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Women Driving Change - グローバル女性起業家の今

CO2で発電、脱炭素化へ。カナダ発エネルギー界のチェンジメーカーが掲げる革新的ビジョン

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@Cartier

気候変動が引き起こす様々な社会課題が浮き彫りになっており、クリーンエネルギーへの移行と、脱炭素化社会の実現は急務となっている。では、これらを同時に実現しうる技術があればどうか。一聞すると夢のような構想だが、今、実用化に向けて研究を重ねている企業がある。

カナダに本拠を置くAgora Energy Technologies(アゴラ・エナジー・テクノロジーズ)は、再生可能エネルギーを貯蔵する、環境に優しい電池を開発する企業。この大胆で画期的なビジョンをリードするのが、クリスティーナ・ギエンゲ(Christina Gyenge)博士、同社の創業者であり、CEOだ。

ビジネスを通して社会や環境に良いインパクトを与えたい。そんな女性起業家の支援を目的に、ラグジュアリーメゾンのカルティエが2006年に創設した「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」は、アワードや教育プログラム、コミュニティの運営などを行う。ギエンゲ博士は、2021年度の「サイエンス & テクノロジー パイオニア アワード」のファイナリストだ。

高まる蓄電池のニーズ。一方で、環境汚染や価格高騰など課題も

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アゴラ・エナジー・テクノロジーズのCEO、クリスティーナ・ギエンゲ博士。同社の画期的な電池技術パッケージは、グリッドやマイクログリッドのレベルで、クリーンエネルギーの効率的な統合を可能にする。持続可能な社会の実現に貢献する同社の技術は、世界から高く評価されている。

@Cartier

研究開発型のスタートアップ、アゴラ・エナジー・テクノロジーズが取り組んでいるのは、再生可能エネルギーを長期間貯蔵できる、グリッドスケール蓄電池(電力網用に使える大容量の蓄電池)の開発だ。

石油や石炭などの化石燃料を燃やす発電設備は、多くのCO2(二酸化炭素)を排出し、地球温暖化の大きな原因となっている。だが、太陽や風力などの再生可能エネルギーは発電量が天気に左右される。安定的な電力供給には、それを溜めておける蓄電池が欠かせない。

問題なのは、こうした電池を作ること自体が環境に大きな負荷をかけるということだ。現在使われている電池は、リチウム、バナジウム、亜鉛、ニッケルなどの金属や、鉱物を使うものが主流。これらの資源の採掘は環境汚染につながるだけでなく、輸送にも多くのエネルギーを使う。また、希少であるが故に供給が足りず、非常に高価なのも難点だ。電気自動車が普及してきた昨今では、バッテリー用のリチウム需要がますます高まっており、その価格は2021年比で400パーセントも高騰しているという

レアメタルではなくCO2を使うという、画期的なソリューション

アゴラ・エナジー・テクノロジーズは、これらの希少な金属の代わりにCO2を使う、「CO2レドックスフロー電池」と呼ばれる新しい技術を発明し、実用化に向け開発を進めている。長期間蓄電が可能で、ローコストで運用でき、脱炭素化にも貢献できる

自然エネルギーを貯蔵できるCO2ベースの電池が実用化できれば、社会に非常に大きなインパクトを与えられると、ギエンゲ博士。

CO2で発電が可能になった、未来の経済や都市を想像してみてください。世界では年間350億トンものCO2が排出され、気候変動の原因となっていますが、これをエネルギーに変えられるようになるのです。例えば、日本はエネルギー需要の90%以上を輸入資源に頼っています。これを豊富にある、そして好ましくないCO2に置き換えられるとしたらどうでしょう? 私たちは、1トン分のCO2で1.6MWh(メガワットアワー)のクリーンな電力を供給することを目指しています。これは、14台の電気自動車(Tesla Model S)をフル充電できる電力量で、9000km近い走行距離に相当します

実用化に向け、他分野企業とのパートナーシップを加速

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現在の電池技術は、バナジウムやリチウムなどの金属に依存しており、その採掘、輸送、精製は炭素を発生させるプロセスで行わなければならない。このような金属のサプライチェーン上の制約があるにもかかわらず、既存の電池の製造方法は、CO2問題を軽減するどころか、逆にCO2を増やしている。アゴラ・エナジー・テクノロジーズは、業界に新たな常識を打ち立てるべく、日々研究開発を行っている。

