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Conference:MASHING UP vol.5

都市はコスパ最強だが脆弱。パンデミックと災害に強い社会はどうつくる?

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撮影:S.KOTA

都市のかたち、街のかたちが大きく変わろうとしている。都市集中型社会の課題に向き合い、自然と共生しながらも快適で豊かな“新しい都市”をめざすには、どんなアクションが必要か。

2021年11月19日に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.5「街のかたちが変わる」セッションでは、ヤフーCSO(現Zホールディングス シニアストラテジスト)で慶應義塾大学 環境情報学部教授の安宅和人さん、隈研吾建築都市設計事務所 設計室長 松長知宏さん、東邦レオ 代表取締役社長 吉川稔さんが登壇し、これからの都市像を話し合った。

「脱コンクリート」はこれからの都市のキーワード?

吉川さん

東邦レオ 吉川稔さん。都市集中型の限界を解決するために、リアルとバーチャルを融合させた空間を実現させるプロジェクトを隈研吾さんらと共同で行っている。

撮影:S.KOTA

まず、東邦レオ 代表取締役社長の吉川稔さんが「地球OS書き換えプロジェクト2021」を紹介。建築家・隈研吾さんとの出会いをきっかけに同プロジェクトを立ち上げたと話す。

「プロジェクトのメインの拠点は、東京大学キャンパス。2021年11月より実証実験をスタートしたばかりで、まだまだ一歩目の段階です。隈研吾さんの言葉で一番驚いたのは、建築家が “脱コンクリート”と“建築の民主化”を提唱していること。もし、それが実現したら建築事務所はいらない。そんなことを隈研吾さんが明確に仰っているのが、とても刺激的に感じた」(吉川さん)

松長さん

隈研吾建築都市設計事務所の松長知宏さんは、異なる地域に設置した食卓を繋げる「ロングテーブル実証実験」にて、一か所に縛られない遊牧民的生活の可能性を感じたという。

撮影:S.KOTA

このプロジェクトでは、現代当たり前のように存在するコンクリート製の大型建造物のあり方に、真っ向から疑問を呈している。

「コンクリートは形を自由に変えられ、価格も手頃で、設計も楽で、とても便利な素材だが、コンクリートを使うことで、どんどん都市にモノが集中し、人も縦に詰め込まれていった。しかし、このような状況はここ100年位の話。昔の人類は、もっと自然な状態で暮らしていたのではないか、ということにコロナ禍で気づいた」(松長さん)

松長さんは、このプロジェクトの目標は、建築と情報、そしてリアルとバーチャルを融合させて、これからのOSを書き換えていくことだという。各コミュニティが街づくりや建築の主導権を取り戻せるのかを試みる2021年11月からの実証実験は、北海道東川町、香川県父母ヶ浜、大阪府中津、東京都大手町に設置した大きな食卓(ロングテーブル)をリアルタイム接続で繋いだ。具体的には、各拠点のテーブルの両脇にモニターを設置し、あたかもその場に人がいるような一体感のある状態を作り出している。目標は、“離れているけどご近所さん”の関係づくり。松長さんは、バーチャルが徐々にリアルに馴染んでくるのを体感したと感想を述べた。

都市の効率性は最強だが、災害とパンデミックには極端に弱い

続いて慶應義塾大学環境情報学部教授でヤフー CSOの安宅さんは、都市集中型未来に対するオルタナティブ検討を「風の谷を創る」運動論の中ですすめる一方、国のデジタル防災 未来構想WG座長を務めた視点から、都市集中型社会のメリット・デメリットについて解説した。

安宅和人さん

慶應義塾大 環境情報学部教授 / ヤフー CSOの安宅和人さん。2017年頃から「風の谷を創るプロジェクト」を行っている。

撮影:S.KOTA

内閣府が立ち上げたデジタル・防災技術ワーキンググループ(未来構想チーム)座長も務めた安宅さんは、4年以上に渡って、都市集中型未来に対するオルタナティブ検討を「風の谷を創る」プロジェクトの中ですすめてきた。

都市型社会の方がコスパは抜群にいい。とくに、集合住宅は“蜂の巣の人間版”なのでコスパ最強」と安宅さんはが話すが、都市にも致命的な弱点があるという。それは、パンデミックと災害だ。地震大国と言われる日本だが、いま安宅さんが一番懸念しているのは、火山噴火。実は、火山灰も生活に甚大な被害をもたらすのだが、いまだ具体的な対策が講じられておらず、国民レベルでも周知されていないのが現状だ。

「たとえば富士山が噴火したら、令和2年に行われた国の中央防災会議の検討結果によると(※)、東京は3時間で大半のインフラ、まずは電気、交通、物流が止まる可能性が高い。電気は数ミリの火山灰で止まる。電気が止まることで、ポンプで動く上下水道も遠からず止まる。火山灰が激しく舞っている状況ではヘリも飛ぶことはできない。水も食料も届かなくなる世界が現実的に十分有り得るというのはちょっと戦慄する話ですよね?

