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ダイバーシティが実現した環境では、誰もが自分らしくいられるようになる/小木曽麻里さん

小木曽麻里さん顔写真

撮影/柳原久子

多様な視点でインクルーシブな未来を拓くメディア&コミュニティMASHING UPは、2022年3月より、社団法人として新たに始動した。就任した2人の理事に、これまでのキャリアや自身が考える社会課題、そして読者へのメッセージなどを聞く。

1人目は、SDGインパクトジャパンのCo-CEO 小木曽麻里さん。小木曽さんは日本長期信用銀行を経て世界銀行へ。もともと環境に興味があり、金融×サステナビリティの領域でのキャリアを望んでいたという。世界銀行では途上国の金融システムづくりなどに携わった。現在はインパクトファンド(社会や環境に対してポジティブな影響を与える投資)やSDG実現のためのビジネス、とりわけSDGファイナンスに携わっている。

小木曽麻里(こぎそ・まり)
SDGインパクトジャパン 代表取締役。インパクト投資、社会起業家支援、インクルーシブビジネスの促進などSDG実現のためのビジネス、特にSDGファイナンスに幅広く携わる。2017年には国内で初めてのジェンダー投資ファンドであるアジア女性インパクトファンドを設立。世界銀行資本市場部、世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京代表、ダルバーグジャパン代表、ファーストリテリンググループのダイバーシティ担当部長および人権委員会事務局長を歴任。W20日本デリゲート、国際協力機構海外投融資委員会有識者委員、WE Empowerのアドバイザーを務める。東京大学経済学部卒業。タフツ大学フレッチャー校修士。

デコボコはそのままでいい。「揃える」という発想はいらない

小木曽さん横顔

SDGインパクトジャパン 代表取締役の小木曽麻里さん。このたび、3月に発足した社団法人MASHING UPの理事に就任した。

撮影/柳原久子

「多様性という概念に最初に触れたのは、世界銀行に入った頃です。当時のチームは10人ほどでしたが、全員国籍が違う。考え方や文化が違うことが大前提だったので、みんなで共通点を見つけて一緒に仕事をしていくしかありません。たとえばコロンビア人の上司はミーティングにかならず遅れてきました。もちろん遅刻はよくないことですが、それを許容したうえでチームをつくっていくしかなかったのです」(小木曽さん)

60代の上司とお互いにファーストネームで呼び合い、仕事の合間には社内のカフェでお茶をするというのが当たり前の環境。リスキリング(必要なスキルの獲得や学習を積極的に促すこと)で自由な環境は、あまりにも心地よかったと話す。

全員がデコボコですが、それを揃えようという発想がそもそもありませんでした。会議でも意見の食い違いは多々ありますが、互いにそれを肯定していく。そうすることで全員が恐れずに意見を言えるようになり、また色々な意見も受け入れられるようになるのです」(小木曽さん)

デコボコを認め合うと、「こうでなければならない」というブロックが外れ、視野が広くなり、取り入れられるものの幅も大きくなってくると小木曽さんは言う。

「はじめは心地悪く感じるんです。自分と違う意見はノイズに感じる。でも多様であることが普通の環境に身を置くと、次第に誰もが自分らしくいられるようになる。こんなに心地いいことはありません」

「多様性」が腑に落ちていない日本

小木曽さん顔写真

「現在、投資家がもっとも注目しているのが企業のダイバーシティと人への投資」と話す小木曽さん。

撮影/柳原久子

イエール大学の面白い実験を紹介してくれた。男性だけのグループ、女性だけのグループ、男女混在のグループに分け、パフォーマンスを競わせたところ、混合グループがもっともパフォーマンスが良いという結果が出たという。

「面白いのは、『どのくらい良くできたと思うか』という質問に対する各グループのコメントです。男女混合グループは、一番パフォーマンスが高かったにもかかわらず、『意見がぶつかり、話し合いにも齟齬が生まれ、あまり良くできなかった』と回答したのです。一方、男性のみ、あるいは女性のみのグループは、パフォーマンスに反して『とても良くできた』と回答。

つまり、パフォーマンスを上げるには、視点が異なる者同士の議論が不可欠で、有効だということ。企業でも同じです。考え方や意識が異なる人を企業の意思決定層に入れることは、リスクを回避し、収益が上がることにつながるのです

