画像:MASHING UP
新型コロナによるパンデミックを経て、世界は今、大きな変容のときを迎えている。ビジネスにおいては、ポストコロナの姿をいち早く捉えることが、成功につながる大きなカギとなるだろう。
2021年11月19日のMASHING UPカンファレンス vol.5では、セッション「パンデミック後の世界と世界経済を考える」を開催。登壇者はイスラエルやアフリカなど、世界を舞台に企業の成長支援を行うサムライインキュベート代表取締役の榊原健太郎さん、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さん、ESGを重視した投資ファンド MPower Partners のゼネラル・パートナー村上由美子さん。事業開発コンサルティングを行うリンクス代表取締役 加藤有紀子さんをモデレーターに、それぞれの視点から見た、パンデミック後の世界経済の動向について意見を交えた。
ESGのベネフィットがグローバルで浸透する
MPower Partners ゼネラル・パートナーの村上さん。証券会社を経て、OECD(経済協力開発機構)の東京センター元所長を務めた経歴を持つ。
撮影:俵和彦
環境対策(E)、ダイバーシティや人権対策に関する社会(S)、情報開示や法令順守といった意識の高さを表すガバナンス(G)を重視した経営は、コロナ前から世界的な潮流として存在した。だが、2021年5月に日本では初となるESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンド、MPower Partnersを立ち上げた村上さんは、パンデミックによってESGを取り巻く環境が激変したと指摘する。
「社会のESGに対する見方は、この2年で激変しました。なぜなら、パンデミックのような想定外の問題が起こり得るということ、そして想定外の問題に対して正解のない答えを出していくときに、マジョリティではない人たちがいないと立ち行かないということを、多くの企業が実感したからです」(村上さん)
コロナ前は「ESGは良いことだが、コストがかかるもの」だと捉えられていた。しかし、「ESGはコストではなくベネフィットだという認識が、コロナ禍によって10倍速で浸透したのです。今、世界中の多くの投資家が、ESGの考え方を積極的に取り入れるようになっている。これは、大変エキサイティングなこと」と村上さんは言う。
投資の世界で「言語の壁」が崩壊する
早稲田ビジネススクールの教授であり学者でありながら、4社の民間企業の社外取締役を担う入山さん。学問を多彩なビジネスに反映させている入山さんは、今後世界における言語の壁がなくなっていくと考えている。
撮影:俵和彦
コロナ禍では誰もが多くの変化が強いられたが、「パンデミック終息後は、さらに大きな変化が起こるでしょう」と、入山さんは語る。
「世界経済は不透明で、ますます先が見通せない時代になります。正解がまったくない中で、自分が何をしたいか、やりたいことに対して自ら意思決定をすることが重要になります」(入山さん)
変化の一つはオンラインコミュニケーションだ。リモートワークは私たちの仕事と生活を大きく変えたが、今後、さらに大きな波が来ると指摘する。
「早晩、オンラインコミュニケーションに自動翻訳が実装されるでしょう。数年後には日本人と、例えばドイツ人が英語を介さずに自由にコミュニケーションできるようになるはずです。そうすると、日本のサービス業は、苦境に立たされるでしょう。例えば、言語で守られた究極のガラパゴス業界の一つが、大学などの教育機関。国内トップクラスの私立大学も、日本語のまま例えばハーバード大学で学べるようになれば、その価値が大きく変わる可能性がある」(入山さん)
さらに、「自動翻訳によって投資の世界も激変する」と予測する入山さんは、「昔は対面でお互いの目を見て投資をするかを決めていましたが、今は大体の話し合いがオンラインに移行している。そのほうが、効率的だからです。これまで投資はローカル性が高いものでしたが、言語の壁がなくなることでその常識が変わります」と語る。
スタートアップへの投資が爆発的に増加した
国内外のスタートアップへの投資とイノベーション支援事業を行うサムライインキュベートの榊原さん。岐阜を拠点に世界中を対象とした投資を扱う。
撮影:俵和彦
これに対し、「私も以前は東京・イスラエルなど現地で投資活動を行っていましたが、今は岐阜に住んでいます」と榊原さん。サムライインキュベートの投資先であるグローバルの220社ほどは、7割が日本、国外が3割だが、拠点を日本に移しても事業にネガティブなインパクトはないといい、「家族との距離が近づいてとても仲良くなり、会社のメンバーや投資先とのコミュニケーションも増えました」(榊原さん)と振り返る。