@Cartier

この電池は、大規模工場やプラントなどで、再生可能エネルギー発電設備とともに使うことを想定している。工場で排出されるCO2を回収し、それを利用した蓄電池に再生可能エネルギーを貯め、工場の電源として使うという循環を作る。使用例として考えられるのは、セメント、製鉄、石灰石、アンモニアの工場などだ。現在CO2排出削減を求められている、鉄鋼、製紙、化学プラントなどのさまざまな産業の他、港湾事業でも導入が考えられる。さらに、送電網につながっていない隔離された土地での発電設備でも使うことができるなど、使用用途は多岐にわたり、社会のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めている

現在は、研究室でのテストを経てプロトタイプを作っているところだ。斬新かつ非常に複雑な技術なので、試作品の規模を拡大するごとに新たな課題が出現し、その解決に取り組んでいるという。今後数年のうちに、5kWの機能的なプロトタイプを作ることを目指す

脱炭素が叫ばれるなか、CO2を回収し、貯蓄する「二酸化炭素回収貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)」関連技術に注目が集まっているが、アゴラはこうした技術を持つ企業と協業を始めたという

「CO2回収は、現在排出されている膨大な量のCO2を利用するための最初のステップです。その後が、私たちの出番になります。このCO2を利用して余った電気を蓄え、電力消費需要が多いときに使えるようにします

アゴラ・エナジー・テクノロジーズはこの革新的な技術の実用化と商業化に向けて、国境を越え様々な研究者や組織と連携している。膜など、電池の重要な構成要素を作るメーカーとパートナーシップを結び、産業利用を視野にセメントメーカーとも協力関係を構築。電池製造のノウハウや、スケールアップの知見を持つ企業との提携も検討中だという。

学生たちと取り組んだ「科学的パズル」がきっかけに

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@Cartier

今までにない蓄電池の開発とその応用には、分野横断的な知見と複眼的な視点が必要になるが、ギエンゲ博士は研究者として歩んできたキャリアのなかで、そうした能力を磨いてきた

化学と化学工学の両方を学び、生理学的システムの数学的モデリングから、応用生理学、腫瘍微生物学、免疫学など、工学と医学の境界領域にある様々な研究テーマを追求し、電気化学の分野にも進出した。

環境に優しい電池の開発に携わることになったのは、大学で受け持った授業がきっかけだった。2010年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学化学工学部で教えることになり、「エネルギー工学」と「技術と社会の相互作用」という2つの授業を担当。これらの授業で学生に出した課題が、新しいクリーンエネルギー技術に対する博士自身の情熱と興味に火をつけた。脱炭素化のため新技術を開発し、社会に良いインパクトを与えたいと考えるようになったという。

アゴラのコンセプトは、エネルギー転換とCO2排出削減を同時に達成しようとする科学的なパズルとして始まりました。その過程で斬新なコンセプトが生まれ、科学的な検証を経て、CO2を利用した安価な電力をオンデマンドで供給するという素晴らしいソリューションに行き着きました。そして、それを実現するには、自分でやってみるのが一番だと思った。これが、アゴラの始まりです」

ジェンダーギャップ解消の鍵は、STEM教育

CWIのフェローシップ・プログラムでは、コミュニケーション、マーケティング、リーダーシップ、ビジネス戦略など、ビジネスリーダーとしての広範なスキルを身につけることができた、と話すギエンゲ博士。

当面の目標としては、アゴラ・エナジー・テクノロジーズを強くインパクトのある会社にしていくことに集中したいという。原動力となっているのは、エネルギー格差を解消したいという使命感だ。「太陽光や風など、安価なエネルギー源が豊富にある土地が電力不足に陥っていますが、これは変えていくべきですし、変えられます」。そう語る博士の長期目標は、「今までに得てきた励ましや経済的支援、知識をお返しできるような立場になること」だという。

私たちの暮らしに欠かせない、電気や燃料をつくるエネルギー分野。だがそこは、他にも増して男性社会というイメージが強い。この分野でのジェンダーギャップを埋めるには、どうすべきか博士に尋ねた。

「持続可能な世界への移行に伴い、ジェンダーギャップは縮小し、クリーンエネルギー関連企業で多くの女性が指導的地位に就くようになると確信しています。ただし、そこに至るには、あらゆるレベルで強力かつインクルーシブなSTEM教育を推進し、資金提供やビジネス支援を強化し、女性のための強固なサポートネットワークを構築する必要があります

ギエンゲ博士をはじめとするCWIの出身者の存在が、これからの社会を切り開く次世代リーダーたちにとってのロールモデルになることは、間違いない。

インパクト アワード授賞式にて最優秀受賞者が発表

創設から15周年を迎える今年、カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)はプログラムのインパクトをさらに祝うため、9名のインパクト アワード受賞者、すなわち事業で大きなインパクトを残してきた女性起業家たちを発表しました。そして、2022年3月6日にドバイエキスポ2020内で開幕した「CWI ワールド リユニオン」では、国連の持続可能な開発目標に基づく3部門「生活向上」、「地球環境保全」、「機会創出」から、それぞれ1名ずつ最優秀賞受賞者が発表されました

