撮影/キム・アルム
女性の起業家支援が遅れているといわれる日本。米国のマスターカード社が行った調査(※1)によると、日本国内の経営者に占める女性の割合はわずか 17.3%。また別の調査(※2)では、日本の若者のうち「自分たちが社会や国を変えられる」と思っているのはわずか26.9%と、対象6か国中最下位だ。
こうした日本社会の課題を改善すべく、2022年3月8日の国際女性デーに合わせて 、「Women’s Startup Lab Impact Foundation Japan」が設立された。代表取締役は、シリコンバレーで 「Women’s Startup Lab」 を創業し、女性起業家支援プログラムを運営する堀江愛利さんだ。日本の現状をどう捉え、どんな社会を目指すのか。団体設立の背景や女性起業家への思いを聞いた。
※1「Mastercard Index of Women Entrepreneurs (MIWE) 2019」
※2 日本財団『18歳意識調査』第46回「国や社会に対する意識」(6カ国調査)
堀江愛利(ほりえ・あり)
Women’s Startup Lab 代表取締役。1997年にカリフォルニア州立大を卒業 後、米国IBM、スタートアップでの経験をもとに、2013年、シリコンバレー初、女性に特化したアクセラレター"Women's Startup Lab"を創業。独自の育成プログラムと強靭な現地ネットワークで、グローバルに女性起業家やベンチャーの育成支援を行い、その功績を称えられ、数多くの賞を受賞。2022年3月には、「境界を突破し、次世代に希望を与える女性」として、バービー人形で知られるマテル社より、『ロールモデル』シリーズの一員として、日本人起業家として初めて選出され、益々の活動が期待される。2022年春より、日本の女性、高校生を対象に、プロジェクト「Amelias」を始動する。
シリコンバレーで女性起業家の育成プログラムをスタート
「Women’s Startup Lab Impact Foundation Japan」代表取締役の堀江愛利さん。
堀江さんは、17歳で米国に留学し、大学卒業後はIBMに就職した後、いくつかのスタートアップ企業を経て、教育に関連するテックカンパニーを起業。そこで直面したのが、それまで気づくことのなかった男性中心社会の壁だった。
多くの女性起業家が社会問題を重視し、ニーズが高いサービスを提案しても、エンジニアのサポートがつかないだけでなく、 男性を中心に楽しむ目的のアイデアが優先されてしまう場に何度かぶち当たり、そんな状況に絶望さえ覚えた日も多かった、という。
「人のためになるテクノロジーの使い方とは何かを考えた時、男性の目に付く分野ばかりに使われ、育児や介護、健康といった主に女性が関わる分野には届いていなかった。テクノロジーによってこれから世界はどんどん変わっていくのに、そこに女性がおらず、女性が望む事業をできないのは、絶望的な状況ではないかと思ったのです」
また、自身が2人の育児と親の介護をした経験から、家庭と仕事(起業)の両立という課題も痛感。そこで堀江さんは、女性に特化した起業家支援を行うべく、2013年、シリコンバレーで「Women’s Startup Lab(以下WSL)」を設立した。
「人」の育成を重視する独自のプログラムで、成長を加速
「テクノロジーが男性の目に付く分野ばかりに使われ、女性が望む事業をできないのは、絶望的」と語る。
撮影/キム・アルム
WSLが他のアクセラレーターと大きく異なるのは、その独自のプログラム内容にある。
世界中から集まった女性たちが、2週間生活を共にして、ワークショップやディスカッションに参加する。その中で、起業家マインドを学び、女性が直面するだろう壁・課題を知り、乗り越える力をつけ、不安をなくしていく。ここで重きを置くのは、起業する会社ではなく、「人」の育成と、人を引っ張っていく環境の醸成だという。
「まだ会社 ができたばかりで、お金もない、人もいない状況で、インポッシブルをポッシブルにするのは、頭がいいとか、カリスマ性があるということではなく、その人の人間性にかかってくると思うのです。熱意が他人の心を動かし、その熱意に共感した人が伴走してくれるようになる。だから、その人の強みを引き出して、彼女らしさ、起業家らしさを最大化していきたいのです。
また、壁に直面したときに、それで心を傷めたり、自信をなくしたりしてほしくない。どんな壁があるのか、あらかじめ知見があれば対処できるし、自分に自信が持てるはずです。時間と労力を100%起業に費やせるようにプログラムをつくっています。また、志を同じくする仲間がいることで、お互いがロールモデルになって学び合い、1人のビジョナリーとしての成長を加速することができています」
女性ががんばるだけでは社会は変わらない
立ち上げ準備段階や設立直後である「シード・アーリーステージ」にいる層のサポートに、より力を入れたいと語る堀江さん。
撮影/キム・アルム
プログラムのアップデートを繰り返しながら、シリコンバレーで多くの女性起業家をサポートしてきた9年間。そこで堀江さんが痛感したのは、「女性ががんばるだけでは社会は変わらない」ということだ。男性には男性同士の厚いネットワークができあがっており、チャンスは労せずとも手に入れられる。しかし、女性起業家にはそれがない。
