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デザインやアートをすべての人の手に/アドビ 武井史織さん

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「社会貢献」と言えば聞こえはいいが、実際はきれいごとばかりではない。ニューヨークでの活動を通じ、さまざまな葛藤を経験してきた武井史織さん。現在はアドビのコミュニティーマネージャーとして、自己表現やチャレンジ、クリエイティブを実現する「場づくり」をしている。これまでのキャリアに加え、未来へのビジョンや希望を語ってもらった。

武井史織(たけい・しおり)
ソーシャルデザイナー & Adobe Creative Cloud コミュニティーマネージャー。『Create for Social Good(デザインやクリエイティブの力をもっとソーシャルグッドに)』をモットーに、「地域活性」「教育」「社会課題」など、各分野に存在する課題をデザインを軸に自分ごと化するソーシャルプログラム『Design Jimoto』を立ち上げ、各地域のクリエイティブコミュニティー・企業・行政・団体と連携し、産業や国を横断したさまざまな場づくりを手がける。また、世界130都市以上で開催する延べ30,000人のクリエイターが参加するコミュニティーイベント『Adobe Creative Jams』のアジア開催を主宰。内閣府地方創生推進事務局に「地域活性化伝道師(分野:地域コミュニティ・集落再生 / まちづくり)」として認定。

東日本大震災をきっかけにNYへ

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ハリケーンで被災した子どもたちに、コンサートとクリスマスのプレゼントを届けるファンドレイジングイベントの企画運営に参加した。

アメリカの大学を出て、デトロイトの自動車業界で少し働いた後、日本へ帰国して音楽や広告に関連する仕事をしていました。そんな中起きたのが2011年の東日本大震災。被災者の方たちに向けた支援活動をしながらも、「自分に何ができるのかわからない」「何にも貢献できていない」という感覚に襲われたんです。

デザインやクリエイティブとは問題解決のためのもので、自分はずっと関わっていたのに、それらをうまく活用できていないという状況に納得がいきませんでした。ただ消費されていくのではなく、社会に対して働きかけていくものとしてデザインやアートを学びたい。そう思って、ニューヨークへ渡ることにしました。

寝る間も惜しんでデザインやアートの勉強をする中、2012年にハリケーン・サンディがニューヨークを襲い、たくさんの人々が被災しました。被災者の生活に関わるサポートはすぐに提供されたものの、クリスマスのホリデーシーズンに、子どもたちの心のケアをする支援があまりなかった。そこで、子どもたちにおもちゃと音楽を届ける チャリティ活動を仲間と企画したんです。

おもちゃと音楽をプレゼント

小学校などを回り、ミニコンサートを開催し、子どもたちにおもちゃのホリデーギフトを届けた。

ただ、活動を通してさまざまなエリアに足を運ぶうち、自分の中で葛藤が生まれました。貧困層の多く住むエリアでは、他の子のプレゼントを盗む子どもたちがいる。それを、親が指示している場合もあります。また、富裕層の住むエリアでは「こんなものいらない」と言われることもありました。いいことをしているつもりなのに、役立っているという確証を持てなかったんですね。

そういった、きれいごとでは片づけられない側面も、見ないことにしたらそこで終わりです。迷いはありつつも、自分で選択をし続けていれば、新しい視点が得られるはず。当時は、「人を助ける」ボランティアとしてではなく、「自分でやりたいからやっている」と思うようにしていました。

もちろん、大半の人は喜んでくれるし、「人を助けたい」という気持ちの強い人とも関わることができる。ポジティブなエネルギーをたくさんもらって、新しい場づくりの喜びを覚えたことも確かです。

コミュニティーマネージャーとして新しい場づくりを

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ヨーロッパで開催された「Global Creative Conference THU」に登壇し、「社会課題 x デザイン」に関するDesign Jimotoの活動について発表した。

東京オリンピックが決まったタイミングで日本に戻った後も、社会課題を解決するための活動をしていきたいと思っていました。クリエイターのコミュニティーイベントに携わっていたのをきっかけに、アドビのグローバルチームから連絡をいただき、6年ほど前からコミュニティーマネージャーとして活動しています。

「Creativity for All(すべての人に『つくる力』を)」というミッションに向かって、私自身はDesign for Social Good(デザインやクリエイティブの力をもっとソーシャルグッドに)』をモットーとして活動しています。

活動のひとつめの軸は、自己表現できる場づくり。イベントなどを通して、参加者が表現したい気持ちをそのまま表現できるようなワークショップなどを開催しています。2つめは、新たなチャレンジができる場づくり。海外のクリエイターや組織と協力し、クリエーションに関する講義などを開催します。そして3つめは、クリエイティブを社会に生かす仕組みづくり「Design Jimoto」というプログラムを立ち上げ、地域が持つ課題にデザインで向き合う活動をしています。

プロジェクトで大事にしているのは、相手の立場に立って考えること。バックグラウンドの違う人たちと一緒に活動することが増えたこともあり、相手の文化や感覚に、常に心を配るようになりました。「自分が持っている感覚を相手も同じように持っている」という前提ではなく、「相手は自分と違っている」という前提でコミュニケーションを取るようにしています。

自分の信念を持っているのは素晴らしいことですが、それをどんどん壊してくれる人に出会えたら儲けもの。違う意見と向き合うには、自分の感覚をある程度否定しなくてはなりませんが、「こんな考え方もあるのか。私が思っているのとは違う」と気が付いたら、それこそが価値のあることなんだと思います。

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「Design Jimoto Conference 2020」では、海外で活躍中の日本人クリエイターと、社会問題をクリエーションの観点から考えた。

デザインやクリエイティブアートを民主化したい

新しい出会いからチームを作ることが多いので、プロジェクトは毎回チャレンジングです。たくさんの失敗を経験してわかったのは、企画段階でビジョンを明確に共有することの大切さ。「なぜ実施するのか」をメンバーで共有し、とにかく言霊のように繰り返し唱えて進めていきます。

また、私自身も「なぜ今ここに関わるのか」を常に自問しています。組織にとって利益があることはもちろんですが、「社会的に意味があるか」「未来にプラスを生むか」と、自分のハートに必ず聞きます。感性の部分でも納得していないと、自分というものが機能しない、という感覚があるんですね。

これからの未来は、誰もが持っているクリエイティビティを問題解決に活用できる社会にしていきたい。特権階級の人だけのものになりがちなデザインやクリエイティブアートを、民主化する活動を続けていきたいです。

私自身のクリエイティブ活動としては、プライベートの時間を使って世界中の仲間と一緒に絵本を作っています。実は今、妊娠9か月(※インタビュー時)。児童文学作家・石井桃子さんの「おとなになってから 老人になってから あなたを支えてくれるのは子ども時代の『あなた』です」という言葉に出会い、自分も幼少時に読んだ絵本にずっと支えられてきたと思い至りました。お腹の中の子はもちろん、次の世代の子どもたちに「この世は生きているだけで楽しい」と思ってもらえるような絵本にしたいです。

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「UX Leader Summit」にてAdobeグローバルチームのメンバーと。

写真/本人提供

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栃尾江美
外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net

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