小学館集英社プロダクション(以下、ShoPro)の李 静佳さんは、新卒で入社したゲーム会社から前職の広告代理店まで、マーケティングに関わる業務に携わってきた。そんな彼女がShoProで挑戦したのは、アメリカの関連会社への出向。渡米までの軌跡、現地での仕事、グローバルに働く魅力について聞いた。
李静佳(Shizuka Lee)
2011年、新卒でゲーム会社に入社。2社目となる広告代理店でもマーケティングに携わる経験を重ねる。2017年、小学館集英社プロダクションに入社。入社直後はプロモート事業部で、イベントをプロデュースする仕事に従事。2019年よりアメリカ・サンフランシスコにある関連会社・VIZ Media,LLCに出向。アニメーションライセンシングスペシャリストとして、小学館・集英社系のアニメをはじめおよそ20作品のライセンス業務を担当している。
ファンの喜ぶ姿が原動力。異国の地で挑戦する、日本アニメのプロモート
現在(2021年11月時点)、アメリカ・サンフランシスコにある関連会社、VIZ Media,LLCに出向している李さん。アニメーションライセンシングスペシャリストとして、小学館・集英社系のアニメをはじめおよそ20作品のライセンス業務を担当している。
出向先のVIZ Mediaにて、同僚たちと(中央が李さん)。
「アニメの製作委員会の海外窓口企業と取り交わす契約やディール監修提出、マーケティング関連の調整、新作オファーなどを担当しています。ライセンス担当は、ローカライズ、セールス、マーケティング、商品化、監修、イベント、法務など、社内のほとんどの部署と一緒に仕事をする機会があり、日米両方のアニメビジネスについて幅広い知識が求められます。市場もプレイヤーもすごいスピードで変化していくので、勉強の毎日です」
出向以来、さまざまな案件に携わってきたなかで、李さんがもっともやりがいを感じているのは、アメリカのアニメファンたちが喜びを素直に大きく表現する姿だった。
「取り扱っているのが、日本でもアメリカでもトップクラスの人気作品なので、ファンの歓喜を目の当たりにできることが嬉しいです。
たとえば2021年10月、2年ぶりにニューヨーク・コミコンが開催されたときのこと。ブースでアクティビティのガイドをしたんですが、アメリカのファンの方がめちゃくちゃ喜んでいるのが伝わってきて、私もすごく楽しくなりました。
日本とアメリカでは、作品に接する機会に差があることも影響しているのかもしれません。日本では、アニメはテレビで無料視聴できるし、漫画も購入しやすい。グッズ探しにもそれほど苦労しません。一方アメリカでは、アニメを見るには基本的にお金がかかるし、漫画やグッズの品揃えも日本ほど充実していません。だから、ちょっとしたことでも大喜びしてくれるんですよね。
私がアメリカに来てから初めてのコンベンションだったんですが、本当に作品が海を越えて愛されているんだなと実感できました。そしてそこに自分が関われている事が誇らしくて、参加してよかったなと思いました」
李さんは、現在の自身の仕事に大きなやりがいを感じていると続ける。
「幼少期から漫画やアニメ、ゲームが大好きで、小学生のころは毎月お小遣いをもらうとそのままゲームを買いに行き、財布を空にしていました(笑)。そんな私にとって、好きなアニメを海外に広める今の仕事は“夢の職業”なんです」
良いものをお客様にどう届ける? 夢中になったマーケティングの仕事
漫画やアニメが大好きだった、幼少時の李さん。
幼いころから漫画やアニメ、ゲームが特別な存在だった理由は、家庭環境にあると李さんは語る。
「『少年ジャンプ』が大好きだった母の影響が大きく、『ドラゴンボール』が全巻そろっているような、漫画がとても身近な家庭で育ちました。人生のターニングポイントは、『ポケットモンスター』の発売。私はちょうど初代ポケモン世代にあたり、ゲーム、アニメ、漫画とポケモン尽くしの小学生時代でした」
「大好きなゲームに関わる仕事がしたい」と思った李さんは、新卒でゲーム会社に入社。そこで、マーケティングの醍醐味を体感することになる。
「自分が携わったゲームが店頭に並んだ時、購入してくださるお客様の存在や、デザインの過程で苦労したポスターを喜んでくださるファンの姿、『おもしろかった』という友人の感想など、すべてがやりがいになりました。デザインプロセスや販促物をどう活用するか、などの専門知識を得たことも大きいですね。
この経験から、私は『良いものをお客様にどう届けるか?』を考えて、形にしていく仕事が好きだなと気づいたんです。
プロモーションによって、人々が商品をどう受け止めるかは大きく変わります。私自身は、デザインスキルや優れたアイデアを持っているわけではありませんが、自分が良いと思うものをもっともっとたくさんの人に届けたいという気持ちは人一倍あります。
プロダクトを広めるプロセスに携わり、『こんなふうにアプローチしたらもっと効果が出るのではないか?』と試行錯誤しながら形にする。その役割が自分には合っていると実感しました」
その気づきにより、良いものをより多くの人に届けるためのマーケティングスキルを高めようと考えた李さん。ゲーム会社から広告代理店への転職を決断した。
「アイデアを出し、メーカーにプレゼンし、実現していくという外からのアプローチを試してみたかったんです。代理店のクライアントは多種多様なので、企業ごとに社風も商品もマーケットも異なります。おかげで広い視野を身につけることができました」
そんな代理店時代、イベント会場などでShoProと仕事をともにする機会があったという李さん。社員同士の仲の良さや、何でも話し合える和やかな雰囲気に惹かれ、ShoProへの入社を決めた。
「入社後はこれまでの経験を生かして、プロモート事業部でイベントに関わっていました。本格的にイベントをプロデュースする側にまわるのは初めてで、分からないことも多かったのですが、ありがたいことに大きなプロジェクトに関わることが出来て、何もかも刺激的な経験でした。
