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CONFERENCE:MASHING UP vol.4

「社会とは私とあなたの集積」次世代ビジネスに必要な視点

ビジネスには、人と環境に優しいサステナブルな視点が必要だと言われて久しい昨今。実際、「サステナブル」や「持続可能性」といった単語をインターネットで検索すると、国内外を問わず、さまざまなビジネスモデルや事例がヒットし、いかにそれらが社会に浸透した概念であるかがわかる。

では、実際にこの分野で活躍している国内の起業家たちは、どのような形でサステナビリティを事業に落とし込み、成長させているのだろう。また、それらが社会にもたらす豊かさとは一体どのようなものなのか。

2020年11月に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.4では、いきものCo.代表取締役 菊池紳氏をモデレーターに、ピープルポート株式会社代表取締役社長 青山明弘氏、株式会社リ・パブリック共同代表 市川文子氏、クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店店主 影山知明氏を迎え、「サステナブルなビジネスって?『持続可能な事業』のあり方」と題したセッションを展開。サステナブルなビジネスのあり方について語られた。

多様な価値観が認められると、物の寿命が延びる

青山様記事中

ピープルポート株式会社代表取締役社長 青山明弘氏

グローバルで喫緊の課題になっている、モノの大量生産・大量消費。気候変動に歯止めをかけ、次世代に豊かな環境を残すためには、従来の消費のあり方を改め、資源を有効に活用する必要がある。近年、多くの分野でリニア型からサーキュラー型の経済に移行する風潮は見られるが、まだまだリサイクルやリユースの割合が低い分野として挙げられるのが、電子機器。そこに挑むのが、人と環境の両方に優しいエシカルパソコンの製造販売を手がけるピープルポート株式会社だ。

同社の代表取締役社長である青山氏は、日本に逃れてきた難民が安心して働ける場所づくりをミッションとして、2017年にパソコンのアップサイクル事業を主とするビジネスをスタート。会社や個人から使われなくなったパソコンを回収し、部品を入れ替えて販売し、さらに難民の雇用を通して日本における難民のイメージを変えることにも挑戦している。

「私が目指していることのひとつは、多文化共生社会です。人は皆それぞれ良さを持っており、存在しているだけで価値がある。そして多文化が認められることは、ものの寿命とも関係してくる。色々な価値観が認められ、たとえば、野菜の形が悪いから捨ててしまおうとか、古いパソコンなんていらないよねという価値観から、形の悪い野菜や古いパソコンもいいよね、という価値観にシフトすれば、一つひとつの物の寿命が延びていくはず」(青山氏)

モデレーターの菊池氏も、「新しい物好きな人、物を直して使いたい人や、古い物が好きな人という風に、コミュニティ間で物が渡っていけば、それらの寿命が伸びるだろう」と、青山氏の意見に同意した。

“地域=人と人との関係性の集積”と捉える

影山様記事中

クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店店主 影山知明氏

地域密着型のビジネスについてサステナビリティを考える際に、「地域=国が決めた自治体の境界線」で捉えることも多い。しかし地元・国分寺で12年間クルミドコーヒーと胡桃堂喫茶店というカフェを経営してきた影山氏にとって、街とは常に変化し続ける「人と人との繋がり」であり「景色」だ。

影山氏の話を聞いた後は、人工的・静的な存在だと思っていた街が、自然で動的な、あたたかい生き物のように見えてくる。そこに、サステナビリティ実現のヒントがありそうだ。

「日々、店を通して色々な人や思いがけないアイデアとの出会いがあります。それらに自分たちの時間やエネルギーを振り向けていくと、カフェという場を苗床として、出版業や哲学カフェ、地域通貨、学びの場、米づくりなどさまざまな事業が生まれてきました。日々の営業が木の幹であるとすると、まるで木が枝を伸ばすように、自然と色々な取り組みが育ってきたのです」(影山氏)

飲食店経営の枠組みにとらわれることなく、数多くの新規事業にチャレンジし続ける影山氏は、他業界から転職し、カフェをスタートさせたきっかけについて振り返る。

「もともと国分寺にあった実家を建て替え、カフェ事業を始めました。日々、店で人との出会いがある。すると、街というものが自治体の線で引かれるものではなくて、あの人やあの人、あの景色、あの時のあの状況……といったように、具体的なものの集積としてイメージされるようになりました」(影山氏)

地域の文化や資源を捉え直し、新たなチャレンジや価値の創造を支援する市川氏も、「人工的に合併が繰り返された街は、自分たちでもう一度編み直さないといけない苦しみを伴う。自分たちで意思決定できる範囲で町が形作られていて、その中で資源がうまく使われている場所は、本当に貴重だし、贅沢」と頷いた。

地域の個性を大切にすることが、サステナビリティに繋がる

菊池様記事中

いきものCo.代表取締役 菊池紳氏

長年、農業や食の流通分野に携わってきたモデレーターの菊池氏も、影山氏と市川氏の体験談に強く共感する。

「たとえば、ある町がトマトの生産を始めたら、隣町もそれに便乗して生産を始め、その結果供給過剰が起こることがある。挙句の果てに、温室で育てるなどして、他の地域が作れない時期に作ることが競争要因になっていくことも。『自分たちがやりたいことなのか』『その地域がそれに向くのか』という視点を失っているのが、今のマーケットの現状」(菊池氏)

