内閣府が2007年に定めた「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」は、働く人びとが仕事と生活を両立させ、多様な生き方を選択できる社会を目指したものだ。
しかし、これからの時代に問われるのは「ワークライフインテグレーション」。つまり、仕事とプライベートの「バランス」ではなく、「統合」である。
2010年にニューヨークで創業し、38か国でフレキシブルオフィスを展開するWeWork。国内では40拠点以上のフレキシブルオフィスを展開するWeWork Japanが、国際女性デーを記念した特別オンラインイベント「ワークライフインテグレーションで実現する、未来の働き方」を2022年3月31日に開催した。コロナ禍で、よりフレキシブルな働き方が求められる今、私たちに必要なものとは。オンラインイベントの内容をダイジェストでお届けする。
「成功したワークライフインテグレーション」とは
MASHING UPの遠藤祐子編集長。「成功したワークライフインテグレーション」についてトークした。
一人目の登壇者は、MASHING UPの遠藤祐子編集長。メディアの仕事を通じ、さまざまな企業の事例を見てきた中で、「ワークライフインテグレーション」という言葉を全面に打ち出している企業は少ないようだとコメント。また、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載されていた「ワークライフインテグレーション」にまつわる記事を例に挙げて、成功したワークライフインテグレーションについて語った。
「ワークライフインテグレーションが最も成功している人は、人生の様々な部分の情熱と力を活用し、『四方良し』を実現できる人。私生活でも大事な部分は犠牲にしない、と記事の中で触れられています。成功者たちの共通点は、大切なものやことがはっきりしていて、それを指針として生きていること。彼らは、時にははっきりと自分のポリシーを打ち出しており、それがプライべートとオフィシャルの両面でリンクできているのです」(遠藤さん)
たとえば、ミシェル・オバマは、ワークライフインテグレーションの成功者のひとりとして取り上げられているが、「他者の怒りをかったとしても、ファーストレディだとしても娘を第一に考えてきた。そのモチベーションが、彼女の活動の一つである『Let’s Move!』という子どもの肥満防止キャンペーン活動を推し進める原動力になっている」という。Netflixでも番組を持ち、食育などの活動に熱心に取り組む彼女は、まさにワークとライフの統合が実現している成功者といえるだろう。
さらに、Facebookのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者について、「シェリルは“率直さ”が彼女のコアになっていて、公私ともにそれを貫いて、女性リーダーといえばこの人、というようなスタイルを確立しています」と紹介した。
キャリアやプライベートで「オーナーシップ」を大切に、とメッセージを送った遠藤編集長。
ワークライフインテグレーションを成功させる考え方は、至ってシンプルだ。
「自分の中のフィロソフィ、というと少し大げさかもしれませんが、自分が大切にしていることや譲れないポイントなど、自分の価値観を一つひとつ棚卸してみることです。そして仕事の場、家庭、地域のコミュニティなどで、どうすれば自分のしたいことを実現できるか考え、面白がりながらチャレンジしていく。それが私たちにとっては必要なことなのだと思います」(遠藤)
最後に、「オーナーシップ」というキーワードについても触れた遠藤。
「例えば経産省の発信のなかに、『キャリアオーナーシップ』という言葉が登場します。私たちは自分の人生のオーナーであって、誰かの母、誰かの妻、この会社の社員など、何かに寄り掛かった、依存した存在ではありません。同時に、自身のキャリアのオーナーでもある。自分は自分の人生のオーナーだという意識をもち、『私はこれを大切にしたい』という気持ちをさまざまな場所で反映させていくということが、インテグレーションに必要なのではないでしょうか」(遠藤)
インドに移住して、新しい働き方に気づいた
アンダーズ代表の新井美奈さん。「やりたいことを続けていたら、インド人と起業をしていた」というユニークな経歴の持ち主。
