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社会とわたし/クラウドファンディングから見えたこと

子どもにツケを回したくない。社会課題に笑いの力を/笑下村塾・たかまつなな

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image via gettyimages

参議院選挙を前にした2019年7月、ある動画が世間の話題をさらった。

「若者よ、選挙に行くな!」
「教育の予算が減っている? その分医療費に回してもらえるからありがたいよ」
「地球温暖化? 20~30年先の話なんて知らないわ」
「あなたたちは選挙には行かない」
「だから私たちが政治を動かしているの」……。

お年寄りが若者を挑発する『若者よ、選挙に行くな』という動画は、政治に関心の薄い若い世代をあえて煽ることで、奮起と投票を促すために作られたものだ。

刺激的なメッセージを発信したのは、株式会社「笑下村塾」の創立者であり、お笑いジャーナリストのたかまつなな氏。中学時代から「お笑いで社会問題を解決する」ことを目指してきたたかまつ氏と、社会問題と向き合う人のクラウドファンディングプラットフォームGoodMorning代表で、MASHING UPコミッティメンバーの酒向萌実氏が対談を行い、たかまつ氏のねらいや今後の展望について話を聞いた。

「大人は見て見ぬ振りをする。だから君たちが伝えてほしい」

フェリス女学院出身のお嬢様芸人として活動する傍ら、2016年に笑下村塾を設立し、全国の学校に「笑える! 政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」などの出張授業を届けているたかまつなな氏。

学校での出張授業の様子。

学校での出張授業の様子(本人提供)。

2020年には「社会問題解決型」の時事YouTuberとして自身のチャンネルに力を注ぎ、立憲民主党の枝野幸男氏や、恋愛リアリティー番組『テラスハウス』への出演がきっかけで命を落とした木村花氏の母・響子氏との対談など、若い世代に政治や社会の問題を伝える番組を次々と発信している

たかまつ氏が社会問題に興味をもったのは小学4年生のとき。アルピニストの野口健氏が主催する環境学校への参加がきっかけだった。

「富士山の麓に不法投棄されたゴミを見て、野口さんが『大人はこういうことを見て見ぬ振りをする。だから君たち子どもが伝えてほしい』と。そこから政治や社会問題への意識が強くなっていきました。でも、それをどうまわりに伝えたらいいのかと悩んでいたときに出会ったのが、爆笑問題の太田光さんと中沢新一さんの対談『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)。社会問題を自分たちの文化や生活に落とし込んで話ができるのはお笑いの強みだと気がついて、フェリス女学院に通っていた中学3年生からアマチュアでお笑いを始めたんです」(たかまつ氏)

子どもの頃から「社会問題に対して何ができるか」を考え、「お笑い」という武器を手にすることを選んだたかまつ氏。しかし、その道のりは険しかった。高校時代の社会風刺ネタはまったく受けず、「売れたら好きなことができる」と言われて作り込んだのが「お嬢様ネタ」。ねらい通りにプチブレイクを果たすが、今度はそれしか求められなくなったと振り返る。

「もっと頑張らなくてはと、慶応義塾大学在学中に東京大学大学院の情報学環教育部に研究生として入りました。そうしたら次は、クイズ番組にばかり呼ばれるように。自分で笑下村塾を作り、社会問題について語れる番組への出演も増えてきました」(たかまつ氏)

一歩でも行動に移す人を増やすために

2016年、18歳選挙権を機に設立した笑下村塾は、若者と政治の距離感を縮めることがねらいのひとつだ。有権者として、高齢者の政治的影響が強くなる「シルバー民主主義」を解消するためには、少子化の上に選挙に行こうとしない若者の感情を揺さぶる必要がある。たかまつ氏が逆説的に投票を呼びかけたYoutube動画「若者よ、選挙に行くな」は、大きな波紋を呼び、再生回数が400万回を超えた。

逆説的に投票を呼びかけた動画「若者よ、選挙に行くな」。

YouTube

さらに、参議院選挙の期間中もGoodMorningで資金を募り、“18歳の投票率ワースト10”の都道府県の学校に無料で出張授業を提供するプロジェクト「若者の投票率を『笑い』の力で向上させたい!」を企画。223人の支援者から、270万円を超える支援が寄せられた。

たかまつ氏はこれまで、GoodMorningで4回のクラウドファンディングを実施し、延べ1,200名を超える支援者から合計約1,000万円の支援を集めている。クラウドファンディングには、単なる資金調達にとどまらない可能性を感じているという。

「クラウドファンディングを通してプロジェクトを拡散できることや、プロジェクトを接点として、活動を応援してくれる人を増やしていけることは大きなメリットです。ひとりでは社会を変えられないので、一歩でも行動に移す人を増やしていかねばという思いがあります」(たかまつ氏)