日本に帰国して組織に入ると、企業の中は“同質”だった、と小木曽さん。もちろん、阿吽の呼吸で効率を上げられるなど、同質性にもメリットはある。多くの日本企業はそこで強みを出してきたともいえるだろう。しかし、イノベーションが求められる今の時代においては、多様な視点こそが必要になってくる。現在、投資の世界では、企業は多様性があることが大前提とされているが、日本はまだ腑に落ちていないところがあると指摘する。

「今、投資家がもっとも注目しているのが企業のダイバーシティと人への投資です。企業の取り組みは数字で開示され、投資家はその項目や数字で投資先を判断します。欧米ではそれがメインストリームですから、日本の企業は、恥ずかしい数字を出すと投資家から『収益が上がらない企業』とみなされることになります。市場はすでに、そういうところまで来ているのです」

D&Iの取り組みを行っている企業は多い。しかし、女性の社員や管理職の数を増やすことばかりにゴールを設定していないだろうか。D&Iとはマイノリティの数字を上げることだけが本来の目的ではない

「企業の方からよく『何をすればよいかわからない』とご相談を受けることがあります。D&I推進室をつくって『みんなで頑張りましょう』ではダメなんですね。必要なのは“気づき”です。それには学ぶことと議論することが不可欠で、時間もかかるんです

なぜ女性管理職の比率を上げた方がいいのか。その「なぜ」を、マイノリティを含めて社内全体で話し合っていく必要がある、と小木曽さんは話す。

ジェンダー課題はダイバーシティの1丁目1番地

微笑む小木曽さん

「SDGsの目標とする、17のゴールの、すべてのベースにあるのがダイバーシティ」と小木曽さん。

撮影/柳原久子

SDGsとダイバーシティの関連性を、小木曽さんはこう話す。

「SDGs(持続可能な開発目標)の目標5は『ジェンダー平等』です。女性や少女のエンパワーメントを目的としています。一方、ダイバーシティはSDGsの17のゴールに含まれません。なぜなら、持続可能な開発目標のすべてのベースこそがダイバーシティだからです。つまり、ダイバーシティが実現してこそ、『誰一人取り残さない』というSDGsの目指すゴールの実現が可能なのです」

女性管理職が少ない、女性の賃金が低い、(途上国ならば)女子は教育を受けられないなどの課題も、『ジェンダー平等』に関する課題のひとつ。日本企業は、まずはこれらのジェンダー課題に取り組むべきだと小木曽さんは指摘する。

「世界経済フォーラム(WEF)が先日、男女格差を測るジェンダーギャップ指数を発表しました。日本のスコアは156か国中120位。昨年の121位から1つ順位を上げたものの、先進国の中では最低レベルです。これは、日本が遅れているともいえますが、他国のジェンダー平等への取り組みのスピードが上がっているということです」

「どんな問題でもマイノリティの人が影響を受けている」という視点の大切さを語る小木曽さん

「どんな問題でもマイノリティの人が影響を受けている」という視点を一人ひとりが持つことが大切という。

撮影/柳原久子

また、OECDの学力調査によると、日本の女性は文系でも理系でも世界トップクラスだという。

企業はなぜ、このリソースを活用しないのでしょうか。人口減少社会になれば、人材確保も大きな課題。優秀な人材を確保できなければ、当然、競争力の低下につながります。一方、女性側の意識にも課題はあります。職業を選ぶ際に『この仕事は女性に向いていない』などと無意識の偏見が働き、自分の能力を過小評価してしまう。賃金格差の問題はそこにもあるのです」

だからこそ、必要なのは学び、教育だという。ジェンダーの問題や金融について学ぶこと。お金は自立の第一歩であり、自立こそエンパワーメントに不可欠だ。

「女性にも学びを深めてほしいし、経営層、マネジメント層にも学びが必要だと思います。ジェンダー平等とは何か、その先に何があるのか、学んで気づくことで、価値観も変わっていきます

MASHING UPに期待することは、多様な人々をMASH UP(混ぜ合わせ)するきっかけになることだという。

「男性も女性も、誰もがもっと声を上げて行くこと。そして職場でも家庭でも話をすること。どんな問題でもマイノリティの人が影響を受けています。そういう視点を一人ひとりが持つことが大切だということを、もっと発信していかなければなりません。MASHING UPは、その大きな役割を担っていると期待しています」

撮影/柳原久子

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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