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- 前例は要らない。「想像力」がESG時代を生き抜くためのカギとなる
2030年までにSDGsを達成するにあたり、ここ数年で急速に浸透しているのがESG投資だ。ESG投資とは、環境・社会・ガバナンスの3つの観点を含めた投資活動を指すが、日本はこの分野においても欧米先進国に遅れをとっている。これから挽回するためのカギは、どこあるのだろうか?
2021年3月18日・19日に開催されたMASHING UP SUMMIT 2021では、「ESG投資の今とこれから。ビジネスはどう変わる?」と題し、ESG統合指標化を推進する九州大学主幹教授 馬奈木俊介さん、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーをおこなうニューラルCEO 夫馬賢治さん、そしてシンクタンク・ソフィアバンク代表 藤沢久美さんが、日本企業がSDGsで世界をリードするための戦略を語った。
世界最大の資産運用会社も強化を表明。ESG投資の現在地
シンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美さん(左)、ニューラルCEO夫馬賢治さん(中央)、九州大学主幹教授 馬奈木俊介さん(右)
2020年1月、世界最大の資産運用会社ブラックロックが、ESG軸の運用強化を投資先企業に向けて発表。投資資産の大規模な入れ替えを伴うこともあり、企業や投資家の間には動揺が広まった。
一方、日本では未だESG投資において、出遅れ感が否めない。冒頭ではESG投資の歴史と現状について、夫馬さんが概説。
SDGs達成のためには、企業の現状をE(環境)S(社会)G(ガバナンス)の3つの観点から把握し、改善すべき点を洗い出す必要がある。各業種で重視される項目は異なるが、基本的には、企業が公開している情報・報道内容・NGOの統計データなどに基づき、ESGの3つの基準で定量評価される。この評価に基づいて投資先を決めるのが、ESG投資だ。
「ここ15年ほどの間に大きな波が来て、オールド資本主義からニュー資本主義への移行が加速している。環境問題・社会問題が企業に与える悪影響が増えているのが理由。先日トヨタの社長も、“脱炭素が実現しないと、日本の雇用が最大100万人減る”と発表した。カーボンニュートラルを意識しなければ、日本で雇用も生まれない上に、モノづくりもできなくなる」(夫馬さん)
「ESGという視点は良い企業を選別する基準になる。さらにその概念の根底にあるのが、サステナビリティということですね」と、藤沢さん。
重要なのは、受け身をやめて自ら旗を揚げること
世界中の専門家からなる組織を作ることができれば、日本の目線でSDGsとESGに取り組むことができるだろう、と馬奈木さん。
ここでESG投資の歴史を振り返る。ESG投資の概念は2006年に生まれ、現在まで右肩上がりに成長し続けてきた。JPモルガンやブラックロック、KKRなど海外の機関投資家は初期の2006~2008年頃から参入、海外ではESG投資を模索していく動きが始まっていた。
日本では、2017年〜2018年頃に本格的な波が来た。実に約12年間もの差を、これからどのように埋めていけばいいのだろうか。
SDGs・ESG投資について先進的な研究と産学連携プロジェクトの立ち上げなどをおこなう馬奈木さんは、もっと日本発での取り組みを増やすべきだと指摘する。そして、日本の少子高齢化と社会保障費の増大を解決する具体的な取り組みとして、医学住宅の例を挙げた。住宅に最先端の医療・AI技術が実装されているもので、既に商標登録もされているものだ。
医学住宅には、たとえば心筋梗塞・脳梗塞・心停止兆候を重症化させず事前に救うAI機能や、転倒事故を防止するAIカメラモニタリングシステム、排泄物から疾患をモニタリングするトイレシステムなどが搭載されている。
医学住宅が社会全体に普及することにより、社会課題の解決と経済成長の両方を見込めると馬奈木さん。
「このようなサービスは、海外にもまだありません。日本の特徴は、地域と産業界と研究者の距離が、諸外国に比べて近いということ。こういった日本独自の取組みは、今後増えると考えています」(馬奈木さん)
藤沢さんも、「これまで機関投資家は短期的な収益を重視してきたが、ESGに関しては長期的な目線で問いをなげかけている。これは企業にとっても長期的なビジネスができるチャンス」とうなずく。
日本の課題は、想像力の欠如
「内輪でやると、身内しか集まらない。しかし対外的に取り組みをアピールすることで、関係する各業界の組織を取り込むことができる」と、夫馬さん。専門家だけでなく、多様な業種・立場の人材が集まることが、日本でESGを盛り上げるカギのようだ。
馬奈木さんの解説を受けて、夫馬さんは日本人が抱える問題点に言及した。
「例えば『医学住宅のような画期的なサービスにより、投資リターンを伸ばせそうだ』と思う感覚が、日本の場合はまだ薄い。従来と異なるビジネスモデルへの想像力が欠けているが故に、日本では大きく産業転換をしたり、新しいものを取り入れたりすることについて、億劫になる傾向がある」(夫馬さん)
「自社のミッションやビジョンを旗に、社会課題の解決をスタートさせる。そうすれば、同じ志を持つ企業や団体を巻き込んで進めていけるはず」とモデレーターの藤沢さんからも希望を持てるメッセージが発せられた。
“右に倣え”の精神から、どうしても抜け出せずにいる日本。日本が国際的に主導権を握り、リードするための戦略とは。藤沢さんが「これまで日本はあらゆるシーンにおいて、海外で指標や事例ができてから動き出すことが多かった。今後日本企業はどうESG経営と向き合えば良いのでしょう?」 と問いかけると、馬奈木さんは、率先して提案していくこと、仕組みづくりを担うことが重要だと強調した。
「企業によるESGの取組みの量と質を、ISO(国際標準化機構)のように認証する、国際的なESG推進機構を作る構想を進めている。そのためには、項目ごとの専門家によるジャッジが必要。日本でいち早く推進できれば結果的に日本企業にとってプラスになるし、グローバルにインパクトを与えることも」(馬奈木さん)
藤沢さんが「キーワードは、“旗を揚げること”、“デジタル化すること”、“企業規模は関係なく早い者勝ち”ということですね」とまとめると、馬奈木さんが「あと一つは、“統合”」と補足した。
日本が秘める可能性と具体的にとるべきアクションが語られた、希望に満ちたセッションだった。
MASHING UP SUMMIT 2021
「ESG投資の今とこれから。ビジネスはどう変わる?」
馬奈木俊介(九州大学主幹教授)、夫馬賢治(株式会社ニューラルCEO)、藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク代表)
撮影/中山実華
このトピックとかかわりのあるSDGsゴールは?

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