そこで堀江さんは、女性起業家を投資家やインフルエンサーに紹介して、バックアップしてもらうことにも奔走した。その結果、多くの女性起業家たちが成功を手にしたが、一方で、「そこまでのステージに上がる前に、何千人もの女性たちが『あと少し』のサポートをもらえなくて、あきらめることになった。そのことがすごく心に残っています」と語る。
このたび日本で立ち上げたWomen’s Startup Lab Impact Foundation Japanでは、その心残りであるシード・アーリーステージ(立ち上げ準備段階や設立直後)にいる層のサポートに、より力を入れるという。
「アーリー層へのサポートシステムが足りないのは、アメリカも同じで、男性や恵まれた人だけが上のステージに上がっていく状況になりがちです 。そんな状態では、今後どんどんテクノロジーが経済をリードしていく中に、わずかな数の女性しか入ることができず、男性の目線だけでつくられた社会が続いてしまう。それでは、社会にある本当の問題は見えてきません。自分が苦しんだ経験があって、恵まれていないことや必要とされることが分かるから、それを社会を変える力にできる。より良い未来をつくるためにも、アーリー層で多くの女性や若者が立ち上がる必要があるのです」
自由な発想で、自分のワクワクを見つけてほしい
堀江さんは「境界を突破し、次世代に希望を与える女性」として、2022年3月8日、バービー人形で知られるマテル社より、『ロールモデル』シリーズの一員として、日本人起業家として初めて選出された。
撮影/キム・アルム
日本での活動名「Amelias」は、女性初の大西洋横断を成し遂げた飛行士Amelia Earhast(アメリア・イヤハート)にちなんで命名した。「Think Crazy, あなたの夢中が、未来をつくる」というコンセプトには、堀江さんの熱い思いが込められている。
「アメリアが生きた時代は、女性が飛行士になることに、きっと誰もが『Crazy!』と言ったことでしょう。それでも、アメリアは自分のワクワクを大切にしてアクションを起こし続け、その結果、歴史に残る偉業を成し遂げた。アメリアのような女性を日本でたくさん増やしたい。そう考えて『アメリアス』と名付けました。
また、Crazyは『Crazy about』で何かに夢中になる、『That’s Crazy』では“わぉ、すごいね”という意味になる面白い言葉。自分の中のCrazyって何だろうと、まずは自由に発想して、ワクワクできることを見つけてほしい。そして、そのワクワクに夢中になって行動することで、新しい起業のムーブメントをみんなでつくっていこう。そんな思いを込めました」
様々な自治体や企業とのパートナーシップ が進んでいるという。
撮影/キム・アルム
堀江さんの志に賛同し、パートナーシップを結ぶ自治体や企業は、すでに7社に及ぶという。
そのうちの1社が、三井Moon Creative Lab。三井物産がこれまでにない新たなビジネスを創出すためのイノベーションラボだ。プログラムをつくるプラットフォームや、ステージが上がってきた女性起業家に必要なノウハウやリソースを提供し、半年から1年かけてサポートを行う、という活動にコミットした形でのパートナーシップだ。
「日本にイノベーションを起こすには、社会全体で『Be Crazy』でなければならない。女性をサポートすることはSDGsの推進にもなり、新規事業を創出するための人材育成にもつながる。企業も私たちも起業家も、みんながWIN-WINになる企画だと受け入れてもらえています」
一人ひとりが抱える課題をテクノロジーで解決できる社会に
未来を担う女性たちに「自分のワクワクを大切にして、一歩を踏み出して」と前向きなメッセージを送ってくれた。
撮影/キム・アルム
「起業家は、理想とする社会をつくる職業」と語る堀江さん。その堀江さんが理想とする社会とはどのようなものだろうか。
「自分が困っているとか、誰かを助けてあげたいと思ったことを、自分で解決できる社会ですね。今は、テクノロジーのおかげで、自分でビジネスを起こして解決法をつくれる時代です。だから、一人ひとりが自分の課題を、社会の未来の解決法として捉えてほしい。そうすれば、社会全体がイノベーションに向かって加速していくはず。そんな時代が来ています」
続けて、未来を担う日本の女性にメッセージを送ってくれた。
「自分にはできないと思っていたことは、過去の世界ではそうだったとしても、今は違う。テクノロジーによって生まれている世界は、私たちにチャンスを与えてくれています。起業というと身構えてしまうかもしれませんが、自分がつくったもの、面白いものを提供して喜んでくれる人が、1人現れ、1人が5人になり、5人が50人に増えていくことと考えてみて。
難しく考えずに、自分のワクワクを大切にして、一歩を踏み出してほしい。一緒に走っていく仲間も、サポートする私たち、スポンサーもいます。今は見えてない新しい社会が実はすぐそばにあるので、ぜひワクワクを、そしてテクノロジーを楽しんでください」
まだ見ぬ未来へ飛び立つ翼を、Women’s Startup Lab Impact Foundation Japanは与えてくれる。女性起業家たちがつくる未来を、楽しみにしたい。
[Amelias]
撮影/キム・アルム

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