次の登壇者は、3人の子どもを育てながら、IT企業を立ち上げたアンダーズ代表の新井美奈さん。「女性の幸せな働き方について」というテーマでトークした。
「やりたいことを続けていたら、インド人と起業をしていた」という新井さんの経験談は、非常にユニークで興味深い。世界各地にフルリモートの社員を持ち、オフィスはWeWorkのフレキシブルオフィスを活用しているという。
「今年で創業7年目になります。もともと起業など考えていなかったし、ITの知識があったわけでも経営を学んだわけでもありませんでした。あるとき、テレビで『インド式の計算や英語教育がすごい』というのを見て、自分の興味と子どもの教育のことを考えてムンバイへ移住。オフショア開発の仕事に就きました」(新井さん)
働き始めると、インドの女性が抱える様々な悩みが耳に入ってくるようになった。ひとつは女性が結婚して家庭に入ると、仕事復帰ができないということ。もうひとつは地域の問題。地方から都会に出稼ぎのような形で働いているエンジニアは多いが、家族の結びつきが強いインドでは、結婚などで田舎に帰らなければならない、という女性も少なくないのだという。
「そうすると女性がキャリアを捨てなければならなくなる。なんとかできないかと考え、私はインド人のエンジニアと2人で、オフショア開発の会社を立ち上げることにしました」(新井さん)
アンダーズ代表の新井 美奈さん。インドへ移住後、女性がキャリアをあきらめなければいけない現状を知り、起業を思いついたという。
自身のキャリアについてはあまり深く考えていなかったという新井さん。しかし、海外で暮らしたい、子どもに経験させたいという思いで突き進んだ結果、自分の理想とする働き方にたどり着いた。WeWorkなどのフレキシブルオフィスの活用も、自分らしく働く方法のひとつだ。
「起業したときは、オフィスといえばきれいでセキュリティもしっかりしていて……という『物理的な空間としてのオフィス』しかイメージしていませんでした。でも今は、それよりも働きやすい環境か、モチベーションを上げてくれるオフィスかどうかを重視しています。弊社は社員の95%がフルリモートで、個々の働き方もそれぞれ違います。そのため、働く空間が柔軟であることはとても重要です。
個人的には、WeWorkオフィスの『ペアレンツルーム』(※)に大変助けられています。子どもと一緒に出社でき、仕事の合間に宿題を見たり、一緒にお昼を食べたりといった働き方も可能です」(新井さん)
※ ペアレンツルーム……シンクと冷蔵庫を備えた施錠付きの個室で、子連れで利用できる。同じく施錠付きの個室に、お祈りの際などに利用できるウェルネスルームがある。
WeWorkが考えるワークライフインテグレーション
WeWork Japanで人事部長を務める井達真弓さん。WeWorkは、誰もが働きやすいプラットフォームとして多様な人や働き方を支援していると語る。
WeWork Japanで人事部長を務める井達真弓さんは、新しい働き方、ハイブリット勤務がひとつの主流になってきている今、WeWorkの担う役割は小さくないと話す。
「WeWork Japanには、5つのバリューとI&Dのミッションがあります。「正しいこと」をしよう、互いに高め合い成長しよう、起業家精神を持とう、感謝の気持ちを伝えよう、人として、思いやりの心を持とう。これが社員の思考と行動の指針になっています」(井達さん)
WeWorkは、誰もが働きやすいプラットフォームとして多様な人や働き方を支援しており、社員は全拠点を自身のオフィスとして使用することができる。現在はコロナ禍で在宅勤務が主流だが、毎週水曜日を「オフィスミートデー」とし、対面での会議を実施。多くの社員は社外の人との打ち合わせや気分転換、集中したい時など、さまざまな理由で適切な拠点に出社をして仕事をしており、ワークライフインテグレーションに近い働き方が実現できているという。
「自分の仕事と家庭と、自身がオーナーシップをもって、いろいろコントロールしながら日々働くことが可能です」(井達さん)
WeWork Japanの大切にする「5つのバリュー」と「I&Dのミッション」について語る井達さん。
また、メンバー企業の事業成長(マッチング、オープンイノベーション、コミュニティの活性化など)やウェルビーイングの実現に向けたプラットフォームとしても、WeWorkが提供するフレキシブルオフィスのポテンシャルは高い、と井達さんは言う。
