©ビービット「L&UX2021」
オンラインとオフラインが繋がり、ますます便利になる世の中では「プロダクトやサービス単体」よりも、そこから得られる体験すべてを網羅する「ユーザーエクスペリエンス(UX)」に価値の主軸が移ってきている。そうしたなか、企業はどう変わっていくべきか。
「UX×テックの社会実装」をテーマに掲げたオンラインフェス「L&UX2021(Liberty&UX Intelligence)」が2021年5月17日から28日にかけて開催された。昨今進む、小売業や飲食業などを営むスモールビジネスのデジタル化。それらを支援するプラットフォームに焦点を当てたセッションをレポートする。
中小企業にも迫るDXの波
デジタル化による利便性や、迅速性が「当たり前」になったいま、大企業だけでなく、中小企業や個人事業主もデジタルトランスフォーメーション(DX)を迫られている。だが、資金やマンパワーが潤沢でない事業者にとって、これは容易ではない。そんなスモールビジネスの強い味方となるのが、デジタル対応を支援するサービスだ。
セッションで議論を交わしたのは、こうしたサービスの設計者たち。日本からは、ECサイト構築やネット予約、電子決済を支援する「STORES」を運営するheyのCPO塚原文奈氏が登壇。インドネシアからは、GojekでデザインとUXを統括するアビニット・ティワリ(Abhinit Tiwari)氏が登壇した。Gojekは配車、フードデリバリー、買物代行、マッサージ師やネイリスト手配、決済などのサービスを東南アジアで広く展開し、生活インフラともいえるスーパーアプリだ。
モデレーターを務めたのは「L&UX2021」を主催するビービット(beBit)執行役員CCO / 東アジア営業責任者の藤井保文氏。著書の『アフターデジタル』 (日経BP) シリーズは、人々の行動がデータ化され「すべてがオンラインになる」世界を描き、大きな反響を呼んでいる。
顧客をリスペクトし、ニーズを理解する
hey CPO 塚原文奈氏
©ビービット「L&UX2021」
スモールビジネスとエンドユーザーを繋げ、社会をより良くしていくために、両社はそれぞれ何を一番重視しているのだろうか。
「Just for Fun」というミッションを掲げるheyは、楽しさやこだわりを突き詰め、それを経済活動にしている事業主へのリスペクトがサービスの根幹にあると塚原氏はいう。
Gojekのティワリ氏が挙げたのが「カスタマーをハッピーにする」こと。まだ誰も解決していない、カスタマーの問題を解決する。もしくは、既存のどのソリューションよりもシンプルな方法で、それを解決する。そのためには、カスタマーと直接話をしながら、問題が生じた背景や経緯を理解することからスタートする。
この点に関し、企業向けにUX のコンサルティングを行っている藤井氏は、「特に大企業では社内の稟議を通すため、ビジネスモデルを先に出してほしいというケースが多い」と指摘した。新しいビジネスを立ち上げる時に「ユーザーインサイト」と「ビジネスモデル」のどちらから始めるべきなのだろうか?
「カスタマーにとって良いことは、ビジネスにとっても良い」と考えるGojekは、「ユーザーインサイト」から入るという。
「暮らしの中の問題を特定し、ソリューションを提供することで価値が生まれます。その付加価値に対してカスタマーはお金を払うわけです。ビジネスモデルから入るのは、時にトラブルの元になると考えています。例えば、長期的に見てプロダクトをより複雑化してしまったり、カスタマーのプライバシーを侵害することもあり得ます」(ティワリ氏)
機能を増やしながら、いかにシンプルさを保つか
GojekでデザインとUXを統括するアビニット・ティワリ(Abhinit Tiwari )氏
©ビービット「L&UX2021」
プロダクトの複雑化という話が出たが、「使いやすさ」と「機能性」のバランスは難しいポイントだ。
「それこそ、デザイナーの腕の見せ所だなと思っているのですが、ITリテラシーが高い方々ばかりではなく、様々な考えや職種の方が使ってくださるので、できる限り『わかりやすい』『迷わない』というポイントを元にデザインすることが多いです。基本的にはシンプルに。機能を拡充する時には『必要な人にしか見せない』ようにし、バランスとりながらやっています」(塚原氏)
ティワリ氏も同意する。
「できるだけたくさんの人の役に立つことを優先していますが、ある程度の複雑さは必要ですよね。カスタマーは時間をかけて動作を学ぶことができます。しかし、その学ぶ努力が、時間をかける価値のあるものでなければいけません」(ティワリ氏)
ユーザーがアプリを使いこなせるようにするため、Gojekが大切にしているのが「一貫性」だ。例えば、大概のユーザーはAndroidやiOSを介して決まった動作を学んでいるので、そこは踏襲し、完全に新しいことはしない、つまり「アーティストにならないように」気をつける。
また、サービス間での一貫性も心掛けている。配車やフードデリバリーサービスの間で「現在地と目的地」や「食べ物をピックアップする場所と配達する場所」の指定方法を揃えるというように。
会社の規模と意思統一
ビービット(beBit)執行役員CCO / 東アジア営業責任者 藤井保文氏
©ビービット「L&UX2021」
自社のサービスで「これはやらない」と決めていることはあるのだろうか? また、それを決める時に社内で意思統一はどうしているのか?
