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「私がやる」と一歩前に出た女性を全力で支えたい。女性リーダー支援基金がNYNJ 能條さんら採択

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撮影:田邉愛理

2021年10月14日、公益財団法人パブリックリソース財団が主催する「女性リーダー支援基金~一粒の麦~」の第1回授与式が開催された。支援対象者に選ばれた5人の女性を迎えたのは、審査委員長の上野千鶴子さん(東京大学 名誉教授)、審査委員の浜田敬子さん(ジャーナリスト/Business Insider Japan エグゼクティブ・アドバイザー)、そして同財団の代表理事・専務理事である岸本幸子さん。贈呈式とともに受賞者を囲んだトークセッションが行われ、「なぜリーダーを目指すのか」をテーマにそれぞれの想いを語り合った。

女性差別、女性蔑視は日本社会の構造的問題

ジェンダーギャップ指数において世界から大きく遅れをとっている日本では、女性リーダーが育ちにくい状況にある。日本における意思決定過程への女性の一層の参画を通じ、女性の社会的地位の向上を図ることをめざして設立されたのが、「女性リーダー支援基金~一粒の麦~」だ。

支援基金は石川清子さんという1人の女性の発案をもとにしたもので、授与式は岸本代表理事による石川さんのメッセージの朗読から始まった。石川さんは以前から女性の社会的地位の向上に強い関心を抱き、何か出来ることはないかと常日頃考えていたという。2021年9月、アイスランドの議会選では女性議員が定員の48%を占めた。非常に意義のある出来事だが、このニュースが世界で報道される現状に対して、石川さんは疑問を投げかける。

私達はこうしたことを自然の流れの中での当然の一事例に過ぎないと捉えているでしょうか。世界の人口の約半分が女性であることを考えれば、女性議員が半分いて普通、そうした中で女性の首相が生まれて当然と考える人がどれだけいるでしょうか

私はこの女性差別、女性蔑視の問題はそれほど簡単なことではないと考えています。それは長い長い歴史を経て、私たちの中に自然に違和感なく入り込んでしまっている、いわば構造的な問題だからです。
(石川清子「“女性の社会的地位向上”への思い」より引用)

基金の副題となった「一粒の麦」は、「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。 しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」という聖書の一節から名付けられたという。女性の地位向上に一石を投じるという石川さんの志を胸に、この基金で次世代リーダーの活動を支え、支援者を交えた温かい交流の場として育てたいと、岸本さんは抱負を語った。

メンタルケア、政治分野における女性サポート。年齢も経歴も多彩な5人の採択者

2021年7月、「女性リーダー支援基金」は政治家志望者、社会活動の実践者、社会起業家志望者、女性のためのアクションリサーチの企画・実践者という4部門で基金への応募を募り、全国から137人の応募があった。

審査員の1人であり、授与式のモデレーターをつとめた浜田さんは、「若い世代の活動から、現実に対してNOと声を上げていいんだと、改めて教えてもらった気がする」と話す。応募者のプレゼンテーションを聞きながら、何度も胸が熱くなり、審査員一同が涙する場面もあったと、選考過程を振り返った。

今回、支援対象として採択された5人の年齢は23歳から46歳までと幅広く、経歴も分野もさまざまだ。

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公益財団法人パブリックリソース財団の代表理事・専務理事である岸本幸子さん(左)と、株式会社 +baseのウィム・サクラさん(右)。 +baseは本当の"健康"である心、身体、社会的繋がりの 3つの視点に対して "プラスとなる基盤Plus base" を作り、人々がそれぞれのwell-beingを高められる世界の実現を目指している。

画像提供:パブリックリソース財団

このコロナ禍で疲弊する医療従事者への支援活動を行うのは、「株式会社 +base」のウィム・サクラさん。日本生まれのスリランカ人で、自らも心療内科の看護師長兼心理士として働きながら、「命を守る人々の“心を守る仕組み”」の開発に力を注いでいる。認知行動療法なども取り入れながら、自分を犠牲にしがちなナースのメンタルをサポートし、苦しいときには相談できるシステムを作りたいと、展望を語った。

累計1200人以上の女子中高生にプログラミングの学習機会を提供しているのは、「一般社団法人 Waffle」の斎藤明日美さんだ。女性の社会的地位向上のためには、テクノロジー分野での女性のプレゼンスを上げることが重要だと斎藤さん。Waffleでは「女の子は理系科目は苦手」といったステレオタイプを取り除き、IT・STEM分野で世界に羽ばたく女性を増やすため、 アプリコンテストの実施や、イベントなどさまざまな活動を実施している

