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- 災害リスクを知ることが安心なまちづくりにつながる。LIFULLが始めたポジティブな試み
大雨による洪水や土砂崩れのニュースを多く見かける昨今。防災のはじめの一歩となるのは、自分が住んでいるエリアの災害リスクについて知ることだ。住宅情報サイトを運営するLIFULL(ライフル)は、新築一戸建ての物件情報に「洪水・土砂災害・地震ハザードマップ」を追加した。
2021年9月10日に行われたオンライン説明会では、LIFULLからこの新しい取り組みを開始した背景とサービスの詳細が語られた。また、京都造形芸術大学教授でEarth Literacy Program代表の竹村眞一さんによる、災害リスクとまちづくりの新たな視点についてセミナーが行われた。
ハザード情報も物件選びの材料に
ポータルサイトに追加されたサービスでは、洪水や土砂災害、液状化のリスクと最大震度が地図上で確認できるようになった。居住を考えるエリアで、どのくらいの災害リスクがあるのか知ることで、物件選びの材料になると期待されている。従来はユーザーが公的機関のハザードマップを参照することが多かったが、今回のサービスによって住宅情報と同時に災害リスクを確認できるため手間が少ない。物件探しの初期段階から通勤、通学ルートなど、居住エリア周辺の災害リスクを把握できるといったメリットもある。
近年では世界的にもハザード情報を掲載する動きが増えており、アメリカでは不動産サイトを運営するRealtor.comやRedfin、物件のオンライン仲介を行うMovotoが災害リスクに関する情報の提供を開始している。
地球規模で災害リスクへの関心が高まる中、地震や洪水の多い日本でも災害を意識した暮らしが不可欠だ。物件を仲介するLIFULLにとって、災害リスクの掲載はネガティブな情報になることもあるが、「安心につながる情報は届けなければいけない」と機能の追加を決定した。
サービス開始から2ヶ月半ほどが経ち、物件を探す上で災害リスクをチェックする人が増えているという。現在は新築一戸建て物件のみ利用できるサービスだが、今後はマンションなど戸建て以外の物件にも利用できるよう対応する予定だ。
地球規模で災害対策が必要な時代
説明会で行われたセミナーでは、竹村眞一さんが登壇。「世界的に急増する水害は、地球の裏側であっても他人事ではない」と近年増加する洪水や台風への危機感を示した。
最近の事例で竹村さんが紹介したのは、8月29日にアメリカに上陸したハリケーン「アイダ」。近年でも稀に見る大きなハリケーンで、ニューヨークでは大規模な洪水に見舞われた。「このような災害はさまざまな地域で起こっている」と竹村さん。日本でも大雨や台風によって大きな被害を受けたことは記憶に新しい。
この原因に竹村さんは「今までは海水の温度が上がっても、台風によってかき混ぜられ、温度をコントロールしてくれた。しかし現在は海の深い層まで海水が温められていて、温度が下がらずに災害が起きやすい環境になっているためだ」と語る。
さらに竹村さんは「人口の増加も考えなければいけない」という。世界人口は毎日23万人増えていると言われ、そのうちの19万人が都市に集中している。都市は交易のしやすい沿岸部に多く、水害による被害が甚大になる可能性が高い。特に日本は人口の50%、社会資産の75%が水害に弱い地域にあり、1947年に日本を襲ったカスリーン台風が現在の東京に上陸した場合、被害額は約34兆円になると試算されている。
災害に対してネガティブな条件が多い現代で「人間は気候の悪化を防がなければいけないし、それは十分可能である」と竹村さんは語る。国際的な地球温暖化対策の基本方針であるパリ協定に基づいて社会活動をすれば、地球の温度上昇を抑えられることがわかっている。
「『私たち個人が何をしても地球の温暖化に関係ない』と思うかもしれませんが、わずか数十年で地球の気候システムを変えることができるとシミュレーションでわかっています。私たちは確実にポジティブな影響力を持っています」(竹村さん)
災害を前提としたまちづくり
「災害に対する緩和策と同時に、適応策も必要」と竹村さん。地球温暖化を食い止める努力だけではなく、どうしても訪れてしまう災害に適応する力も大切だという。
「ハザードマップでは、『危険なエリアに住んでいる人は、すぐに安全な場所へ逃げてください』と書かれていて、もちろんそれは重要なことです。ただ、そのまま家が水没してしまっては未来につながらない。私たちはまちづくりから考えなければいけないと思います」(竹村さん)
竹村さんが例として提示したのが、伝統的な水害対策である「水塚」だ。水塚とは、家屋が冠水しても逃げ込める高い土地に作られた倉のこと。昔の人たちは、さらに水位が上がった際にも逃げられるよう、船を常備していたという。「このような伝統に学びながら、未来を作っていかなければいけない」と竹村さんは語る。
世界を見ても、そのような災害を前提としたまちづくりが進んでいる。国土の約3割が海抜0メートル地帯のオランダでは、浮体式の家やマンションでまちが作られているという。高潮や洪水が襲ってきても家を失うことがない新しいまちづくりは、ニューノーマルになりつつあるのかもしれない。
日本でも水害に適したまちのあり方を考え、作られたのが東京スカイツリーだ。地下に設けられた貯水空間は、集中豪雨の際に下水へ流れる雨水を一時的に抑制して、洪水のリスクを低減する役割を担っている。
「実は日本でも水害に適応するまちづくりは進んでいます。災害が起きたときに一時的に避難することは、『発熱したから、熱を下げましょう』というくらいですが、『そもそも風邪を引きにくい体をつくろう』という意識が今の都市には重要です。それは難しいと感じるかもしれないですが、400年前まで東京はただの漁村でした。それを丸の内や日比谷を作って、日本の中心に成長させました。現代でも当然できると信じています」(竹村さん)
私たちが生きる未来を守るためには、環境保全と災害に適した暮らしを考えることが重要だ。今回のLIFULLの取り組みは、災害に対する私たちの意識を高めるとともに、新しいまちづくりのあり方を考えるきっかけになるかもしれない。
このトピックとかかわりのあるSDGsゴールは?
[ LIFULL ]Image via Shutterstock

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