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子どもたちが行きたい道を選べるように。人生が変わる学びを提供/NPO「Learning for All」

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NPO「Learning for All」は、子どもの貧困を解決するために、学習教室や居場所、子ども食堂(コロナの今は食べ物を配るフードパントリー)などを運営している。2010年に事業を開始してまだ10年あまりの間に、支援の輪が大きく広がっている。2021年11月現在は、東京都の葛飾区や板橋区、埼玉県戸田市や茨城県つくば市に合計25箇所の拠点を構え、フルタイム職員30人あまり、学習支援拠点には年間約400人の小中高生が通う。

代表理事で設立者の李炯植(りひょんしぎ)さんがこの事業を始めたのは、生い立ちが深く関係している。1990年生まれ、兵庫県尼崎市出身。30棟以上が並ぶ巨大な市営団地で生まれ育った。近くの高速道路の下には、放置自動車やホームレスの人々がその中に住むブルーシートが目立った。 「それが僕の原風景です。小学校の時には凍死したホームレスの人が運ばれていくのを見たこともあります」

地元や大学で、感じたカルチャーショック

小学校6年生の時、40人のクラスの半分はひとり親だった。勉強ができた李さんは女性の担任の先生から「あなたは公立中じゃなくて、家庭教師をつけて大学に行けるような私立に行きなさい」と言われ、受験勉強を始めた。その甲斐あって高校野球の常連校、報徳学園の特進コースに合格。特待生となった。

高校1年の時に小6の同窓会に行くと、みんなの境遇に驚いた。高校を中退してとび職をしている男子や臨月で大きなおなかを抱え、「夫は警察に捕まって今は刑務所。とりあえず高校をやめる」という女子……。「大学行くのは当然だと思っていたけど、自分は全然違う道に行ったんだってわかりました」。ここでまた元担任の先生が背中を押した。「ぼろぞうきんのように勉強しなさい」と、東大進学で有名な塾の入塾試験手続きをしてくれたのだ。猛勉強して、学校創立以来初という現役で東大入学を果たす。結局小6のクラスで大学に進んだのは、李さん含めて3人だけだった。

しかし、めでたく入った東大で、またカルチャーショックを受けた。 「自分はフルマラソンを終えたくらい、くたくたになるまで勉強して東大に入ったのに、まわりの有名私立や国立の一貫校から来た子たちはまだアップを終えた程度。みんな、もともと知り合いでもうコミュニティもあり、しかもお金持ち。日本にも階層はあるんだと実感したんです」。

必要なのは勉強だけではない。子どもたちが抱える生活の困難

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「勉強ができないのは努力が足りないからでしょ」と、あっさり言う同級生たちに「それは違う」と言いたくて、きちんと説明できるように勉強しようと、学者をめざして教育哲学を専攻した。現場も知らないと、と大学3年生の時に子どもの学習支援に取り組むNPOでインターンをした経験が、今に続いている。

当時ボランティアとして参加していたNPOでは、生活保護を受けている世帯の子どもたちと接した。勉強といっても、まずじっと机に座ることから始めるような状況だった。「高校受験を目前にした子が分数ができなかった。付け焼き刃でやってもだめ」と、どんどん活動にのめりこんでいく。有名塾に自らアポを取り、指導ノウハウを教えてもらい、ボランティアで教える学生たちの勉強を教えるスキルを平準化。子どもたちと日々どっぷりと向き合ううちに「勉強を教えるだけでは足りない」ということに気づく。

やればやるほど困難が見えてくるんです。たとえば、中学校3年生に勉強を教える。辛抱強く向き合って、少しずつ成績が伸びてくる。夏休みになって、その間は学習支援もお休みで、9月に再会したらがりがりにやせていたんです。給食がなかったから、家で満足にごはんが食べられていなかったんですよ」

勉強以前の「生活」にまで目を配って、丸ごと支援しなければ困難が解決しないというわけだ。ほかにも、家での虐待があるのでは、保護者の生活にそもそも問題があるのでは……などと、あれこれわかってくる。そのたびに民生委員やケースワーカー、学校などとも相談。地域一体での連携も欠かせない。 自分で責任を持って事業をしたい、と自らの団体Learning for Allを設立した。

地域、企業、制度、多方面からの連携で、子どもたちが選択できる社会に

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人生が変わる教室、をつくりたかったんです。その子が行きたい道に行かせてあげられるような。選択肢を持てるような」

