新型コロナウイルスの影響を受け、世界が大きく変容した2020年。一人ひとりが個人のより良いあり方を模索し、生活スタイルやワークスタイルの多様化が急速に進んだ。同時に、世界が抱える環境問題なども濃く浮き彫りになり、サステナビリティの重要性を改めて社会全体が強く意識するきっかけにもなった。
2020年11月に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.4では、それぞれ個人と社会のWell-beingに寄与する事業を運営する4社が登壇し、スタートアップピッチコンテストを開催。これからの社会に新風を吹き込む、新たなビジネスアイデアが紹介された。次世代に必要なイノベーションとはどのようなものだろうか──。
世界中で住みながら働くライフスタイルを提案
働き方やライフスタイルが多様化した今、場所にとらわれない生活を求める人も多い。特に、テレワークが急速に浸透した今年は、家やオフィス以外のサードプレイスやワーケーションに対するニーズは高まっている。
そこに商機を見つけ、2019年4月よりサービスを開始したのが、『HafH(ハフ)』だ。1人目の登壇者である、株式会社KabuK Styleエンタープライズソリューション事業責任者兼カスタマーサクセス責任者の武仲理美氏は、同社が世界29カ国に展開(2020年12月末現在)する定額制コリビングサービスHafHの魅力をアピールした。
HafHが掲げるミッションは、多様化する社会で異なる価値観を許容する社会インフラとして、一人ひとりのライフスタイルを支えること。ユーザーはライフスタイルに合わせて、現在世界297都市・474拠点におよぶコンセプトホテル・リゾート施設から利用プランを選択できる。
同サービスの主な利用者は、変化と学びを求めるミレニアル世代が中心だ。施設にはいずれもワークスペースが完備されており、このコロナ禍で会社員の利用者数が4割に到達。安全性にも配慮しており、女性会員も増えているという。
KabuK Style 武仲理美氏
また、JR西日本やANAとの提携による移動費の割引キャンペーンや、法人向けのアプローチも開始。“5年後の働き方コンソーシアム”を通して、企業の働き方改革を支援している。
最後に武仲氏は「選択肢が広がった未来の可能性は無限大。どこで働き、どこで暮らし、どこにいるかというのは、どんどん変化していきます。今後ライフスタイルがより一層多様化していく中で、それを自分で選び取ることが、人生の満足度を高めてくれると私たちは信じています」と締めくくった。
日常に溶け込む「第三のフィットネス」を目指す
2人目の登壇者である、SOELU株式会社代表取締役CEO蒋詩豪(しょう しごう)氏は、自宅でリアルタイムの双方向型フィットネスレッスンを受講できる、オンラインフィットネスサービス『SOELU(ソエル)』を運営している。
運動が心身ともに与えるメリットが多いことは広く知られていながらも、なかなか習慣化できないという悩みはよく聞かれる。そこで蒋氏が効果的なフィットネスを日常的に継続できるサービスとして立ち上げたのが、SOELUだ。
SOELUのユニークネスは、なんといっても運動習慣を形成するための3つの要素を押さえている点。
「その3つとは、“手軽さ”、“強制力”、そして“中毒性”です。SOELUは、従来の店舗型フィットネスとオンラインフィットネスの両サービスがもつメリットを融合させ、上記の3要素を網羅した第3のフィットネスソリューションを生み出しました。そしてたどり着いた答えが、今のコンセプトである『暮らしに溶け込み、少しの制約を与えるオンラインライブフィットネススタジオ』です」と、蒋氏。
SOELU 蒋詩豪氏
また、SOELUの魅力はインストラクターとのインタラクティブなグループライブ型レッスンに加え、プログラム数の豊富さや在籍するインストラクターの数など、幅広いユーザーのニーズに答える柔軟性だろう。
