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一緒につくるからもっといい。あたらしい社会をつくるビジネス

「相互扶助」がこれからのキーワード? フラットな関係からイノベーションは生まれる

吉川さん、三浦さん

撮影/柳原久子

これからの時代、消費者に選ばれる、よりよい社会をドライブさせるビジネスとは? 社会貢献の新しい形とはなにか?

共創で生まれる新しいソーシャルイノベーションの価値を紐解く特集「一緒につくるからもっといい。あたらしい社会をつくるビジネス」。第1回の前編ではima(アイマ)代表取締役CEOの三浦亜美さんと、東邦レオ株式会社 代表取締役社長の吉川稔さんを迎え、「存続意義」のある会社を作るために不可欠な要素や、価値観の違う者同士が共創することの意義について聞いた。後編は抵抗勢力との向き合い方など、 さらに深掘りして秘訣を探った 。

共創は本質的に“恋愛関係”に近い⁈

三浦亜美さん(以下、三浦):前回のお話を伺っていて思ったのが、イタコって最強のコーチングですよね。そんなふうにコーチングしあえる関係性の人と、一緒に何かを生み出していくのが共創なのかもしれないと。

吉川稔さん(以下、吉川):そうですね、だから面白い。「kudan house」(旧山口萬吉邸)をリノベーションしたのも、僕はもともとこの近所に住んでいたから、山口(萬吉)さんが“おいで、おいで”してくれたのかもしれません(笑)。共創する、一緒に事業をするとなると、僕にとって大事なのは“相手の心を入れられるかどうか”だと思います。

——どんなに利益につながる話があっても、心に響かなければお断りすると。

吉川:もちろんです。自分の心の中に入れて頭と体を動かしたいと思えるかどうかですから。でも一番難しいのは断り方なんですよね。仕事を受けて一緒にやることよりも、心を込めて断ることのほうが難しい。とはいえ合わない心を入れちゃうと、僕も変になってしまうから。

三浦:うちも似ているというとおこがましいですが、少数で動いている会社なので、年間でやれる仕事が限られている。本気で何かを生み出すのってすごく大変だし、ずっと相手のことを考え続けるから、好きにならないとできないんですよね。

私の場合、うまくいかなくなるとどんどん悩んでしまって……もう、とにかく恋をしているような状態なので(笑)。自分ではストレスに気づかないのですが、チームの皆が先に気づいてストップをかけてくれるので助かっています。

ima代表の三浦亜美さん

ima代表の三浦亜美さん。「コーチングしあえる関係性の人と、一緒に何かを生み出していくのが共創なのでは」と語る。

撮影/柳原久子

吉川:うちは、これは門外不出ですが、会議で仕事の“恋愛相関図”を作ってるんです。

三浦:そうなんですか!

吉川:「そうか、〇〇社の〇〇さんと仕事したいのか。……で、その人のこと本当に好きなの?」、「聞いた感じ、好きなのは自分だけで、相手は仕事としか思ってないんじゃない?」なんて相関関係を整理してる。仕事としてまず捉えるのではなく、恋愛関係ができているか否かみたいな。担当者同士が好きあっていても、家(上司/会社)が認めてくれないこともある。その会議は夕方からすることが多いんだけど、ほとんど“恋バナ”みたいな感じで、みんなドキドキワクワクするんだよね(笑)。

なぜそんなことをするのかというと、共創というのは本質的に恋愛関係に近いというか、人として好きかどうかが大事なわけです。仕事というのは言い訳で……。

東邦レオ代表の吉川稔さん

東邦レオ代表の吉川稔さん。「共創というのは本質的に恋愛関係に近いもの」と語る。

撮影/柳原久子

三浦:わかります。一緒にいる時間がほしいから仕事をする

吉川:そうなんですよ。昼間から真面目に何時間も議論できるのは、仕事があればこそ。だから簡単な仕事ではいけない。困難であったり、社会的インパクトが大きいほど関係性は厚くなる。経済的リターンだけが目的だとお互いの取り分の問題に終始してしまうので、オーバーラップがなくなるんです。

三浦:ソーシャルイノベーションを目的とすると、物差しが一個じゃなくなりますからね。

吉川:物事が複雑化するから、会う時間が増えるわけです。お互いに思いがすれ違ったり、うまくいかない時期もあった方が盛り上がりますね。

抵抗勢力にはどう対処する?

——「うまくいかない時期」というお話が出ましたが、新しいビジネスを始めるとき、抵抗勢力などもあると思います。お二人はどう対処しているのでしょう?

