撮影:伊藤圭
日本に女性起業家が未だ少ないのはなぜなのだろうか。資金調達や起業支援の面でジェンダーバイアスの問題があるのではないか。
2022年3月24日、金融庁政策オープンラボとMASHING UPは共同でこうした女性起業家にまつわるお金の流れをジェンダーダイバーシティの観点で考える「起業家をとりまくジェンダー課題を考えるワークショップ」を開催。このテーマに関心をもつ行政、投資家、金融業界、そして当事者である起業家たち約50名が集まり、活発なディスカッションを行った。
スタートアップ界のジェンダー課題に着目
金融庁政策オープンラボの小崎亜依子さん(左)と、SDGインパクトジャパン代表取締役 小木曽麻里さん(右)。
撮影:伊藤圭
「金融機関による女性支援に関する取組みが増えているはずだが、上場にまで至らないのはなぜなのか、取りこぼしている機会損失があるのではないか」とまず、現状の問題をなげかけたのは、金融庁政策オープンラボの小崎亜依子さんだ。金融庁には、職員の新たな発想やアイデアを積極的に取り入れ、新規性・独自性のある政策立案へとつなげるため、職員による自主的な政策提案の枠組み(政策オープンラボ)が設置されている。
ワークショップの前半では小崎さんと、SDGインパクトジャパン代表取締役 小木曽麻里さんによる「女性起業家と金融課題に関するトークセッション」が行われた。
まず、小崎さんはデータを示しながら、女性起業家を巡る日本の状況を説明。日本の起業家に占める女性比率は34.2%(※1)で、全国の企業に占める女性社長比率は14.2%(※2)だという。しかも、資金調達に至った上位50社のうち、創業者に女性が含まれる企業が手にした調達額は、50社が手にした総額のうちのわずか2%(2019年)。新規上場企業に占める女性社長の比率も2%(2021年上場)という厳しい数字が並ぶ(※3)。
※1 総務省「就業構造基本調査」(2017年)に基づく。起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は「自営業主」(内職者を除く)となっている者を示す。
※2 東京商工リサーチの保有する約400万社の経営者情報(個人企業を含む)に基づく。
※3 ラボ調べ
女性の起業がスケールしない背景
小崎亜依子さん
撮影:伊藤圭
なぜ、女性の起業がスケールしづらいのか。小崎さんによると要因がいくつかあるという。
まず、アクセラレーター等による支援が不十分な点。例えばピッチコンテストに女性が少なかったり、支援する女性メンターも限られる、といったものだ。また、資金調達のステップにおいては、資金の出し手/評価者によるバイアスが大きく影響する。例えば、女性特有の課題解決事業への理解がしづらい、女性起業家には後ろ向きな質問が多く問われる、育児を事業推進上のリスクと認識されたりする、といった現状が挙げられる。
また、そうした外的要因とならんで、女性起業家自身の性質や事業の傾向が影響する場合もある。女性起業家の選ぶ事業にはビジネスアイデア・目的がスケールと合致しない傾向が見られるほか、女性に多く見られる自信のなさ、コミュニティへの限られたアクセスも影響しやすい、と小崎さんは指摘する。
「資金調達、スケールという世界になると、圧倒的に男社会になります。そもそも女性がスケールを望んでいないという意見ももちろんありますが、ラボでヒアリングした限りでは、スケールしたいと考えている女性も存在し、VCサイドから心無い質問を投げかけられたり、仲間が限られているが故に自信を持てないなど、様々な困難に直面している声が聞かれました」(小崎さん)
また、小木曽さんからは次のような意見が出た。
「起業のエコシステム自体、大きく男性にジェンダーバランスが偏っており、女性が頑張るというより、エコシステム全体のマインドチェンジが必要。
そのために政府は、女性起業家へのキャパシティビルディングや金融支援といった女性に対する対策だけでなく、補助金の支給や公共調達に関して、女性が経営陣にいる/またはジェンダーバランスの取れたスタートアップを優先するなど、積極的な政策による底上げ策を導入していくことが重要です」(小木曽さん)
ジェンダーダイバーシティ欠如が大きなハードルに
小木曽麻里さん
撮影:伊藤圭
このスタートアップ界隈のジェンダーダイバーシティ欠如は、なにも日本に限ったことではない。上場企業等に占める女性社長比率の低さは世界的な問題で、例えば米Fortune紙による世界企業番付「Fortune500」においても、男性社長93%に対して、女性社長の企業はわずか7%という数字になっている。
とりわけ女性起業家の資金へのアクセス難はグローバルな課題で、開発ツールの世界を支配する白人男性以外にとっては、資金調達にエネルギーが膨大にかかること、そして、女性VCについても男性のVC仲間と同様に、男性ファウンダーを好む傾向にあるのだという。
しかし、「投資家にこそジェンダーダイバーシティが重要」と小崎さんは話す。調査によると、女性創業者のいる企業は、男性創業者のみの企業への投資よりも63%も高いパフォーマンスを示す(※4)、女性が創業したスタートアップの方が長期的には業績が良い(※5)、女性パートナーを増やしたVCファームはファンドリターンが増加する(※6)など、投資家にとってもメリットは多いはずなのだ。
※4 First Round "10 lessons"(2005から2015年までの300社以上、600人以上の創業者の分析に基づく)
※5 BCG Why Women-Owned Startups Are a Better Bet
※6 Gompers, P.A., & Kovvali, S. (2018, July-August). The Other Diversity Dividend. Harvard Business Review.
コミュニティへのアクセス、起業家教育の必要性
撮影:伊藤圭
こうした起業家と金融の流れに関する諸問題を解決するためには、何が必要だろうか。後半のワークショップでは6つのグループにわかれてディスカッションが行われた。「構造的な問題を解決するためのTODO」として、女性起業家をとりまくアクター(政府、キャピタリスト、メディア、アカデミア、支援組織、VCファーム、LP、先輩起業家)それぞれに求められる改善点やアクションを協議した。
発表では多くのグループが、起業家やVCコミュニティへのアクセス確保の必要性を挙げている。経営やスケールに向けた事業推進へのアドバイスを十分に受けられる環境を増やすこと、男性基準でないピッチコンテストが必要なのでは?という意見が出た。
また、「社会人からでなく、早期からの起業家教育を」「起業へのあこがれ、事業スケールのイメージングが子どもの頃からされていない」など教育に着目した意見や、「女性起業家はお金以外で価値観を考えられる方も多い。マネーではなくソーシャルで評価されるゴールが必要なのでは」と構造上の見直しを求める声も挙がっている。
撮影:伊藤圭
これらを受けて、小崎さんは次のようにまとめた。
「コミュニティへのアクセス、アンコンシャスバイアスの排除、そして教育など、この構造的な課題解決のためには様々なアクションが必要です。現状、上場企業に対しては、ジェンダーダイバーシティの問題を解決しようという取り組みは多くありますが、もっと上流の上場前のところはあまり取り組みがないので、今日参加いただいた皆さんと一緒に進められたらと考えています」(小崎さん)
今後、金融庁政策オープンラボでは、このワークショップで集まった意見を、課題解決に向けた提言につなげていく予定だ。
この日、同会場で開催されたMASHING UP SUMMIT 2022では、この問題をさらに深堀りする形として「スタートアップ/VC業界のジェンダーギャップをどう変えていく?」と題して、ワークショップに参加した堀江敦子さん(スリール)、キャシー松井さん(MPower Partners)、黄春梅さん(新生企業投資)、名倉勝さん(CIC Tokyo)がセッションに登壇した。その様子は後日公開予定、お楽しみに。

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