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日本企業が生き残るためには、 ESGやD&Iは必須課題/夫馬賢治さん

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撮影/柳原久子

2022年3月より、社団法人として新たに始動したMASHING UP。就任した2人の理事に、これまでのキャリアや自身が考える社会課題などを聞く。(第1弾・小木曽麻里さんのインタビューはこちら)。

このままだと日本企業はなくなってしまう

ダイバーシティ、サステナビリティ、ESG。これらのキーワードは世界のみならず、日本でも「共通認識」となってきた。しかし、 日本には、それらは余力のある企業だけが取り組む社会貢献の一環にすぎない、というような認識がまだ残っているのではないだろうか。

「世界の経営者たちは、すでに舵を切っている。残念ながら、日本はかなり遅れをとっています」と指摘するのは、ESG投資やサステナビリティ経営の専門家である夫馬賢治さんだ。「このまま経営の舵を切らなければ、日本企業は本当になくなってしまうかもしれない」と話す夫馬さんに、その思いを聞いた。

夫馬賢治(ふま・けんじ)
ニューラルCEO。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証一部上場企業大手や機関投資家を多数クライアントに持つ。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。著書『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)、『ESG思考』(講談社+α新書)他。Forbes、JBPress、現代ビジネスのオフィシャル・コラムニスト。環境省、農林水産省、厚生労働省のESG関連の有識者委員や、国際会議での委員を歴任。国際NGOウォーターエイドの日本支部「ウォーターエイドジャパン」理事。
ハーバード大学大学院サステナビリティ専攻修士課程修了。サンダーバード・グローバル経営大学院MBA課程修了。東京大学教養学部国際関係論専攻卒。

「まるで日本中が眠っているよう」と危機感を覚えて

ニューラルCEO夫馬賢治さん

ニューラルCEO夫馬賢治さん。このたび、3月に発足した社団法人MASHING UPの理事に就任した。

撮影/柳原久子

夫馬さんは2004年にリクルートに入社後、HRや経営企画領域に携わってきた。

「企業が抱える組織の問題や課題については当時から向き合っていましたし、エコファンドやSRI(社会的責任投資)についても知ってはいました。しかし、2010年にアメリカに留学して、その認識ががらりと変わる衝撃の体験をしたのです

アメリカのビジネススクールはまさに多国籍。そこで交わされる会話には、「ダイバーシティやサステナビリティの視点は、企業経営の根幹である」という共通認識があった。

“ダイバーシティとビジネスの融合” というその概念を理解できなかったのは、おそらく僕を含めた日本人だけだったと思います。2010年は日本ではリーマンショックの後遺症が残る年。経済も停滞し、翌年には東日本大震災を迎えます。当時の日本でダイバーシティ・マネジメントを本格的に取り入れている企業はごく少数だったはず。多くの社員や経営者は、ダイバーシティ・マネジメントをまだ“知らなかった”のです

あまりの世界とのギャップに衝撃を受け、「まるで日本中が眠っているようだ」と危機感を覚えたという夫馬さん。この状況を立て直すべく、ESGの専門家となり、2013年にニューラルを立ち上げた。

「言語の壁」が“知らなすぎる日本”をつくる

夫馬賢治さん

「2010年のアメリカ留学で、ダイバーシティの認識ががらりと変わる衝撃の体験をした」と話す夫馬さん。

撮影/柳原久子

世界の情報がこれだけ瞬時に伝わる時代になっても、日本の企業やビジネスマンの前に立ちはだかる「言語の壁」が、さまざまな課題への認識を遅らせる原因になっている、と夫馬さんは指摘する。

「たとえば、多くの企業で講演をする機会がありますが、プレゼン資料に海外の企業事例を入れると『国内の企業事例でお願いします』と言われてしまう。海外の事例だとピンとこないんですね。これこそが“知らなすぎる日本”の原因です。各企業は、国内の同じような情報をみんなで反芻しているだけなのです

一方、外資系企業はダイバーシティやサステナビリティの重要性、目的を理解している人が多い。彼らはたいてい英語でビジネスをしますから、当然グローバルトレンドも理解しています」

では日本企業はどうすればいいのか。やはり、第一は「知ること」だという。なぜ経営にダイバーシティやサステナビリティが必要なのか。その「なぜ」を理解せず、女性管理職の数字を伸ばすことだけを目標にしているとしたら、それは「向かっている道がまったく違う」のだ

「D&I推進室や女性活躍推進室をつくる企業は増えていますが、その取り組みは所管部署に任されているケースがほとんどです。他部署との連携もなく、経営の根幹でもない。課題感がつながっていなくては、ビジネスとの融合とはいえません。まずは、取締役会にダイバーシティを採り入れ、社外取締役の声を重視すべきです。投資家もそこを重要視しています

