Gettyimages/Maria Marganingsih
コロナウイルスの流行や、ロシアによるウクライナ侵攻などにより社会不安が拡大するなか、ますます企業が社会課題解決の担い手になることを期待されている。消費者に信頼され、選ばれる企業になるために求められる姿勢とはなにか。
グローバルにPR事業を展開するエデルマンの日本法人、エデルマン・ジャパンが2021年11月に世界28カ国、約36,000人を対象に信頼度調査「2022 エデルマン・トラストバロメーター」を実施。2022年3月23日にオンラインで報告イベントを開催した。
民主主義と資本主義に対する不信の高まり
画像提供/エデルマン・ジャパン
発表されたデータから浮き彫りになったのは、民主主義と資本主義に対する人々の不信感だ。指標となるのは、自国の政府、企業、メディア、NGO/NPOに対する信頼度の平均値である信頼度指標(トラスト・インデックス)。日本は2021年に引き続き、調査対象国の中でワースト2位を記録し、今年もスコアは横ばい。また、ドイツ、オーストラリア、オランダ、韓国、米国においては前年比で5ポイント以上の低下を見せ、米国に至っては、2017年から10ポイントと大幅な低下を記録するなど、大きく信頼度を落とした。加えて、「今日の資本主義は、世の中に善をなすよりも害を及ぼす」と回答した人が、グローバル平均で過半数を超え、資本主義に対しても、人々は不信感を持っていることが明らかになった。
企業は、社会課題解決の良きプレイヤーになれるか
Gettyimages/Paul Linse
次に取り上げられたのは、人々の政府とメディアに対する信頼度だ。政府のリーダーに対する信頼度はグローバル平均で42%(日本では28%)であり、ジャーナリストに対する信頼度はグローバル平均で46%(日本では23%)。驚くことに、このスコアは企業のCEOや、自分の同僚への信頼度を下回っている。さらに、「政府が社会課題を解決するためにリーダーシップを発揮し、結果を出せる」と思っている日本人回答者は約3割に過ぎないというデータも明らかになった。
一方で今、最も信頼されている組織が、企業だ。より身近な存在である「自身の勤務先」に対する信頼はグローバル平均、日本共に高い。さらにグローバルでは約6割、日本でも約5割の回答者が、その企業の社会問題に対するスタンスによって、そのブランドの製品を購入したり、その企業で働いたり、またその企業に投資したりしていることが、明らかになっている。
「ますます複雑化し、リスクに満ちたこの不安な社会において、企業はこれまで以上に社会的課題に取り組むことを期待されています。これは、企業にとって重大な責任であると同時に、自社のパーパスや価値観に沿って、従業員、顧客、投資家といった主要なステークホルダーのために行動する絶好の機会でもある。
また、不信の連鎖を断ち切るために組織ができることは、質の高い情報を提供すること。調査結果によると、質の高い情報提供が、どの組織にとっても最も強力な信頼構築要因であり、社会経済的な信頼の格差をなくすことにつながることが明らかになりました」(エデルマン・ジャパン 代表取締役社長 メイゲン・バーストウさん)
将来に悲観的な日本社会をどう見る?
(左上から時計回りに)大橋久美子さん(Office Story Branding代表)、寺島絵里花さん(日本メディアリテラシー協会代表)、能條桃子さん(NO YOUTH NO JAPAN代表)、森田尚子さん(エデルマン・ジャパン)
画像:MASHING UP
その後行われたトークセッションの一つ、「将来に悲観的な日本社会をどう見る? 」に登壇したのは、Office Story Branding代表でブランドストラテジストの大橋久美子さん、日本メディアリテラシー協会(JMLA)代表の寺島絵里花さん、若者たちに向け、Instagramを通して政治・社会のニュースやトピックを発信しているNO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん。エデルマンの森田尚子さんをモデレーターに、日本が直面するイシューや、課題解決の糸口が語られた。
デンマーク留学時に現地の若者の投票率の高さに感銘を受け、NO YOUTH NO JAPANを立ち上げた能條さんは、「行き過ぎた資本主義が、民主主義を止めている」と現状を嘆く。調査結果でも浮き彫りになった格差の拡大から、一人当たりの所得の低下が、社会的関心の低下につながっていると指摘。時間に追われ、忙しい日々を送っている人々の「考える機会」が減っていることが原因だという。
これには、自らも子を持つ母親として、子どもとSNSの関わり方やメディアリテラシーの普及に向け活動している寺島さんも、「毎日忙しいが故に、メディアで流れる情報を比較し、精査する余裕がない人は多い」と語った。
「特に、近年エコーチェンバーやフィルターバブルが課題視されているように、SNSの普及が進んだことで、信頼性の低いソースからの情報やお気に入りのインフルエンサーの発言を、わかりやすい、共感できるという理由で安易に信じてしまう傾向がある。しかし、メディアリテラシーを高めるためには、自分と反対の意見など多様な意見にも耳を傾けつつ、情報の取捨選択をする必要がある」(寺島さん)
カギは「実行力と思いやり」
Gettyimages/Delmaine Donson
資本主義のあり方が大きく問われているなかで、海外ではすでに、利益重視の資本主義の一本立てから卒業し、様々なステークホルダーと持続可能な共創(Co-Creation)を目指す動きが始まっているという。大橋さんは、「非財務価値は、今は『将来財務』と呼ばれることが多い。つまり、今だけでなく、企業が将来の財務価値を高めるよう行動するのが、従来の資本主義と異なるところ」と語る。
「まず、地球というステークホルダーが持続できなければ、企業のビジネスも存続できない。パーパスを打ち出し、きちんとそれを実行しているブランドの『実行力と思いやり』には、資金、投資家やパートナー、消費者や従業員が集まってくる。それらの多様性の掛け合わせが、ポジティブなイノベーションを生む」(大橋さん)
また、2020年に全米的なデモとして発展したBLM運動以降、欧米諸国では特にESGの「S(社会)」の重要性が高まっている。「多くの日本企業は、まだ『S』の領域に対する感度が低い。しかし、ウクライナ情勢などをきっかけに、ジェンダーや人権の重要性が増している。そこにどうコミットしていくかが、企業存続のカギになるのでは」と大橋さんは語った。
「ポジティブな付加価値を生み出すためには、ダイバーシティが必要不可欠。また多様性は、イノベーションの創出や生産性の向上にも寄与するでしょう。さらに、未来についての楽観、ウェルビーイングや心理的安全性、ひいては自己肯定感にもつながるのでは。社会を前進させるグッドサイクルの起点として、『ダイバーシティ・ポジティブ』という言葉を提案したい」(大橋さん)
「2022 エデルマン・トラストバロメーター」を通して、社会が直面する様々な負の側面が炙り出された。不信と不安が蔓延する現代において、企業は行先を明るく照らし、道を切り拓く先導役になることが期待されている。ダイバーシティ・ポジティブな活動が拡散し、ますます多くの企業が社会を前進させるプレイヤーとなることを期待したい。

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