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なぜ企業にDEIが必要なのか。トップ経営者が考える社内改革で大切なこととは?

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撮影:中山実華

3月8日は国際女性デー。2022年のテーマは「持続可能な明日に向けて、ジェンダー平等をいま」(UN WOMEN)だ。女性が生きやすく、輝くことができる社会を目指す取り組みは世界中で行われており、日本の各企業でも女性活躍推進はスタンダードとなってきた。しかし、女性の管理職登用など目標値に苦戦している企業は少なくない。

この国際女性デーを記念し、「第2回 パナソニック コネクトDEIフォーラム」が開催された。今回は、女性活躍推進の先進企業である日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さんをゲストに、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社長兼CEOの樋口泰行さん、同社常務の山口有希子さんとともにDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みについて伺う。

日本IBMは、日経ウーマンが主催する「女性が活躍する会社ランキング」で2020年第1位、2021年第2位。女性管理職登用部門では連続第1位を獲得しており、まさに女性活躍推進のロールモデルともいえる企業だ。同社の取り組みから、経営者やDEI推進担当者が今すべきことが見えてきた。

施策を打たないと永遠に達成不可能

樋口泰行さん

パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社長兼CEO 樋口泰行さん。4月からパナソニック コネクト株式会社の執行役員 社長に就任予定。

撮影:中山実華

CNS社の樋口泰行さんによると、企業にDEIが必要な理由は2つあると言う。

「ひとつは人権の尊重です。マイノリティを尊重し、心理的安全性を確保すること。フェアな労働環境、差別のない職場であって初めて、すべての人の人権が尊重されます。

もうひとつは企業価値と競争力の向上です。グローバルな人材の獲得、イノベーションの創出は企業の成長・存続に不可欠。DEIによりクリエイティビティが向上し、生産性も向上します。こういった観点からも企業にはDEIが必要なのです」(樋口さん)

CNS社は設立して5年(2022年4月よりパナソニック コネクト株式会社に変更)。設立当初からDEI推進の重要性を認識し、ダイバーシティ&インクルージョン推進室を中心に取り組んできた。この5年で様々な変革を経て、DEIを含む企業のあるべき姿を追求してきたという。

DEI改革の3ステップ

パナソニック コネクティッドソリューションズ社が実践するDEI改革の3ステップ。

提供:CNS社

「3階建ての構造になっており、ベースになるのは風土改革です。まさにDEIであり、カルチャー、マインドの醸成を行う。2階部分はビジネスの改革。お客様へのソリューション提供。3階部分が事業立地改革。いわゆる選択と集中の実践です。ポイントは1階部分で、まず風土改革を行うということ。これが非常に重要であり、企業価値を上げることにもなります」(樋口さん)

取り組みを推進した結果、毎年行っている従業員への意識調査では、DEIに関連する内容、たとえば「すべての人が平等に扱われている」「私は一個人として尊重されている」といった項目が軒並み数字を上げている。

「とはいえ、全員の意識が向上したとは言えないのが現状です。今後は、意識が上がりにくいところを、どう上げていくのかが課題です」(樋口さん)

現状、女性活躍の数字を見てみると、CNS社の女性社員比率は15%、基幹職の女性比率は5%、部長職になると3%という数字だ。

「そこで、2035年に女性基幹職比率30%達成の目標を設定しました。これはなかなかハードなストレッチゴールですが、現状のまま何も施策を打たなければ、永遠に達成不可能です」(樋口さん)

永遠に達成不可能。あまりにインパクトのある現実だ。目標を達成するためには、毎年のゴール設定をし、地道に達成していくしかないと話す。

最初の研修が「ダイバーシティ研修」だった

山口明夫さん

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さん。

撮影:中山実華

では、日本IBMはどのようにして、女性管理職登用連続第1位を成し得たのだろうか。

IBMは1911年、アメリカニューヨーク州で創業。国籍、性別に関係なく、平等でありたいという理念のもとに設立され、当時から、多くの女性が活躍していたという。その後、さらに多く受け入れられるようになった背景を、山口明夫さんはこう話す。