どうすればいい展示になるのか、どうすればたくさんの人に喜んでもらえるのか、毎日頭を悩ませていましたが、本当に濃密で、自分の可能性を広げることができたと思います。
『良いコンテンツを、イベントという形でお客様に届ける』というテーマの中に、プロデュース、マーケティング、ライセンスなど様々な業務が折り重なって、今までの集大成となる仕事をShoProに入社して経験することができたと感じています。
そんなある時、VIZ Mediaへのグローバル研修制度が始まり、メンバーを公募しているのを見て。すぐに『これだ!』と思って手を挙げたんです」
「冒険」を求めてアメリカへ。文化の違いを経て現地での信頼を掴む
VIZ Mediaにて、同僚たちと。
李さんがVIZ Mediaでの研修を熱望した背景には、大学時代のカナダ留学での経験や、ゲームやアニメの世界観への憧れがあった。
「学生時代は実家に住んでいて、すごく甘やかされているのを自分でも感じていました。そんな自分を変えたいけど、性格的にコツコツ積み重ねて変えていくのは苦手で(笑)。どこか全然違う環境に飛び込むのが合っているのでは、と考えて、留学に踏み出したんです。
カナダで生活するうちに、本当に人格が変わるくらい自分がオープンになっていると気づき、驚きました。日本とはカルチャーがまったく違う世界に身を置くことで、すごく成長できたというか。
私はもともと、ゲームやアニメなどファンタジーの世界観が大好きで、現実とは違う世界での冒険に惹かれるんですよね。留学は、新しい環境でいろんな国の方と一緒に勉強する、私にとっての『冒険』だったんだと思います」
もう一度、あの時のような冒険がしたい——そんな想いを抱き、2019年にVIZ Mediaの一員となった李さん。最初の1年半は研修生として現地でのビジネスを学び、2021年からは正式配属となり、ライセンス業務に携わっている。
「VIZ Mediaがあるサンフランシスコは、アメリカのなかでも特にリベラルで多様性に富んだエリア。どんな人でも受け入れてくれる街というイメージでした。孤独を感じることもなく、友達もすぐできました」
ただ、仕事上では文化や商習慣の違いを痛感したこともあると語る。
「日本ではジョブローテーションを取り入れて、様々な部署を横断して俯瞰的に見られる人材を育もうという傾向が強いと思いますが、アメリカでは、大学で学んだ知識を生かせる職種に就き、そのまま継続するのが一般的。マーケティングを学んだ人はずっとマーケターとして、キャリアを積んでいくんですね。
そんな理由もあってアメリカの職場ではそれぞれの専門性を尊重することがとても大切です。『もっとこうしたら良くなるのでは?』という提言をすることが、必ずしも歓迎されるわけではないんです。しっかり納得してもらわないと、『NO』と断られてしまうことも少なくなくて。
ただ、私自身は取り組むのであればより良いものにしたいと思うタイプなので、異なる立場の人を動かすためにはどうしたらいいのか、より深く考えるようになりました」
シンプルだが、何よりも大切なのは、「やはり信頼されること」という。
「『アメリカ人は表現がストレートだ』というステレオタイプがあるかもしれませんが、ただ日本とはポイントが違うだけで、それどころか日本人よりも小さな表現に敏感です。ただでさえ私は英語のネイティブスピーカーではないので、日頃の話し方や言葉選び、伝え方について心配りをしながら、ライセンスのスペシャリストとしての立場を確立するために努力をしています。
もちろん私自身もしっかり専門性を高める必要があるので、英語のライセンス契約書と毎日格闘しつつ勉強の日々です。また、とにかくアニメをたくさん見て研究することも仕事のひとつです。最近では、ライセンスや日本との交渉事について『シズカがそう言うのなら間違いないね』と言ってもらえるようになってきたので、嬉しい変化だと感じています」
日本では得難い、グローバルな経験。ShoProに持ち帰り、伝えたい
制作したアニメのグッズを手に。
アメリカで李さんが実感したもうひとつは、「日米のファンの嗜好の違い」だった。
「アメリカで人気なのは、圧倒的にヒーローもの。強い主人公が派手なアクションで悪を倒す、大胆な展開が好まれますね。また、最近では社会的な背景もあって、強い女性キャラも人気で、日本で好まれる小さくてか弱いヒロインとの対比が面白いです。
『なぜアメリカでは、この作品やキャラクターが人気なのか?』『アメリカ市場ではどういうポイントをアピールしたらいいのか?』『この作品は日本で爆発的に売れたけれど、アメリカでは人気がないのはなぜだろう?』など、興味は尽きないですね。日本とアメリカ、それぞれでどういうマーケティングが最適なのか。常に『なぜだろう?』と思案しながら、『良いものを届けるためにはどうしたらいいか?』を突き詰めていきたいです」
さらに李さんは、VIZ Mediaで得た知識や経験をShoProへどう還元するかを模索している。
「研修生第一号として出向したからには、自分が得たものをShoProへ持ち帰りたいんです。もちろんアメリカのアニメ市場や海外ライセンスの知識もそうですが、グローバルな環境において、文化や商習慣が異なる人にどうアプローチしていくかなど、直接的な実務以外にもここで学んだ多くのことを伝えることができると思います」
アメリカという未知の環境に飛び込み、試行錯誤しながらも新たな知見を身につけた李さん。マーケターとして、グローバルなライセンススペシャリストとして、「冒険」で得たたくさんのお土産を持ち帰ってくれることだろう。
画像提供/小学館集英社プロダクション
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