「たとえば、有志の社員で形成されるコミュニティグループがいくつかありますが、そのひとつ『Women of WeWork』は、性差をなくすためのコミュニティとしてつくられました。職場での女性社員の認知度を高め、キャリア開発や学習の機会、ソーシャルグッドなどを通じて、すべての女性が可能性を最大に発揮できるようサポートしています。昨年の国際女性デーでは、メンバーの一人である女性起業家をお招きし、キャリア形成についてのパネルディスカッションを行いました」(井達さん)
ほかにも、資産形成やFemTech(フェムテック)など、さまざまなテーマのイベントが行われているのもWeWorkの特長のひとつ。 新井さんは、「WeWorkで行われているイベントやコミュニティ活動は、自社イベントのヒントになることが多く、参考になります」と語る。
アンケート調査から見えてきたこと
WeWork Japanが実施した働き方の意識調査の結果をもとに、パネルディスカッション。
WeWork Japanでは、2021年、主要都市における20代から60代までの男女を対象に、働き方の意識調査をオンラインで実施。そこから見えてきたことを、遠藤、新井さん、井達さんがパネルディスカッションで意見交換した。
まずは「仕事に関する価値観」について。 「仕事、仕事に関するコミュニティ、プライべート、それぞれのバランスについてあなたの価値観にマッチするもの、または近いものをひとつ選んで下さい」という設問では、「変化に応じて柔軟に選択(したい)」という回答がダントツ首位で、女性の6割強、男性の4割強が選択。
「仕事はもともとライフの一部。働く環境も整えやすくなってきた今、切り分けて考えるのは時代に合わなくなってきているのでは。優秀な人材を獲得し、さらに入社後パフォーマンスを発揮してもらうためには、時短や育休といった枠組みだけではなく、誰もが当たり前に、柔軟な働き方を選べるような環境づくりが、企業には求められていくと思います」(新井さん)
また、井達さんは 「働くことに対して、各自が自由な選択肢を持つことで、それぞれ生産性が上がるタイミングで仕事をすることができ、会社への貢献も増えてくるのでは。経営目線でも、そこにはメリットが大きい」と話した。
仕事とプライベートのバランスについての設問では、「変化に応じて柔軟に選択(したい)」という回答が男女ともにトップに。
次に、「働く上での価値観をどの程度重要視しているか」という設問では、「ウェルビーイング」がトップに。
「働いている女性が、メンタルの面でもフィジカルの面でも健康でいることが、社会全体の幸福度に寄与するものだと思っています。最近は、生理の話や更年期といった健康課題についてオープンに話し合うなどの機運も高まってきている。ワークライフインテグレーションへの理解とウェルビーイングには、相関性があるでしょうね」(遠藤)
最後に、「ワークスペース環境の重要度」について。「仕事におけるモチベーション向上のため、働きやすいワークスペース環境は重要か」という設問に、全体の約80%が重要だと回答。「より柔軟な働き方にマッチし、モチベーションやインスピレーションが湧きやすいワークスペースの運用が重要だ」と井達さんは話す。
「仕事におけるモチベーション向上のため、働きやすいワークスペース環境は重要か」という設問に、全体の約80%が重要だと回答した。
WeWorkが提供するワークスペースは、快適に働けることを意識したデザインやアート、自然光をより取り込めるガラスの壁などを多用しており、動線においても人々の交流やコミュニティの活性化が図りやすい設計になっている。今後はテクノロジーをさらに活用し、オフィスDXを推進することで、メンバーエクスペリエンスの向上にさらに寄与していくという。また、より柔軟な働き方の向上に向けて、新たな拠点の検討や、企業とのパートナーシップなどによる新たなソリューションの提供なども予定しているそうだ。
自分の人生において、働くことはどのような意味や価値を持つことなのか。どのような働き方が自身にとってウェルビーイングをもたらすのか。選択肢は既に用意されている。いま一度、自身のワークライフインテグレーションについて考えてみてはどうだろうか。
撮影/キム・アルム、取材・文/島田ゆかり
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