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「ここにたどりつけて良かった」という若者を増やしたい/Masterpiece代表 菊池真梨香

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コロナ禍のなか、支援が必要なのにそれが届いておらず、声も挙げられない人たちがいる。困難な状況に置かれている若者たちの現状を伝えるべく、児童養護施設出身の若者たちに手をさしのべている一般社団法人 Masterpiece代表の菊池真梨香氏の活動を、前編と後編に分け取り上げる。

後編となる今回では、菊池氏はなぜこのような活動をしているのか、そして私たちが具体的にとるべきアクションとは何かにフォーカスする。

施設を出たら自己責任。厳しい現実が立ちはだかる

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菊池氏は1987年生まれ。もともと国際協力の仕事を志望していたが、大学4年生の時に児童養護施設の存在を知る。「日本にもこんな問題があったんだ」と驚き、路線変更。町田市の児童養護施設に就職することにし、住み込みで施設の子どもたちと共に生活した。そこで知ったのは、彼女らが18歳になり施設を出てから直面する、厳しい現実だった。

勉強したくてもお金がなくて進学できず、夢をあきらめた子。奨学金をもらってせっかく進学しても、生活費も自分で稼がなくてはならないため、アルバイトを掛け持ちして身体を壊し、結局学校をやめて心を病んでしまった子。行政の支援があっても理解できない、家族に裏切られた経験から大人への信頼感が薄く、相談するのが苦手な子……。

親から愛されない、傷つけられるということは、人生の基盤に関わること。それによって人間関係を築くことが苦手になったり、生活上で受ける些細な精神的ダメージが、大きな心の傷につながったり。『あんたさえいなければ』などと言われて育ったため、生きていていいのかなという根本的な不安がある子も多い」(菊池氏)

施設内での生活も大変だが、世間に出てからもさらに高いハードルが待つ。誰かが支援しなければ、と自分がやることを決意。2017年、この分野についてより深く学ぶため、養護施設出身の若者支援制度が進んでいるカナダで、虐待を受けた子どもたちの声を聞き取った。政策アドボカシーの制度を知り、日本でも展開すべく、Masterpieceを設立。そして2018年に、施設出身の若者の本音を集めた「僕らの声」をまとめて出版した。そこには「帰る場所がほしいなあ」「施設を出たら自己責任なのがつらい」「施設を軽蔑しないでほしい」「頑張っている人が報われる社会にしてほしい」などの生々しく、痛切な声が並んでいる。

共同生活を通して、自己肯定感を取り戻してほしい

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このような「発信」のほか、住まいと食糧も支援の柱だ。しかし、これらはあまりに基本的なことにも思える。

「彼らはいい仕事につく、夢をみる、という以前に、まず生活の土台を整えないといけないのです。まず生きるということを持続できなければ、次のステップにいけない。そのくらい彼らは苦労しているんです」(菊池氏)

そこで、自身もシェアハウスに2人の女性と共に暮らすという菊池氏は、千葉県内に2軒のシェアハウスを開設。2021年内に、埼玉県内にもオープンする予定だ。

「私は、『一緒に住む力』を信じています。かつて住み込みで施設で働いていたとき、子どもも大人も、プラスの部分だけでなく、マイナスの部分もたくさん見ました。でも生活を通してわかりあえることがある。同じ屋根の下に住んで、毎日『いってらっしゃい』『お帰りなさい』と声をかける。カレーを作ったから一緒に食べようと食卓を囲む。何気ない会話で、ひとりじゃないと感じられる。かつて彼らにとって、家庭は攻撃を受ける場だった。けれども、わかりあえる仲間と送る安定した日々が、自分の存在を少しずつ肯定することにつながるのです」(菊池氏)

シェアハウスの住人は、みな大人だ。基本的には、それぞれ自由に過ごしている。

「私は管理人的な立場で指導もしません。1人の社会人として生活を共にしているんです。もちろんかっこいいところばかりではありません。たとえば休日はお昼まで寝て、だらっとしてたり(笑)。大人って完璧じゃない、こんなものでいいのだというところを、見てもらいたいのです」(菊池氏)

入居者は1カ月3万円の家賃と、光熱費を支払う。入居期間は短くて1カ月、長くて1年ほどで、2018年9月のスタート以来、これまでに10人ほどが巣立っていった。

まずは知ることから。私たちにできることは

食糧支援は、フードバンクと提携しながら、配布などをおこなっている。今後力を入れていきたいのが、知ってもらうこと、それを政策や制度につなげていくことだ。

「住居や食糧の支援は、あくまでも対症療法」と語る菊池氏は「容器から水があふれていたら、そのあふれた水を受け止めますよね。でも本当に必要なのは蛇口をしめること。でないと水はあふれるばかり」と続ける。

さらに、「国や自治体の政策や制度を作っている人たちに制度を知ってもらい、アクションをおこして政策を変えてもらうことで蛇口はしめられる。まずは知って欲しい。知ることからしか、何も始まらない。そして自分の心に湧きあがってきた思いを実行に移してほしい。何でもいいのです。私自身がそうでしたし、知らなかったらこの仕事はしていなかった」と、力強く語った。

菊池さんのやりがいとはなんだろう。

『ここにたどりつけて良かった』という若者がいることです。人生の変化に携われる。まだ20年くらいしか生きていない彼らは、信じられないような壮絶な経験をしてきた。その彼らが、人生をネガティブからポジティブに変える時に立ち会えた時、本当に活動していて良かったと思う。私は支援者というより、お姉ちゃんでいたい。『里親ならぬ里姉ちゃんだね(笑)』と言われたことがあります」(菊池氏)

菊池さん自身も大変な経験をしているだろうに、あくまでもポジティブで明るい。きっと「頼れるお姉ちゃん」なのだろうと感じさせる。前編と、今回の後編で児童養護施設出身者の置かれる現状を取り上げた。もし、ここまで読み心に湧き上がった思いを感じたなら、それを行動に移してもらえると嬉しい。

Masterpiece クラウドファンディングプロジェクト

https://readyfor.jp/projects/supportforyouth

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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