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いつもよそ者扱いされてきた。モデル・国木田彩良さんが新たな居場所で起こす波とは

国木田彩良氏

名だたるグランメゾンやファッション誌から出演のオファーが絶えない27歳のモデル、国木田彩良さん。イタリア人と日本人のハーフとしてロンドンで生まれ、高祖父に明治時代に活躍した文豪・国木田独歩を持つ。2014年に、20歳まで暮らしたパリから日本へ拠点を移して活動を続けている。

生い立ち、語学力、そして美貌……と何拍子も揃った国木田さんだが、「実はさまざまなコンプレックスを抱えて生きてきた」そうだ。

アイデンティティを自問するなかで、「ずっと日本に憧れていた」という彼女が、日本で得た自分の“居場所”とは。そしてコスモポリタンだからこそ見える日本の良さと課題について話を聞いた。

国木田彩良(くにきだ・さいら)
1994年ロンドン生まれ、パリ育ち、イタリア人の父と日本人の母を持つ。明治時代に小説家・ジャーナリストとして活躍した国木田独歩の玄孫でもある。2014年拠点を日本に移し、翌年モデルデビュー。2018年には谷崎潤一郎の随筆『陰影礼讃』を原案とした映画「IN-EI RAISAN」で主演を務めるなど女優としても活動。起業家としての顔も持ち、2021年1月にクリエイティブエージェンシー「Nami creatives」を立ち上げ、日本とヨーロッパの架け橋を目指す。

「いつか必ず日本人であることを誇りに思えるときがくる」。母の言葉を信じて

国木田彩良氏

「いつも自分の居場所を探していた──」

インタビューの第一声は意外なものだった。1歳のときから約20年、パリに暮らすなかでいつも感じていたのは「自分は何者なのだろう」という思い。

「パリで通っていたのはカトリック系のプライベートスクール。まわりはみんなフランス人で、ブルジョアと呼ばれる由緒ある家柄の子どもも多く、差別もありました。アジア人とからかわれるだけならまだしも、『お米』って呼ばれたり(笑)。子どもは正直だから、言葉はときに残酷ですよね。6歳の入学時から高校生になるまで、学校ではひとりで過ごすことが多かったですね

外見からして、100%日本人として見られることはない。かといってどんなに文化になじもうとも、どんなに言葉が堪能であろうとも、フランス人であるわけでもない。よそ者扱いされていることは幼心にもわかっていた。自分のなかに日本人の血が入っていることに、後ろめたさすら感じていた時期もあったという。

そんななか、支えとなったのが「今はつらいかもしれないけど、時間が経てば日本人に生まれたことを誇りに思えるときが来る」という母の言葉。母の国木田吾子(あこ)さんは日本で女優として活動したのち、渡英。現在はパリとルクセンブルクに暮らしている。

憧れの日本へ。カルチャーショックに戸惑いながらも得たものは

国木田彩良氏

国木田さんが来日したのは2014年。はじめはビザの都合で3か月の滞在となったが、そのときに「ここが私の居場所だ」と感じたという。

それまではどこの国にいてもゲストでしたけど、日本では『I’m home.』と思えたんです。ここで暮らしたい、暮らさなければいけない、と感じました」

翌年の2015年からモデルとしての活動を開始。まわりにはいつも大勢の人がいたが、日本語ができなかったため、孤独を感じることが多かったという。また、日本では「ハーフモデル」などとハーフであることが先に立ったり、「国木田」の名前が偉大なものに扱われたりして、戸惑うこともあったとか。

日本で暮らすにあたり、母親からアドバイスされたことは、「日本では空気を読めなければ暮らせない」ということ。

「今では母の言葉の意味がよくわかります。たとえば、日本には『いいえ』がありません。『なるほど』と言われたからOKなのかと思ったら、それはNOであることもある。相手の表情や声色を汲み取って、人の気持ちをおもんばかる繊細さが日本人にはあります。日本人は感情を表に出さず寡黙で辛抱強いなどと言われますが、とてもエモーショナルな国民性ですよね。言葉ではなく、エネルギーで語るという表現がピッタリかもしれません

海外で暮らしていたころは「自分のことしか考えていなかったし、逆にそうでなければ生きていけなかった」と国木田さん。日本で身についたのは、人のことを考え、人にやさしくすること。自分だけがよければいいというのではなく、みんなで進むということのあたたかさ

「『いつか日本人に生まれてよかったと思えるときが来るから』という母の言葉通り、今では海外で自分を『ハーフジャパニーズ』と言えることをすごく誇りに感じています。日本人は海外にコンプレックスを持っている人が多いようですが、外国人の日本への憧れはものすごいものがありますよ」

