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Conference:MASHING UP vol.5

能動的な学びが生む新たな価値。リーダーらに聞く「未来の教育」

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未来社会への投資ともいうべき教育。日本の教育現場は今、どのように変わっているのだろうか。2021年11月19日に開催したMASHING UPカンファレンス vol.5では、「新しい教育」と題したトークセッションを行った。

登壇者は、ジャパンタイムズ代表取締役会長兼社長で、神石インターナショナルスクール(JINIS)を開校した末松弥奈子さん、2017年に日本人初の学生としてミネルバ大学に進学し、現在は英 King’s College London 脳神経学部修士課程に在籍する片山晴菜さん、そしてZアカデミア学長であり、2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設、学部長に就任した伊藤羊一さん。クックパッドコーポレートブランディング部長で「クックパッドの家庭科」プロデューサー、横尾祐介さんがモデレーターを務めた。

学びの現場を率いるリーダーと実践者、それぞれの視点から見える、日本が直面する課題や新しい教育の可能性とはどのようなものだろう。

授業の中で起業をするアントレプレナーシップ学部

伊藤羊一さん

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一さん。金融業界や新規事業開発を経て、ヤフーへ。Zアカデミア学長、Yahoo!アカデミア学長として次世代リーダー開発も行う。

撮影:中山実華

武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部は、起業家精神を育むことを目的としている。

「ここでいう起業家精神とは、『高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造していくマインド』です。それって、起業家じゃなくても、誰でも持っていたほうがいいですよね」と伊藤さんは言う。

武蔵野EMCでは、古くは坂本龍馬の言葉だという「“ことを成す”人になる」ことを目指し、実践しながらスキルとマインドを鍛えていく。従来の大学ではスキルとマインドだけを学び、実践は社会に出てからと考えられてきたが、その分断をなくすべく、授業のなかでEコマースビジネスや会社の創設などにチャレンジする。

「教員のほとんどが起業家やベンチャーキャピタルの経営者など現役の実務家で、毎週1人アントレプレナーが講義を行います。そして彼らの考えていることに触れながら、あくまで学生自身が学びの主体となって、自分の人生を熱狂させようというのが私たちの学部です」(伊藤さん)

そしてもう一つ、1年時は全員学生寮でともに学ぶという特色を持つ。自身も寮で学生たちと一緒に暮らす伊藤さんは、「学びは授業が半分、寮が半分。住む場所、人間関係、時間配分を変えて学ぼうという取り組みです」と語る。

必要な時に、パッションとスキルを発揮できる人材を育成する

末松弥奈子さん

ジャパンタイムズ代表取締役会長兼社長の末松弥奈子さん。仕事と子育ての両立に課題を覚え、子どもをスイスの全寮制の学校に留学させた。この経験を活かし、2020年、広島県に神石インターナショナルスクールを開校。

全寮制のスクールは、今、注目される選択肢の一つだ。末松さんはジャパンタイムズの会長兼社長を務めながら、2020年に日本で初となる文科省認定の全寮制インターナショナル小学校、神石インターナショナルスクール(JINIS)を、自身の出身地である広島県で開校した。

「次世代の子どもたちにはどんどん海外で学んでほしいが、そのためには母国語教育も必要不可欠。さらに、中学から海外の学校に行くための準備校が日本にはないと考え、全寮制の小学校を作りました」(末松さん)

1万坪の日本庭園を備えた校舎で、寮生活を通してルールやマナーを身につけながら学ぶ。学習指導要領に準拠しながら、英語で授業を受けるイマージョン教育を、国際初等教育カリキュラム(IPC)を踏まえ行っている。

「生徒には授業を通して、自分がやりたいことを見つけたときにパッションとスキルを発揮できる、人間力を持った人に育ってほしいと考えています」(末松さん)

指導者はファシリテーター。学びの主体はあくまで生徒

片山晴菜さん

日本人初の学生としてミネルバ大学に進学後、英 King’s College London 脳神経学部修士課程に在籍する片山晴菜さん。

画像/MASHING UP

末松さんが現在の日本の教育に疑問を感じた理由の一つに、早期化、過激化する受験体制がある。「まずは小学校のお受験、それが終わったら中学受験に向けて塾通い。これでは遊ぶ暇がありません。日本の受験制度は、海外でどんな教育関係者に話しても、まったく理解が得られない」と末松さん。

片山さんも、高校時代に「日本の“お受験社会”から逃れた一人」だと振り返る。札幌の高校を中退し、経団連の支援を受けてアメリカ・ニューメキシコ州のUWC-USAに留学。入学試験の倍率が高いことや、“キャンパスを持たない大学”で知られるミネルバ大学に、2017年に日本人で初めて進学し、4年間で世界7都市を廻った。

