昨今、自分の身を守る手段として学校や家庭における「性教育」の必要性が認知されつつある。しかし、性教育を必要としているのは子どもだけではない。大人にこそ必要なのでは? という観点で、2月18日のオンラインサロン「MASHING UP SALON vol.8」は、「大人のための、正しい性知識。改めて性教育を考える」をテーマに開催。
助産師のかたわらチャンネル登録者数14万人を超える性教育YouTuberとして活動をしているシオリーヌ(大貫 詩織)氏と、海外留学を経て起業し「性教育トイレットペーパー」を生み出した一般社団法人Sowledge代表の鶴田七瀬氏を招き、ビジネスパーソンが知っておきたい性知識や、ハラスメントの定義など、今求められる「性」との向き合い方を語ってもらった。
性知識は、自分の人生を選びとる上で大切なもの
性教育YouTuberのシオリーヌ氏が性教育に関心を持ち始めたきっかけは、助産師として多くの女性と接する中で、妊娠や出産を経験するまで性知識に触れてこなかった人が多いと感じたからだ。
「性の知識は、自分の人生を自分が望むように選択していく上で欠かせないもの。身体に変化が起きてから初めて気づくのでは、遅いこともある。思春期や第二次性徴期に、正しい知識が備わっている状態で、納得のいく意思決定ができることが大切だと感じ、性教育に関心を持ちました」(シオリーヌ氏)
ところが、いざ学校などで性教育の講演活動を行うと、学校の意向で「コンドームについて話すのはいいが、実物や詳しい使い方は見せないでほしい」などの制約が出てきた。
学校では伝えきれない知識を発信するアフターフォローの場を作りたいと考え、2019年2月から「性教育YouTuber」として動画の投稿をスタート。当初は、性の話をオープンに語ることへの好奇な目も多かったが、今では多くの視聴者から性教育への肯定的な意見が寄せられている。
助産師で性教育YouTuberのシオリーヌ(大貫 詩織)氏
2021年12月には、性教育に関する著書『CHOICE』(イースト・プレス)を出版。男児向け/女児向けと、性別で区切られていることが多い従来の性教育の書籍に対する疑問を抱いたことが背景となっている。
「どんなセクシュアリティの人でも、とりあえずこれを一冊読めば、大事な知識をひと通り学べるように制作しました。若い世代へ向けて、内容を詰め込んだ書籍を作りたかった」(シオリーヌ氏)
社会に漂うタブー感。性の話ができる環境を作りたい
一般社団法人Sowledge代表の鶴田氏が、性の問題に取り組み始めたのは、親友が共通の友人から1年以上性暴力を受けていたことを知ったのがきっかけだった。
「自分も性被害や性暴力によって自覚なく傷つき、心をヤスリで削られているような感覚を積み重ねていたことに気がついた。ちょうど同じくらいの時期に、#MeToo運動が起きていて、日本の状況に危機感を覚え、自分で何かできることをしようと活動を始めました」(鶴田氏)
活動を進める中で、性知識がないために予期せぬ妊娠をしてしまう人が多いのだと実感。その背景には、教育現場における"歯止め規定"など、性の話へのタブー感があった。
一般社団法人Sowledge代表 鶴田七瀬氏
鶴田氏が目指したのは、「性の話ができる環境を作る」こと。そのための教材として作られたのが「性教育トイレットペーパー」だ。小学校1年生からでも性教育を行うことができるように、様々な性知識が分かりやすい言葉やイラストで綴られている。
この「性教育トイレットペーパー」は、連載「社会とわたし/クラウドファンディングから見えたこと」でも語っていたように、トイレという「個室」にあることで、他人の目を気にせずに性知識を学ぶことができるのが最大の特徴だ。
性教育に関するコンテンツのほか、予期せぬ妊娠をした未成年の女性が、無料で安全に、中絶という選択をできるようサポートする「トコトコ基金」の設立にも取り組んでいる。
「知識と共に、行動を変えるために必要なサポートを届けるということを、今後は行っていきたい」(鶴田氏)
自分と他者を大切にする。ビジネスパーソンに求められる性知識とは
視聴者からの「今のビジネスパーソンに必要な性知識は?」という質問に対して、「まずは基礎的な性教育の知識に触れてみてほしい」とシオリーヌ氏。
