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- インドの生理用品市場から循環の輪を回したい。Saathiクリスティン・カゲツさん
© Cartier
ビジネスを通して社会や環境に良いインパクトを与えたい。そんな女性起業家の支援を目的に、ラグジュアリーメゾンのカルティエが2006年に創設した「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」は、世界中から応募者を集めるアワードや教育プログラム、コミュニティの運営などを行う。
CWIアワード受賞者のプロフィールや事業を紹介するインタビューシリーズの3回目となる今回は、2018年度のファイナリストであるクリスティン・カゲツさんに話を聞いた。インドのグジャラート州でサステナブルな生理用品をつくるSaathi(サーティ)の共同創業者だ。
生理用品が普及すれば、農村部の女性の可能性も広がる
現在、インドでの生理用品の普及率は36%。貧しい農村部に住む女性はこうした製品を買う余裕がなく、衛生的な処置ができないため健康を害したり、生理の日に学校や仕事を休まざるを得ず、キャリアを諦めてしまうこともある。
一人でも多くの女性が、生理用品を使えるようにすることは喫緊の課題である一方、これを解決すると「環境に大きな負荷がかかる」という別の問題が出てくる。一般に流通している生理用品は、主にプラスチックや木材パルプからできている。パルプの生産には広大な土地や水を必要とし、ゴミ処理能力が不十分なインドでは、プラスチックゴミの増加は深刻な環境汚染につながってしまう。
女性の健康と環境のどちらにも配慮した製品づくりをSaathiは目指している。
© Cartier
これを回避するために、Saathiはバナナ農家が収穫の際に切り倒した木や、放置すると繁茂しがちな竹などの農業廃棄物を買い上げて、そこから抽出した繊維で製品を作っている。一般的な自然素材のオーガニックコットンは大量の栄養分や水を必要とし、土壌への負荷が大きい。それに比べ、どのみち廃棄されてしまうバナナの木や竹は、サステナブルな素材といえる。Saathiの生理用ナプキンは100%自然素材でできているため、かぶれにくく、使い心地が良い。それだけでなく、廃棄後は微生物の働きによって6か月で分解され、堆肥として使うこともできる。
MIT時代に訪れたインド。ソーシャルビジネスの未来を感じた
Saathiの共同創業者のカゲツさんは、アメリカのマューセッツ工科大学(MIT)で機械工学を学んだ。高校時代からロボット工学に興味があり、将来はNASAで働きたいと考えていたという。だが、次第に社会課題の解決に工学の知識を役立てたいと思うようになり、大学の授業でいくつかのプロジェクトに参加した。ブラジルとニカラグアでPETボトルのリサイクル・システムの構築に関わり、大学4年の時にはインドのヒマラヤ地方に滞在し、クレヨン作りに取り組んだ。子供たちが口に入れてしまっても安全なように、地元でとれた自然素材を使った製品だ。
このときの滞在で、カゲツさんはインドで働くことに魅せられる。「地域の人々と協働しながら長期的なインパクトを与えられる、可能性に満ちた場所」だと感じたという。大学卒業直後の夏の間までクレヨンのプロジェクトに携わっていたが、既にボストンのIT企業への就職が決まっていた。アメリカに帰国し、数か月間その会社で働いてみたものの、結局は自分のやりたい仕事ではないと感じ、退職を決意する。
製造だけではダメ。サステナブルな仕組みがほしい
Saathiのナプキンの素材には、バナナや竹の繊維などが使われている。
© Cartier
会社を辞めたときに、次の職場の条件として考えていたことがいくつかあった。ひとつは、「女性の抱える問題の解決」に取り組めること。また、機械工学の知識を活かせる「プロダクト・デザインや製造業の仕事」であること。「インドで働きたい」という希望もあった。さらに「持続可能性」に関わることもしたかった。
「地元の自然素材でクレヨンを作ったばかりで、そういうことをもっと追求したかったし、そこに未来があると感じていました」
理想の仕事を実現させるために、友人とハーバード・ビジネススクールのコンペに応募したところ、最優秀賞に選ばれ、起業のためのシード資金を得られた。その後すぐ、ボストンでアクセラレーター・プログラムに参加してビジネスプランに磨きをかけてから、インドに移住。Saathiを立ち上げるための準備を始めた。
当初のビジネスプランは「生理用ナプキンを製造する機械を作って地方の村に設置し、女性たちがナプキンを作れるようにする」というものだったという。生理用品を普及させると同時に、女性が収入を得られる手段を生み出すためだ。だが、間もなくそれを「生分解可能でコンポスタブルな生理用品をつくる」という内容に軌道修正した。
「実際に現地で試行錯誤したり、似たプロジェクトを進めている団体から話を聞いたりして、気付いたことがあります。機械はよく壊れ、修理ができなければ、それ自体がゴミになる。また、運営を続けるには、ある程度の量を生産・販売して利益を上げる必要があり、そのためには品質管理を徹底しなければならない。要するに、村ごとに小さな会社を作るようなもので、地元の人々に多大な負担がかかってしまいます」
こうしたことを考えると、自分たちの工場で一括生産する方が、効率的で無駄が少ない。「使用後は堆肥として再利用できる、自然素材でできた製品」という点に注力し、女性たちにスタッフとして働いてもらえば良いのではないか。そうすれば、彼女たちに新たな収入源ができて家計の足しになるだけでなく、経済的自由も手に入る。
