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ゼブラとジェンダーレンズ

トレーニングで初めて気づく不均衡。ジェンダーレンズ投資家に必要な視点とは?

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「女性向けの商品やサービスを作っている会社の経営陣が男性ばかりなことに、以前は違和感がなかった」これは、東南アジアを主戦場に10年以上に渡り、インパクト投資を行ってきたパタマールキャピタル(Patamar Capital)のライアン・ゾラディ(Ryan Zoradi)の言葉だ。

この「ゼブラとジェンダーレンズ」連載では、これまで、サステナブルなアパレル業界の実現を目指すアランテキャピタルを立ち上げたカーラ・モラ、ジェンダーレンズ投資に特化したクロエキャピタルのエリカ・オブライアン、そしてインドでサステナブルな生理用品の製造、開発を行うSaathiの創業者クリスティン・カゲツに話を聞き、それぞれの視点からジェンダーレンズ投資を紐解いてきた。

彼らの視点は三者三様だったが、一つの共通点がある。それは、彼らが女性(※)で、更に自らの価値観に基づいて事業を立ち上げたということだ。これは紹介してきた3人に留まらず、ジェンダーレンズ投資についてリサーチする中で出会う人は、圧倒的に女性が多かった。

課題の当事者である女性がこの世界に多いのは、大いに納得できる話ではある。しかし、本当にジェンダーレンズ投資が定着し、不平等が解消されていくためには、現在パワーを持っている人、すなわち既に成功を収めているベンチャーキャピタル(以下VC)や男性(※)にもその支持が拡がっていく必要があるだろう。

そこで今回は、歴史のあるインパクト投資ファンド、パタマールキャピタルがどのようにジェンダーレンズを取り入れてきたかを見ていくと共に、パタマールキャピタルのプリンシパルで、男性のライアンの考えを聞いた。

ローンチはアジア地域の低中所得者層サービスを視野に

ライアンの顔写真

パタマールキャピタルのプリンシパル、ライアン・ゾラディ。

パタマールキャピタルは、2010年に米国サンフランシスコにて立ち上げられたインパクト投資に特化したベンチャーキャピタルである。その前身は、2000年に立ち上げられたUnitusグループ内のNPOだ。プライベートエクイティ、VC、大企業のマネジメント層が、従来の財団や寄付のアプローチではなく、彼らの得意分野である「ビジネスをスケールし、より多くの人に届けること」で特に途上国の社会問題を解決することを意図して立ち上げた。

Unitusグループには、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも投資をしていた。なお、これはインパクト投資という言葉が誕生した2007年より前のことで、NPOとしての活動は、インドにおけるマイクロファイナンスから始まったという。

数年後の2005年には、マイクロファイナンスでの成功を踏まえて、アメリカで2,000万~2,500万ドルを友人や親せきから調達してファンドを組成、ローンだけではなく株式投資を開始した。そこでも非常に高い運用結果が出たため、アジア地域で低中所得者層に向けた製品・サービスを提供する会社を投資対象とし、さらに投資家には並のVC以上の経済的リターンを提供することを決意。こうして2010年にパタマールキャピタルが創業されることとなった。

その後10年強で、本社をシンガポールに置き、フィリピン、ベトナム、インドネシア、インド、スリランカに拠点を構え1億ドルを運用し、20社以上に投資するインパクト投資ファンドに成長した。

彼らが投資するビジネスモデルは、主に2つのタイプに分かれる。ひとつ目は、インクルーシブな金融サービス事業だ。フィンテックの会社もあれば、個人事業主や低所得者層への新たな金融サービスを提供する会社もある。ふたつ目は、途上国の未成熟なマーケットで事業者と消費者のギャップを埋めるプラットフォームだ。例えばインドネシアのMapanは、10万人以上の個人事業主が登録し、そのプラットフォームを通じてインドネシア各地で商品を販売できるマーケットプレイス型のサービスを提供。パタマールキャピタルの投資先の中で、最も成功した事業の内のひとつである。

ジェンダーレンズのトレーニングで気づきを得る

順調に投資先を増やし、ファンドレイジングを重ねるパタマールキャピタルの中で、ジェンダーレンズ投資についての議論が出てきたのは、創業から5年ほど経った2015〜16年頃だった。Mapanをはじめ、投資先のほとんどが消費者や小さな商店を運営する女性を対象にしており、またそのサービスの受益者も女性が多かったにも関わらず、投資先の判断基準にジェンダーを意識した問いが全く入っていなかったことが社内で問題となったそうだ。

そこで、パタマールキャピタルのチーム全員がジェンダーレンズに関するトレーニングを受け、さらに、投資を行う際に、投資対象の価値やリスクを調査するデューデリジェンスのプロセスにもそれが反映されることになった。投資候補先のリーダーシップの女性比率はもちろん、ターゲット顧客のジェンダーバランス、また顧客に相対する営業メンバーのダイバーシティも問いに含まれることになった。ライアンは言う。