最大の意思決定機関である取締役会が閉じた議論を繰り返していたとしたら、全社のダイバーシティなど生まれないのだ。

コロナで明らかになった日本と欧米の違い

夫馬賢治さん

パンデミックの発生で、日本と海外は異なる反応を見せた、と話す夫馬さん。

撮影/柳原久子

ESG投資という言葉が日本に本格登場したのは2018年。以降、日本企業もようやく「新しい時代にいかなければならなくなった」と認識し始めた、と夫馬さん。

「とはいえ、それは“感覚”に過ぎず、具体的なアクションには至っていない企業がほとんどです。世界が全力疾走しているときに、日本はようやく布団から出てきた感じ大企業であればあるほどESGの指標をチェックされますから、スコアが低い企業は本気で取り組まなければなりません」

そして、2020年、パンデミックが発生。日本と世界はまったく異なる判断をしたという。

「日本では、2020年の2月から5月まで、経済界からESGやSDGsという言葉が消え去りました。コロナでそれどころじゃない、SDGsはもう終わったな、というムードになったのです。短期的な利益を優先させるため、従業員を解雇せざるを得ないという判断をした企業も少なくなかった。

しかし、欧米を始めとする世界は真逆でした海外の投資家は、『今こそ気候変動を経営の軸に』『従業員を守れ』『経済を衰退させるな』というメッセージを発信。むしろ、ESGがメガトレンドという流れに、日本の経営者は相当戸惑ったと思います。やがて日本の一部のメディアでもESGに関する発信が盛り上がりを見せ、10月には菅首相が『2050カーボンニュートラル』を宣言。ようやく軌道修正されました」

海外では、感染症も気候変動による悪影響のひとつと捉え、より一層取り組みを強化し、脆弱な社会を守らなければならない、という認識が強まった、と夫馬さん。

経営の視点を、短期から長期に変える必要があります。なぜ日本はそのような視点を持てないのかというと、今は『VUCA時代』(※)だから、未来のことは予測してもわからない、という考え方になってしまっているんです。海外はVUCAだからこそ、確かなトレンドは続いていくし、変化の波に焦点をあてて未来の計画を出していこう、という動きに。経営者はこの意識を変えていかなければなりません

※ VUCA時代 = VOLATILITY(変動性)、UNCERTAINTY(不確実性)、COMPLEXITY(複雑性)、AMBIGUITY(曖昧性)の頭文字を取り、「先行きが不透明で、未来の予測が困難な状態」を表す。

残っていくのは「トップが気づいた企業」だけ

夫馬賢治さん

D&IがDEIに。「エクイティこそが重要」と夫馬さんは言う。

撮影/柳原久子

夫馬さんによると、DEIやESGの意識が追い付いてきている日本の上場企業は10%(約350社)くらいだという。

「それに対し、アメリカのS&P500に組み入れられている銘柄(企業)は、大半が既にその意識をもって経営を行っています。来期の売上や利益が大事なのではない。長期的経営が重要で、そのためにダイバーシティが根幹になければならない。そのことに経営層が気づいた企業が残っていくでしょう

かつてのD&Iは、DE&I(ダイバーシティ[多様性]、エクイティ[公平性]、インクルージョン[包括性])へと変化している。

「女性や外国人の権利が守られると『逆差別だ!』という発言が出てくることはよくありますが、優遇されているのではなく、公平にするために必要なアクションだということ。『エクイティ』こそが重要という本質を理解しなければ、DE&Iとビジネスの融合実現は難しいでしょう」

DE&Iを知ることは自分の価値観を覆すことかもしれない。それくらい大きな意識の転換が、今求められているということだ。

情報をしっかりと受け取り、社会を変える

夫馬賢治さん

理事に就任するにあたり、MASHING UPにはメディアやコミュニティとしての役割を期待をしている、と夫馬さん。

撮影/柳原久子

最後に、理事に就任するにあたってMASHING UPに期待していることを聞いた。

「かつて僕が留学先で衝撃を受けたように、これからの時代は意識の変革が重要です。そのためには、『知ること』が最初の一歩。情報を届けるメディアの役割はかなり大きいといえます。

僕個人の目標としては、関係者“以外”の人にもDE&Iに興味をもってもらえるよう活動しつづけていきたい。意識が変わる企業が1%でも増えたとしたら、自分の活動には意味があったと思えるでしょうね

日本の未来は、一人ひとりの意識変革にかかっている。世界に肩を並べるために、スピードアップして走りださなければならない。

撮影/柳原久子

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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