「今後は、60代以上のユーザーや男性など、より幅広い層の方も楽しめるラジオ体操やマインドフルネスなども展開し、今まで運動していなかった人も習慣化できるような中毒性を、より強化していくことに着手したい。
診断結果に基づくレッスンスケジュールのレコメンド機能やソーシャル性を拡充し、レッスン後、画面越しにインストラクターとハーブティーやプロテインを楽しむといった、フィットネスと食をリンクさせたライフスタイルも根付かせていければ。国内随一のフィットネスブランドを目指し、持続可能な運動習慣を多くの人へ届けたい」と、今後の展望を語った。
伝統の継承、和菓子を通した女性へのエンパワメント
ロサンゼルスから参加した3人目の登壇者は、Misaky.Tokyo Co-Founder・CEOの三木アリッサ氏。日本の伝統工芸の技術を世界に届けることをミッションに、『Misaky.Tokyo』を発足した。
「Misaky.Tokyoのビジョンは、LVMHグループのようなグローバルで通用するブランドを創設し、あらゆる職人の活躍の場を世界に提供すること。そんな想いで2019年にMisaky.Tokyoから、Crystal Treatsという全く新しい概念の和菓子ブランドをローンチしました」(三木氏)
Crystal Treatsは、ヴィーガン、グルテンフリーで無着色、無添加。味わいも、ハイビスカス、クランベリーやラベンダー、ローズなどアメリカ人に好まれる味を厳選した。
Crystal Treatsは、月別の売上高が昨年対比20倍、累計販売個数は5万個を記録。さらに、Instagramで1.4万人、TikTokでは17万人のフォロワーを獲得する(2021年1月本記事執筆時点)など、Misaky.Tokyoが破竹の快進撃を続けるその強みは、「アメリカ人が思わず応援したくなる」ブランド設計にあるという。
「Misakyは、“美しい先の未来”という意味で、平等な社会への願いを込めています」という三木氏は、侍は茶室に入るときに権威の象徴である刀を外に置く必要があったという、江戸時代の茶道文化を例に挙げた。「それは、茶道の世界では人々は平等であるべきだと考えられていたから。この素晴らしい考え方を、アメリカナイズ・モダナイズしたものがCrystal Treatsです」(三木氏)
Misaky.Tokyo 三木アリッサ氏
Crystal Treatsは8個入りを64USドル(約6,600円)、で販売することで、「ラグジュアリーな和菓子ブランド」のイメージを打ち出している。それが功を奏し、2020年12月には米国のモデルでインフルエンサーであるキム・カーダシアンとのオフィシャルコラボレーションも実現。ターゲットを富裕層に絞ったことも、Misaky.Tokyoが世界中のセレブリティに愛されるブランドへと成長できたカギだと三木氏。
今後は、“カップケーキ×和菓子”、“クッキー×和菓子”など新しいコンセプトの商品展開に加え、お茶の開発も着手しているなど、伝統工芸を活かしたブランドを展開していく予定だという。Misaky.Tokyoのこれからの躍進に期待したい。
世界の次は、宇宙へ。近未来型餃子に包んだ夢
昨今大きな社会課題として据えられている、フードロス。そこに立ち向かうのが、サンフランシスコから登壇した、株式会社REPUBLI9代表取締役社長吉川欣也氏だ。大豆ミート使用のヴィーガン向け餃子ブランド『東京ヴィーガン餃子』を展開している吉川氏は、餃子が秘める無限大の可能性について語った。
しかし、なぜスタートアップが「餃子」を? と感じた人も少なくないはず。
「餃子は、1800年前に漢方医の張機(張仲景)が作ったとされます。では次の1800年後、人間は動物性たんぱく質をとっているのだろうか、火星で餃子を食べているだろうかと想像しながら、トータル3600年を考えたビジネスをしています」(吉川氏)
さらに、餃子はさまざまな野菜を細かく刻んで作るため、野菜の切れ端が出にくく、フードロスの排出が少ないのだ。また、吉川氏は「餃子は年齢問わず食べることができ、保存も効く」と餃子の持つメリットを語る。