「当時、コンピューター化が進む中、IBMは大量の社員を確保しなければなりませんでした。そこで大量採用したのが優秀な女性たちです。その後、アメリカ南部に工場を作ります。当時はまだ人種差別が激しい時代でしたから、南部の方々に工場が受け入れられることが重要でした。

そのために様々な壁を取り払っていったのですが、そこで何が起きたかというと、性別も人種も関係なく、一緒に働くことによって、当初経営者が想像していた以上にいろいろな新しいアイデア、まさにイノベーションが生まれたのです。このことでIBMには、多様性を受け入れることの大切さのベースができあがりました。1969年のアポロ11号の開発には、IBMの社員4,000人が参画し、女性の技術者も数多く参加しています」(山口明夫さん)

では、日本のIBMはどうだったのか。

「日本IBMでも創業時から平等であることを大切にしてきました。そして、1960年代に日本でもコンピューターが普及し始めたとき、日本IBMの社員を当時1,000人から10,000人まで増やす必要があり、アメリカ本社と同様、優秀な女性たちを積極的に採用していったのです。皆さん、素晴らしい仕事ぶりだったと聞きます。このように弊社のDEIは、かなり早い段階で進んだと言えます」(山口明夫さん)

山口明夫さんが入社したのが1987年。最初の研修が「ダイバーシティ研修」だったというから、タイミング的にもかなり先進的といえる。

「その年、子どもが2歳になるまでの育児休職制度が始まりました。89年にはフレックスタイムを導入し、91年には介護休職に加え『大学で学びたい』という人のために教育休職も制定。99年にはリモートワークがスタートしています」(山口明夫さん)

2011年には施設内に保育所を開設、19年には学童プログラムを試験的にスタートさせている。

「幼稚園や保育園は延長をお願いできますが、小学生は早い時間に帰宅します。そこで、会社を学童の場にしようというパイロット・プログラムが始まりました。弊社には外国籍の社員も多く、英語を勉強するクラスや、プログラミングを教えるクラスなど、子どもたちにも好評でした」と山口明夫さん。

子育て世代のママ社員にとっては、とても心強いサポートだ。しかし、問題も露呈する。

当事者にしかわからないことを見つける

山口有希子さん

CNS社常務の山口有希子さんが聞き手を務めた。

撮影:中山実華

施設内の保育所は、全施設に併設されているわけではない。すると「皆が利用できるわけではない」「近くに住む必要がある」など色々な意見が出てきた。

「人事や経営層が知恵を絞り、施策を行っても当事者が『有効だ』と思えなければ、それは改善しなければなりません。そこで、社員自らが変革に関わることができるよう、当事者が集まるコミュニティを発足させました。1998年にJWC(Japan Women’s Council)を設置。営業職、コンサルタント職の女性が主に参加するコミュニティとして現在も継続し、2005年には女性技術者、研究者のコミュニティCOSMOSも発足しました。当事者にしかわからない課題をシェアし、議論する。そうすることで、リアルな課題が表面化するのです。

最近の事例では、コロナ禍により学校が休校になった際、社員からのSOSがありました。すぐに特別休暇を提供することを決定し、実行しています。経営層に速やかに声が届く。そして俊敏性をもって実行する。これが当事者のために非常に重要です」(山口明夫さん)

管理職登用へのステップも、有効なプログラムが用意されている。

「W50という、女性管理職育成プログラムがあります。育成というと強制的な感じを受けるかもしれませんが、そうではなく1年間、スキル育成をはじめマネジメントの疑似体験、社内外のネットワークの構築など、マネジメントは何が大変で、何が喜びなのかをみんなで共有する場です」(山口明夫さん)

その結果、参加者の40%は部下を持つ管理職に着任。「管理職になりたくない」という人の割合も大きく減り、効果的なプログラムになっている。

山口明夫さんは「経営トップがDEIの重要性を感じていること」が非常に重要だと話すが、当事者にしかわからないことが、たくさんあるのが現状。オープンにその声を聞ける場を作り、人事部も含めて共有するという仕組みを作っていくことが大事だという。

