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MASHING UP SUMMIT 2021

SDGsへの早道はチャリティではなくビジネス。ジャック・シム氏が始めたイノベーション

ジャック・シム

誰もが労働に対し十分な対価を得られ、豊かな生活が送れるような社会は、どうしたら作れるのか。

2021年3月18・19日にMASHING UP SUMMIT 2021がオンラインで開催された。今回のイベントのテーマは「SDGs達成のためのイノベーション」。キーノートスピーチは、貧困をなくすためのビジネスを支援する、シンガポールの社会起業家ジャック・シム氏が行った。

「ミスター・トイレ」として知られる社会起業家

シム氏は建設資材の製造・販売や不動産など、いくつものビジネスを成功させ経済的自立を果たし、40歳の時に「人生の残り時間を有効に使いたい」と、社会課題解決のために働くことを決意する。

まず始めたのが、世界中にトイレを普及させる活動だ。水質汚染や、感染症、女性への性暴力など、トイレがないために生まれる問題は数多い。これを解決するため、2001年にWTO(World Toilet Organization)を設立。2013年には国連で「世界トイレの日」が制定されるなど大きなムーブメントとなり、シム氏はTIME誌など各国メディアから「ミスター・トイレ」として注目される 。

シム氏はさらに活動の幅を広げ、貧困問題の解決に向けたビジネスをサポートする「BoPハブhttps://bophub.org/」を立ち上げた。BoPとはBase of the Pyramidの略で、世界の経済ピラミッドの最下層に置かれている40億人もの人々を指す。1日の収入が10ドル未満のこれらの人々がもっと稼げる仕組みを作るために、起業家、研究機関、NPOなどを繋いだり、事業支援を行っている。

世界人口の半数は正規市場の外にいる

ジャック・シム

ジャック・シム氏は、シンガポールからリモートでメッセージを送ってくれた。

貧困問題を解決するための方法について、シム氏は次のように語っている。

「世界人口78億人のうち、正規の市場経済に組み込まれているのは半数に過ぎません。私たちが食べる米や小麦、コーヒー豆などを作っている人たちや漁師たちは、わずかな収入しか得られず、貧困生活を強いられています。
生産者たちは大きなマージンを取られています。けれども、最新テクノロジーは直接販売を可能にしました。加工手段を持っていれば、さらに有利です。コーヒー豆を挽いて粉にしたり、唐辛子をチリソースに製品化できれば、利益を増やせる。生活に余裕ができ、購買力が上がります」(シム氏)

対等な取引を増やせば、世界の中間層の厚みが増す。40億人もの新たな消費者を、正規市場に呼び込めるとシム氏は指摘する。

人口減少で縮む先進国のマーケット

日本を含む多くの先進国では少子高齢化が進んでおり、このままではマーケットが縮んでいくばかりだ。製品やサービスを買ってくれる新たな顧客を得るためにも、正規経済の外にいる人々を取り込む必要がある。

貧困層にはあらゆるものが不足している。まずは、きれいな飲み水やオフグリッドでの発電を可能にする太陽光パネルなどの生活必需品を行き渡らせる必要がある。そして効率的に稼げるようにし、日々生きていくのがやっとという生活から、未来への夢を描ける余裕を持てるようにしていかなければならない。

「電動ポンプを使った灌漑農法で収穫量を増やし、それによって得られたお金で子供を通わせることができます。家族のためにもっと広い家を建てたり、老いた両親の医療も充実できる。ビジネスによって生活の質が上がり、より平等な社会を作ることができます」(シム氏 )

SDGs達成の早道はチャリティではなくビジネス

BoPハブ

ジャック・シム氏が立ち上げた貧困問題の解決に向けたビジネスをサポートする「BoPハブ」のサイト。

「SDGs達成の早道はチャリティではなくビジネス」。効率的な市場こそが貧困問題を解決するとシム氏は強調する。

「私は1957年生まれですが、子供の頃シンガポールは貧しい国で、一人当たりのGDPは米ドル換算でたった500ドルでした。でも、1965年に国が独立した時、首相は外国から援助を受けず、代わりに積極的に投資を呼び込みました。起業家精神や勤労意欲を刺激すれば、貧困を抜け出せると考えたからです。
寄付だけに頼っていたら、意欲は育ちません。中国もビジネスを強化することで30年で7億人を貧困から脱却させました。これほど短期間にこれだけの人数を貧困から脱却させたのは人類史上でも初めてだと言えるでしょう」(シム氏)

女性のバイタリティが社会を変える

人々のやる気を引き出し、ビジネスを後押することで、市場経済を活性化させる「マーケット・モデル」の重要性を説くシム氏は、女性が持つ潜在力にも触れた。

貧困地域には、起業家としての才覚がある女性が大勢います。その多くは家族を支え、子供を食べさせ、学校にやる必要がある母親たちです。私たちはこうした起業家たちに融資をしたり、Eコマースを通じて直接販売ができるように支援を行っています。中間業者をなくせば、生産者の収入が上がり、消費者はより安く買える。双方にとってメリットがあります」(シム氏)

社会起業家同士の協働を促したい

jacksim

最近、シム氏は私費を投じて貧困撲滅のための拠点をシンガポールに立てたという。SDGセンターと名付けられた約6千平米のビルには、国内外から起業家が集まるコワーキングスペースや、スキル習得のための研修や研究会が行われるイベントスペースがある。

「社会起業家同士の交流や協働を促し、無駄な縄張り意識や競争を無くしたいと考えています。優先すべきは、他社に勝つことではありません。新たに市場に加わる40億人のニーズに的確に応えられれば、利益を得ることが可能ですから」(シム氏)

良い製品やサービスを作れるよう後押しすれば、貧困層も購買力を持つ中間層に育つ。こうしたビジョンを描くシム氏は、貧困層との協働やSDGs達成を可能にするビジネスをサポートしたいと参加者に呼びかけた。

「アイデアをお持ちの方はぜひメールをください。浄水、ソーラー発電、医療、交通、物流、フィンテック、アグリテック、ヘルステックなど、領域を問わず支援を検討します。
社会課題を解決しながら利益を出し、持続可能なビジネスは作れます。境界を超えて、人々の力や技術、アイデアや資金をマッシュアップしていきましょう。そうすれば、きっと良い結果が生まれます。格差と争いを減らし、皆が豊かと幸せを感じられる、平和な社会を一緒に築きましょう」(シム氏)

世界の人々と私たちの日常は分かち難くつながっている。皆がアクションを起こし既存のシステムを変えていけば、少しずつ貧困をなくしていける。柔らかい語り口のスピーチからはそんな力強いメッセージが伝わってきた。


シム氏とその活動については、2019年に出版された著書『トイレは世界を救う:ミスター・トイレが語る貧困と世界ウンコ情勢』(PHP新書)に詳しい。貧しく落第ばかりしていた少年時代に人間観察から学んだこと。連続起業家として成功をおさめるも、90年代末の不況で打撃を受け人生を見つめ直したこと。社会貢献に関わるようになってからの快進撃。ユーモラスに語られるライフストーリーにビジネスのコツが散りばめられている。逆境のとき、順調なとき、それぞれの気の持ちようなど、学ぶことが多い。

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野澤朋代
フォトグラファー、翻訳者、ライター。趣味は散歩と語学学習。

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