画像:MASHING UP
ジェンダー平等の重要性が叫ばれて久しいが、一向にジェンダー・ギャップ指数のワーストレベルから抜け出せずにいる日本。なぜ日本は主要先進国の中でも、ジェンダーイクオリティがなかなか進まないのだろうか。
2021年11月19日に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.5では、「ジェンダーイクオリティはどこまで進んだのか」をテーマに、社会学者・東京大学名誉教授の上野千鶴子さん、ジェンダー平等を企業に実装するためのコンサルティングを行うThink Impacts 代表取締役の只松観智子さん、IT分野のジェンダーギャップの解消に取り組む非営利法人Waffle Co-Founder & CEOの田中沙弥果さんが登壇。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表の清田隆之さんがモデレーターを務めた。
IT業界には明るい兆候が。一方でD&I担当者の孤独も課題
Waffle Co-Founder & CEOの田中沙弥果さん。「ジェンダーイクオリティの重要性を説く割には、権力の座から降りようとしない中高年男性にモヤモヤすることもある」と活動を通して感じる、率直な気持ちを吐露する一面も。
撮影:S.KOTA
セッションの冒頭で、上野さんが2021年10月に実施された第49回衆議院議員総選挙の結果や、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の女性蔑視発言について言及し、日本のジェンダーイクオリティの厳しい現状を改めて認識したところからトークはスタート。
こういった現状を前進させるには、どのようなアプローチが必要なのだろう。Waffle Co-Founder & CEOである田中沙弥果さんは、女子中高生向けにSTEM教育を行い、IT分野のジェンダーギャップの解消に向けた取り組みを行う。
「IT分野で活躍する女性を増やすには、大学の理工系学部の女子学生比率を上げるために女子中高生の支援や教員の意識を変えるだけでなく、そもそもの日本の社会構造や仕組みから変えなければならない。そのためにも、政策提言や企業との取り組みも積極的実施しています」(田中さん)
また田中さんは、Waffleを設立してからこの2年間で、IT業界を中心に企業側にもポジティブな変化が起こっているのを感じるという。これまでWaffleはCSRに注力している外資系企業からの支援が多かったが、2021年からは日系企業も続々参画してきたのだ。
「社内の女性技術者がとても少ないことに、危機感を抱く日系のIT企業が増えています。Waffleには、少子高齢化時代の人材採用や、労働人口が縮小している中で、いかに母数の少ない女性技術者を採用・育成し、定着してもらうかなどについての悩みも寄せられます。また、そもそも女性技術者が少ないのは、中高生の教育がボトルネックであることを知り、一緒にできる取り組みはないかと、支援を申し出てくれる企業も増えています」(田中さん)
明るい兆候が見えているIT業界だが、一方で田中さんが危惧していることがある。それは、日本企業でみられるという、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)担当者の孤立だ。D&Iの重要性について理解している人が当の担当者であり、社内から理解や合意を得にくいというケースは少なくないという。田中さんはこの現状を打破するため、D&I担当者のためのコミュニティ作りも検討しているという。
D&Iの正のサイクルと、負のサイクル。2極化が進む日本企業
Think Impacts 代表取締役の只松観智子さん。「変わりたいけれど変われない旧態依然とした企業には、とにかく外圧が必要」と強調した。
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日本の経済界でジェンダーイクオリティを実現させるには、企業の意思決定層におけるジェンダー比率や考え方から変えていく必要がある。その変革をサポートするのが、Think Impactsだ。同社の代表取締役であり、30% Club Japan創設者でもある只松観智子さんは、ビジネスコンサルタントとして感じる現状を概説した。
「(株価指数の一つの)TOPIX100を構成する企業の、2018年以降の取締役会における女性比率は、それ以前と比較して大幅に伸びている。一方で、上場企業全体を見るとそこまで伸びていない。データだけでなく、実際に色々な企業トップの方々と話していても、二極化が進んでいると実感します」(只松さん)
只松さんは、この現象を「多様性推進における正のサイクル/負のサイクル」と形容する。正のサイクルが循環している企業では、多様性実現に向けての改革が自発的に進められる。一方で、負のサイクルに陥っている企業では、多様性を排除し続けるサイクルが回ってしまっているのだという。
「今後重要とされるのは、国内で圧倒的に多い、負のサイクルから抜け出せない企業の変革。これらの企業はガバナンスが効かず、リスク管理機能が低下しているなどの問題を抱えている。
また、多様性が欠如している意思決定機関は、同質の人とのみ議論をし、お互いを肯定し合いがち。そうすると、自分の決断や意見に皆が同意するので、グループとしての決断に強い自信を持ち始める。その結果、所属する集団に対する過大評価と、周りに対する過小評価につながり、色々な警告や忠告を無視するようになる。これが多様性に欠ける集団の心理です」(只松さん)
