社会が変化するスピードが年々加速していると言われる時代。さらに昨今のコロナ禍のような予期せぬ危機が訪れ、既存の社会システムや常識が突如として崩れてしまうこともある。
そんなときに必要なのが、柳のようにしなやかな心。大きな変化に対応できる柔軟で折れない心や従来の価値観にとらわれない自由な発想は、どうすれば手に入れられるのだろう。
2021年6月26日に開催された「Women's Well-being Updates 2021」の「しなやかに選びとる。折れない働き方、やわらかな人生」では、2児の母親、そしてファッションモデルとしての顔も持つGENDA 代表取締役社長 申真衣さん、ダイバーシティ&インクルージョンなどに関しての執筆や講演なども行い、『マンガでわかるLGBTQ+ 「パレットーク」』をはじめとする数々のサービスを展開するTIEWA 代表取締役 合田文さんが、激動の時代で自分らしい幸せを得るためのマインドセットについて語り合った。
モヤモヤを言語化し、人生を選びとる上での判断基準を固める
「選択をする際に大切にしていることは?」という質問に対し、申さんの答えは「何を考えてその選択をしたのかをメモに取っておくこと」。記録しておくことで、その選択が正しかったのかどうかを後から振り返ることができ、発見を得られるのだという。
人生で選択を迫られた時に指針となるのが、それまでに蓄積してきた知識や経験である。しかし、これまでの常識が一瞬で覆ることもある今、従来の判断基準がある日突然役立たなくなることがあるのも事実。世の中の価値観も働き方も多様化する激流のなかで、いかにして自分にとっての正しい道を選び取っていけばいいのだろうか。
経営者・モデル・母親として3つの顔を持つ申さんは、多忙な中でも自分らしさを失わずに生きていくヒントについて明かした。
「経営とモデル業、育児の両立はすごく多忙なのではないかとよく言われます。実際、決して楽ではないけれどちゃんと生活は回せている。自分がやりたいことと、やりたくないことを優先順位付けして、手が回らない部分は家事代行などを利用することもあります。
私と夫で家事・育児を基本的に半々にしているのも、今の生活が成り立っている理由の一つ。やはり自分が仕事をしていく上で、パートナーを持つかどうか、そしてどういう人をパートナーに選ぶのかということは、同時にキャリアの選択でもあるというのが、持論です」(申さん)
パートナーの選択は、キャリアの選択と密接に関係している。結婚を決める前に、まず自分がどんなキャリアを歩みたいのかを、明確にしておくべきだ。その際、世の中から植え付けられたステレオタイプな価値観に自分自身がいかに左右されてきたのかも自覚し、それを踏まえた上で本心を自問することが大切だという。
「世の中全体で、男性と女性が担う家事労働の負担の割合を比べると、大きな差がある。それはやはり、多様な選択肢から個々人が選んだ結果というよりも、男性と女性が生まれてからこれまで、社会で色々な刷り込みがあったからだと感じる。
性別などに関するアンコンシャスバイアスに違和感を覚えている人も多いはずなので、何が自分を幸せにするのかということを発見しながら、自分で決めていけるようになるといいですね」(申さん)
性別に関係なく、“社会から植え付けられた価値観=自分自身の本来の性格や願望” だと信じ込んでしまうことがある。自分自身ですら気づくことが難しい根深い思い込みに気づくためには、日常生活の中で気づいた小さな違和感を見て見ぬふりをしたり放置したりするのではなく、積極的に言語化して共有することが有効だと二人は共に強調した。
「その点、SNSは便利ですね。『自分が女性だからこの選択肢を選びにくかったのかも』とか『もしかして自分が抱えていたモヤモヤは、フェミニズムに関係があったのかも』など、自分が何にどうしてモヤモヤしていたのか気づける。誰かが言語化するものを見たり聞いたりすると、自分の気持ちの整理にもなるし、エンパワーメントにもなる。今後、何を基準に選択していけばよいのかという、一つのヒントにもなりそう」(合田さん)