マイノリティの経験があるか

セミナー

撮影:中山実華

「当事者」という言葉が何度も登場する。DEIにおける当事者とは、すなわちマイノリティだ。樋口さんは働く場においては「心理的安全性」、つまり「誰に対しても安心して意見を言える」環境の確保が重要だと話す。

「たとえば日本語がネイティブでない人は、自分が言いたいことを100%伝えられないことがあります。意見を言っても異なる価値観を押し付けられたり、自分の意見がスルーされたりすることもあり、それは大きな疎外感を感じます。このような立場になった時に、サイレントマイノリティとなる彼らがどう思うのか、そういうところまで踏み込んでいかないと、彼らの心理的安全性が確保できません」(樋口さん)

山口明夫さんはアメリカへ赴任した際に、まさにマイノリティを経験した。

「語学力の問題、経験値の差、自身が『外国籍』であるなど、初めて自分が完全にマイノリティだと実感しました。これは経験してよかったことです」(山口明夫さん)

日本に帰国後は、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に気づいたと山口明夫さんは語る。

「たとえば、日本のマーケットで外国籍の社員が悩むことのひとつに『彼らは、日本市場における顧客の本当の要件を理解していない』と言われることがあります。しかし、彼らはものすごい量のデータを分析し、いろんなロジックを持っている。それを聞こうとしない日本人に対し『なぜ日本はいつまでたっても従来のやりかたしかせず、変革しないのか』と思っています。当然、データに現れない日本らしいニュアンスもある。これらは議論を重ねることで、それぞれの考え方がアンコンシャス・バイアスであるということがわかり、どんどん互いの意見を融合していくことができるのです」(山口明夫さん)

本セミナーでMC・聞き手を務めた山口有希子さんは、日本企業に根付く「同調圧力」が多様性を阻むことを指摘した。

「確かに、同調の中に入っていくのはラクなんです。とくに日本は『みんな同じ』という教育を受けていますから、社会に出て個性を出すのは大変です。しかしそれではイノベーションから遠ざかるばかり。同調圧力をブレイクスルーするためには、組織の中にある程度、数字的枠組みを作るのがよいでしょう。たとえば経験者は何%、女性は何%、外国籍の人は何%など。弊社でもいろんな議論ができるように、意図的に人材を配置している部分はあります」(山口有希子さん)

また、女性が管理職に登用される際、自身でも不安を感じる上に、「女性だから登用された」と囁かれる懸念もあると、山口有希子さんは言う。

「前職の部長と同じことをする必要はありません。経営層は、その人にしかできないことに期待をしています。『これまで部長がやってきたことを自分ができるだろうか』と思う必要はないのです。さらに、女性だから登用されるというほど、管理職の業務は甘くありません。当然、評価され、将来のポテンシャルがあるからこそ、そのポジションに就いているわけです。足りないところがあれば周りがサポートすればいいこと。ですから、そのポジションにオファーがあったなら、堂々と遂行していただきたいですね」(山口明夫さん)

セミナー

4月に新たに設立されるパナソニック コネクト株式会社の「C」マーク。

撮影:中山実華

最後に、山口明夫さんはこのように話した。

「打った施策がうまくいかないこともあります。私自身、今でも悩みながらDEIに取り組んでいます。重要なことは、マジョリティやマイノリティ、女性や男性、国籍、年齢、障がいがある、ないは関係なく、最後は一人ひとりの関係だということ。個々人の置かれた環境やスキル、考え方などお互い理解しあって、仕事を進めていくということが重要なのです今日よりも明日、明日よりも明後日がよりよくなれば、という気持ちで経営者も、社員も成長していけばいいのではないでしょうか」

そしてDEIについて「推進しなくては」「目標を達成しなくては」と今は思っていたとしても、いつしか「したい」という思いに必ず変化する、とご自身の経験をもとに力説した。

この課題は「あるレベルまで行ったら終わり」ではない。このセミナーを期に、各個人がその意識を高めていくことができたら、より良い社会に近づけるだろう。

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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