社会問題に対しては、議論に蓋をしないこと、自分の考えや賛同するプロジェクトについて発信すること、署名・寄付・エコ活動などを通して自分の行動様式を変えること、差別的な発言をしないことなど、できることがたくさんあると、たかまつ氏。

しかし、現実には「なにかしたいけれど一歩を踏み出せない」という人が多いのではないかと、酒向氏は問いかける。

zoom-1

和やかに進みながらも核心をついたZoom取材だった。

社会問題に対し“解決策”まで提示する番組を作りたい

社会問題に関心があるのに動けないのは、『なにをすればいいのかわからない』からかもしれません。これは、今のメディアの在り方にも一因があると思います」(たかまつ氏)

たかまつ氏は笑下村塾を設立後、「若者に刺さる番組を作りたい」とNHKに入社するも、2年半で退社。スピード感がある報道番組を、自らYouTubeで配信する道を選んだ。このときの活動資金を募るクラウドファンディングプロジェクトでは、過去最高の目標金額600万円を掲げるなか、121%の達成率を記録している。

「私がYouTubeチャンネルを始めようと思ったのも、社会問題に対し“解決策”まで提示する番組を作りたかったからです。今までの報道では『これが社会問題です、こんな人がこう困っています』で終わっていた。視聴者は『じゃあ、この困っている人をどうやって支えたらいいの?』となってしまう。メディアが社会問題を解決する方向に向いていないのです」(たかまつ氏)

メディアは現状を伝えるのが仕事であり、解決策まで提示すると『それはひとつの意見だ』と批判されてしまう。その枠を超えたかったとたかまつ氏は語る。

社会問題を発信するYouTubeチャンネル「たかまつななチャンネル」。

社会問題を発信するYouTubeチャンネル「たかまつななチャンネル」。

「楽しさ」がないと人を巻き込めない

たかまつ氏の活動は政治問題だけにとどまらない。2020年9月には『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)を刊行。12月には「SDGs体験型オンラインサロン 『大人の社会科見学』」を開始し、若い世代に生活でできるSDGsのアクションを伝えることも笑下村塾の柱となっている

「私の大きなテーマとして、シルバー民主主義の解消と“子どもにツケを回したくない”という思いがあります。どちらも持続可能な社会を目指すための活動であり、SDGsとの親和性を強く感じています」(たかまつ氏)

持続可能な社会を私たち一人ひとりが作る、その参加者になるという意識を持つこと。そのためにはミクロの視点とマクロの視点を併せ持つことが重要だと、たかまつ氏。

「地球温暖化でいうと、一気に砂漠化の問題になってしまい、『自分にはどうしようもない』と思いがち。でもエアコンの温度を1度下げるだけなら簡単だし、すぐに行動できる。とはいえ、エアコンの調節だけでは社会は変わらないので、社会を大きく変えていく話もしていかないといけない。その両方が必要なのに、『SDGs』というとどちらかの視点に偏ることが多い」(たかまつ氏)

SDGsババ抜きカードゲーム

SDGsの17の目標を楽しく学べる、笑下村塾オリジナルカードゲーム。

「『若者よ、選挙に行くな!』動画は、たかまつさんのおっしゃる“逃げ切れる世代”と“逃げ切れない世代”にスポットを当てたものでしたね。時々、なぜそんなに社会問題に興味があるんですか、と聞かれることがありますが、私自身にとっては、生活に直結する死活問題である、という感覚です。例えば、気候変動の問題など、放っておいたら、私たち“逃げ切れない世代”は大変なことになりますから」(酒向氏)

“逃げ切れない世代”という焦燥のもと、切実な思いで社会問題に取り組むふたり。その一方で、「なぜ私の声を聞いてくれないのか」という否定的なスタンスにならないよう、気をつけているとたかまつ氏は語る。

「近年SNSで顕著ですが、このスタンスになると余計に分断を煽ってしまう。そうではなく、皆が参加したいと思える“楽しい場”を作ることが、今後はすごく大切になる」(たかまつ氏)

難しい問題だからこそ、「楽しさがないと人を巻き込めない」とたかまつ氏は語る。ミクロとマクロの視点を持ち、笑いの力で社会課題の解決に取り組むたかまつ氏の行動力は、これからも多くの人を巻き込んでいくだろう。

【たかまつなな氏のプロジェクト】
SDGs体験型オンラインサロン 「大人の社会科見学」
【たかまつなな氏のYouTubeチャンネル】
たかまつななチャンネル

このトピックとかかわりのあるSDGsゴールは?

SDGs4,6

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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