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世界の多拠点でものづくり。 100年後の文化を愛知の伝統技術が作る/「suzusan」CEO村瀬弘行

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Image via suzusan

2008年にドイツ・デュッセルドルフで設立されたライフスタイルブランド「suzusan」。suzusanはブランド設立当時、衰退しつつあった愛知県の伝統技術「有松鳴海絞り(ありまつなるみしぼり)」をモダンに再構築。その新たなアプローチから生み出されるファブリックは、フランスを代表するラグジュアリーブランドの心をも惹きつけている。同社の代表取締役CEO兼クリエイティブディレクターをつとめるのは、鈴三商店の5代目として生まれた村瀬弘行氏だ。

躍進を続けるsuzusanは2020年に組織改編を行い、ドイツ、名古屋、群馬、スイスと、多拠点で新たな事業を展開している。「絞り」という文化を世界に伝えようとするsuzusanのデザイン哲学、国をまたいで拠点を置く理由やイノベーションを生む組織作りのアイデアについて、新生suzusanを支える4人にオンラインでお話を聞いた。

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ドイツからCEO兼クリエイティブディレクターの村瀬弘行(上)、スイスからはストラテジー及びファイナンシャルアドバイザーのハンスペーター・カペラー氏(左下)、名古屋からは弘行氏の弟でもあるCFOの村瀬史博氏(右下)と、群馬に拠点を置くCOOの澤祐子氏が取材に参加。

場所を変えれば、ものの価値や見え方が変わる

20歳のときにアーティストを目指してイギリスへ留学、その後ドイツに移住した弘行氏。愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で有松鳴海絞りを用いた布の生産を営む鈴三商店の五代目として生まれたが、日本にいたときには家業に興味がなかったと話す。

有松鳴海絞りは400年の歴史をもつ染色技法だ。浴衣の染色を中心に、かつては1万人以上の職人を擁して栄えたが、需要の衰退が続き、職人の高齢化とともに産業としては存続の危機にあった。

「父はよく15年後には職人がいなくなると話していた。私に家業を継げと言わなかったのは、この仕事では将来食べていけないと考えていたからだろう。転機はドイツ移住から2年後。父がイギリスで参画した展示会の通訳をしたときに、初めて有松鳴海絞りの魅力に気づいた」(弘行氏)

絞りというと日本では「伝統工芸」や「年配の人が着るもの」といったステレオタイプなイメージがある。しかし背景を知らないイギリスの人たちは「これはどうやって作るの?」「美しい」「面白い」と口々にストレートな反応を見せた。

「日本にいたときは家じゅう布だらけで、お風呂やキッチンで染めたり、庭に布が干してあったり……そういった環境を、自分では珍しいとも思わなかった。でも、場所を変え、少し距離を置くことで、ものの価値や見え方は変わっていく。このまま有松鳴海絞りをなくすのは勿体ない、とふと思ったんです」(弘行氏)

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取材は、東京でおこなわれていた展示会会場にて実施した。棚に置かれているのが、suzusanの原点とも言えるアイテムであるストールだ。

Less is freeの哲学が、世間のムードとも合致した

日本の手仕事に新しい価値を」という弘行氏の情熱が発端となり、2008年にドイツ・デュッセルドルフでsuzusanを設立。絞りのストールをトランクに詰めてヨーロッパ各国のセレクトショップを訪ね回った。その頃から12年を経て、今ようやく思い描いていた未来が近づいてきた実感があるという。

パリの生地展示会では、フランスやイタリアの錚々たる大手メゾン各社から高評価を獲得。ヨウジヤマモトをはじめとする多数のブランドとのコラボレーションや、ラグジュアリーブランドへの生地の提供を行い、逆輸入的に日本での知名度が高まってきているのは、弘行氏の狙い通りの展開だ。

近年、弘行氏が大切にしているのは「Less is moreからLess is free」という考え方。デザインにあたっては、次の“6つのレス”を軸にしていると語る。

1.トレンドにならないタイムレス
2.国、地域を選ばないボーダーレス
3.男性、女性の差をなくすジェンダーレス
4.ファッション、インテリアを超えたカテゴリーレス
5.家の中も、ドレスアップしてお出かけも。オケージョンレス
6.さまざまな年齢にアプローチするジェネレーションレス

ドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉である“Less is more”は、日本のなかでも脈々と息づいている考え方、と語った弘行氏は、「今の世の中は過剰に物が作られ、消費スピードもどんどん早くなり、それに自分たちが追いつけていない。コロナでその状況にストップがかかり、これまでのやり方に皆が疑問を抱き始めている」と続けた。

「レス」は「取り払う」ということでもある。ファッションブランドはターゲティングが定石ということもあり、色々なものを取り払うことでブランドのカラーがなくなる、どこにフォーカスしているのか分からなくなる、など弘行氏はたくさんの忠告を受けたという。

「しかし、私はそうは思いません。suzusanはもともと、有松の技術を残したいという思いから生まれたブランド。ブランドのルーツや伝統がしっかりしていれば、逆に『取り払う』アプローチによって、もっと自由になれるはず」と、力強く語った。

