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- ブロックチェーンで命を救う物流システムを。ナイジェリア企業LifeBankの願いと挑戦
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2016年にナイジェリアで創業したライフバンク(LifeBank)は、各地の血液センターにある輸血用血液を医療機関に届けるサービスとして始まった。先端技術を使って在庫状況を常時把握・管理するシステムを運営し、24時間体制でオンラインと電話で注文を受け付けている。サービス圏内ならどの病院でも50分以内に配送可能だという。
アフリカ3カ国で展開する医療物流企業ライフバンクの創業者でCEOのテミー・ギワ=トゥボスンさんは、ナイジェリア生まれ。15歳の時に家族でアメリカに移住し、カリフォルニア州にあるミドルベリー大学で国際経営学の修士号を取得した。もともとは国連の職員になりたいと考えていたが、大学院生の時にナイジェリアに一時帰国して、医療機関でインターンシップを経験したことから、医療分野で働きたいと思うようになった。卒業後はWHOやアメリカの医療機関でキャリアを積み、ナイジェリアに帰国してからは、ラゴス州政府の公務員として医療機関を含む施設管理の仕事に携わった。
社会や環境にインパクトを与える女性起業家の支援を目的に、ラグジュアリーメゾンのカルティエが2006年に創設した「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」は、世界中から応募者を集めるアワードや教育プログラム、コミュニティの運営などを行う。アワード受賞者のプロフィールや事業を紹介する本連載。4回目となる今回は、2020年度サハラ以南のアフリカ地域の優勝者ギワ=トゥボスンさんにフォーカスをあてる。
必要な物資がないことで失われている命
ライフバンクの創業者・CEOのテミー・ギワ=トゥボスンさん。
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ギワ=トゥボスンさんが会社を立ち上げようと思ったきっかけは、分娩時の異常出血で多くの女性たちが命を落としている事実を知ったことだった。分娩後出血は、母体の死亡原因として世界でもトップ。特に発展途上国では輸血用の血液が手に入らないために、本来なら助かるはずの命が失われている。
出血がひどい場合、20分から2時間の間に死に至る。早急に対処しなければならないが、輸血をしたくても、病院に患者と同じ血液型の在庫がないことがある。何軒もの血液センターに在庫を問い合わせている間に、または渋滞で配送に手間取っている間に手遅れとなることも少なくない。
このように血液が不足している病院がある一方で、せっかく献血された血液がセンターの保管棚で眠ったまま期限切れになり、廃棄されてしまうということも起きていた。
「病院側と血液センターのそれぞれが情報を共有できるプラットフォームがあればいい。そしてそのプラットフォームを介して適切な血液を、オンタイムで、良い状態で患者に届けられるようにしたいと考えました」
点と点を結び、ネットワークを構築
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出血多量で亡くなる人を減らしたい。そして、血液が無駄にならないよう確実に病院に届くようにしたい。この2つの課題を解決しようと考え、ギワ=トゥボスンさんはライフバンクを立ち上げた。だが、最初は血液センターから協力を得るのに苦戦したという。
「まだ何者でもない私たちに、なぜ在庫情報を提供しなければならないのか、という感じでした。諦めずに何度も話を聞いてもらい、やっと大手の血液センターを口説き落とすことに成功したんです。それからは、『あそこがやっているのなら、我々もぜひ』という形で流れが変わっていきました」
ある程度まとまった分量の情報が集まった段階で、今度は病院側への営業を開始した。「数十件の血液センターの在庫状況を把握している」というと、興味を持ってくれた。最初に供給側との関係を築いていたので、病院から契約を取るのは比較的スムーズだったという。
ライフバンクは、今ではナイジェリア全土で展開しており、国外ではケニア(ナイロビ)とエチオピア(アディスアベバとアダマの2都市)にも進出した。これまでに1,100以上の病院がライフバンクのサービスを利用している。
国外進出が可能になったのは、カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)に依るところが大きいと、ギワ=トゥボスンさんは言う。
「以前はナイジェリア国内だけ、それも2つの地域に限られていました。もっと多くの地域に拡大したかったけれど、そのノウハウがありませんでした。CWIのプログラムでは、国境を超えてビジネスを展開する方法を集中して学び、リスクを最小限に抑えた成長プランを立てられるようになりました」
最新技術を活用したシステムを
ITシステムを活用することで、スピーディな対応を可能にしている。安全性が必要な血液管理にはブロックチェーンも使っている。
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現在は血液だけでなく、医療用酸素やPPE(マスクや手袋など、感染予防のための個人用防護具)、ワクチンも扱っている。これらはライフバンクのアプリを通じて簡単に在庫検索や発注が可能だ。また血液センターと提携し、人々に定期的な献血を促すシステムも運営している。
ライフバンクはさらに、血液を管理するための仕組みも開発。改ざんができないブロックチェーンを活用したソフトウェアと、独自開発したハードウェアを組み合わせ、安全性を担保している。
「血液の入った袋それぞれに対して、採取、検査、保管など全ての工程を、誰がいつ行ったのかがブロックチェーンに記録されます。血液が届けられると、病院側はそれをスキャンして、来歴を確認することができます。このシステムは、私たちの会社にとって非常に重要なものです」
医療物資を安全かつスピーディに届けるために
渋滞のひどい大都市では2輪バイク、中規模都市では3輪バイクを。ライフバンクの物資は様々な手段でアフリカ各地に届けられている。
