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Conference:MASHING UP vol.5

義務感よりもワクワク感で。実践者たちが語るリジェネラティブなビジネスとは

登壇風景

画像:MASHING UP

さまざまな業界で、サステナビリティの重要性が叫ばれているなか、海外ではさらに一歩進んだ、リジェネラティブなビジネスに対する期待が高まっている。次世代に向けて、続々と世界のグローバル企業が参入するリジェネラティブビジネスに、日本の実践者たちはどう取り組んでいるのだろう。

2021年11月19日に開催したMASHING UPカンファレンス vol.5では、「リジェネラティブなビジネスとは」と題したトークセッションを行った。

登壇者はサーキュラーエコノミー先進国のオランダで、関係省庁・企業・自治体向けの視察イベントを手掛け、現在は京都を拠点に企業のアドバイザリー・外部顧問を務めるCircular Initiatives&Partners 代表の安居昭博さん、ラッシュジャパンのブランドコミュニケーション マネージャー 丸田千果さん、環境に優しいお菓子作りを目指す、ユートピアアグリカルチャー プロデューサーの阿座上陽平さん。これからの社会・事業・暮らしのデザインを手がけるいきものカンパニー 代表取締役の菊池紳さんをモデレーターに、それぞれが取り組むリジェネラティブなビジネスや、目指す姿を語り合った。

原材料の調達は、「渡り鳥のように」

丸田さん

ラッシュジャパンの丸田千果さん。量り売りのソープやパッケージフリーの入浴料の購入を通して、消費者が持続可能な"コスメティックレボリューション"に参加できるビジネスモデルを目指す。

撮影:俵和彦

リジェネラティブ(Regenerative)とは、「再生」「繰り返し生み出す」といった意味を持つ言葉だ。日本でようやくサステナビリティが普及しつつある今、世界はなぜリジェネラティブなビジネスに移行しようとしているのか。

イギリス発祥のフレッシュハンドメイドコスメブランド、LUSHでは、同社がキッチンと呼ぶ神奈川県にある製造拠点で、シェフ(作り手)が、毎朝野菜やフルーツを切りながら、ハンドメイドで商品を作っている。そんなLUSHの信念は、新鮮な原材料を使う、動物実験を行わない、『私たちの商品に記された作り手の顔が、お母さんを誇らしい気分にさせると信じています』や『ハッピーな人がハッピーなソープを作る』など。さらに丸田さんは、「2016年に行われたイギリスのヨーロッパ連合離脱を問う国民投票の結果をきっかけに『誰もが世界を自由に行き来し、その自由を楽しむべきである』という条文も加わりました。これは、お客様への約束事でもあり、私たちが進むべき方向性でもある」と語る。

またLUSHは、商品開発、原材料の仕入れ、製造、出荷、販売とすべて自社で手がけているところも大きな特徴。

LUSHが原材料の調達において“リジェネラティブバイイング”を始めたときにイメージしたのは、『渡り鳥』です。人間が作った国境にとらわれることなく、餌の確保や繁殖のために渡りのルートを選ぶ、豊かさの象徴である渡り鳥を追い始めました。たどり着いたその土地で何かLUSHが原材料を調達させていただくことで、環境や周囲の地域コミュニティの再生など、ポジティブな影響につながることを目指しています」(丸田さん)

環境へ配慮した、持続可能なお菓子作り

阿座上さん

阿座上陽平さんが属するユートピアアグリカルチャーでは、北海道の日高市で70頭の牛の放牧を行う。そこで採取した牛乳から作られるお菓子「チーズワンダー」は、発売後瞬く間に完売する人気商品だ。

撮影:俵和彦

牛が排出するメタンガスや二酸化炭素は地球温暖化を悪化させる原因の一つだと、国内外で厳しく指摘されている。酪農業界の脱炭素化は大きな課題であり、それに立ち向かう国内のプレイヤーの一つが、2021年の2月にスタートしたユートピアアグリカルチャーだ。

地球と動物、人に優しい牧場運営を目指すお菓子ブランドである同社が注力するのは、北海道での放牧。そこで採取する牛乳を使用して、お菓子「チーズワンダー」を製造、オンラインで販売している。ブランドマネージャーを務める阿座上さんは、牧場運営とお菓子作りを結びつけたきっかけを語った。

「酪農ではどうしても牛のおならやゲップからメタンガスなどが排出されてしまいます。自分たちで放牧を行うことで、地球にも人にも優しいビジネスモデルを作りたかった。まだ全てが実験段階なので、北海道大学の内田義崇准教授に、データ収集や実践理論に関するアドバイスをもらいながら、日々試行錯誤しています」(阿座上さん)

菊池さんは、「畜産や農業業界においても、サスティナビリティに対する意識は高まっている。メタンガスの排出に対する指摘も厳しくなっているなかで、ただ批判に対抗するわけではなく、実験をしながら解決に向けて取り組んでいるのは素晴らしい」と称賛した。

地域の資源を使い、地域に還元する

安居さん

Circular Initiatives&Partners の安居昭博さん。オランダでサーキュラーエコノミーの実践方法を学び、現在は京都を拠点に企業のアドバイザリーを務める。