これらの検討とウィズコロナ社会からの教訓も踏まえ、都市集中型社会に対するオルタナティブづくりを目指す『風の谷を創る』検討では、どうやってパンデミック・災害に備えた社会をつくるかが、一つの重要条件と考えています。『風の谷』が普通に回るようになるにはすくなくとも50年、実際には100年以上かかる可能性が高い。空間的な価値だけではなく、土木以外も合わせた社会インフラ全体を含めた色々な問題を解決しなければいけないので、検討をすすめるほど、容易には解けない問題だということが明らかになってきている。普通に考えていては無理なことを成し遂げようとしている、(このプロジェクトには)ビジョンに共鳴する様々な分野の日本の頭脳というべき人が多く集まっています 」(安宅さん)

(※)中央防災会議:大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~(参考)

人類は異常気象や災害からのサバイバル問題について、真剣に早急に考えなければならないと指摘する安宅さん。地震大国・日本の首都である東京都は、他の都市に比べて地震には強い。しかし台風と火山灰については、現時点で無防備な状態にあることを安宅さんは危惧している。

富士山は宝永以来、300年以上噴火していない。宝永噴火(1707)は9世紀頭(802)の延暦の噴火から数えて10度目、間隔は350年あいたこともあるが、ならすと約100年に1回のペースで噴火していた。いま300年分溜まっている」。火山噴火の危険性を現代人は判っているのに、全然考えていないことが問題だと安宅さんは強調した。

オフィスビルで農業をする時代がくる?

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安宅さんの語る未来予想図に大きな衝撃を受ける会場。一刻を争う事態に、我々はどう対応していけばいいのかについても語り合った。

撮影:S.KOTA

しかし、都市集中型社会をただ単純に地方に分散させようとすると、100年前の不便な暮らしに戻るだけだ。安宅さんたちの分析によると、疎空間に分散化して生活すると、現在の社会のシステムでは一人あたりの環境負荷が都市とは一桁も二桁も簡単に上がってしまうという。

人口が都市に密集して暮らしてきたのは、それが効率面でそして利便性の視点で最適解だったからだ。自然の脅威から身を守り、莫大なインフラコストの問題もクリアしながら、都市集中型を解消するためにはどうすればいいのか。

「環境負荷を下げた状態で疎状態を成し遂げるのは実に難しく、100~200年かかるだろう。一方で温暖化に伴い、暴風雨、台風などの災害は激甚化することはほぼ確実。とりあえず、田畑は相当量ビル内に移した方がいいんじゃないかと個人的には考えている。今はビル内で垂直に栽培面を創り、LEDで最適照射をおこなって育成することも可能になってきている。自分も田園風景は好きだが、通常の田畑は残念ながら激しい風雨に弱すぎる。未来には人口も減るので、空いたビルはかなりの部分を田畑にするのがいいんじゃないですか」(安宅さん)

そんな安宅さんの話は的を得ていると、吉川さんも自ら温めているアイデアを話した。

「弊社でも、次の事業は何やろうかと考えていたときに、今のオフィスビルを農業に使おうと思いついた。地産地消って地方のイメージがあるかもしれないが、東京の中心の大手町でも、地産地消ができる。大手町で採れた野菜を、大手町のレストランで食べる。そして農業生産者の人は、毎日都心のビルに出勤する。僕はそんな時代が来ると思う。将来的に物流コストは高騰するから、地方で生産して運んでくるよりも、都心のビルで野菜をつくる方が低コスト」(吉川さん)

そもそも都市集中型の問題について考える際に、“都市”と“地方”という分類は誤りだ、と安宅さんは指摘する。では何が正解なのかというと、“都市”と“疎空間”だという。一般的に地方と言われている場所も、実は都市に人が住んでいる状態にあるからだ。

人と人との繋がり方や働き方が大きく変化するなか、都市も、コミュニティのあり方も変化していく。そして自然災害への対処など、様々な課題が山積みだ。この喫緊の課題について専門家のみに任せるのではなく、私たち一人ひとりも自分の中のOSを書き換え、価値観をアップデートさせることが重要なのではないだろうか。

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撮影:S.KOTA

MASHING UP conference vol.5

街のかたちが変わる

安宅 和人(慶應義塾大学 環境情報学部教授 / Zホールディングス シニアストラテジスト)、松長 知宏(隈研吾建築都市設計事務所 設計室長)、吉川 稔(東邦レオ 代表取締役社長)、遠藤 祐子(メディアジーン MASHING UP編集長 / メディアジーン執行役員)

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吉野潤子
ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。

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