「考えてみれば、ほとんどのサービスの顧客の50%か、それ以上が女性なのに、事業を運営しているのは男性ばかりというのはおかしな話。でも自分は男性で、そういう風に考えるトレーニングを受けてこなかった。自分自身はフェミニストで、あらゆる不平等に反対する姿勢だが、そんな自分でも、ビジネスの世界では男性がメインプレイヤーという状況に慣れすぎていて、その状況に疑問すら感じていなかった。だから、投資候補先に対しても正しい問いを立てられていなかったと思う」

こうしたトレーニングと投資基準の変更の結果、現在では、投資先の全てのリーダーシップチームに女性がいる状態になった。

東南アジアの女性起業家に最適な投資のあり方を模索

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パタマールキャピタルは本社をシンガポールに置き、フィリピン、ベトナム、インドネシア、インド、スリランカに拠点を構えている。

また、パタマールキャピタルの変化は、投資基準にジェンダーレンズを組み込むことに留まらなかった。

2017年にはオーストラリア政府から約300万ドルの助成を受けて、東南アジアの女性起業家への投資と、インドネシアにて起業家志望者の女性をサポートするアクセラレータープログラムを開始。そのうちの何社かは大きな成長を遂げており、「女性への投資」を実施することで新たな投資先を開拓できたことが実証された。

一方、そのプログラムの中で、パタマールキャピタルにとっては大きな気づきを得ることができたという。それは、東南アジアの女性起業家に対する投資として、パタマールキャピタルのアプローチ、つまりVC型アプローチは必ずしも最適ではないということだ。

東南アジアで女性が経営する中小規模の事業は、もともと投資を受けることが少なかったため、自身のビジネスが生むキャッシュフローで回るような事業になっていることが多い。一方で、従来のVC型投資は、いわゆるユニコーンへの投資を目標とし、急成長と大きなリターンが要求される世界だ。したがって、自己のビジネスが生む利益で安定成長を目指す、東南アジアの女性の多くが従事する中小規模のビジネスモデルは投資の対象になりにくいのだ。

そこで、2020年にはパタマールキャピタルのパートナーの一人であったシュイン・タン(Shuyin Tang)が中心となり、ビーコンファンド(Beacon Fund)という別会社をベトナムを拠点に立ち上げることになった。ビーコンファンドでは、従来型VCの基準では弾かれてしまうような安定成長型のビジネスを、フレキシブルなローンタイプの資金を提供することでサポートしている。東南アジアの女性が経営するビジネスを無理にVCの基準に当てはめるのではなく、逆に投資側がその地のビジネスの性質に合わせた資金提供をするように、システム自体を変えようとしているのだ。ライアンは、ビーコンファンドをリードしているシュインを非常に尊敬しており、また素晴らしい取り組みであると話す。

ジェンダーレンズ投資家が増えるために必要な視点

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東南アジアの女性の多くが従事する中小規模のビジネスモデルは、投資の対象になりにくい。

このように、2015〜6年にジェンダーレンズについての話題が上がってからの5年強で、パタマールキャピタルはビジネスの幅を大きく広げてきた。これはパタマールキャピタルのチーム全員がジェンダーレンズ投資についての研修を受け、システムを変えることに前向きに動いたからだろう。その過程では、ライアンが語ってくれたような個人的な気づきも、それぞれのメンバーにあったことだろうと思う。

前回、Saathiの創業者クリスティンは、女性の投資家が増えても、その視点が従来型の男性と同じであればあまり意味がないという大切な指摘をしてくれた。今回パタマールキャピタルの取り組みをライアンから聞いたことで、重要なのは、単に女性の投資家を増やすことではなく、女性であろうが男性であろうがジェンダーレンズ投資の意義、ひいてはジェンダー平等の大切さを理解し、従来のシステムを変えていく覚悟を持った投資家が増えていくことだということが分かった。そしてそれは、新たな市場へビジネスを拡大するという観点で、その投資家や所属するファンドを利することにも繋がっていく。

日本では、ジェンダー平等に向けて活動したり発信したりする人は、圧倒的に女性が多い。しかしライアンがトレーニングにより、気づきを得て、考え方を変えていったように、今後企業や組織の場で現状の歪さに気づき、変革に向けて伴走したり、ひいては活動をリードする人が性別を問わずもっと生まれていくとよいと願うし、自分もそうありたいと感じる。パタマールキャピタルが実証しているように、それが、その人自身や組織を利することに繋がるのだから。

※著者注:文中の女性、男性という表現は性自認女性、性自認男性を省略したもの。本稿においてはセクシュアリティを二つに分ける前提でことについて議論は分かれるが、投資・ビジネスの世界で性自認女性がマイノリティであることは事実であり、連載主旨を踏まえてこのように表記した。

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取材協力:Zebras & Company

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小口絢子
総合商社にて鉄鋼ビジネスに従事。東京本社、ベトナムの鉄板加工工場での勤務等を経て、現在ハーバードビジネススクール在学中。米国のジェンダーギャップ解消に向けた取組みをリサーチしながら、日本に持ち帰れること、課題に対する自分の関わり方について日々考えを巡らせている。

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