男性/女性という前提を一度捨てて考える。得意不得意を補い合うチームづくり
本セッションのテーマであるしなやかさについて、申さんと合田さんは、コロナ禍で意図せず獲得した人も多いのではと述べた。多くの人がやむを得ず大きな変化に適応しなければならなくなり、戸惑いながら模索して新たな生き方や楽しみを見出した1年間だった。
女性だけでなく、男性も「性別役割分業意識」に苦しんでいる。共働き家庭が主流と言われる時代になっても、夫の方が妻より低収入だと不満を言われる、専業主夫は認められにくいなどの意見も少なくない。
申さん自身も、夫に対する性別役割分業意識が心の底に根強く残っていたことを自覚する出来事があったという。
「結婚した当初、私が多忙を極めていた時期に、夫が『じゃあ僕が仕事辞めようか?』と提案してきたことがありました。そのとき私は、自分一人で家計を支えることに対する不安から、反射的に『え、いやだ』と思ったんです。でもそれっておかしなことですよね。男性が一人で家計を支えている家庭もたくさんある中で、なぜ私はそれを嫌だと思ったのか。そのことは、“男性/女性だから”という固定概念に私自身もとらわれているのだと、考えるきっかけになりました」(申さん)
性別にとらわれずに、夫婦がお互いの得意不得意を補い合う関係こそ理想的だ。申さんと合田さんはビジネスおけるチーム作りに例えながら、異なる個性を持つ人が助け合うことのメリットについて語った。
「何事もチームでやることの良さがある。同じ人がいるとコミュニケーションコストが低くて円滑な部分もあると思うけれど、金太郎飴のように同じ能力を持つ人がいても、足りない部分を補完し合えない。色々な人が一緒にいることで、うまくピースがはまり助け合うことができる」(申さん)
「パートナーと生活する上で、自分の得意不得意の“棚卸し”を行い、同時に『自分は女だからこっちの方が得意かも』などといった自分自身に対するバイアスがないかも、確認するのがいいですね」(合田さん)
自分自身のために頑張ることは、次世代のために頑張ることでもある
セッション直前、映画『もののけ姫』を視聴したという合田さん。積み上げてきたものが全て失われても生きていかなければならない状況をコロナ禍に重ね、複数の選択肢を持つことの大切さ、こだわりを捨てる勇気について語った。
ジェンダー平等に関していまだに多くの課題が残されている日本社会だが、ゆっくりとはいえ確実に前進し始めている。次世代のために今私たちができるアクションもさまざまだが、まずは自分自身の幸せのために頑張ること自体が、結果的に次世代の幸せな働き方につながると二人は強調した。
「今私がこうやって働けているのは、一つ上の世代のもっと大変な状況で働いていた女性たちのお陰。今自分が頑張ることは自分のためだけではない。きっと次の世代に何かをつなげるんじゃないかと思います」(申さん)
「私も、次世代へ何かを渡したいというのが、働く上で大きな理由の一つ 。とくにボーイッシュなタイプや、異性愛者ではない女の子たちにはロールモデルが少ない。従来の“女性らしさ”から解放され、自分らしく輝けるということを、一つの例として見せられれば」(合田さん)
今後は多様な価値観を受け入れ、必要に応じてしなやかに自分を変化させることが、幸せにつながるのだろう。自分自身の生まれ持った性格や価値観だと信じていたものが、実は長い年月をかけて社会や他者から植え付けられたものであると気づいたとき、一時的に衝撃を受けるかもしれない。しかしそれを乗り越えた先には、本当の意味で自分らしく幸せな人生が待っているはずだ。
Women's Well-being Updates 2021
しなやかに選びとる。折れない働き方、やわらかな人生
申真衣(GENDA 代表取締役社長)、合田文(TIEWA 代表取締役 )
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