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審査委員長の上野千鶴子さん(左)と、一般社団法人 Waffleの斎藤明日美さん(右)。IT業界における女性技術者の割合は15%以下、 また日本のSTEM分野(理系分野)の学部の男女比はOECDワースト2位だという。Waffleはこの分野におけるジェンダーギャップ解消を目指す。

画像提供:パブリックリソース財団

一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子さんは、1998年生まれのZ世代。20代の投票率が80%を超えるデンマークに留学したことがきっかけで、日本の若い世代の投票率を上げるために同団体を設立した。政治や社会の情報をインフォグラフィックスで発信するInstagramのフォロワーは7.3万人にのぼる(2021年10月22日時点)。同世代の政治家を男女半々にすることを目標に、今後は若い世代が積極的に政治に参画するデンマークの状況をさらに調査し、日本を変える手がかりを探っていきたいと語った。

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ジャーナリストの浜田敬子さん(左)と、NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子さん(右)。2021年3月に開催したMASHING UP SUMMIT2021にも登壇した際は、SDGsに対するZ世代の意識を語ってくれた。

画像提供:パブリックリソース財団

政治分野のジェンダー研究者として活動する濱田真里さんは、女性議員・候補を支援する団体「Stand by Women」を2021年5月に設立。そのきっかけは、自身の研究を通して女性議員に対するハラスメント問題の深刻さを知ったことだった。有権者が女性の議員や立候補者を個人的に誘ったり、体を触ったりする「票ハラ」や、同僚の男性議員によるセクハラが多々あることは、社会的にもあまり知られていない。「女性議員を増やそう」という掛け声も大切だが、まずは女性議員や候補者、選挙スタッフが安心して政治活動ができる社会に変えていかなければ、と話す。

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Stand by Womenの濱田真里さん。政治の場のジェンダーギャップの解消と、女性議員や候補者、選挙スタッフが安心して政治活動を行うことができる社会を目指す。

画像提供:パブリックリソース財団

吉岡マコさんは、自身がシングルマザーとして子育てをしてきた経験から、「NPO法人 シングルマザーズシスターフッド」を立ち上げ、シングルマザーの支援に取り組んでいる。自己肯定感の低下から地域の支援につながれずにいた人も、シングルマザー同士でオンラインで交流したり、マネーリテラシーやICTスキルを身につけたりすることで、主体的に自分の人生を生きる強さを取り戻していくと吉岡さん。プログラムを通じてリーダシップを発揮できるようになり、支援される側からする側へとシフトする参加者も多いという。

吉岡さんは1998年から産前・産後の支援活動「NPO法人 マドレボニータ」を22年続けており、2020年に事業承継したばかりだ。「何歳になってもチャレンジできるんだという、ロールモデルになれれば」と決意を述べた。(過去に吉岡さんに行った取材記事

「私がやる」と一歩前に出た女性を全力で支えたい

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シングルマザーズシスターフッドの吉岡マコさん。以前MASHING UPの取材の中で、「彼女(シングルマザー)たちは一歩外に出ればマイノリティです。でもこの場ではみんな同じ。安心できます。励まし合って、つらさをわかちあって、連帯が生まれていくのを目の当たりにしました」と、団体名に込められた思いを語ったのが印象的だった。

画像提供:パブリックリソース財団

「チャレンジに年齢は関係ない」という吉岡さんの言葉は、今回の審査でも高く評価されたと審査員長の上野さんは話す。

「人は望んだものしか手に入りません。望んだものさえ手に入らないことがしばしばです。ましてや、望まなければ絶対に手に入りません。ところが日本社会というのは、女が何かを望んで、『私がやる』ということを快く思わない社会なんですね。

ここにいらっしゃる方たちは、『私がやる』と一歩前に出た人たちです。その人たちの肩を押すのがこの基金。第一回にも関わらず、137人の応募があり、その中からわずか5人を選ぶのは、苦しくも楽しい作業でした。

この5人の背後に、137人の女性がいる。その後ろにもおそらく何百人、何千人という、彼女たちを支える女性がいらっしゃる。今回の賞は、その人たち全員に与えられたものであり、彼女たちの姿を見える化してくださったのがこの5人です。日本にもそういう女性たちがいるとわかったことが、審査員にとってもの凄い手応えでした」(上野さん)

寄附者である石川清子さんの思いに、選考結果が沿えたことを願っていると上野さん。

10年後、20年後、30年後に、『この人たちが社会を変えた』と言われるような足跡をぜひ残してほしい。期待しています」と、壇上の5人にエールを送った。

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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