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社会とわたし/クラウドファンディングから見えたこと

歯を食いしばってでも「おかしいことはおかしい」と伝え続ける/Choose Life Project・佐治洋

CLPtop

image via shutterstock

2020年の夏、社会問題と向き合う人のクラウドファンディングプラットフォームGoodMorningで、支援者数が過去最多の人数を記録した。

自由で公正な社会のために新しいメディアを作りたい」と支援を呼びかけたのは、2016年から選挙や国政に関する動画を制作し、YouTubeなどで発信を続けてきた「Choose Life Project(以下、CLP)」である。

CLP発足当時の心境や、今後目指すビジョンを語ってもらうべく、CLP代表の佐治洋氏とGoodMorning代表でMASHING UPコミッティメンバーの酒向萌実氏で対談を行った。

政治や社会の問題が、日々の放送からこぼれ落ちている

TBSの『報道特集』や『上田晋也のサタデージャーナル』などのディレクターとしてテレビ番組の制作に携わってきた佐治氏は、2020年3月に13年間勤めた番組制作会社を退社。現在は、CLP代表として活動に専念している。

佐治氏がCLPを立ち上げた背景には、テレビ報道の現場にいるにもかかわらず、政治や社会の問題について十分に時間を割いて伝えられないこと、多くの大切なニュースが日々の放送からこぼれ落ちてしまうことへの忸怩たる思いがあった。

どんなに伝えたくても、スポンサーや視聴率のしがらみが多いテレビではなかなか伝えられない。だとすれば、“伝えられる場所”を自分たちで作るしかない。その思いから、映画やドキュメンタリー、テレビの報道番組を作っている人や、デザイナーなど4~5人をコアメンバーとして、CLPを発足。

CLP

CLPが制作するコンテンツは、その時々のニュースに関する話題を討論や解説を中心に、生配信で届ける『ChooseTV』のほか、国政選挙などに合わせた「投票呼びかけ動画」、国会のハイライトシーンや注目すべき裁判の判決に関して伝える動画、有識者や時事問題の当事者へのインタビュー、オンラインシンポジウムなど多岐にわたる。一般的な報道番組と一線を画しているのは、人として当たり前の尊厳が守られる社会にしていくための「公共のメディア」をつくるという信念だ。

「ときには言い切るメディア」が求められている

今、佐治氏がCLPの指針としているのは、歯を食いしばってでも「おかしいことはおかしい」と言い続けること。「自由で公正な社会」を目指すことだという。

「これまでマスメディアは『AもあればBもある』という“中立的な”立場で発信することがよしとされてきました。公平・公正な社会であればそれでもいいですが、社会の分断が加速し、右派と左派の振れ幅も極端になり始めている昨今は、ときには『言い切る』ことがメディアに求められているのではないかと思います。

CLPも、政府を批判した瞬間に『左派メディアである』と言われてしまう状況ですが、私たちとしてはそういう意識はありません。ただ公文書の改ざんのように、おかしいと思うことが起きたとき、『これはおかしい』とひたすら言い続けているだけです」(佐治氏)

「なぜいま、わたしたちは声をあげるのか #わたしたちが声をあげた理由 #検察庁法改正に抗議します」を2020年5月13日に配信。

本格始動したCLPの活動は着実にファンを増やしつつあり、2020年5月に「検察庁法改正案」に関して行った生配信番組は、およそ1万人が同時視聴した。CLPの番組に出演した国会議員らの発言内容が、ニュースとして大手メディアに掲載・放送されるといった動きも起きている。

佐治氏の言葉を受け、「メディアもプラットフォームも無色透明、中立を期待されがちな立場」だと酒向氏は頷く。

「GoodMorningもどんなプロジェクトを掲載するか、基準を設けることによって、「中立ではない」と批判を受ける可能性もあります。例えば、『人種差別を含む内容は掲載しない』というポリシーは、右派・左派という話ではなく、人権を守るという大前提に則っているだけです。それでも、中立ではないと言われてしまうのには、プラットフォームはスタンスを表明すべきではない、中立な立場であるべき、という期待があるのではないか。そこに難しさを感じます。」(酒向氏)

出演者は男女半々。メディアが良識を示すことの大切さ

「テレビの現場で働くようになって2年目くらいのとき、大先輩と言える方に『テレビにおいて“公共”とは何ですか?』という質問をしたことがありました。返ってきた答えは、『公共、パブリックというのはオープンなものだ。つまり誰もが入ってきていい。しかし、一人ひとりに求められるのはコモンセンス(良識)だ』と。

では良識とは何か。ずっと考えてきて、今も答えは見つかっていないですが、CLPでメンバーと共有しているのは“メディアが良識を示すことの大切さ”です。

わかりやすく言うと、差別はだめだ、それは言論の自由とは関係ないと言い切る。学術会議の問題についても、これは憲法違反ですと言い切る。見る人から見れば偏った意見なのかもしれないけれど、そこは社会の空気感を変えていかなければならないと思うので、振り切った形で発信していこうと思っています」(佐治氏)

