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一緒につくるからもっといい。あたらしい社会をつくるビジネス

能動的に未来を変える。fibonaとKDDI research atelierが挑む「知と人の融合」によるイノベーション

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撮影/柳原久子

企業の持つ知見やテクノロジーが、個のウェルビーイングに寄り添うことで生まれるイノベーションが増えている。先進的なライフスタイルを実践している多様な個人と共創する「FUTURE GATEWAY(フューチャーゲートウェイ)」を2021年8月に始動させたKDDI research atelier(リサーチアトリエ)の木村寛明さんと、人の感性や美を研究するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」を率いる中西裕子さんに、“多様な知と人の融合”から新しい価値を生み出すヒントを聞いた。

「社外の個人」とのつながりが、ユニークなプロジェクトを生む

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中西裕子(なかにし・ゆうこ) fibona プロジェクトリーダー。2004年資生堂入社。スキンケア商品の処方開発研究、化粧品基剤の基礎研究、デザイン思考的アプローチを用いた研究テーマ設定を経て、現在は、資生堂のR&D戦略部においてグループリーダーを務めながら、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダーとして活動している。

撮影/柳原久子

——「FUTURE GATEWAY」と「fibona」の活動は、どちらも“大企業が個人と共創する”という共通点があります。まず、今取り組んでいらっしゃるプロジェクトの概要をお聞かせください。

中西裕子さん(以下、中西):私は2019年に横浜・みなとみらい21地区に移転した資生堂の研究所「グローバルイノベーションセンター(GIC)」に勤務しています。ふだんはR&D戦略の立案やオープンイノベーションを担当しており、「fibona」のリーダーをしているのもその一環です。

研究所というと閉じたイメージがありますが、GICは社会や生活者との共創やオープンイノベーションを推進していて、「fibona」はその象徴的な事業としてスタートしました。これまで資生堂ではアカデミアや大企業とのコラボレーションが多かったのですが、「fibona」ではスタートアップとの共創や、お客さまと研究員とのコラボレーションを加速していきたいと考えています。

こうした取り組みは、研究所にいると事業部門に採用されない限り、社会実装してコメントをいただくことが難しかったんです。そこで「fibona」では、クラウドファンディングなどを活用したスピーディートライアルや、異業種の方々とのミートアップによって多様な視座を学ぶことを大切にしてきました。実績としてはこの2年半で約30回のイベントを行い、社内外で3000名以上に参加いただきました。その結果、およそ30ものプロトタイプの開発につなげることができました。

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木村寛明(きむら・ひろあき) KDDI research atelierセンター長。1993年、国際電信電話(現KDDI)に入社。2007年、KDDI研究所(現 KDDI総合研究所)にて、インターネットと放送との連携技術の開発やEdTech分野の研究開発を実施。2016年、旧KDDI総研との合併後、ヘルスケア分野などデータを活用する新たな領域のビジネスモデルの検討・調査を推進。2019年、KDDI総合研究所 取締役執行役員 フューチャーデザイン2部門長に就任し、将来の社会環境等の想定研究を進める。2020年12月にKDDI research atelierを開設し、同センター長として、2030年を見据えた、先端技術を活用した新たなライフスタイルの提案活動を推進中。

撮影/柳原久子

木村寛明さん(以下、木村):我々は2020年に「KDDI research atelier(リサーチアトリエ)」を立ち上げ、2030年という“少し先”を見据えた新たなライフスタイルを提案・実証することを進めています。KDDI内の役割でいうと、ふじみ野にある先端技術研究所が開発したテクノロジーを、社会と生活者にどう還元し、使っていただくかを提案・検証していくのが虎ノ門のKDDI research atelierです。近年、政府を中心にSociety 5.0という社会像が提唱されていますが、Society 5.0を5G、6Gで加速するというKDDIの未来社会構想を実現するために、先端技術研究所とKDDI research atelierが“両輪”となって活動しています。