三浦:やはり前に立って表現する立場になると、ネガティブな力や爆弾発言に遭遇することもありますね。女性だと名刺を出しても私が代表だとは思われなかったり、伝統工芸や伝統産業の世界では、そもそも女性が入れない場所もあったりします。

ただ過去の反省から思うのは、ケンカするところまで行ったら負け。吉川さんの表現で言うと、イタコになれなかったということ。でもそれは失敗ではなく、次につながる糧だと捉えています。

吉川:異なる世界の人に何か言われると「否定された」と感じたり、「あなたはわかっていない」「守っているものが違う」という反応になるのは自然な心の動きでしょうね。

三浦それぞれに正義があるということは、現場に行くたびに感じます。でもそれを乗り越えられるとすごくドラマチックになって、また恋をする(笑)。共創においては、そこを乗り越えられたものが世に出ていくし、長く残るものになっていくという印象ですね。

笑顔で語る三浦さん

共創においてそれぞれの正義がぶつかっても、「そこを乗り越えられたものが世に出ていくし、長く残るものになっていく」と三浦さん。

撮影/柳原久子

吉川:僕の場合は、反対意見は絶対に起こると設定しています。起きないと逆に心配になる。異なるものが近づいたら、違和感が起きるのは当たり前。みんながすんなり受けて入れてくれるなら、僕たちが入る必然性、必要性がないということです。

だからまったく気にならないし、ケンカにはならない。それでうまくいかないことも多々ありますが、僕が譲ることはないです。タイミングの違いもありますから、そこはもうサバサバと。

三浦:染み入ります……。今日はちょっと強くなって帰れそうです(笑)。

吉川:でも僕が人間として強いわけではなくて、自分じゃない役を演じているからかも。役作りはすごくしているけど、本当の自分ではない。反発があっても、直接受けるというよりは、自分で自分に「……らしいですよ」と報告するような感覚なんです。

三浦:共創においては、自分のミッションやビジョンで動いているわけではない、ということですね。

吉川:そうです。だから事業もリノベーションが中心。あるものをどう料理して、新しい価値を生み出すかを考えるのが面白いし、そういう仕事の方が自分にとってはやりやすい。

僕は自分が創業した会社が一番好きじゃなかったんです。起業すると自分の嫌なところがすごく見えますから。そういう意味では、起業はアートに近いと思っています。

経営も共創も「コーチング型」が未来を創る

——お二人は今後、どのような価値を生み出していきたいですか?

三浦:ひとつやってみたいなと思っているのは、女性同士で生き方の選択肢について語り合う、情報を与えあうような場を作ることです。今まで私の周囲には仕事一筋で頑張っている女性が多かったのですが、今やっと、もっと自由に生き方を選択できるかもしれないと、多くの人が考えるようになってきているのを感じます。

私自身も卵子凍結をしていますが、本当の意味でのダイバーシティ、インクルージョンを実現するためにも、それぞれが「自分はこうありたい」というイメージを確認しながら、それを幸せに感じて生きていける社会を作りたい。そんな人が増えたら、共創したいと思える人に出会う確率も増えるだろうし、仕事がもっと楽しくなると思うのです。

吉川:会社の経営でいうと、新しい経営者像をつくりたい。僕を社長にしてくれたオーナーは本当にすごい人だと思いますが、多くの経営者は自分もプレイしているか、管理者としてマネジメントしています。でも僕は、先ほど三浦さんがコーチングのようだと表現してくれましたが、プレイヤーを導くコーチがこれからの経営者像であり、共創においても重要な姿勢になると考えています。

吉川さん顔写真

「これからの経営者はプレイヤーを導くコーチのような存在であるべき」と吉川さん。

撮影/柳原久子

三浦:自分が主役になってプレイしたり、管理したりするのではなく、相互作用的にやっていく、お互いに引き出しあうということですね。

吉川:そうです。これまでの社会は、お互いに強く自立した人間・組織であることをよしとしてきました。しかし今後は、家族も、地域社会も、企業も、相互扶助がひとつのキーワードになるのではないかと。

共同体という意識で、経済と地域社会をどうするかを、同じ問題意識でやっていく。線をあいまいにするというか、依存しあいながらゆるやかに壁をつぶしていっている状態が、一番いい関係を作っていくのではないか。

ぼやけた状態、環境をあえて作ってみるのが、経営者としての自分のビジョンというか手段。そうなったら、企業も自治体ももっとフラットな関係性になる。新しいソーシャルイノベーションも生まれやすくなるはずです。

撮影/柳原久子

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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