「性教育は、自分の心と身体を大切にするための具体的な情報や方法を教えてくれる学習なので、まずは正しい情報にたくさん触れてほしい。自分や他者の権利にも敏感になるし、相手を尊重して関わり合えるようになっていくはず」(シオリーヌ氏)
性教育は「自分を大切にすること」の中身を教えてくれるという意見に鶴田氏も賛同しつつ、相手も大切にするという点で、具体的に職場において知識が必要となる場面を挙げた。
「チームで仕事をするとき、妊娠などのライフイベントや、生理がつらいというチームメンバー一人ひとりの状況に対して、どのようにサポートできるのかを見つけるためにも性知識はすごく必要」(鶴田氏)
誰もがいつでも助けを求められるような環境を醸成するためにも、「自分自身の知識をつけたり、周囲と状況を共有し合うことが重要なことだ」と鶴田氏は語った。
線引きは人それぞれ。相手の「境界線」を見極め、尊重できるか
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性教育について発信している両氏は、昨今取り上げられることも多いセクシュアルハラスメントの定義をどのように考えているのだろうか。
シオリーヌ氏は、何がハラスメントかという判断基準は、『人権』に対する意識を持つことだと語る。
「どんなに親しい間柄でも、人と人との間には境界線があるはず。性に関してもどういった話題を話したいかなど、人によって線引きは異なる。個人差が大きいということを知るのが第一歩」(シオリーヌ氏)
一般的に、髪型など、その人自身が選択したものに関して褒めるのはタブー視されにくいが、反対に、身体的特徴など、個人の意思では変えられないものに対して言及するのは注意が必要だとシオリーヌ氏。
鶴田氏もこの意見に頷きつつ、「境界線は人それぞれなので、都度確認していくことが重要。ビジネスシーンにおいては、それらについて話題にする必要があるかどうか、今一度考えてみてほしい」と述べた。
自分も「加害者」になりうる意識を持って
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身の回りにおいても、「性別によって区別されてきた価値基準が慣習として残っていないか、一度立ち止まって考えることが大事」だとシオリーヌ氏。
「慣習として残っているものに対し、『なぜ』とみんなで立ち戻って考えることによって、会社の中でジェンダー観について意見交換をする一つのきっかけになる」(シオリーヌ氏)
コミュニティの中で無意識に受け継がれているために、性差別的だと感じづらい。鶴田氏も家庭の中で起こりうるハラスメントについて言及した。
「私は、容姿について家族内で『いじられる』など、セクハラをコミュニケーションの手段として使っているような家庭で育った。それが自分にとって当たり前だと思っていたので、『人の容姿はいじっていいもの』という感覚を持っていたんです」(鶴田氏)
しかし、そこから性教育について学ぶうちに、自分が今までハラスメントをしてきた、そしてハラスメントを受けてきたのだと気がついたという。
無意識に発する言葉や態度で、自分がハラスメントの「加害者」になりうる可能性は誰にでもある。特に、性知識を学び直していくと、自分の振る舞いを省みることができる。
シオリーヌ氏は、友人の男性に「女子力高いね」と言っていたが、その人自身の思いやりやホスピタリティに性別を付け加える意味はなかったと後悔し、あとから謝罪したのだという。
「自分の行動を振り返っていく作業を面倒くさいと放棄することは簡単ですが、それでは息苦しさを感じている人のことを尊重できないままになってしまう。職場や家族など様々なコミュニティの中で、いろんな背景を持つ人がのびのびと生きていける社会を作りたいのであれば、痛みを感じながらでも、みんなで見直していけるといいと思う」(シオリーヌ氏)
性教育は、互いに交わり合いながら生きる私たちの「生涯教育」である。年齢を問わず、性知識は人生をより豊かにするために必要不可欠だと再認識させられるディスカッションとなった。
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