負のサイクルに陥った企業に必要なのは、一歩踏み込んだ施策だという。具体的には、まずトップが自ら変わっていくこと。そして機関投資家やメディア、法整備などによる外部からのプレッシャーだ。
個人の“恋バナ”とジェンダー問題はつながっていた
清田さんは双子の娘の誕生を機に、より真剣にジェンダーイクオリティの未来について考えるようになったという。
撮影:S.KOTA
日常でジェンダーによる考え方の違いを実感するシーンとして、身近なものの一つが恋愛だろう。学生時代から20年間にわたって女性の恋愛相談に乗ってきたという恋バナ収集ユニット・桃山商事代表の清田隆之さんは、個々の“恋バナ”とジェンダー問題が、地続きになっていることを実感したという。
「最初は『酷い人だな、可哀想だな』という気持ちで恋愛相談を聞いていたのですが、段々と『同じような話ばかり聞くなあ』とか、『自分自身も同じこと言ってしまっているなあ』と、共通して感じる問題があった。
さらに上野さんのご著書では、恋愛相談の中で見聞きしてきた問題構造が解説されており、今まで恋愛相談で聞いていた悩みは、完全にジェンダー問題と地続きだったと気づいた。ただの恋バナ集めだと思っていたが、非常に根の深い問題だと感じるようになりました」(清田さん)
清田さんは、異性愛者のマジョリティ男性としての視点から、ジェンダー問題を自分事として捉え言語化する活動も行っている。先日、男性たちへのインタビューをまとめた著書を出版した清田さんは、その中で様々な男性の本音に触れる機会があるという。
「ジェンダー問題と言われても『よくわからないし、怖い。難しそう』などと、完全に他人事として自分から切り離している人もいれば、『むしろ男の方が生きづらい』と感じている人も。そして、本当はジェンダー問題にとても興味があるけれど、何か発言すると、世間からバッシングを受けそうで怖いとか、自分の過去を振り返ってみると偉そうなことを言えないと、過剰に自己防衛モードになっている人など様々な受け取り方がある」(清田さん)
インタビューを通して、マジョリティ男性の間では、まだまだジェンダー問題が社会構造上の問題として捉えられていないと感じた、と清田さんは語った。
日本が“泥舟”から抜け出すために
クロストークでは、上野さんから他の登壇者に対して叱咤激励の言葉が。
画像:MASHING UP
セッションの後半では、上野さんから現状に対する厳しい指摘が飛び出した。
「只松さんの話を聞いて、私大笑いしちゃった。取締役会で女性比率が増えていると言っても、社外取締役が増えているだけなんじゃないですか? 自社の従業員の中から、取締役になるような女性の人材を育てられなかったってことを、世間に公言しているようなもの」(上野さん)
続いて上野さんは、田中さんの事業について高く評価しながらも、“女性のゲットー化”の危険性についても指摘。「女性をD&I担当者という名目的役割に隔離して、閉じ込めておくという現象が起こっている」(上野さん)と、そのリスクを危惧した。
また、前述の“負のサイクル”から抜け出せない多くの日本企業にも言及し、日本社会を泥舟のようだと形容した上野さん。泥舟状態の日本を復活させるためには、どうすれば良いのだろうか。日本の未来を担う中高生向けにIT教育を実施している田中さんからは、“少しでも声が届きやすいところに、地道に意見を言い続ける”という提案が。
「各省庁の方々は、真摯にパブリックコメントを見ていて、若い世代の意見を反映させようと努力してくれている。選挙だけでなく、パブリックコメントに意見を提出するだけでも、一つの行動になる。ジェンダーイクオリティを少しでも前に進めるためには重要です」(田中さん)
「中には、“泥舟”から逃げたくても逃げられない人もいる。そうなると、“無理心中”させられるんですよ。そのためにも、この状態を変えるしかない。女性の有権者にも、今の社会を作った責任があると、前回の選挙結果を見て感じます。きちんとその責任を感じ、行動を起こして欲しい。女性にもどんどん政治家になってほしい」(上野さん)
一人ひとりがアクションを積み重ねよう
上野さんから愛ある鋭い指摘が飛び交い、白熱したトークセッションだった。
撮影:S.KOTA
ジェンダーに関するネガティブなニュースは日夜溢れており、ジェンダーイクオリティの現在地点を考えると絶望してしまいそうな気持ちにもなる。しかし、セッションの最後に「“わきまえない女”になってください」(上野さん)、「諦めるのでなく、どうしたら可能になるのかと、考え方を変え、自分にできるアクションを探して欲しい」(只松さん)と語られたように、一人ひとりが違和感や問題に対して声をあげること、その積み重ねが、確実に社会を良い方向へ導いてくれるはずだ。
撮影:S.KOTA
MASHING UP conference vol.5
ジェンダーイクオリティはどこまで進んだのか
上野千鶴子(社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長)、只松観智子(Think Impacts 代表取締役)、田中沙弥果(Waffle Co-Founder & CEO)、清田隆之(桃山商事 代表)
このトピックと関わりのあるSDGsゴールは?

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