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病院へ物資を運ぶ手段はさまざまだ。渋滞のひどい大都市では2輪バイクを、中規模都市では3輪バイク、地方の病院へは悪路を越えていけるトラックを使っている。また、ドローンやボートを使うこともある。血液の配送には、WHOの基準を満たしたコールドチェーン(温度管理を徹底した物流技術)を実現している。
血液や医療用酸素、ワクチンなどの輸送には細心の注意が必要だ。配送スタッフについては運転技術はもちろん安全ガイドラインの遵守など、通常の荷物の配送よりさらに高い質が求められる。
「多くのモビリティ企業とは違って私たちは、単発で仕事を請け負うギグワーカーを使いません。配送スタッフはみなライフバンクの正社員で、各種保険を始めとする福利厚生を充実させています。そうすることで、彼らはチームの一員として会社への帰属意識を持ってくれます。また、長く働いてくれるという前提で、しっかりとした訓練もできます」
これは実のところ、難しい決断だったとギワ=トゥボスンさんは言う。スタートアップは予算の都合からギグワーカーに頼る傾向があるが、ライフバンクはそれをやらないと決めた。配送スタッフにお金と時間を投資し、プロとしての誇りを持って働いてもいたかったからだ。
配送ボックスなどの機材も改良を重ねてきた。「昨年からはMSDというアメリカの製薬会社の協力を得て、システムに磨きをかけました。今では世界のどの地域でも通用する水準に達しています」
新型コロナウイルスの感染拡大では、ライフバンクも対応に追われた。医療用酸素に関してはサプライヤーから十分な量が確保できず、自社でナイジェリアに酸素工場を建てたという。また、感染拡大の初期にはマスクや手袋などのPPEが圧倒的に不足し、手配に奔走した。さらにロックダウン中は、スタッフ一同が会社で寝起きできる隔離体制を作り稼働していたという。
命を救う物流システムを世界に広げていきたい
アフリカ各地にライフバンクの拠点を広げ、いずれはインドや南米などにも進出していきたいと、ギワ=トゥボスンさん。
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ギワ=トゥボスンさんは、新型コロナウイルスや、エボラ出血熱の流行など、事あるごとにしっかりした医療システムやインフラの重要性を痛感してきた。そして、その構築の一端を担ってきた。
血液、酸素、ワクチン、PPEなど、必要な物資が必要な時に入手できないというのは、医療インフラが十分に整っていない発展途上国に共通する問題だ。これを解決するために、アフリカ各地にライフバンクの拠点を広げ、いずれはインドや南米などにも進出していきたいと考えている。
「私たちのミッションは命を救うことです。病院に本来ならあるべき物資が不足していることが原因で命を落とす人がいなくなるようにしたい。まだまだ、やるべきことが山積みです。予測分析システムの構築や、サプライチェーンの増強や効率化も必要です。ですが、防ぐことのできる死をなくすために毎日努力を続けています」
「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」
ウーマンズ パビリオンを支える4名のアーティスト
ドバイ エキスポ2020とカルティエとのコラボレーションによって実現したウーマンズ パビリオンは、世界中の女性たちが社会を前進させるために尽くしてきた取り組みを称え、重要でありながらも、ときに軽視されてきた経緯などの歴史的な背景もあわせて取り上げています。 今回はこのウーマンズ パビリオンに貢献した4名のアーティストを紹介しましょう。
左:レバノンの映画監督ナディーン・ラバキーさん(© Vivian Killilea)、右:インテリア・アーキテクトのローラ・ゴンザレスさん(© Matthieu Salvaing)
まず1人目は、アカデミー賞外国語映画賞部門でアラビア人女性監督として初めてノミネートされたナディーン・ラバキーさん。パビリオンの序章となるセクションで上映された、自身の監督映像作品『Children of Wonder』では、その作品の子どもたちの目線からパビリオンの目的を表現しています。この作品では、若い女性や少女が夢を叶え、人生を切り開けるようにすることが、社会の進歩を促し、より平等な世界の実現につながるということを伝えています。
インテリアアーキテクトのローラ・ゴンザレスさんは、来場者たちがまず目にするアート作品であるファサードの上部を手がけました。ムシャラビエ モチーフにインスピレーションを得て、ドバイ出身のアーティスト、コロウド・シャラフィさんとフランス人の照明デザイナー、ポリーヌ・ダヴィドさんとのコラボレーションで完成させたこの作品では、イスラム芸術の美しさを称えています。
左:アーティストのエル・シードさん(© Christina Dimitrova, with the courtesy of El Seed)、右:同じくアーティストのメラニー・ロランさん(© Matthew Brookes)
3人目に紹介するのは、グラフィティなどを手掛けるチュニジア人アーティストのエル・シードさんです。彼はパビリオンのファサードに作品を提供しました。『Like her』と題されたこの作品に、カラフルなアクセントを効かせたアラビア語のカリグラフィを用いて、ネパールの女性コミュニティへオマージュを捧げました。この女性たちは、2015年のネパール大地震の後、自らの家や生活を再建するために団結した、行動力溢れるパワフルな人々です。
ウーマンズ パビリオンの2階部分に広がる3つの特徴的な空間。それらを手掛けたのが、4人目に紹介するメラニー・ロランさんです。多彩な顔を持つアーティストである彼女は、マルチメディアのインスタレーションやバーチャル映像や音楽を通して、女性のもつ神秘性やパワー、光などを表現。これらの作品には彼女の女性に対する敬意が込められています。
こうしたアーティストたちのビジョンが、ウーマンズ パビリオンの「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」というメッセージに、活力と新たな展望を与えています。
取材協力:Cartier Women’s Initiative, Zebras & Company
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