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理系分野において女性の割合が低いことは、近年グローバルで大きく課題視されている。企業や教育機関、NPOなど様々なセクターが課題解決に向けアプローチを行う中、今注目を集めるプレイヤーの一人が、スウェーデンに拠点を置くエドテック&ゲーミング企業「imagiLabs(イマジラボ)」だ。
ビジネスを通して社会や環境に良いインパクトを与えたい。そんな女性起業家の支援を目的に、2006年にラグジュアリーメゾンのカルティエが、「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」を設立。世界中から応募者を集めるアワードや教育プログラム、コミュニティの運営などを行う。今回、2020年度のヨーロッパ地域のファイナリストに選ばれた「imagiLabs」共同設立者でありCEOのドラ・パルフィさんに、同社を設立した背景や現状、ビジネスを通して実現したいビジョンを聞いた。
テック業界のジェンダーギャップを解消したい
ポップな色使いが目を引く、imagiLabsのWebサイト。スマホなどのタブレットを通して、楽しみながらプログラミングを学べる。左のデバイスは「imagiCharm」と呼ばれる別売りのアクセサリー。
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imagiLabsがミッションとして掲げるのは、テック業界で活躍する女性を増やすこと。テクノロジー産業は、人々の暮らしや社会のあり方に、ますます大きな影響を及ぼすようになっている。未来を決定づける分野であるにもかかわらず、そこで働く人々は圧倒的に男性に偏っている。
この現状を変えたいという思いから、パルフィさんら、imagiLabsの共同設立者たちは、女子のプログラミング学習を後押しするプラットフォームを立ち上げた。主なターゲットは8〜13歳の少女たち。これには理由がある。幼少期においてはテクノロジー分野で働きたい子どもの男女差があまりないものの、進路を決める10代後半で興味を失う傾向が女子には高くみられる。そのため、そうならないよう分岐点となる年代をターゲットに定めている。
スマホやタブレットなどの、モバイル環境でプログラミングを学べるアプリをiOS版とAndroid版で提供。無料でダウンロードできるこのアプリは、Python(パイソン)というプログラミング言語を、ゲームのようにレベルをクリアしながら学ぶ仕組みで、内容はとても視覚的だ。
ユーザーは8行8列の64マスで構成されるマトリクス上に、コードを書いてドット絵を描く。絵柄に合う配色や、アニメのような動きをつけることも可能で、レベルアップするにつれて、自由自在にカスタマイズできる。さらに、別売のimagiCharmというアクセサリーに、Bluetoothでコードを転送し、64個のLEDを点滅させて好きなデザインを表示できる。手のひらに収まるサイズのチャームは、バッグや服につけられる。
コーディングの魅力に触れた大学時代
imagiLabs共同設立者で、CEOのドラ・パルフィさん(右)、CTOのピアトリス・イオナスクさん(中央)、リードデベロッパーのパウラ・ドーザさん(左)。3人はNYUアブダビ校でSTEM分野の女性エンパワーメントに取り組んでいた時からの仲間。
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2017年に設立されたimagiLabsは、パルフィさんがスウェーデンの大学院で取り組んでいた研究プロジェクトがベースとなっている。もともとはハンガリー出身のパルフィさんは、子供の頃から科学に関心があった。ハンガリーでは同じ理系の進路でも、女子は生物学や医学を、男子は物理や工学を選ぶ傾向が高いという。脳に興味があったパルフィさんは、奨学金を得てニューヨーク大学のアブダビ校に進学し、神経科学を専攻した。
幅広いリベラルアーツ教育を行なうニューヨーク大学では、専攻以外にも、社会科学やアートなど多分野のクラスを履修することができた。パルフィさんはそのなかでも、コンピュータサイエンスのクラスが気に入ったという。
「コーディングは研究プロジェクトの中でも応用できるし、何にでも役立つ便利なスキルだと感じました。実際に動いて、他の学生にも役に立つプログラムが書けたのがとても楽しかったです」
その後、コンピュータサイエンスを副専攻にし、ソフトウェアデベロッパーとして、金融大手のモルガン・スタンレーでインターンシップを経験。スウェーデン王立工科大学の修士課程に進み、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(人間とコンピュータの相互作用や、インターフェースを研究する学問)を学んだ。またシスコシステムズのインターンとして、UXデザインの仕事も経験している。
