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社会とわたし/クラウドファンディングから見えたこと

「子どもから大人まで、すべての人に正しい性教育を」助産師/性教育YouTuber・シオリーヌ

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image via gettyimages

性の話をもっと気軽にオープンに」をテーマに掲げ、性教育YouTuberとして情報を発信している助産師のシオリーヌ氏。

社会問題と向き合う人のクラウドファンディングプラットフォームGoodMorningでスタートした企画「性教育YouTuberシオリーヌの性教育本『CHOICE』を全国に届けたい!」は、開始約1週間で1,119名が支援し、最終的には1,596人から4,643,900円の支援を集めた。

シオリーヌ氏が『CHOICE』出版に込めた思いや、プロジェクトから生まれたクラウドファンディングの新たな仕組みについて、GoodMorning代表でMASHING UPコミッティメンバーの酒向萌実氏とともに聞いた。

性教育YouTuber「シオリーヌ」ができるまで

2019年2月から性教育YouTuberとしての活動を始めたシオリーヌ氏。神奈川県立保健福祉大学看護学科を卒業後、総合病院の産婦人科に助産師として勤務するなかで、性教育に関心を持ち始めたと語る。

「産婦人科で出会った女性から『こんなにちゃんと、自分の体のことを教えてもらったのは初めて』と言われることが多かったんです。思春期の早い段階で性教育を受けていれば、知識不足による予期しない妊娠や出産をすることなく、自分自身が納得した選択ができた人がもっと増えたはず……。そう思うようになったことがきっかけで、学校で性教育に関する講演を行ったり、Twitterを通じて情報発信をしたりするようになりました」(シオリーヌ氏)

シオリーヌ

仕事では思春期の子たちと接する機会をもっと増やすため、思春期保健相談士の資格を取得して精神科思春期病棟に転職。また、YouTubeなら自分が本当に情報を届けたい中高生にアプローチできるのではないかと考え、YouTuberとしての活動も開始した。

「子どもの教育に関わりたいという思いは昔からあって、一時は学校の先生を目指していました。大学時代は学習塾で中高生を個別指導したり、児童相談所の一時保護所でアルバイトをしたり。YouTubeを始めたときは、私が性教育を届けたかった子たちはここにいたんだ! と思いました。YouTuberとして顔を出して発信することに抵抗がなかったのは、学生時代にアマチュアお笑い芸人として大会に出たり、ゴスペル歌手として舞台に立ったりした経験も大きかったです」(シオリーヌ氏)

シオリーヌ氏が手がけるテーマは、妊娠のしくみやピルのメリット・デメリット、コンドームの正しいつけ方や月経カップの使い方、パートナーと上手にコミュニケーションをとる方法など。正しい情報を学びたいと願う13歳~24歳を中心に、性の知識をアップデートしたい大人からも絶大な支持を得て、現在のチャンネル登録者数は約137,000人、200本を超える動画を投稿している。

日本の性教育を阻む「歯止め規定」

中学校の授業で性行為については教えないとしているのにもかかわらず性交同意年齢は13歳という衝撃の刑法が存在する日本で、適切な知識を持てずに不安な思いをし、いつも不利益をこうむっているのは若者です。だからこそ、本当に必要な情報を具体的に届けるための本を作りました」
GoodMorningプロジェクトページより抜粋

プロジェクトページの冒頭で、シオリーヌ氏はこう述べている。日本の公立中学校には「歯止め規定」と呼ばれる規定があり、妊娠に至る経緯を性教育で取り扱わないことになっている。「寝た子を起こすな」という大人たちの意識が、子どもたちから適切な性教育を受ける機会を奪うリスクを生んでいる

CHOICEtop

Zoom取材に応じる助産師/性教育YouTuber シオリーヌ氏(左)と、株式会社GoodMorning代表取締役社長 酒向萌実氏(右)。

「シオリーヌさんの動画を拝見して、性教育は自分の身を守るためのものなんだと改めて感じました。例えばプライベートゾーン(※)のことなんて、小中学校の授業で扱っているイメージはありません。今の教育現場ではどんな性教育が行われているんですか?」(酒向氏)

