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尊厳をもって暮らせる日常へ。CALL4がとりくむ「裁判を通じて社会を変える試み」

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CALL4(コールフォー)代表、谷口太規氏。

「裁判をもっと身近に。それが合理的で科学的な判決を増やすことにつながる」と立ち上げられたCALL4。前編では、CALL4の概要を紹介した。後編は、代表の谷口氏がなぜCALL4を創設しようと思ったかを、もっと詳しくお伝えしよう。

着眼のきっかけとなった「ハンセン病訴訟」

谷口氏がCALL4の着想を得たのは、2015年に米国ミシガン州に留学した時のことだ。大学院で学位(ちなみにこれが法学のロースクールではなくて、ソーシャルワークだった、というところが谷口氏の弁護士としての姿勢を表しているように感じる)を取り、それから弁護士事務所で働いた。

「驚いたのが、裁判で使われる資料は全部ネットで手に入るし、裁判自体もストリーミングで、どこにいても全て見られるんですよ。訴訟は可視化されればされるほど、合理的な説明が必要になりますよね。だから、判決もより合理的なものになると思いました」

そのときに谷口氏が思い出したのが、司法修習生の時に研修でついた弁護士のことだった。その弁護士はハンセン病訴訟に関わっていた。

前編でもふれたように、ハンセン病は治療法が確立されたあとも隔離政策がとられていた。そのことによって、人間の尊厳がおかされたとして、元患者たちが国に謝罪と損害賠償を求めて訴訟を起こした。隔離を強いられたハンセン病の元患者には、日本の統治下にあった韓国や台湾の人もいた。彼らは日本のハンセン病補償法の対象外になっていたのが、それを争って勝ったのだった。

裁判に勝つと、人々の生活に変化が起きた。

「海外の療養所でしたが、私が最初に療養所を訪れた時、よく吠える、毛並みも汚れた飼い犬がいました。ところが、裁判の後半に再訪すると、犬が人懐っこく、きれいになっていた。裁判を通じて尊厳を回復していった人たちが、周囲にもその優しさを分け与えることで、まさにコミュニティ全体が変わったんです」

そんなふうに意義のある訴訟だったが、それを支える基盤がもろすぎた。

弁護士は韓国や台湾に通って患者と会い、訴訟を進めていったのだが、それにかかる費用は弁護士の持ち出しだった。

「本当に偉いな、聖人のような人だなと思ったんですが、一方でこれは持続可能じゃないという気持ちもあった。一部の人の犠牲に基づいて社会のゆがみを直すって、変じゃないかと」

谷口氏自身も、米国留学の前に過労で2度も倒れ、入院したことがあった。

「米国のシステムを見て、根性でがんばるよりも、システムを変えないとゲームチェンジャーになれないと感じたんです」

裁判のシステムを変えよう。といっても、いきなり法律を変えることは難しい。であれば自分のできることは何か……。それが「裁判支援のプラットフォーム」という発想につながっていく。

専門家や研究者もまきこめる場所に

今は情報公開とクラファンによる費用支援が主だが、ゆくゆくは学者のコミュニティも作りたいと思っている。裁判には専門知識がつきものだ。国や自治体という巨大組織の前に、個人ではなかなか太刀打ちできない。そこで様々な分野の専門家、研究者を集めて訴訟を起こした人たちの支援をしたいという。

「裁判の準備書面を、みんなで一緒に作れるようになったらいいと思っています」

すでにそういった動きが起きている。CALL4が支援しているケースの一つに、こんなものがある。

愛媛県西予市にある野村ダムが、2018年7月の西日本豪雨の際に緊急放流、流域の市街地は激流に飲み込まれ、5名が死亡した。この亡くなった人たちの遺族などが原告になり、国のダム管理のずさんさが事件を招いたとして訴訟を起こした。CALL4のウェブサイトに事例が紹介されているのだが、それを見て「自分はダムに関わっているが、貢献できる」とダム設計の専門家から連絡が届いたのだ。CALL4が訴訟支援のつながりの場になってきている。

「日本は、声を挙げることへの嫌悪感もあって、原告はバッシングされ、孤立してしまうこともあるんです。でも勇気を出してこういう声を挙げた人がいる、ということを見せれば、こうしたつながりも生まれる

尊厳を取り戻せる社会へ

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谷口氏が海外の療養所で目にした「尊厳の回復」も、すでにCALL4の支援の中で見た。

2021年3月に札幌地裁で判決のあった同性婚訴訟。CALL4の支援ケースの一つだ。同性同士の婚姻届を受理しないのは法の下の平等を定めた憲法14条に違反するという判断が下されて、注目を集めた。

「同性愛当事者の方が『自分たちが存在していいと言われた。こんなに嬉しいことはない』と、とても喜ばれていたんですね。そんなふうに、声なき人が声を獲得していく過程というか、社会に認知されて自己疎外していたアイデンティティが回復していく。公共訴訟にはそういう効果もあって、CALL4というシステムを提供することで、それを支援できる。公共訴訟の過程で、人々が自信をつけて、自分が思っていたよりもはるかに大きな力を発揮できるようになっていく。そういう場に立ち会えるのが本当に嬉しいです」

CALL4の認知度はどんどん高まっている。最近では、ほかにも飲食店グループ「グローバルダイニング」が東京都を相手取って起こした訴訟も支援している。新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づいて営業時間の短縮命令を受けたが、これは「営業の自由を保障した憲法に違反する」などとして東京都に賠償(ただし1円……つまり金額が目的ではないということだ)を求めたのだ。

クラファンでは1000万円を募集した。裁判にかかる実費や弁護士費用、裁判の立証のために政府や東京都のコロナ対策が効果があったのかの検証をする費用などに使うという。開始から1か月足らずで目標額の倍以上が集まっている。

CALL4という場で情報が公開され、人々がつながり、裁判をしやすくなれば、合理的な判決が増えるだけではない。きっと人々が自信をつけ、尊厳に満ち、社会はもっと生きやすくなるはず。ここには希望がある。

写真/神宮巨樹

CALL4https://www.call4.jp/

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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