興味のフックとなるのは「ソーシャル」「自己表現」「課題解決」
ユーザーがデザインしたドット絵をチャームに映し出すことができる。
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それまでの自身の経験からも、ITを含めたSTEM分野における女性の少なさを目の当たりにしてきたパルフィさん。修士課程では、女の子たちがコーディングに興味を持ち、楽しく学ぶための方法を研究。それをさらに発展させるべく、大学時代の仲間たちと会社を立ち上げた。
少女たちを対象としたプログラミング教育に関して、パルフィさんが重視していることがある。
「自分に関係がある、楽しい活動だと思ってもらえること。彼女らの興味を惹くデザインや言葉遣い、コミュニティ作りがカギになります。調査を通して分かってきたのは、プログラミングそれ自体には関心が高くない子も、『プログラミングを使って目的を達成すること』には興味を持つ場合が多いことです。特に社会課題の解決とリンクさせると、とても興味を持ってくれるのです」
imagiLabsのサービスは、少女たちの意見やアイディアを参考にしている。研究プロジェクトではプレティーンの女の子たちを集めてワークショップを開き、使ってみたい製品のプロトタイプを複数作った。するとそれらには、いくつかの共通点が見られた。例えば「ソーシャルであること」「クリエイティブであること」「自己表現ができること」。また、実際に手に取れる「モノ」がある方が、興味を持ってもらえることも分かった。さらに、彼女らにとってはパソコンに比べ、スマホなどのモバイル機器の方がずっと身近で敷居が低いため、モバイルファーストであることも重要だ。
ユーザー同士で交流できるコミュニティが学びを促進させる
コロナ禍では、多くのユーザーが国境を超えてオンラインコミュニティでの交流を楽しんだという。ポストコロナでは、ワークショップのリアル開催にも力を入れていきたい、とパルフィーさん。
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2020年夏に、imagiCharmの販売を開始して約1年半が経過した。ユーザーの反応を見ながらアプリに修正を加え、よりインタラクティブで分かりやすいものに改良を重ねていった。さらに、ユーザー同士の交流で学びを促すコミュニティの運営も重視している。
アプリ内で他のユーザーにコメントや質問をしたり、誰かが書いたプログラムをもとに、自分なりのアレンジを加えることもできる。月1回、アプリ内でコーディング大会を実施。毎回違うテーマ(2021年8月はオリンピック、12月はクリスマスなど)が設定され、それに合うデザインをプログラムして投稿。ユーザー投票で選ばれた優勝者にはimagiLabsグッズが贈られる。
また、imagiLabsは個人向けサービスだけでなく、学校やNPOなどを対象としたB2Bサービスも展開している。Python習得のためのカリキュラムや、教員向けのトレーニング・プログラムを提供。アメリカ、ヨーロッパ、イギリス、シンガポール、ブラジルなど世界16カ国の団体・組織とパートナーシップを結んでいる。
「プログラミングは必須のスキルとして、いまや小学校の授業でも導入されています。ただ、現場の先生たちは慣れない分野なので戸惑っていることも多い。スライドなどのキットを用意し、分かりやすいカリキュラムを提供しています」
女性エンジニアを育てるための、切れ目のないパイプラインを
現在imagiLabsは、収益の柱を増やすべく、新たなコンテンツを開発中だ。そこでは教育のゲーミフィケーションにとどまることなく、ゲームの要素を中心に据える。
imagiLabsへ出資しているエンジェル投資家のなかには、人気ゲームプラットフォームDiscordのCMOや、RobloxのCEOなど、ゲーム業界の有力者もいる。
テック分野の女性を増やすことを究極的なゴールに据えつつ、当面は100万人の少女たちにツールを使ってもらうことが目標で、中長期的には対象となる年齢層を広げていくことを目指す。ユーザーと共にサービスも成長させていき、大学進学や、テック企業でのインターンシップに備えるためのコンテンツも提供したいという。念頭にあるのは、女性エンジニアを育てるための、切れ目のないパイプラインの構築だ。
「実は、もうひとつやりたいことがあります。imagiLabs基金を設立したり、個人としても、投資家として女性の起業家を支援したいです。imagiLabsで学んでいる子たちが成長し、ビジネスを始める時に出資できたらいい。そうやって良いサイクルを作っていきたいですね」
