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企業の社会的責任(CSR)プログラムは何十年も前から存在するが、2020年はビューティ業界がCSRの枠を超え、社会課題についてより大きな声明を出すようになった一年だった。
同年7月、セレーナ・ゴメスがプロデュースするブランド、レアビューティ(Rare Beauty)は、小売デビューに先立ち、うつ病と孤独感に悩む人を支援するための基金「レア・インパクト・ファンド」を立ち上げた。また11月には、ピースアウトスキンケア(Peace Out Skincare)が非営利団体「トレバープロジェクト(Trevor Project)」と提携し、LGBTQの若者の自殺防止に取り組んでいる。
最近ではYSLビューティが、国連によって11月25日に定められた、女性に対する暴力撤廃の国際デーに合わせて「Abuse is Not Love(虐待は愛ではない)」をローンチした。これはYSLビューティ初の世界的なCSRプログラムで、親密なパートナーからの暴力(Intimate Partner Violence )と闘うことを目的としたもの。IPVはドメスティック・バイオレンスとは異なり、親しいパートナーを暴力により支配・コントロールする意図的な行為の総称だ。
他団体との連携で、グローバルな展開も視野に
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「私たちはリスクを恐れないブランド。この話題について誰もがしかるべき議論していないことは問題だと考え、前面に打ち出した。タブー視されている話題だが、ニッチな問題ではない」と話すのは、YSLビューティのマーケティング担当VPであるジーノ・ルーチ(Gino Luci)氏だ。新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とした外出自粛によって、2020年は家庭内暴力の件数が増加した。
ルーチ氏によると、YSLビューティはAbuse is Not Loveの最初の3年間の資金として、最低120万USドル(約1億2,000万円)を確約している。その一部には、パートナーからの暴力に関する学術研究への資金提供や、2030年までに世界の200万人に対してIPVに関する教育を行うことが含まれている。大学キャンパスにおける性的暴行と闘うために活動する「イッツ・オン・アス(It's On Us)」といった団体との国際的なパートナーシップを中心に、より多くの教育活動が行われる予定だ。
エスティローダーカンパニーズ(Estée Lauder Companies)と、そのポートフォリオブランドであるMACコスメティックス(MAC Cosmetics)は、1992年に乳がん、1994年にはエイズに関して発信するなど、タブー視されていた問題にいち早く取り組んでいたが、現在ではそうしたテーマはより主流となり、MACはエイズ以外にも視野を広げるようになった。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、毎年何らかの形で25%近くの米国女性がIPV関連の事件を報告しているが、恐怖心や意識の欠如によって正確な報告がなされていないケースが多い。
最後に勝つのは、立場を明確にするブランドだ
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2020年は、特にブラック・ライブズ・マターやその他の世界的な社会正義運動など、CSRの性質の転換を加速させた、と話すのはジョージタウン大学ソーシャル・インパクト・コミュニケーション・センターのマネージングディレクターであるジョン・トライバス(John Trybus)教授だ。最初は小切手を使った慈善活動からスタートしたCSRは、その後(売上の一部を慈善団体に寄付するという形の)理念に基づくマーケティングへと発展した、と教授は解説する。
現在、CSRは多面的なものになってきている。たとえそれが一部の消費者を疎外するものであっても、すべての人を喜ばせようとするブランドより、明確な立場を示すことができるブランドのほうが最終的に報われることになる、とトライバス教授。
現在は社会的なパーパスや、ブランドパーパスが問われる時代であり、わたしたちはより困難な、あるいはより議論を呼ぶようなテーマに取り組む場に置かれています。そして、それを主導しているのはブランドに期待を寄せる消費者。もはや企業の基本的な社会的責任だけではそうした場に加わることができません。 ブランドのパーパスが大きく必要とされているのです(トライバス教授)
さらに、ブランドは筋の通った理念に従い、選択したテーマに関する多様な意見を集め、ただ主張するだけでなく耳を傾ける方法を見つけなければならない、とトライバス教授。同時に、CSRのストーリーと結果を共有するための適切な方法を見つける必要があるともいい、CSRのより新しい展開として、ブランドが外部とのコミュニケーションを重視するのではなく、従業員と社内でCSRプログラムを共有しようとしている点を指摘した。YSLビューティは2021年末までに、全世界の従業員に対してIPVに関する社内教育を行う予定だ。
社会問題へのアプローチは時期の見極めが重要
予防をベースにしたプログラムの社会的影響を測定することはほぼ不可能であるため、Abuse Is Not Loveの成功を測定するのは難しいということは、トライバス教授もルーチ氏も指摘している。しかし2021年末までに、イッツ・オン・アスと、同団体所属でIPVについて営業担当者と話すことができる教育者を通じて、グローバルで6万人を教育する計画だ。
教育の内容には、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された学術論文、IPVの9つの早期警告サインに関する動画、IPV被害者のステレオタイプをなくすためのエディトリアルコンテンツや、動画コンテンツへの資金提供などが含まれている。ルーチ氏によると、提唱者やインフルエンサーを起用した大規模なソーシャルメディアでの取り組みを、インスタグラムやTikTokといったプラットフォーム上で2021年4月に行う予定だという。
YSLビューティによる、IPVの9つの早期警告サインに関する動画。1.怒っている時に無視をする。 2.あなたが何かするのを拒んだ際に脅す。 など、計9つのサインが紹介されている。
ルーチ氏は、YSLビューティは、将来的には製品からの収益を、Abuse is Not Loveの資金として活用する機会もあるだろうと示唆するが、早期の段階でそのプログラムに製品を組み込むことには慎重な姿勢だ。一方で、MACのリップスティック「ビバグラム(Viva Glam)」は25年間で5億USドル(約518億円)の収益を上げ、エイズの慈善団体に資金提供をしているように、製品とのタイアップは成功する可能性もある。
あまりに早急に(プログラムに)製品の販売を絡めて商業的な側面を持たせてしまうのは危険。我々はこのデリケートな問題にどのようにアプローチしていくか慎重に考えたい。我々はリスクを恐れないエッジの効いたブランドだが、これもまた非常に深刻な課題であることを配慮したい(ルーチ氏)
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原題 [Beauty brands embrace taboo topics for corporate social responsibility initiatives]/ EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida)
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