KDDI research atelierでは、2021年に「FUTURE GATEWAY」を立ち上げました。ここではイノベーター層、アーリーアダプター層といった、すでに先駆的なライフスタイルを実践している“先進生活者”とコミュニティをつくり、彼らの課題を一緒に解決しながら、一歩先のライフスタイルを実現し、普及させようとする取り組みを進めています。

第一弾プロジェクトの移動式サウナ「Hoppin'Sauna(ホッピンサウナ)」は、参画メンバーの一人でアドレスホッパーの元祖として知られる先進生活者の方との共創から生まれました。移動しながらの生活でも、自分のお気に入りのサウナにいつでも入りたい、一方、地方には都会にあるようなサウナがない。そこから発想したのが、呼べばどこでもやってくる自動運転の移動式サウナ。個々人の身体データに基づくコンディショニング分析機能によって、“ととのう”状態に近づくためのサポートもできるようになっています。

——“先進生活者”というキーワードは面白いですね。「FUTURE GATEWAY」も「fibona」も企業の研究所がリードする活動でありながら、ビジネスではなく生活者やライフスタイルに目を向けているところが印象的です。

木村:確かに、そういう意味では移動式サウナのようなプロジェクトは、「FUTURE GATEWAY」を通して社外の方とつながらなければ絶対に生まれてこなかったと思います。

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社外と共創したプロジェクトに刺激され、社内からも「こんなことがやってみたい」という声とともに新たなプロジェクトが生まれることがある、と中西さん。

撮影/柳原久子

中西:「Hoppin'Sauna」、私もぜひ行ってみたいです! 社内だけでは生まれないプロジェクトがあることは「fibona」でも実感しています。以前、歩行をセンシングできるスマートシューズを作っている株式会社ORPHE(オルフェ)さんと、歩き方の美しさを定量的に評価するシステムを作ったのですが、このシステムの開発を社内だけで行うことは無理でした。GICで生活者向けのイベントを実施したところ、イベントに携わった研究員が非常に刺激を受けて、次のプロジェクトにつながったということもありましたね。

——ひとつの共創から生まれた刺激が社内を活性化して、次の共創を生む、ということがあるんですね。

中西:「fibona」でこういうことができるなら、私もやりたいことがあって……とか、一緒にできる会社を知りませんか?とか、社内外でそういう問い合わせを受けることが増えてきました。木村さんがおっしゃるコミュニティもそうですが、社外的なコミュニティがあるからこそ、社内も巻き込んだコネクションがつくれるのかなと感じています。

主役は生活者。強い思いがコミュニティをつくる

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これからは企業主導でなく、個人やコミュニティの発信からライフスタイル、サービス、商品が変わっていく時代、と木村さん。

撮影/柳原久子

——お二人が共創する際に、気をつけていることやこだわっていることを教えてください。

木村:ライフスタイルの変化は、従来、企業側が新しい商品やサービスを出して変わっていくことがほとんどだったと思います。しかし今はインターネットやSNSの時代であり、個人やコミュニティの発信からライフスタイル、サービス、商品が変わっていく可能性が大きくなっています。そう考えると個人との共創は、主人公は必ず生活者であり、企業はサポート役で、その生活者を応援する、もっと良い生活を一緒に広めていきましょう、という気持ちが大切だと思っています。

中西:私は“目的が同じかどうか”を気にしています。外見だけではなく心にも踏み込んで、“人がより良く生きる”ことを追求する資生堂の観点に共感してくださるかどうか。

もうひとつは、個人的に強い思いを持つ方と共創したい。共創においては、課題認識や情熱を持つ人が一人でもいるかどうかが、プロジェクトのその後を左右します。「より良くしたい」という視点が生まれるので、リバイスも増えますが最終的にいいものになっていくし、協力者も集まりやすい。コミュニティが形成されやすい状況と言うのでしょうか。

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「個人的に強い思いを持つ方と共創したい」と中西さん。課題認識や情熱を持つ人が一人でもいるかどうかが、プロジェクトのその後を左右するという。

撮影/柳原久子

木村:今のお話、とても共感します。思いの強い方は発信力の広がりもすごい。プロジェクトのプレゼンでも、提案の動機がご自身の原体験と紐付いているから、周囲の共感が集まりやすい。そのような流れから発生する新たなサービスや製品は、今後ますます多くなるだろうと思いますね。


企業と個人の「知の融合」がイノベーションを生み出す

——新しいプロジェクトを始める際は反対勢力などもあると思いますが、どう対処していますか?