撮影:俵和彦

Circular Initiatives&Partnersの安居さんは、アドバイザリーや外部顧問として、企業のリジェネラティブな取り組みを支援する立場だ。現在注力するのが、熊本県の黒川温泉が取り組む完熟堆肥によるコンポストプロジェクトだ

「旅館から出る生ごみや地域の落ち葉やもみがらを完熟堆肥にし、美味しい野菜づくりや樹木の再生につなげる取り組みを、旅館組合や農家さん、行政、地元住民主体で進めています。また、私が別で関わっている建物の分解・資材再利用可能な木造建造物のプロジェクトでは、接着剤の代わりに金具やビスを使うことで解体の際に取り壊すのではなく、分解できるアプローチをとっています。活用されていない人工林を使い、その分その土地に本来生育していた樹木を植樹することで、環境再生につなげています」と、安居さん。

また、リジェネラティブな活動において大切にしていることも語られた。

「これまでは自然界から資源を一方的に享受するだけでした。リジェネラティブなビジネスにおいては、そういったマイナスの影響をゼロにするだけでなく、いかに人間が環境に対してポジティブな影響を与えていくかが大切。取り組みを通じて、マイクロプラスチック問題や、水質汚染や土壌汚染など、企業が活動しているフィールドの自然環境を再生させていきたい」(安居さん)

リジェネラティブな状態とは?

菊池さん

いきものカンパニーの菊池紳さん。農業を中心に、サイエンティフィックに地球と人をつなぐ活動を続ける。

撮影:俵和彦

セッションの後半では、「それぞれのプロジェクトが目指す、理想的なリジェネラティブな状態とは」をテーマにクロストークが展開された。阿座上さんが挙げたのは、「他の人も参加できる仕組みをつくること」。

放牧がなかなか普及しない一番の理由は、利益につながりにくい点だという。採れる乳量が少ない場合、直接販売できる販路がないとビジネスとして成立しにくいため、ユートピアアグリカルチャーのように、原料調達から製造販売までを一貫して行うD2Cのスタイルのブランドへの期待が高まる。同社が現在のビジネスモデルでより成功することで、放牧の担い手も増えるはずだ。

また、LUSHが掲げていることは、“Leaving the world lusher than we found it.(地球をよりみずみずしく、豊かに)”。

「例えば取り組みの一つが、絶滅危惧種のイヌワシがずっと住み続けられる環境を守るために、森を手入れすること。その際に、出た木屑を活用してギフトペーパーの『イヌワシペーパー』を作りました。しかし、そういった活動も始めてから数年経ってやっと社内で認知されてきた程度。顧客も、全員がリジェネラティブバイイングに関心があるわけではないので、時間をかけて関係性を築くなかでそれぞれの機会で興味を持っていただけたら嬉しい」(丸田さん)

これには菊池さんも、「コミュニケーションは、長い時間を要する。周囲との関わり方が重要なのですね」と頷く。

大切なのはプレイヤーと気づきを増やすこと

登壇風景

左からいきものカンパニーの菊池さん、ラッシュジャパンの丸田さん、ユートピアアグリカルチャーの阿座上さん。

撮影:俵和彦

今後企業がリジェネラティブなビジネスに舵を切る上で、どのような情報や人材が必要なのだろう。阿座上さんは、「手を取り合えるプレーヤーが増えること」だと語った。

「農業とテクノロジーをつなげるなど、他の分野と結び付けてくれるプレイヤーが増えると、もっとできることがあるはず。関わる人が増えることで、より多くの人が取り組めるようになっていくだろう」(阿座上さん)

一方で、これらの先進的な取り組みは前例も少なく、その効果はこれまでの経済合理性という評価軸では測りにくい。より多くの企業が参入するためにはどのような視点が必要だろうか。海外の事例を多く知る安居さんはこう語る。

「コンポストプロジェクトを通して気づいたのは、ステークホルダーに上下関係が発生しないということ。今私たちが直面している環境問題という前代未聞の課題に対しては、誰もがチャレンジャーになる必要があり、アムステルダムでは皆が『Learning by doing 』、つまりやりながら学ぼうという姿勢で取り組んでいました。日本でも、義務感よりもワクワク感を大切に、失敗してもまたチャレンジしようという空気感や仕組みを作っていければと思います」(安居さん)

リジェネラティブな活動には、まだ明確な答えがない。しかし、未来のためには取り組まなければいけないと、多くの企業が気づき始めている。「今日のお三方に共通するのは、まずは目の前の環境を観察し、丁寧にリジェネラティブな取り組みを行うという姿勢」と菊池さん。実践者たちの活動に学びながら、自分たちに何ができるのか、試行錯誤してみたい。

集合写真

撮影:俵和彦

MASHING UP conference vol.5

リジェネラティブなビジネスとは

安居昭博(Circular Initiatives&Partners 代表)、丸田千果(ラッシュジャパン ブランドコミュニケーション マネージャー)、阿座上陽平(ユートピアアグリカルチャー プロデューサー / Zebras and Company 共同創業者)、菊池紳(いきものカンパニー 代表取締役)

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中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

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