ビジネスシーンで垣間見た日本のジェンダーギャップ

国木田彩良氏

日本で活動をはじめて7年。2021年1月には、クリエイティブエージェンシー「Nami creatives」を立ち上げた。

おもにアートを通じて、日本とヨーロッパをつなぐ架け橋になりたいという思いをかたちにしたもので、自分のなかでひとつのムーブメント「ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)」であること、そして葛飾北斎が描くダイナミックな波の浮世絵は、海外では日本を象徴するものとして知られており、外国人でも発音しやすいことから、社名を「Nami」とした。

「構想はずっと前からあったのですが、モデルの仕事が忙しく、なかなか進められなかったんです。コロナ禍でゆっくりと考える時間ができ、自分は何をやりたいのか、思いをあたためて起業しました。アートのマーケットは独特なので、ルートを作って海外と日本をつないだり、ヨーロッパのアーティストと日本人の職人をコラボレーションさせたりして、私なりの“波”を起こしてみたいですね」

しかし、日本でのビジネスシーンでは戸惑いを覚えることもあるという。

「OECDのジェンダー白書に結びつけるわけではありませんが、日本社会の男女格差の一端を垣間見たような気がしました。日本のコンサバティブなカルチャーはとても素晴らしいと思います。しかし、世界では女性がリーダーシップをとって活躍する時代。それについていけなければ、経済的にも社会的にも日本は遅れてしまう。コンサバティブの良さは守りながら、アップグレードしていくべきだと思います」

アイデンティティは自分でいかようにも作ることができる

国木田彩良氏

ジェンダーギャップだけでなく、ダイバーシティ後進国としても知られる日本。社会や企業がダイバーシティを推し進めようとするなかで、私たち個人にもできることはあるのだろうか。

「私はもっとできるのに、女性はもっとできるのに……。そう主張したところで何も変わりません。社会はもちろん、人の考え方をすぐに変えることは難しいので、そのなかでも自分にできることを少しずつでも続けて、それを見せていくしかない。変われるのは自分だけですから、人に期待しないことです」

ここ数年で、ようやくダイバーシティが声高に叫ばれるようになった日本に比べると、国木田さんが育ったヨーロッパはダイバーシティが基本。人種、民族、職業の違い、LGBTといったさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まるため、「ダイバーシティかどうかなんて、ノーチョイス」と国木田さん。

しかしそのなかでも差別はあり、居場所と思った日本でも“ハーフ扱い”をされてしまうことは仕方がない。国木田さんはそれを「リアリティ」と受け入れてきた。

私はいつでもどこでもアウトサイダーですから(笑)。人の目は関係ないと自分に言い聞かせることが、私の処世術だったかもしれません。それに、大人になったらアイデンティティは自分でいかようにも作っていくことができます。経験と気持ちのありようで自分らしい自分になれるし、経験を重ねることで、アイデンティティの幹は強い風に吹かれても動じないような太いものになっていくはず」

何を成功とするか。「自分が気持ちいい」という感覚を大切に

国木田彩良氏

人の目を気にすることなく、起きていることを事象として受けとめ、アクセプトしてきたという国木田さん。コロナ禍のこの1年で、考え方は少し変わったと話す。

「それまでは人に認められたい、仕事で結果を出したいという思いが強かったですし、今でもその気持ちがなくなったわけではないのですが、大きく変わったのは『自分を大切にしたい』という思いが生まれたこと自分が気持ちよく仕事ができるか、人からのアプルーバル(認められること)ではなく自分で自分を良しとできるか。人生における優先順位が変わったと思います」

日本の女性に対しても、「自分の気持ち良さを優先して」と国木田さん。「日本人女性の芯の強さは素晴らしい」としながらも、がんばれてしまうことが逆に心配だと語る

「我慢すること、がんばることは、大人の社会ではたしかに必要なこと。ただ、その先に“光”がなければ、ただの“自分いじめ”に他なりません。人生にはたくさんのオプションが用意されています。我慢やがんばりの先に喜びが見えないなら、やめてもいいし道を変えてもいい。つらいだけなんて、自分の人生に申し訳ないですから

もうひとつ、国木田さんが不安視するのは、海外に比べると「日本では成功の定義が限定的だ」ということ。

仕事で成功を収めるのがサクセス、いいお母さんになったらサクセス、そんな日本社会の“サクセス”のイメージを変えていきたいですね。それぞれの人生で、自分が気持ちよく生きられることが何よりのサクセス。そう思えれば、まわりの人のサクセスも尊重できて、ダイバーシティはもっと広がるはず。日本人なら誰もが持っている他人をおもんばかる能力を、もっと発揮してもいいのではないでしょうか」

国木田彩良氏

撮影/柳原久子、衣装/ELISABETTA FRANCHI

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大森りえ

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