「多くの子どもたちが初めて触れる性教育は、小学校高学年の月経教育です。中学生は体の生殖機能や受精した後のこと、性感染症のことは習いますが、歯止め規定で性行為については教えないことになっています。コンドームの説明も少しありますが、性感染症予防に使うという表現です。高校になると避妊法、妊娠の経過、中絶に関する項目が教科書に登場します。しかし授業でどれだけの時間を割くかは、学校や先生に左右される部分が大きい」(シオリーヌ氏)

※プライベートゾーン:自分だけの領域。他人に見せたり触らせたり、あるいは、他人から見られたり触れられたりすることが憚られる領域のこと。

性教育を「命の話」と表すと、途端にぼんやりしてしまう

総じて、学校での性教育の焦点は「体の変化」にあり、ベースにあるべき人間関係の築き方や、お互いの人権に関する意識はスルーされやすいとシオリーヌ氏。YouTubeチャンネルでは性的同意といった観点も取り上げるが、視聴者の多くを占める10代に情報を届けるために、とくに注意していることがあるという。

シオリーヌYouTubeチャンネル

シオリーヌ氏のYouTubeチャンネル。

「わかりやすい言葉遣いというのも善し悪しがあって、性教育を『命の話』、人権を尊重することを『お友達を大事にしよう』といった表現にすると、伝えたいことがぼやけてしまう。彼らを子ども扱いして、人権や性的同意といった専門用語を使わないのではなく、彼らが日常的に使っている言葉で、その本質を丁寧に伝えることが大切。みんなの生活にどのように関係しているのかを、具体的に話すように心がけています」(シオリーヌ氏)

性にまつわる疑問の多くは、学校でも、社会に出てからも教わる機会が少ない。2020年12月に出版された『CHOICE』では、避妊法と選び方、適切なマスターベーション、パートナーとの関係性の築き方など、学校の性教育ではタブー視されがちな問題もすべて詰め込み、「具体的に、ド直球で」回答することを心がけたと話す。

「リターンを他者に贈る」という新たな仕組み

これまでインターネットを通じて情報発信をしてきたシオリーヌ氏。書籍として『CHOICE』(イースト・プレス)を出したのは、ネットに繋がる環境がなかったり、検索方法を知らず、自力でシオリーヌ氏のチャンネルにたどり着けない子どもたちにも情報を届けるためだという。また、その思いから「あしながシオリーヌProject」という新たな試みも生まれた。

あしながシオリーヌ

「『本を買いたいのに親に止められた』『プロジェクトを支援しちゃだめと親に言われた』という子がたくさんいたんです。中学生には1,500円という書籍代は簡単には出せないし、家には置けないという子もいるかもしれない。それなら学校や児童相談所などでこの本に出会える仕組みを作りたいと思いました」(シオリーヌ氏)

プロジェクトに興味を持ってくれた人のなかには、きっと自分と同じように「子どもたちに正しい性教育を届けたい」と思っている大人がいるはずだ──そう考えたシオリーヌ氏は、参加者からの支援金で『CHOICE』を購入し、書籍の寄贈を希望する団体や施設にプレゼントするという仕組みを考案。シオリーヌ氏の予想は的中し、約500冊分の支援が集まった。

「400冊以上の本に寄贈先が決まっています。児童養護施設や児童相談所など、地域の色々な場所にいる大人たちが『子どもたちに読んで欲しい』と声を上げてくださったことは、本当に嬉しかった」(シオリーヌ氏)

リターンを自分が受け取るのではなく、他者に贈る「あしながシオリーヌProject」。このスキームは貴重な成功事例であり、さまざまなクラウドファンディングに応用できるのではないかと酒向氏は指摘する。

クラウドファンディングの支援者が、SNSや寄付とは別の形でシェアすることは、プロジェクトを一人でも多くの人に知ってほしいから。プロジェクトを立ち上げた人だけでなく、「その存在を他者に伝えたい」と願う人の思いが、社会を変える大きな力となりそうだ。

【シオリーヌ氏のプロジェクトはこちら】
性教育YouTuberシオリーヌの性教育本『CHOICE』を全国に届けたい!(終了)
【シオリーヌ氏のYouTubeチャンネルはこちら】
【性教育YouTuber】シオリーヌ
【書籍『CHOICE』(イースト・プレス)はこちら】
CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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