さまざまなステークホルダーと信頼関係を築く
Saathi工場で働く女性スタッフたちと、クリスティン・カゲツさん。
© Cartier
農村部の女性たちに生理用品を普及させることに関しては、村人の健康向上に取り組むNGOと連携。低価格で販売した製品を、彼らに配布してもらっている。全てを一から自分たちでやるより、長い時間をかけて現地の女性たちと関係を築いているNGOの協力を仰ぐ方が、理にかなっているからだ。これとは別に、中間層に向けてオンラインでのD2C販売も行っている。
立ち上げ当初は、いろいろと難しさもあったという。
「NGOに話をしにいくと、意思決定に関わる人は男性が多く、私たちの事業の意義をなかなか理解してもらえない。また、工場主の理解を得るのも最初は苦労しました。生理の問題はまだタブー視されているため、私たちのビジネスに対して懐疑的だったんです」
だが時間をかけて信頼を得て、今では現地に根を張っている。材料を提供してくれる農家の人たち、工場で働いてくれている女性たちとも良好な関係を築いてきた。
農村部ではグループ販売、中間層にはオンラインD2Cとインドならではの販路を開拓。
© Cartier
各地で生理に関する啓蒙活動やワークショップなども行っているSaathi。今後はインドの外での事業展開も考えているという。製造過程に対する消費者の意識が高まるなか、サステナブルでエシカルな製品の市場は育ちつつある。
「これまで、生理用品を買うときにはあまり選択肢はありませんでした。ブランドは違えどサイズや薄さ以外は、基本的にどれも似たり寄ったりです。私たちはサステナブルな製品を用意するだけでなく、そうした選択肢があることをもっと知らしめる必要があると思っています」
需要がなくなることはない生理用品だからこそ「環境に優しいものを使って欲しい」というカゲツさん。Saathiは、サステナブルな方法で生理用品を製造する会社のモデルになることを目指している。
製造業のあり方を未来志向に変えていく
「長期的なビジョンとしては、製造業のあり方を変えていきたいです。これまでの仕事のなかで、エシカルなサプライチェーンを築いてきました。人と環境と収益、どれを犠牲にすることなく成立するビジネスを目指したい」
もう少し短期的な目標としては、製造規模を拡大しアメリカ市場に進出し、そこで循環の輪を完成させるためのシステムを作りたいという。
「パートナー企業と組んで、使用済みの生理用品を処理し、肥料やバイオマス燃料として活用できるようにしたいと考えています。ある程度ボリュームが確保できれば、地域ごとにリサイクル拠点を設けられるのではないかと思います」
昨今では循環型グリーンシティの構想について聞くことも増えたが、製造業もそれを構成する一部分として機能すべきだとカゲツ氏は考える。壮大なビジョンにも思えるが、彼女は前向きだ。多くの企業がリサイクル可能な製品を作るようになれば、それは可能になる。
「私たちだけで実現できると思っていません。みんなで力を合わせて、やっていきたいです」
解決指向の対話を展開する「マジュリス」。ドバイエキスポで宇宙をテーマにトークイベントを開催
マジュリスで開かれたトークイベント「Women’s World Majlis」の様子。
© Victor & Simon
ドバイ エキスポ2020とカルティエのコラボレーションによる「ウーマンズ パビリオン」。館内に設けられた「マジュリス」と名付けられたスペース(アラビア語で、人が集い問題を話し合う場所の意)では、エキスポ期間中にさまざまなテーマでトークイベントが開催されています。
2021年10月17日~10月23日のドバイ エキスポ2020「スペース ウィーク」には、マジュリスで開かれたトークイベント「Women’s World Majlis」に元JAXA宇宙飛行士で、内閣府宇宙政策委員会委員の山崎直子さんが登壇しました。
「Mission Equality―宇宙における機会均等の拡大―」をテーマに、宇宙分野の第一線で活躍するチェンジメイカーたちが、地球のSDGs解決の観点から見た宇宙研究や、新しい宇宙市場で女性が平等な機会を得るための課題など、さまざまな切り口から活発な議論を交わしました。
元JAXA宇宙飛行士で、内閣府宇宙政策委員会委員の山崎直子さんが、宇宙における機会均等の拡大について語った。
© Victor & Simon
山崎直子さんのように、先駆的な女性たちが宇宙探査における偉業を達成してきた一方で、宇宙分野でジェンダー平等が実現するまでにはまだ長い道のりがあります。
さらに宇宙は探査ミッションにとどまらず、驚くべき経済的機会を提供する源泉として注目を集めています。小惑星の探索や宇宙旅行、より経済的かつサステナブルなロケットの開発、ブロードバンドインターネットを提供する衛星など、大きな発展の可能性を示しているこの分野で、ジェンダーに公平な宇宙セクターを育成することが重要になっているのです。
この討論では、ジェンダーバイアスの認識や、幼少期からの宇宙教育の必要性、ロールモデルの大切さなど、課題解決に向けたさまざまなアイデアが登壇者たちから上がりました。
[ Cartier Women's Initiative ]取材協力:Cartier Women’s Initiative, Zebras & Company
※MASHING UPでは、ジェンダーレンズ投資に関する記事でもクリスティン・カゲツさんを取り上げています。こちらもチェック。
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