木村:先ほどの「Hoppin'Sauna」もそうですが、個人との共創で生まれるプロジェクトはニッチなものがほとんどです。まだ普及していない先進的な取り組みなので当たり前なのですが、現在、事業活動を進めている部署からは認められにくいという状況はあります。ただ、幸いKDDIは先進的な取り組みやスタートアップとの協業が多い会社なので、前向きな声に支えられています。


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「今後のビジネスは個人に寄り添いカスタマイズできることや広げていくことができることが求められていく」と木村さんは語る。

撮影/柳原久子

中西:私たちも同じです。やはり目的ベースでコミュニケーションをとること、「なぜこういう取り組みをしているのか」をきちんと伝えることが大切ですね。

—— SDGsが叫ばれ、消費者の目もどんどん厳しくなっている今、求められるビジネスの形も変わってきています。これからはどのような事業が社会を動かしていくと思われますか。

木村:我々KDDI research atelierの仮説にはなりますが、これだけ個人が活動できる機会が多くなっているので、今後のビジネスも個人を中心としたもの、個人がカスタマイズできるもの、個人が広げられるものが求められていくと思います。そのために必要なツールや環境をいかに企業や組織が提供できるか。個人が新しい職業についたり、新しいサービスプロダクトを提案・提供したりしていく、そこをサポートできる個人や生活者に寄り添った事業やビジネスが、サステナブルになるのではないでしょうか。

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「利他的な視点が含まれているビジネスが、これからの社会を動かしていく」と中西さんは予想する。

撮影/柳原久子

中西:私も「個人にフォーカスしたビジネス」という要素は大きいと思います。そこに加えて、資生堂は2022年に創業150周年を迎え、「美しさとは、人のしあわせを願うこと」というメッセージを発信しているのですが、利己的ではなく利他的な発想が内包されたビジネスが社会を動かしていくのではないかと。特に若い世代に関しては、そうした視点が含まれているビジネスを応援する、少し高くても商品を買うという行動につながっていくのではないでしょうか。

美しさの定義は一人ひとり違い、時代とともに変遷するファジーなものです。だからこそ、一人でも多くの人の生きづらさを軽減できるような、自分の選択がしっくりきて、これが自分らしいと感じる体験ができるような価値を、資生堂で生み出していけたら嬉しいですね。

木村:今後生み出していきたい価値については、「FUTURE GATEWAY」やKDDI research atelierのメンバーともよく話をしています。新たなライフスタイル、新たな社会はグローバルで理解されるべきものでもあるので、何かしら日本発のスタイル、ジャパニーズスタイルのような特徴的な内容を発信していけたらいいなと思っています。

「FUTURE GATEWAY」の「GOMISUTEBA(ゴミステバ)」プロジェクトでは、不要になったものにデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、そのものの価値を高めて生まれ変わらせる「アップサイクル」をテーマにしたワークショップを行っています。一緒に活動している先進生活者、アーティスト、クリエイターの方々は、活動や作品を通したコミュニケーションで強い思いを発信されている。

コミュニケーションというとKDDIの領域にもなってくるので、それをどう伝えて、どうシェアするかというところをもっと突き詰めていくと、また何か違うソーシャルな共有のしかたの可能性が出てくる気がします。さまざまな立場や想いを持った人が参加や共感しやすいイクオリティの部分もカバーできるような、新しいコミュニケーションのスタイルについても考えていきたいですね。

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撮影/柳原久子


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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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