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2017年からアパレルに加え、Home&Livingのカテゴリーにも参入。上段左端および、右から2つ目、そして下段の右端の紺色以外のクッションカバーは、他のテキスタイル産地と手を組み新たな価値を生み出す試みとして、愛媛県今治市の老舗の機屋「渡辺パイル織物」とコラボレーションして作られた。

「香水を使わない日本人」を変えた戦略

2020年、suzusanは新たな柱として、ストラテジー及びファイナンシャルアドバイザーのハンスペーター・カペラー氏と、COOの座に澤祐子氏を迎え、ドイツ(弘行氏)・名古屋(史博氏)だけでなく、スイス(カペラー氏)、群馬(澤氏)を加えた4拠点体制となった。

suzusanを展開するための会社組織としては、主に製造と国内販売を担う株式会社スズサン(名古屋)と、主にデザイン、マーケティング、ディストリビューションを担うsuzusan GmbH & Co., KG(デュッセルドルフ)の2社で構成される。

両社のCEO兼クリエイティブディレクターを弘行氏がつとめ、弟の史博氏がCFOとして財務面を担う。澤氏はCOOとして決定事項を実務に移す。カペラー氏は日独両社の資金繰りや、数字の細かな洗い出しをサポートしている。

「組織改編にあたり“文化を超えて物事を見られる”人材を探していた。文化は物事に説得力を与える武器にもなるが、逆にステレオタイプになる足枷にもなりえる。『この文化は美しいから、素晴らしいから世界中で通用する』という文化の押し付けは、場合によっては煙たがられることも。

その点、幼少期をアメリカで過ごした澤氏、日本生活の長いスイス人のカペラー氏なら、文化をひらりと超えられるだろうと考え、その予感は当たった。このメンバーだからこそ、多様な視点で物事を捉えることができている」(弘行氏)

シャネルやクリスチャン ディオールなど、ラグジュアリーブランドの日本法人で要職を歴任したカペラー氏は、かつて香水を使わない日本人に「香水を使う文化」を広めた立役者でもある。

カペラー氏がシャネルへ入社した1972年当時は、まだバッグや洋服などの展開はなく、日本では香水しか販売していなかったという。いかに日本人に、異なる文化である香水を楽しんでもらうか。そこでカペラー氏が注目したのが、日本人特有のお風呂を楽しむ文化だった。そこに着想を得て、香りのついた石鹸の販売をスタート。さらに中元・歳暮商品として高級石鹸と香水のセットをつくったところ、デパートの外商を通して飛ぶように売れたのだ。

どんなに素晴らしい伝統から生まれた商品や工芸品でも、その国の生活に合わなければ受け入れられない。suzusanは日本の伝統的な染色技術を、現在のファッションに巧みに取り入れている。そこが、海外でも多くのファンを惹きつけている理由」(カペラー氏)

ひとつの文化を新たな土地に持ち込み根付かせていくのは、suzusanの前に立ちはだかる壁と同じ。弘行氏は、カペラー氏のチャレンジから多くの示唆を受けていると語る。大先輩であるカペラー氏はメンターでもあり、時には禅問答のようなメンタル面の相談もしているのだとか。

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COOの澤祐子氏。村瀬氏とは同世代でフラットに話ができる良き相談相手でもあり、昼夜問わずメッセンジャーで情報交換しているという。

50年後、100年後の未来の伝統を形づくるために

いっぽう、COOとしてsuzusanにジョインした澤氏は、村瀬氏の10年来の知己。結婚を機にパートナーがスキー場を営む群馬県片品村に居を移していたが、子供たちが幼稚園に通い始めたタイミングで村瀬氏の依頼を受け、主にリモートワークでチームの運営に参画している。

倉庫の整理整頓から文章校正、スタッフの意識改革や仕事領域の整理、営業戦略の立案など、組織をアップデートする澤氏の業務は多岐にわたる。

「この12年間『無くなりそうな文化を残し、次に伝える』ということが一つの目標だった。今、産地である有松に次世代を担う職人が集まり、少しずつ未来が見えてきたなかで、次のフェーズとして発展させ、より成熟した文化にする時期に来たと感じています。そこには物だけを作るのではなく、関わる人々、新しい組織が重要になってくる。今までものづくりだけをやってきた日本の組織には欠けている領域でした」(弘行氏)

いまや世界23か国で展開するsuzusan。卸売り上げベースで84%が欧州、ついで北米が8%となるなかで、日本の売上げは3%。まだまだこれからという状況だと弘行氏は、今後の展望についてこう語る。

ラグジュアリーブランドを形成する一つの要素がそうであるように、歴史の長さは価値に変換できる。私たちが持つ長い歴史という価値を武器に、どういうビジョンを描けるかが重要。今改めて日本で作ったものを、日本の風土の中で使い、新しい伝統のイメージを持ってもらえるようになることが、長期的な発展につながるのでは」(村瀬氏)

多様な視点を取り入れつつ、しなやかに変化していく組織と、それが生むイノベーション。50年後、100年後の未来の伝統を形成する足掛かりは、組織をサステナブルに発展させていくための大きなヒントにもなるだろう。

[ suzusan ]

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撮影/澁澤 羅貴

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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