最優秀賞受賞者

<生活向上部門>
テミー・ギワ・トゥボスン(Temie Giwa Tubosun) /ライフバンク(LifeBank)/ナイジェリア
ブロックチェーンを活用し、ナイジェリア国内の病院へ医療物資を運ぶ、物流ネットワークを提供する企業。(過去の取材記事はこちら

<地球環境保全部門>
シャーロット・ワン(Charlotte Wang)/イークオタ エナジー(EQuota Energy)/ 中国
AIとビッグデータを組み合わせ、エネルギー効率化ソリューションを提供するエネルギー最適化企業。

<機会創出部門>
ファリエル・サラフディン(Fariel Salahuddin)/アップトレード(UpTrade)/パキスタン
地方の非電化農村の零細農家が、家畜をソーラー発電式の水ポンプや住宅設備と交換できるようにする物々交換サービスを提供する。

授賞式の様子は、こちら

各カテゴリーの最優秀受賞者には賞金10万USドルが授与されます。また、9名の全受賞者それぞれに、1万USドルに相当する人的資本支援が提供されます。

国際女性デーを記念するフォーラム。テーマは「Break the Bias」

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アル ワスル プラザにて行われた、イブニング セレモニーの様子。

© Cartier

カルティエは、現在開催中のドバイエキスポ2020のウーマンズ パビリオンにて、政府や機関のリーダー、チェンジメーカー、アーティストらを集め、女性のリーダーシップとジェンダー平等達成に向けて、未だ残る障壁に光を当てました。国際女性デーに合わせ、同エキスポとのコラボレーションにより開かれた「Break the Bias フォーラム」と、それに続くアル ワスル プラザでのイブニング セレモニーは、ジェンダー平等の世界は手に届くところまで来ているものの、皆で行動することが必要だという未来へのメッセージを、数百人の聴衆の心に刻みました

2022年の国際女性デーは「Break the Bias(偏見の打破)」というテーマを掲げ、カルティエは包括的なプラットフォームを通じて、世界各国の政府、企業、チェンジメーカーと共に、ジェンダー平等とウーマンエンパワーメント、そして無言の差別の根絶を訴えました。Break the Biasフォーラムでは、さまざまな分野や業界で女性がポテンシャルを十分発揮するのを阻んできた固定観念や、否定的な社会規範にあらがう上での女性のリーダーシップに光を当てることを目指しました。

「今年の国際女性デーを記念する3日間のイベントは、ここドバイ エキスポ 2020 の『ウーマンズ パビリオン』の展示とプログラムが体現している通り、『女性が輝けば、人類・社会全体が輝く』という、私たちのパートナーのカルティエと共有するビジョンを示すものです。

この3日間およびエキスポで日々交わされた会話と改められた認識は、さらなるジェンダー平等とウーマンエンパワーメントを目指す私たちの継続的取り組みの成果であり、女性の才能を称え、クォータ制やキャパシティ・ビルディングを超えて緊急に必要とされる変化の触媒となるものです」(UAE 国際協力担当大臣兼ドバイ国際博覧会 2020 事務局総裁のリーム・アル・ハーシミー閣下)

また、アル ワスル ドームでのセレモニーは、芸術表現を支援するカルティエの役割を踏まえ、フランスの著名な作曲家トーマス・ルーセルによる見事な音楽演奏から始まり、その後、ダンスパフォーマンスが披露されました。スーダン系アメリカ人の詩人で活動家のエミ・マフムードは、女性の強さと回復力を称える力強い口語詩で聴衆に畏敬の念を起こさせました。カルティエのフレンド オブ メゾンである俳優ラミ・マレックによって各国パビリオンとのコラボレーションも発表され、マレックは、若い世代の女の子たちに宛てた1通の手紙を読み上げました。多様なクリエイターとアーティストのコラボレーションから生み出された圧巻のセレモニーは、2022年3月31日のドバイ エキスポ 2020 の閉幕に先立って行われました。

カルティエ ジャパンは、「ウーマンズ パビリオン」のメッセージを引き継ぎながら、日本における女性のエンパワメントを促進させるため、来たる4月19日に東京にて「Cartier Women’s Conference」を開催します

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野澤朋代
フォトグラファー、翻訳者、ライター。趣味は散歩と語学学習。

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