このミネルバ大学も授業こそオンラインだが、全寮制でさまざまな国籍の学生と共同生活を送りながら、学びを深めていく。

「ミネルバ大学はアメリカのアイビーリーグの先生たちが、現在の教育のあり方に疑問を持ったことがきっかけで生まれた大学です。テクノロジーが進化し、自分のペースでいつでもオンラインで学べる時代に、より科学的に実証された学びを提供しているところが最大のポイント」(片山さん)

同大学では、授業前に学習目標や課題がすべて明文化されており、授業は事前学習で学生たちが得た学びをディスカッションする場。教授はあくまでファシリテーターに徹するのだという。また、オンライン授業での生徒のエンゲージメントを高めるために、常に緊張感とライブ感のある授業を作るためのシステムが整っている。

「授業中の発言はすべて録画され、教授から個別最適化されたフィードバックが返ってきます。友人たちとも意見が一致しているのは、ミネルバ大学は学びの効率が非常によく、投資対効果がすばらしいということです」(片山さん)

人間がコントロールできないものに学びの本質が宿る

横尾さん

「クックパッドの家庭科」プロデューサーの横尾祐介さん。フードロスをテーマにした「クリエイティブクッキングバトル」など、社会課題を料理の観点から捉えた企画を生み出す。

撮影/中山実華

教育において、企業ができることはあるのだろうか。クックパッドの横尾さんは、学びを提供する企業の事例として、同社が運営する「クックパッドの家庭科」の取り組みを語った。

横尾さんが自ら中学校へ赴き実施する「クックパッドの家庭科」は、単なる調理実習ではない。1つの料理を通して、それを作るためにどれだけ二酸化炭素を排出しているかなど、食を中心に環境やジェンダーなど社会課題とのつながりについて考える場にしている。

「クックパッドの家庭科でも、僕はファシリテーターに徹し、生徒たちに主体となって考えてもらっています。‟勉強”にしてしまうと苦しくなるので、当たり前だと思っていた価値観が揺さぶられて、ドキドキするような授業にしたいと思っています」(横尾さん)

また伊藤さんは、「ただ暗記するだけの勉強ではなく、自分で主張し、情報を整理してアウトプットすることの大切さは2、30年前からずっと言われてきた。なのに、多くの教育現場が依然として変わらないのはなぜなのか」と疑問を投げかけた。

それに対して、末松さんはJINISの事例を挙げた。2学期から入学してきた生徒が「この学校は算数の授業しかない。他の授業は遊んでいるみたい」と感想を漏らしたのだという。つまり、JINISでは、従来の小学校で行われている授業の枠組みを超えた教育が行われているのだ。

「例えば、昆虫をモデルに歩くロボットが開発されたように、人間が、自然などコントロールできないものから着想を得て新しいものが生まれることは多い。JINISでは、自然の中で遊ぶことをとても大切にしています。なので、都市部出身の子がカエルに触れるようになったり、ヘビの脱皮後の皮を見つけてきて皆で観察したりも。子どもや、地域の特性を活かした授業を行なっています」(末松さん)

学生と学校が一緒に「学び」をつくっていく

会場の様子

東京 渋谷区のTRUNK(HOTEL)にて開催された、MASHING UP カンファレンスvol.5。数年ぶりにリアルで開催され、あついディスカッションが繰り広げられた。

撮影/中山実華

ミネルバ大学では、学生たちが自ら学習に集中できる環境づくりを支えている点も、特徴的だ。

ミネルバ大学の学生は、自らも一緒に学びの環境をつくるのだという高い意識を持っています。だからフィードバックをたくさんしますし、リアクションがすごくいい。そういう学生の存在が、現場の雰囲気を良くしています」(片山さん)

これに、学びとは「教師から投げかけられる抽象的なものではなく、現場で生まれるものなのではないか。現場というのは、例えば小学生なら自分が住んでいる地域。ミネルバ大学の学生は、世界7都市がフィールドになるわけです。現場は、学びそのものなんですよね」(伊藤さん)

横尾さんは「以前、ある教育者の方が『学びは本来、生きるために必要なものだったのに、便宜上5教科に分けていったら、いつのまにかバラバラになってしまった。今こそ、そこに再びつながりを見つけたい』と言っていました。それも同じことですね」と語り、登壇者たちの同意を集めた。

生き方や価値が多様化する今、学ぶ方法ももっと多様であっていいはずだ。まずは選択肢を知り、自身や次世代を担う子どもたちがどのような学びを求めているのか知るところから始めてみたい。きっとそれが、未来の社会を多様で豊かなものにすることにつながるのだと、四者の言葉から感じた。

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撮影:中山実華

MASHING UP conference vol.5

新しい教育

末松弥奈子(ジャパンタイムズ 代表取締役会長兼社長)、片山晴菜(King's College London 脳神経科学修士課程)、伊藤羊一(Zアカデミア学長 / 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長)、横尾祐介(ジャパンクックパッド コーポレートブランディング部長/クックパッドの家庭科 プロデューサー)

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中島理恵
ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。

    Conference:MASHING UP vol.5

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