1. Home
  2. Social good
  3. 未来を創る新たな金融の流れとは? 誰もが社会課題解決に関われる時代へ

CONFERENCE:MASHING UP vol.5

未来を創る新たな金融の流れとは? 誰もが社会課題解決に関われる時代へ

セッション登壇者の写真

画像:MASHING UP

金融を通して社会課題の解決を目指す、「インパクト投資」に注目が集まっている。

今、金融の世界で何が起こっているのか、目指すものは何なのか。2021年11月19日に開催したMASHING UPカンファレンス vol.5のセッション、「インパクト投資の次にあるもの」では、その先にある新しい投資のかたちをディスカッションした。

登壇者は、スタートアップへの投資活動を最前線で取りまとめる鎌倉投信 代表取締役社長の鎌田恭幸さん、MPower Partners ゼネラル・パートナーの関美和さん、Zebras and Company 共同創業者/代表取締役の田淵良敬さん。日本最年少でベンチャーキャピタルファンドを設立したtaliki 代表取締役CEOの中村多伽さんをモデレーターに、インパクト投資の現状と、その先にある未来について語り合った。

一人ひとりの行動が社会を変える時代に

futureeconomy_2

鎌倉投信 代表取締役社長の鎌田恭幸さん。顧客との対話を大切にしながら、投資家の経済的な豊かさと、社会の持続的発展の両立を目指し、その実感と喜びを分かち合うことを目指す。

撮影:中山実華

インパクト投資を推進するグローバルなネットワーク組織、「The Global Steering Group for Impact Investment(GSG)」によると、インパクト投資の定義は、利益だけでなく、それと並行して「ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出す」ことを目的とした投資行動だ。

鎌倉投信は、独自の視点で選抜した“いい会社”に投資する投資信託、「結い2101」などで知られる。鎌田さんは、インパクト投資が注目されるようになった背景についてこう語る。

「13年前の弊社の創業時に比べると、物質的・金銭的価値から心の豊かさを探求する時代へと変わってきました。今、弊社の投資信託にご参加いただいている0歳から90歳までの2万2千人のお客様を見ていると、1万円から投資できることもあり、学生でも社会のために自分の意思で投資しています。こうした社会的動機をもとに投資行動をする個人が、これからもっと増えていくでしょう。弊社ではこれを『サステナブル投資』と呼んでいます」(鎌田さん)

社会課題をいかに自分の問題として受け取り、経済を介して関わっていくことができるのかというのも、インパクト投資では重要な視点であると鎌田さん。

一人ひとりの消費行動が、社会や企業を変えていく時代になると思います」(鎌田さん)

投資にも多様性が求められている

Zebras and Company 共同創業者 /代表取締役の田淵良敬さん

Zebras and Company 共同創業者/代表取締役の田淵良敬さん。約10年前から国内外でのインパクト投資に従事し、ゼブラ企業のコンセプトを広めるために、さまざまな投資や経営支援を行った経験を持つ。

撮影:中山実華

Zebras and Companyの田淵さんは、急成長を遂げるユニコーン企業への投資ばかりが注目される状況に警鐘を鳴らす。そしてアメリカのゼブラズ・ユナイトが提唱する「急成長するわけではないが、着実に成長して利益が出るとともに、社会的役割も果たしていく」ゼブラ企業を支援している。

「分野は特定しておらず、社会的インパクトを作る企業を応援しています。これまでにご支援させていただいた例としては、教育や女性のエンパワメントなどのフィールドがあります。ゼブラ企業の実例を作っていくことで、さらにゼブラ企業を経営したい人と投資したい人が出てきて、私たちのビジョンである、“優しく健やかで楽しい社会”が実現できたらと考えています。これからは、投資にもファイナンシャルインクルージョンといえる多様性があるべきです」(田淵さん)

日本初のESG重視型VCが掲げる仮説は「インパクト投資は低リターンにあらず」

MPower Partners ゼネラル・パートナーの関美和さん

2021年5月にキャシー松井さん、村上由美子さんと共に、日本初のESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンド、MPower Partnersを設立。ベストセラー『ファクトフルネス』『Invent & Wander――ジェフ・ベゾス Collected Writings』の翻訳者としても知られる。

撮影:中山実華

これに対し、関さんは「インパクト投資というと、通常よりリターンが低いと考える人が多い。しかし、そうではないというのが私たちの仮説であり、それを証明したいと思っています」と語る。

多くの人が使うソリューションを提供する企業は、社会課題の解決という面でも、ビジネスという面でも利益や成長が期待できるはずです。しかし、そうした企業自身が必ずしも環境に優しく、ダイバーシティがあるわけでもないことがあるのも事実。そこで、女性取締役を増やしたり、炭素排出量を測るツールを提供したりして、ESGを実装するお手伝いをしながら、上場後も一緒に伴走するようなファンドを作ったのです」(関さん)

