上で一つずつひっくり返されていくように、着実に現状を塗り替えている。改めて一人ひとりが意識を改め、来たる「化学反応」を見届けたい。
MASHING UPカンファレンス vol.4
30%を乗り越えるには?意味も価値もある大きなチャレンジ
大崎 麻子氏(We Empower 日本コーディネーター)、只松 美智子氏(デロイト トーマツ コンサルティング ジェンダー・ストラテジー・リーダー)、松原 稔氏(りそなアセットマネジメント 執行役員責任投資部長)、村上 由美子氏(OECD東京センター所長)
このトピックと特にかかわりのあるSDGsゴールは?
写真/中山実華
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