「自分の時間が増えたことで、考える時間も増えた。そして外出が減ったのでお金を使わない。コロナ禍ではそれが皆に起こった。さらに、変化の時だということで、全体的に投資意欲が上がっているため、今、スタートアップへの投資が爆増しています。2020年のイスラエルの投資額は1兆円でしたが、2021年は2兆円。アメリカは2020年に16兆円だったのが、2021年には30兆円まで増えました。だから今、挑戦する人にとっては大きなチャンスが訪れています」(榊原さん)
モノの製造プロセスが厳しくジャッジされる時代
事業開発コンサルティング、リンクス代表取締役社長の加藤さん。取締役COOを務めるEVベンチャーのe-Gleでは、主な市場である中国のビジネスが急速に変化し、若い世代を中心にリモートでスピーディに取引を進められるようになったことを実感したという。
撮影:俵和彦
昨今のESGへの注目度の高まりは、プロセスエコノミーの盛り上がりも関連しているのではないか、と入山さん。
「最終製品では価値を差別化しにくくなってきていることから、多くのブランドはプロセスに価値を置き始めている。今はテレビを買わなくてもスマホで映画が見られるし、コンビニでおいしい惣菜が買える。お金を使わなくても生活できるため、費用対効果という感覚がなくなり、共感にしかお金を使わなくなっているのです。だから、ストーリーに共感できる、ナイキのスニーカーが高値で売れる。ESGにもそうした要素があるのでは」(入山さん)
それに対して村上さんは、「まさにその通り。ESGはこれまで測り方に基準がありませんでしたが、2021年10月〜11月にかけて開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、世界の共通認識を作ろうという議論が盛り上がりました」と語った。
「例えば今までは、ペットボトルの製造過程で排出される二酸化炭素を計測する技術がなかった。そこで、サプライチェーンすべてを見てESGを評価し、経済合理性に基づいて“ドル化”するというのが、新たな流れになっています」(村上さん)
と、消費者がモノやサービスの製造・流通のプロセスを厳しく評価する流れが生まれていることを指摘した。「企業は、この動きに危機感をもつべきです」と村上さんは警鐘を鳴らす。
フェイクを見抜く術は「対話」しかない
真摯にESG経営に取り組む企業が増えている一方で、表面上のESG対策に終わる企業も少なくない。消費者として、いかに信頼できる企業を見分ければよいのだろう。
「実はそれを客観的に測るものさしはありません。女性幹部を数合わせの目的で登用するなど、表面的な対策をする企業もありますが、それはフェイク。見極めるのは難しいけれど、だからこそチャンスがあるともいえます」(村上さん)
入山さんは、「日本の企業はIRとPRが弱い。良い取り組みを行なっている企業は、それをアピールしていく必要がある。良い投資家は対話につきあってくれるもの」と指摘。
セッションの終盤では、企業の多様性との向き合い方についても議論が及んだ。経済の中でダイバーシティを加速させるには、どのような視点が必要なのだろう。
「多くの企業は多様性に関して2つの課題を抱えているが、それを混同しがち。1つ目は、多様性に富む社会になる過程で生じる課題を、ビジネスで解決すること。2つ目は、組織内を多様化させるというイシュー。先に取り組むべきは1つ目。社会課題を解決する過程で、自ずと多様性のある組織になるはず」(榊原さん)
また、入山さんは「管理職の振る舞いが最重要。多様な人が発言できるよう、ファシリテーターに徹し、心理的安全性が高い組織にすること」と語った。
まとめとして、村上さんは「ESG経営はコストがかかる。しかし同時に今後確実に利益につながる」とポイントを強調した。社会は、ポストパンデミックへと向け脱皮を始めている。この変化を機敏に捉え、チャンスに変えていくことが今後のビジネスで最も重要になるのだろう。
撮影:俵和彦
MASHING UP conference vol.5
パンデミック後の世界と世界経済を考える
入山 章栄(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授)、榊原 健太郎(サムライインキュベート 代表取締役)、村上 由美子(MPower Partners ゼネラル・パートナー)、加藤 有紀子(リンクス 代表取締役社長)
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