社会解決が市場機会として据えられる未来を目指して

中村多伽さん

taliki 代表取締役CEOの中村多伽さん。社会課題の解決を目指して立ち上げられた事業の伴走から始め、成長してきたタイミングで大手との連携や投資といった支援を行う。

撮影:中山実華

若い世代は、社会に対して良いことをしようという気持ちを、当たり前に持っていますよね。今後そういった価値観を持つ人が生産人口の半分以上になると、ESG投資やインパクト投資なんていう言葉すらいらない、当たり前の社会になっていくでしょう」(鎌田さん)

日本では最年少でベンチャーキャピタルファンドを設立したtalikiの中村さんは、「確かに、今私がしていることは、10代からずっと考えてきたことを積み重ねた結果です」という。

「課題解決と経済活動をどう両立させるかを考えてきた中で、企業にはティア1から3まであると思っています。ティア1が、『どうも、やらなければいけないらしい』と、社員がSGDsバッジをつけ始めた段階。ティア2が、事業リスクにつながる気候変動などの課題に対して、あくまでリスク管理としてESG経営に取り組んでいる層。そして、私が目指しているのがティア3、すなわち企業が社会解決を市場機会として捉えている状態。こういった会社を増やしていきたい」(中村さん)

ステークホルダー全員で課題を解決できる仕組みを

セッションの様子

左からtalikiの中村さん、鎌倉信託の鎌田さん、MPower Partnersの関さん、Zebras and Companyの田淵さん。それぞれの視点から活発に意見が交わされた。

撮影:中山実華

田淵さんは、「今まで認知されていなかったニーズや課題を捉えて、ビジネスを通して課題解決を行う人も出てきていますね」と指摘。例えば、Zebras and Companyの投資先の第1号である、株式会社陽と人が展開する「明⽇ わたしは柿の⽊にのぼる」は、福島の柿を用いて作られるデリケートゾーンケアブランドだ。従来、地元では廃棄されていた柿の皮を使った製品を開発・販売している。女性が抱える健康課題を解決するだけでなく、製品が売れれば、地元の柿農家の収入が増えるようなビジネスを構築している

一方で、環境へ配慮しているから、社会課題解決に役立つからという理由で商品を購入する消費者はまだまだ少ないことも事実。これに対して関さんは、以下のように語る。

「多くの人たちは善意を持ち、社会課題を解決する企業やプロダクトを応援したいと思っているのですが、値段が高すぎたり、アクセスが悪かったりすると選ばないスタートアップの中でも、そうした部分を価格や流通面でアクセシブルにしてくれる企業こそが、本当に社会課題解決に貢献できると思うのです」(関さん)

これに、「1社ですべてできる会社はないのだから、得意分野のある企業が複数社集い、全体として持続性を高めていくという方法もある」と鎌田さん。

「いろんな会社とアライアンスを組み、社会にインパクトを与えていく。投資家を含めた、ステークホルダー全員で解決できる仕組みを作っていくことが重要です」(鎌田さん)

社会課題解決における成功体験を増やしていく

セッションの最後では、オーディエンスからの質問も飛び出した。

企業の社会課題解決への意識を上げるにはどうしたらいいかという質問に対し、中村さんは「社会課題解決に寄与したら大きな利益が出たなど、企業にとっての成功体験をどんどん増やすことが必要」と回答。

鎌田さんは、「ただ、利益を求めるあまり途中で世界観が曇ってしまったりしてしまわないよう、投資する側も丁寧に見ていく必要があるでしょう」と述べた。

そして最後に、「投資だけでなく、消費行動も社会課題を解決する一つの投票手段のようなもの。起業して社会解決を目指すだけでなく、個人であっても投資によってそうした企業を応援するという方法もあるということは改めてお伝えしたい」と関さん。

今後、企業は社会をより良い方向へ導くために、個人は社会を変えるための一つの手法として、ESG投資やサステナブルなお金の流れはより主流になってくるだろう。金融を通じて社会の変革をリードする4人の言葉から、新たな金融の流れをひしひしと感じる、そんなセッションだった。

セッション後に撮影された登壇者の写真

撮影:中山実華

MASHING UP conference vol.5

インパクト投資の次にあるもの

鎌田恭幸(鎌倉投信 代表取締役社長)、関美和(MPower Partners ゼネラル・パートナー)、田淵良敬(Zebras and Company 共同創業者 / 代表取締役)、中村多伽(taliki代表取締役CEO)

  • facebook
  • twitter
中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

    CONFERENCE:MASHING UP vol.5

    おすすめ

    powered byCXENSE

    JOIN US

    MASHING UP会員になると

    Mail Magazine

    新着記事をお届けするほか、

    会員限定のイベント割引チケットのご案内も。

    Well-being Forum

    DE&I、ESGの動向をキャッチアップできるオリジナル動画コンテンツ、

    オンラインサロン・セミナーなど、様々な学びの場を提供します。