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シングルマザーたちに身体と心のケアを届ける/シングルマザーズシスターフッド 吉岡マコ

ひとりで子どもを育てる。いわゆるひとり親の87%が女性、つまりシングルマザーだ。シングルマザーの数は以前よりは増えているとはいえ、まだまだ社会的にはマイノリティ。仕事をし、子どもを育て、慌ただしい日々の中でどうしても自分のことは後回し……。そしてなかなか相談できる人もいなかったりする。

そんなシングルマザーたちのために、オンラインを利用して身体を動かし、対話を通じて心身の健康を取り戻していこうというNPO「シングルマザーズシスターフッド」が誕生した。

平日早朝、金曜夜、土曜朝……。

「おはようございまーーーす!」
オンラインの画面越しにインストラクターを務める吉岡マコ氏の笑顔が弾ける。

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画面越しに、参加者に明るい笑顔を向ける吉岡マコ氏(右上)。

忙しい日常で、がちがちにこりかたまった身体をストレッチでほぐし、それからふたりずつのグループに分かれて5分の会話を二回。60分のプログラムを終えて最後にみんなで記念写真を撮影する頃には、最初はぎこちなく緊張ぎみだった参加メンバーの表情もゆるんでいる。ついつい優先順位が低くなる身体と心のセルフケア。参加費は全て無料だ。

同NPOのファウンダー、吉岡マコ氏は20年以上にわたって産前産後の身体と心のケアをするNPO「マドレボニータ」のファウンダー兼代表理事として活動してきた。累計の参加者は7万人にのぼる。「産後ケア」と言う言葉を日本で定着させた第一人者だ

吉岡氏は2020年3月、シングルマザーに特化したこのプログラムをマドレボニータの活動の一つとして始めた。もともとマドレボニータでは、ひとり親や障害児を持つ親、小さく産まれた子の親、双子や三つ子といった多胎児の親など、より支援が必要な親たちには受講料を無料にしていた。ところが、ひとり親の応募は1割程度だった。

「マドレボニータのプログラムにも対話の時間があるんですが、他の参加者が当たり前のようにパートナーの話をするのをきいて、余計に落ち込んでしまう人もいたりして。なかなかシングルマザーの利用者が増えなくて限界を感じていたんです」

コロナ禍のシングルマザーたちに無料プログラムを

吉岡氏自身、シングルマザーとして子育てをしたから、当事者として彼女たちの気持ちはよくわかる。そこにコロナが起きた。マドレが実施していたリアルの教室は閉じることになった。

「ちょうどシングルマザーに限定した寄付金を受けていたので、このパンデミックで、より困難な状況にある彼女たちに向けてプログラムを開発して始めました。オンラインで1回1時間、参加費は無料にしました」

シングルマザーを支援するNPO「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のメルマガで告知してもらったところ、一週間で100件の応募があった。もともと5月までの期間限定のつもりだったが、別の助成金や寄付を募って12月まで続けた。オンラインということで参加者は29都道府県、のべ1216人にのぼった。

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プログラム終了後の記念撮影では、参加者たちもリラックスした表情に。

その頃吉岡氏はマドレボニータを次の世代にバトンタッチすることを考えていた。

「私は子どもが成人して、もはや子育ての当事者じゃなくなった。今子育てをしている世代に渡したいと思ったんです」。

次に何をしようかと思案していたタイミングだったのだ。シングルマザーの心身の健康に特化したこの活動に手応えを感じ、団体を設立して専念することを決めた。12月でマドレボニータをやめ、新しいNPOは4月に認証されたばかりだ。

励まし合い、つらさをわかちあい、連帯が生まれる

参加者にはたとえばどんな人がいるのだろう。 地方にある人口3万人の小さな町に住む30代のシングルマザーは、この活動に参加する1年ほど前に夫のDVから逃れて幼い子ども二人をつれ、着の身着のままで実家に戻った。離婚はまだ成立していないという。

「彼女は最初、自分の可能性が閉ざされてしまったと落ち込んでいました。自信を失って自己肯定感が低くなっていたんですね」

ところが、身体を動かして人と話し、心身の健康を回復してくると表情や行動が目に見えて変わってきたという。

「次への一歩を踏み出すエネルギーが湧いてきます。彼女はもともと専門性の高い職業についていたのですが、出産でお休みしていました。そして、数ヶ月前に「開業届を出しました」と報告してくれたんです。そういう彼女の姿を見て、さらに『自分も』という人が出たり。つながることで力を得るんです

そんなふうに「人が変わったように生き生きする」例はたくさんある。 職場で多大なるストレスを抱えながら働いていた40代のシングルマザー。息子も不登校だった。最初、プログラムに興味はあったものの、「知らない人と話すのは緊張する」と参加を躊躇していたのだという。

「でも、勇気を出して参加してみたら、彼女は日本中に友達ができた、ととても喜んでくれて『プログラムに参加する金曜夜の、ここが居場所』って言ってくれるようになったんです。何度も参加して他の人たちとたわいのないことを話したり、下の名前で自分を呼んでもらったりとか、そんなことで精神的に安定していった。プログラムの最後に撮る写真を見て『あ、私笑ってる』って。息子さんとも食卓で笑顔で会話できるようになったそうです。」

団体の名前である「シングルマザーズシスターフッド」だが、

「長いですよね(笑)。でも、意味があるんです。彼女たちは一歩外に出ればマイノリティです。でもこの場ではみんな同じ。安心できます。励まし合って、つらさをわかちあって、連帯が生まれていくのを目の当たりにしました

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シングルマザーズシスターフッドのHPより。

そうやって参加者は力を得て前に踏み出していく。

人は一人ひとり、力を持っていますでも何かのきっかけでそれが発揮できなくなってしまう。そこに支援の手をさしのべて、それをつかめば、本来の力を発揮できるようになる。世間にはまだ残念なことに差別や偏見もあるけれど、それに負けないようになる。表情が変わり、歩き出すんです。それが本当に嬉しい」

NPOとして今後はこれまでの活動を継続するとともに、セルフケア講座の講師も養成していくのだという。

「私一人じゃなくて、システムとして社会を変えるためには、専門性を共有し実行できる仲間と後継者が必要です。次の世代を育てていくことは常に意識しています

吉岡氏の新たなチャレンジ、彼女自身の表情も生き生きと輝いている。


シングルマザーズシスターフッドはプログラムへの参加者や寄付を募集している。母の日にあわせて、キャンペーンも実施中だ。

シングルマザーズシスターフッド

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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