15周年を迎えるCWI。9名の「インパクト アワード受賞者」を発表
© Cartier
2006年に創設されたカルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)は、女性起業家たちの貢献に光を当て、ビジネスの発展とリーダーシップスキルの促進に必要な、経済的、社会的、人的支援を行うことで、起業家たちの可能性を最大限に発揮する支援を行ってきました。
創設から15周年を迎える今年、CWIはプログラムのインパクトをさらに祝うため、今回初めて、9名のインパクト アワード受賞者、すなわち事業で大きなインパクトを残してきた女性起業家たちを発表しました。インパクト アワードは、国連の持続可能な開発目標に基づく3つのカテゴリー、「生活向上」、「地球環境保全」、「機会創出」をカバーしています。
インパクト アワード受賞者
<生活向上>
ラシャ・ラディ(Rasha Rady)/シェファア(Chefaa)/エジプト
AI搭載 ・GPS対応のデジタルプラットフォームを設けて、慢性疾患の患者が居住地や所得に関わらず、定期的に服用する医薬品を注文、定期購入、補充する手助けをする。
ネカ・モビソン (Nneka Mobisson) /mDoc/南アフリカ
慢性疾患を抱える人々に仮想医療従事者への24時間・年中無休のアクセスモバイルプラットフォームを提供。
テミー・ギワ・トゥボスン(Temie Giwa Tubosun) /ライフバンク(LifeBank)/ナイジェリア
ブロックチェーンを活用し、ナイジェリア国内の病院へ医療物資を運ぶ、物流ネットワークを提供する企業。(過去の取材記事はこちら)
<地球環境保全>
ジョアン・ハワース(Joanne Howarth)/プラネット プロテクター パッケージング(Planet Protector Packaging)/オーストラリア
医薬品や温度に敏感な食料品などの輸送に、廃羊毛で環境に配慮した断熱包装材を製造している。
ローナ・ルット(Lorna Rutto)/エコポスト(EcoPost)/ケニヤ
廃プラスチックをリサイクルし、環境に負荷をかけないプラスチック製材を製造。環境保全を図りながら、限界集落の人々に持続可能な雇用を創出している。
シャーロット・ワン(Charlotte Wang)/イークオタ エナジー(EQuota Energy)/ 中国
AIとビッグデータを組み合わせ、エネルギー効率化ソリューションを提供するエネルギー最適化企業。
<機会創出>
カルミナ・バヨンボン(Carmina Bayombong)/インベストエド(InvestEd)/フィリピン
独自の信用格付けアルゴリズムを用いて、金融サービスを十分に受けられない若者に、学生ローンを提供する投資プラットフォーム。
キャロル・チャウ(Carol Chyau)/ショーケイ(Shokay)/中国
中国辺境地の放牧民から直接仕入れるヤクの毛を用いて、子供服やアクセサリー、家庭用品、ニット製品などを製造している。
ファリエル・サラフディン(Fariel Salahuddin)/アップトレード(UpTrade)/パキスタン
地方の非電化農村の零細農家が、家畜をソーラー発電式の水ポンプや住宅設備と交換できるようにする物々交換サービスを提供する。
インパクト アワード3つのカテゴリーにおけるそれぞれの最優秀受賞者が、現在開催中の「ドバイエキスポ2020」において開かれる記念すべきCWIのワールド リユニオン(World Reunion)の一環として、2022年3月6日のインパクト アワード授賞式で発表されます。
CWIは、2022年3月6日~3月8日の3日間にわたり、CWIコミュニティ向けのケーススタディ、ワークショップ、勉強会を開催し、世界中の熱意あるインパクトリーダーとの出会い、新たなコラボレーションのきっかけづくり、共有する課題への取り組みの機会をコミュニティに提供します。
カルティエ インターナショナル プレジデント&CEOのシリル・ヴィニュロンは次のように述べています。
「CWIワールド リユニオンは、女性起業家のコミュニティに対するメゾンのコミットメントを再確認し、こうした称賛に値する女性たちの成功を増幅させ、世界をより良く、より平等な場所にするべく新たな高みに到達する手助けをする機会です。なぜなら、女性が輝けば、人類・社会全体が輝くから」
取材協力:Cartier Women’s Initiative, Zebras & Company
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