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発信を通して少しずつでも社会の空気を変える、その決意はメディアとしてのCLPの細部にも表れている。酒向氏が注目したのは、今年に入ってから番組の出演者の男女比率が半々になっていることだ。

「報道にいた人間からすると、ジェンダーに関係なく一番事情を知っている人に話を聞くというのが、基本スタンス。しかし若いメンバーから『それではいつまでたっても変わらないですよ、社会構造がそうだから』と指摘を受けたのです。

それは本当にそうで、役職を持っている人は男性の割合が自ずと多い。そこは意識を変えなければと気づかされ、CLPはパリテ(※)、男女半々でいこうと決めました。決めてしまえば難しいことではなく、意思を持ってやれば絶対できる。私たちも毒されていた部分があったと痛感しています」(佐治氏)

※パリテ:フランス語で「同等」の意。フランスでは選挙の際、候補者擁立を男女同数とすることを法律で定め、それを「パリテ法」という。

約4,300人から3,000万円を超える支援を達成

zoom

Zoom取材に応じる株式会社CLP代表 佐治洋氏(左)と、株式会社GoodMorning代表取締役社長 酒向萌実氏(右)。

GoodMorning史上、過去最高の支援者数を記録したCLPプロジェクト。クラウドファンディングを利用する前は「これほどの支援が集まるとは想定していなかった」という佐治氏。

「これまでは主に選挙企画として、著名人による投票の呼びかけ動画などを制作してきましたが、今後はもっと本格的に自分たちができることをやっていきたい。当初の800万円という目標額も、それだけの支援金があれば、なんとか最初のスタートを乗り越えられるということで設定しました」(佐治氏)

当初は、2か月のプロジェクト期間での達成は難しいのではないか、最後の追い込みはどうしようかと、シミュレーションを繰り返した。

「いざスタートしたら、初日に目標額の800万円を達成。佐治さんとふたりで驚いて、慌てて相談しました。『明日からどうしよう!』って。最終的には4,314人の支援により、31,478,500円の資金が集まりました。これはGoodMorningでも過去最高人数」(酒向氏)

「本当に有り難いです。退社した3月頃は、CLPは2年ほどかけて認知されていけばいいと思っていたんです。ところが実際にクラウドファンディングをし、多くの方にメディアとして認知してもらうことができた。

クラウドファンディングを行うにあたっては『公共のメディア』『市民スポンサー』という新たなキーワードも立ち上げました。コロナ禍もあり、今後は公共性がもっと広がっていかなければならない。CLPを自分たちが一緒に作るメディア、私たちのメディアだと思ってほしい。そう考えたときに、クラウドファンディングを行うことで、より『参加するメディア』という意識を持ってもらえるのではないかと考えました。

もともとChoose Life Projectという名前には、傍観者ではなく社会に参画する、主体的に自分が選んでいくというメッセージを込めています。そういう部分でも今回のプロジェクトでは、単純にお金や参加人数だけではない、いろいろな発見がありました」(佐治氏)

第3回「生きづらさだヨ!全員集合」

「第3回『生きづらさだヨ!全員集合』」を2020年11月28日に配信。

選択肢が増える、それだけです。選択的夫婦別姓

「選択肢が増える、それだけです。選択的夫婦別姓」を2020年12月16日に配信。

支援者の意識と行動にも変化が

CLPのプロジェクトでは、支援者の行動に特徴があったと酒向氏は話す。

「ただお金を入れました、支援しましただけではなくて、Twitterでも『CLPにはこんなメディアになってほしい』や、『こんなニュースを見たい』といった“声をともなう支援”が非常に多かったと感じました」(酒向氏)

クラウドファンディングの成功も、喜びがある一方で、皆さんの声を聞くとマスメディアへの不信が伝わってくる。そこは僕自身もマスにいた人間なので、複雑な気持ちがあります。CLPに対する期待の声に対しても、嬉しい気持ちと同時に責任を感じています」(佐治氏)

メディアのひとつの役割は、社会構造を可視化しそれを変えていくことにあると、佐治氏。あらゆるセクシャリティはもちろん、すべての人が参加できるメディアにしていきたいと展望を語ってくれた。

「おかしいことはおかしい」と、未来に希望が持てる良識を示してくれる私たちの公共メディア。Choose Life Projectの熱量は、これからも多くの人の心を動かすことになりそうだ。

【Choose Life Projectのプロジェクトはこちら】
自由で公正な社会のために新しいメディアを作りたい #CLP(終了)
【Choose Life Projectの番組視聴はこちら】
YouTube「Choose Life Project」
【Choose Life Projectのホームページ】
https://cl-p.jp/
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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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