新型コロナウイルスの登場で、ワークスタイルの変化を余儀なくされるなか、在宅勤務によるコミュニケーション不足や社員の孤立化といったメンタルに与える影響が懸念されてきた。そんな課題に企業や個人はどのように向き合い、ウェルビーイングを実現していけばいいのだろうか。
2020年11月に開催された「MASHING UPカンファレンスvol.4」では、ピースマインド株式会社の荻原英人氏、精神科医の星野概念氏をゲストに迎え、株式会社HARESの西村創一朗氏の進行のもと、「コロナ時代のメンタルヘルスマネジメント」と題したセッションが繰り広げられた。
職種や立場で違いはあれど、みんな何かしらに苦しんでいる
荻原英人氏が率いるピースマインド株式会社では、不安や不調など「はたらく人が抱える『不』を解決し心豊かな未来を創る」をミッションに掲げている。
登壇したのはそれぞれの視点から、働く人のメンタルヘルスをテーマに活動する3名。モデレーターを務めた西村創一朗氏は、複業や男性の育休取得といった働き方をサポートする株式会社HARESの代表。独立してからの3年間、うつ病に苦しんだ経験を持つ。
荻原英人氏は、大学在学中の1998年にメンタルヘルスサービスをおこなうピースマインドを創業。現在は「はたらくをよくする®」をビジョンに掲げ、約1,200社の国内外の企業をサポートしている。
荻原氏によれば、2020年4月の緊急事態宣言でリモートワークの導入が急速に進んでから、約半年で企業からの相談件数は、昨対比で月によって最大40%も増えたという。そのうち、コロナ関連の相談内容をまとめたところ、もっとも多かったのが在宅勤務によるストレスや活気の低下といった悩み。
「性別・年代別で比較したところ、仕事の相談をする機会が減ったことでストレスをもっとも感じているのは20代の若い世代で、とくに女性のほうが多い。睡眠の質の低下や運動機会の低下という悩みは、どの世代にも共通した悩みでした」(荻原氏)
「オンラインで仕事の相談がしにくい、愚痴をこぼせずにネガティブな気持ちをため込んでしまう」といった若い世代に対し、管理職はオフィスで部下たちの顔や仕事の進捗が見えないぶん、「部下への業務の指示やサポートがしにくい」と答えているそうだ。
在宅勤務によるストレスばかりが取り沙汰されがちだが、在宅勤務によって仕事のストレスが軽減したと好意的に受け取っている人が少なくないのも事実だ。そこへ「在宅勤務ができない職種の人へも目をむけなければいけない」と荻原氏。
「医療従事者といったエッセンシャルワーカーはもちろんですが、ドラッグストアやスーパーに勤める方やセキュリティという点で、リモートワークができない人が感じるストレスや、不公平感にももっと目を向けなければいけないですね」(荻原氏)
同僚や友達はもちろん、家族にさえも“話せていない”
執筆や音楽活動も行う精神科医・星野概念氏。いとうせいこう氏との共著『ラブという薬』、『自由というサプリ』(リトルモア)。
「チームや同僚との何気ない会話や愚痴によって、いかに心がデトックスされていたかということに気づいた人は多いはず」と語るのは、精神科医の星野氏。在宅勤務によってコミュニケーションの機会が激減。かといって、ちょっとした愚痴をチャットやオンライン会議で話すまでもない……。そうして孤立していく人の悩みに、診察室で耳を傾ける日々が続いている。
同僚や友達だけでなく、身内にも“話せていない”という人は意外と多いと星野氏。それは医療の現場でも同じで、星野さんが知る看護師は、コロナ専用病床に配属が決まったことを「心配をかけたくない」という理由で家族に打ち明けられないという。
「以前なら『誰かとお茶でもして、愚痴でもこぼさなきゃね』って言えたんですけど、それも今は難しいですよね。人間は社会的な生きものだから、人に会うことを制限される今は、すごく不自然な状態。慣れることができるのも人間の特徴ですが、数か月ならまだしも、先が見えなければ耐えられなくなって当然です」(星野氏)
「三密、不要不急を避けよう」と声高に叫ばれるなか、「この三密、不要不急こそが、本当は僕たちにとって大切な楽しみの部分だったはず」と星野氏。
「合理的な生き方ばかりが良しとされる窮屈な世の中で、仲間と三密したり不要不急なことを楽しんだりすることに、みんな助けられていたはずなんです。そのぶん、今はがんばりすぎず、自分を意識的にいたわってあげないといけないと気づいてほしいですね」(星野氏)
大切なのは、自分を俯瞰して、自分をいたわるためのトリセツや処方箋を考えること。自分をいたわる方法は人それぞれで、ストレッチでも散歩でも瞑想でもOK。ただし「誰にでも効く万能薬はない」と星野氏。思いつくことを試してみたり、セルフケアの本を調べたりして、「これは自分にあう、これはダメだ」と地道に探してほしいと話す。
コロナ時代のウェルビーイングに必要なことは
株式会社HARESの西村創一朗氏は複業研究家として、個人・企業向けにコンサルティングを行う。
心に重たいものを感じたとき、叩いてみたいのが精神科の扉。しかしハードルが高いのも事実だ。セッションの視聴者からも「つらさを抱え込まないために、カウンセリングを受けてみたい」とのコメントが寄せられた。
「以前は『医者に話しにくいなら、スナックとかでもいいと思う』って言えたんですけどね(笑)。あまり身構えず『これって、うつですかね?』っていうぐらいの感じで来てもらえれば、そこからは僕たちが判断しますから、選択肢のひとつにしてもらっていいと思いますよ」(星野氏)
一方、企業は従業員のメンタルケアについて相談を持ちかけられたとき、荻原氏がアドバイスするのが「話しやすいシステムや仕組みをつくる」ということ。
「以前はプライオリティが低かった従業員のウェルビーイングやメンタルヘルスも、今では企業にとって大きなテーマとなっています。悩みを打ち明けられる場所、相談しやすい仕組みを設けて、今まで以上に踏み込んで丁寧にフォローしていくことが大切だと感じます」(荻原氏)
正解が見つからないまま、コロナ禍を生き続ける私たち。コロナ前に戻りたい、元の生活が送りたいとばかり考えては苦しくなるばかりだ。新しい価値観を受け入れ、自分をいたわる方法を探っていきたい。心に負担をかけないように、あくまでも無理なく、少しずつ。
MASHING UPカンファレンス Vol.4
コロナ時代のメンタルヘルスマネジメント
荻原英人(ピースマインド株式会社 代表取締役社長)、星野概念(精神科医)、西村創一朗氏(株式会社HARES 代表取締役)
このセッションとかかわりのあるSDGsゴールは?

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