Learning for Allでは、確かな成果もあがってきた。子どもたちの学力がついてテストの点数があがり、やる気が出て何に対しても前向きに取り組むようになった。保護者からは「これまで誰にも相談できなかったけれど、今では気軽に相談できて嬉しい」という声が聞かれる。民生委員など地域で子どもを支援している人たちからも「包括的に支援できてありがたい」と評判は上々だ。

食堂(コロナの今はフードパントリー)は子どもたちの親や、地域の人も自由に出入りできる。民生委員や自治会長さんたちから紹介を受けてやってくる人たちもいる。「フードパントリーに大根をもらいにくる常連のおじいさんもいます」

企業のプロボノ支援を受け、事業計画や評価、経営戦略策定をみっちりたたきこんでもらい、助成金や寄付金集めにも力を入れた。その結果、日本財団から3年間で7000万円、ゴールドマン・サックスから3年間で4億円、三菱UFJファイナンシャルグループからは3年間で6000万といった大口の寄付も得てきた。もちろん、活動の様子や成果の報告は欠かさない。 目の前の子どもたちや保護者の状況が良くなってくると、全国でこれを広げられないか、と思い始めた。

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「子どもたちにとって公平で生きやすい社会を作りたい。そのためには制度化、政策化をしないと」。活動を広げるために全国の団体との連携を強め、政策提言も始めた。学習支援ボランティアの育成方法や拠点の運営方法など、ノウハウを共有する団体や企業は16都道府県に36団体にのぼる。

2021年、今年の3月には、困窮子育て世帯に5万円の給付を求めて他の団体と共に音頭を取り、5万筆以上の署名を集め、実現した。この給付金で画期的だったのは、ひとり親だけでなくふたり親世帯も対象になったことだ。 今やすっかり有名になったLearning for All。今年、2021年9月の自民党総裁選では、岸田文雄氏が学習支援の拠点の一つに視察にやってきた。李さんが今ぜひ政策で実現してもらいたいと考えているのが、子どもに関するデータベースの構築だ。

「家庭がどのくらいの経済状況にあるのか、虐待の有無や学力、発達状況などのデータを集積できれば、年齢層や地域ごとなどの分析や、支援が必要な子どもも把握できる」。その後ご存じのように首相になった岸田文雄氏には、ぜひ実現してもらいたいという。

「子どもの問題って表に見えているのはほんの一部分で、親や地域などいろんな要素が複雑にからみあっています。ぼくたち民間の現場の活動、地域との連携、それから政策や制度をうまく組み合わせてこそ社会が変わり、子どもたちが生き生きと暮らせて能力も発揮できるようになるんだと思っています」

MASHING UPカンファレンスvol.5

会期: 2021年11月19日(金)13:00〜20:00(予定)
会場:TRUNK (HOTEL)1F~3Fフロア 東京都渋谷区神宮前5-31
主催: MASHING UP(メディアジーン)
チケットサイト:https://2021-mashing-up-5.peatix.com
チケット価格:
<会場参加(アーカイブ視聴付き/ノベルティ付き/会場のみのスペシャルセッションあり)>
┗スタンダード:20,000円
┗会員割引:15,000円
┗学割:8,000円

<アーカイブ視聴>
┗スタンダード:20,000円
┗会員割引:15,000円
┗学割:8,000円

※会場参加、アーカイブ視聴ともにMASHING UP会員(無料)にご登録いただくと割引価格でご購入いただけます(登録はこちら)。後日メルマガにて割引コードを送付するほか、MASHING UPのイベントの先行案内や、エクスクルーシブな特典にアクセスできます。

※予定されているセッションは、タイトルや登壇者など変更の可能性があります。

最新情報は、カンファレンスサイトのほか、Peatixページ、MASHING UPのTwitterFacebookでお届けします。どうぞお楽しみに!

MASHING UP Vol.5 はその収益の一部をLearning for Allに寄付する予定です。

このトピックとかかわりのあるSDGsゴールは?

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撮影:Yuko Chiba

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秋山訓子
朝日新聞編集委員。東京大学文学部卒業。ロンドン政治経済学院修士。朝日新聞入社後、政治部、経済部、AERA編集部などを経て現職。著書に『ゆっくりやさしく社会を変える NPOで輝く女たち』(講談社)、『女子プロレスラー小畑千代―闘う女の戦後史』(岩波書店)、『不思議の国会・政界用語ノート』(さくら舎)『女は「政治」に向かないの?』(講談社)など。

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