また、東京ヴィーガン餃子は、その名の通りヴィーガン食だ。現在、米国で共に暮らしている吉川氏の4人の子どものうち、2人がベジタリアンだという。米国ではヴィーガン市場が急速に拡大しており、吉川氏は「親として何かせねば」との思いから動物性タンパク質に頼らない、家族で同じメニューを楽しめるヴィーガン餃子の開発に至った。
REPUBLI9 吉川欣也氏
今後に向けての構想は、“餃子×ロボット”、“餃子×食育2.0”、“餃子×エンタメ”など多岐にわたり、また宇宙食用のカップタイプの餃子も開発中だ。
「将来的には、餃子ビルを作りたい。バーティカルファーミングや、ドローンによる自動デリバリーなども視野に入れています」と語る吉川氏は、餃子を食の領域からあらゆるライフスタイルを持つ、世界中の人をつなぐツールとして成長させていきたいと意気込む。
サステナビリティと収益性の両立
4社のプレゼンテーションが全て終了した後、審査員によるディスカッションが行われた。
iSGSインベストメントワークス取締役代表パートナー・佐藤真希子氏をモデレーターに、国内のスタートアップ事情に詳しい株式会社プロノバ代表取締役社長・岡島悦子氏、株式会社インフィニティベンチャーズサミット代表取締役・島川敏明氏、またVAIO株式会社マーケティング部部長・高木充恵氏、りそなアセットマネジメント執行役員責任投資部長・松原稔氏ら、各業界のリーディングカンパニーから審査員が集った。
ベストイノベーター賞として選出されたのは、Misaky.Tokyoの三木氏。受賞理由について、高木氏は「グローバルで挑戦し続けている点」、「創業からわずか1年と短い期間でインパクトを出している点」、「志の高さ」そして「日本の職人技を海外に発信する情熱」を挙げ、女性の雇用や、あえてレシピを公開するというような、「MASHING UPらしい、弾けている強さ」にも共感したとコメント。
受賞を受けて、三木氏は「1年前にスーツケース2つだけで、人脈もないままアメリカに来たが、最近ようやく多くの方から応援いただくことができ、嬉しいです。これからも、日本の伝統の素晴らしさを伝えていきますので、応援よろしくお願いいたします」と笑顔で語った。
ウェルビーイングやサステナビリティの必要性が声高に叫ばれている一方で、それらにフォーカスした事業で実際に収益を上げている企業は、そう多くない。その理由について、岡島氏は「それら2点は二項対立してしまうケースがある」からだと指摘するが、今回登壇したスタートアップはそれらをうまく両立しながらビジネスとして長期的に成長できるビジョンが目立った点について、称賛の声を送った。持続可能なビジネスモデルという、まさにこれからの社会が求める事業の姿だろう。
働き方、健康、食。生活の基盤である身近なテーマから、今後のウェルビーイングを支えるアイデアが飛び出した今回のピッチ大会。コロナ禍の鬱々としたムードを吹き飛ばすような、力強く明るい登壇者のパワーに圧倒され、未来への希望に包まれながら幕を閉じた。
MASHING UPカンファレンス vol.4
スタートアップピッチコンテスト
武仲理美(株式会社KabuK Style エンタープライズソリューション事業 責任者 兼 カスタマーサクセス 責任者)、蒋 詩豪(SOELU株式会社 代表取締役CEO)、三木アリッサ(Misaky.Tokyo Co-Founder / CEO)、吉川 欣也(株式会社REPUBLI9 代表取締役社長)、岡島悦子(株式会社プロノバ 代表取締役社長)、島川敏明(株式会社インフィニティベンチャーズサミット 代表取締役)、高木充恵(VAIO株式会社 マーケティング部 部長)、松原稔(りそなアセットマネジメント 執行役員責任投資部長)、佐藤真希子(iSGSインベストメントワークス 取締役 代表パートナー)

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