さらに菊池氏は、農業の具体例を挙げながら、地域ごとの特色を軽視することが招く危険性についても指摘した。同じ教育・情報・価値観が行き渡った結果、競争が激化し、全体として豊かさが失われることも多いという。

属人化をやめ、人に仕事をつける

セッション後半で何度も飛び交っていたのは、「自然」、そして「利他性」というキーワードだ。あらかじめ綿密に立てた計画や、人工的な枠組みに沿って事業を進めるのではなく、ある程度は成り行きに任せ、いかに周りの人を喜ばせるかを考える。では実際、その思考法をどのように事業に反映させているのだろう。通常の事業戦略とは真逆の方法を取るクルミドコーヒーの事例は、実にユニークだ。

経営手法的にはまず仕事を標準化して、そこに人をつけていくのが正解。前職の経営コンサルティング時代は、『仕事を属人化させるな』と常にアドバイスしていました。そうすることで、Aさんがいなくなったとしても、次の日にBさんCさん、と代替することができる。でも、それはつまり、人は『替えのきく存在だ』と言っていることになってしまう。本当は一人ひとり、違う存在のはずなのに」(影山氏)

反対に、「クルミドコーヒーでは、人に仕事をつけます」と、影山氏。同店では以前、冬の人気メニューとしてビーフシチューを提供していた。しかしそのメニューは、ある女性スタッフが中心となって開発・調理していたもの。その後、スタッフは退職。レシピを受け継いでビーフシチューを提供し続けるべきか話し合った結果、影山氏とスタッフはやめることにしたという。そのビーフシチューはその女性スタッフの存在があってのものであり、他の人がやるのでは意味が違ってしまうと考えたからだ。「常に仕事の背景には固有名詞の人の存在があって、その人がいなくなれば仕事も失われるというのは、自然なことだと思います」(影山氏)

影山氏は「事業計画や設計図など特定の枠にはめていくのでなく、万事、自然な形で関わっていく。その中に、お客さんや地域とのコミュニケーションも含まれてくると思います」と述べ、自然な流れに任せて変化し続けることの重要性をあらためて強調した。

菊池氏は感嘆しながら「これは非常に重要なポイント。一般的に企業はトラブルが発生しても続けられるようBCP(事業継続計画)を立てる。その中でトラブル発生時の破綻リスクを考え、仕事を先に決め、人を入れ替える。影山さんの発想はそれと真逆だけれど、それがかえって持続的というのは、すごく面白い。その状態のデザインといったような思想が、僕は今聞いていてすごくドキドキしています」と笑顔を浮かべた。

時代に応じたサステナブルな変化が、事業継続のカギ

市川様記事中

株式会社リ・パブリック共同代表 市川文子氏

広島県で地元企業を支援している市川氏も、変わり続けることで生き残った企業の実例を紹介した。

「今でこそクリームパンで有名な八天堂さんですが、創業当初は和菓子のお店。そこに2代目社長が洋菓子を取り入れ、現在の3代目社長は、和洋折衷でクリームパンを生み出した。事業がサステナブルに継続し続けられたのは、時代の変化に応じてビジネスを変えたからです。

また創業350年以上の歴史を持ち、こんにゃくの製造などを手掛ける清水化学さんですが、1700年代から『なんで味がないのに皆こんにゃくを食べるんだ? 』という疑問から始まり、こんにゃく芋に含まれるグルコマンナンという成分に着目しました。生分解性があるグルコマンナンは、今では洗顔料やボディソープなどの化粧品に含まれるスクラブとして、多く使われています。自分たちが持つ資源を、『こういうことにも使えるんじゃないか』という新しい感覚を持って取り組んだから実現した。時代の変化を捉え、自分たちのビジネスに取り込んでいるのです」(市川氏)

セッションの最後に、影山氏は「社会=私たち自身」であることを改めて強調。「私とあなたの関わりの集積が、社会です。『私たち』と思える範囲をどこまで広げていけるかが重要」と述べ、周りの人も、自分と同じように大事にしていくことが利他性に繋がっていくのだと結論付けた。

ともすれば仰々しく聞こえがちな、サステナビリティや持続可能性という言葉たち。しかし、本来は自然な営みの中から生まれる、身近なものなのだ。

また、とりあえず始めてみることや、デザインしすぎないことの大切さが重要なポイントとして挙げられたように、サステナビリティとはある種の余白から生まれるのかもしれない。菊池氏の言う通り、周りの人や環境を大切にしながら、“やりたいことの数珠つなぎ”を続けていくことが、サステナブルな社会を作る第一歩なのだと気づかされた。

MASHING UPカンファレンス Vol.4

サステナブルなビジネスって?「持続可能な事業」のあり方
青山 明弘(ピープルポート株式会社 代表取締役社長)、市川 文子(株式会社リ・パブリック 共同代表)、影山 知明(クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店)、菊池 紳(いきものCo.代表取締役)

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吉野潤子
ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。

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