heyでは顧客の信頼を毀損するような行動や表現はしないという。月額利用料の値上げなどセンシティブな課題に関しては、「なぜするのか」「どれぐらいするのか」「お客さんはどう思うのか」ということに関してまず社内できちんと説明し、顧客に対してはプラスの機能とセットにして出すことを重視している。
ティワリ氏は「ユーザーの暮らしからフリクション(摩擦)を取り除く」というGojekのミッションに立ち返ることで、やるべきでないことは見えてくるという。ミッションについての継続的な説明や議論をしていく上で重要なのが、リーダーシップや評価の仕組みだ。社員が大きな付加価値を生み出した時は、それを認める。逆にミッションから外れてしまった場合は、事例を共有し失敗から学ぶ。会社の設立当初は勢いで何でもやってきたが、年月が経つうちにそうもいかなくなった。
「150〜200人を超えると一人のリーダーだけでは企業文化の整合性を保つことが難しくなります。全員と人間関係を築くのは無理ですから。プロセスを確立し、自律的なチームを立ち上げ、各チームに説明責任があり、企業文化推進の基礎を担うリーダーを置くことが重要になります」(ティワリ氏)
変化の激しい時代に潮流をどう捉えるか
©ビービット「L&UX2021」
激しく世の中が変化し競合も多いなかで、潮目の変化をどう掴み、それをどう社内で共有しているのだろうか。
「まずはオーナーさんから学ぶ姿勢を大事にしてます。老舗のお菓子屋さんもあれば、20代前半でブランドを立ち上げて 『D2C』と脚光を浴びる方々もいらっしゃるので。最先端の人達が興味を持ってることを学んだり、100年も続くお客さんに実際にお商売の形を見せてもらったりしています」(塚原氏)
Gojekには、継続的にカスタマーと会話し、そこから得られたインサイトに学べる仕組みをつくっているUXリサーチ・チームがあるという。長年のリサーチ結果が蓄積されているので、「なぜこの機能が生まれたのか」「なぜこういうデザインになったのか」など、過去の経緯や社員の考えを参照できる。
「Gojekがこういうことをたくさん行ってきたのは、多文化企業だからかもしれません。私自身がジャカルタに住むインド人で、インドネシアのカスタマーのために設計をしています。他にもシンガポール、タイ、ベトナムにカスタマーがいます。何もかも自分で把握するのは無理なので、全社的に利用できる、しっかりしたリサーチプログラムが必要なのです」(ティワリ氏)
物事の方向性を見極めるにあたり、2つの側面があるとティワリ氏はいう。ひとつは人で、「将来、何が求められるようになるのか」ということ。もうひとつはテクノロジーだ。「ARやVRが登場する」「いまは暗号通貨やNFTだ」など、技術の潮流を予測するほうが人の関心を読むよりはるかに簡単だが、どちらのリサーチも欠かさないようにしているという。
人々の生活を便利にし、ビジネスを支援するプラットフォーム。その設計に携わるリーダーたちの話からは、利用者が求めていることを真剣に考え、時代とともに成長する企業の姿が浮かび上がってきた。
[ L&UX2021 ]
このトピックと関わりのあるSDGsゴールは?

イベント
おすすめ
JOIN US
MASHING UP会員になると
Mail Magazine
新着記事をお届けするほか、
会員限定のイベント割引チケットのご案内も。
Well-being Forum
DE&I、ESGの動向をキャッチアップできるオリジナル動画コンテンツ、
オンラインサロン・セミナーなど、様々な学びの場を提供します。