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Women Driving Change - グローバル女性起業家の今

「あなたと私の考えは違う。だから耳を傾ける」カルティエが注目する、多様性の力

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画像:MASHING UP

あふれる大胆さでアイコン“パンテール(豹)”を生み出したジャンヌ・トゥーサンがクリエイティブディレクターとなった1933年以来、継続して女性のエンパワメントを行ってきたジュエリーメゾンのカルティエ。2006年には女性起業家の支援プログラム「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」を創設、2022年3月に閉幕したドバイエキスポ2020では、ドバイ万博公社と「ウーマンズ パビリオン」を共同出展し、大きな注目を集めた。

カルティエは、2022年4月19日に「ウーマンズ パビリオン」のメッセージを引き継ぎ、東京で「カルティエ ウーマンズ カンファレンス」を開催。「Join Us to Cross All Borders」というキーメッセージのもと、日本のジェンダー平等を加速させるためのアクションについてディスカッションが行われた。

女性問題を“自分ごと”にするアートの力

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(左から)映画作家の河瀨直美さん、建築家の永山祐子さん、アーティストで東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!さん。

撮影:MIDORI YAMASHITA

Art & Cultureをテーマにしたセッションには、映画作家の河瀨直美さん、建築家の永山祐子さん、アーティストで東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!さんが登壇。アートが果たすアドボカシーの役割について語られた。

実は、19世紀に始まった万博の歴史において、女性をテーマとするパビリオンが作られたのは、今回が初めて。「New Perspectives (新しい視点)」と題された映像作品では、これまで重要でありながらもフォーカスされることが少なかった女性の貢献に光が当てられていた。建築家の視点で「パビリオン自体も女性だけでなく、オールジェンダーに向けたものだと感じた」と印象を述べる永山さんは、この映像作品についても「アートが媒介になることで、見る人が社会課題を"自分ごと"化しやすくなる」とコメント。

アートも映画も建築も、すべては今を映すものだと、スプツニ子!さん。アート界は、いまだに男性中心だった従来の構造が色濃く、「女性をテーマにすると『もっと大きな問題を扱ったら?』と言う人がいる。人類の半分は女性なのだから、決してニッチな問題ではない」と指摘する。永山さんも、これまでのキャリアで自身が感じた課題について振り返る。

「26歳で独立後に出産し、バイオリズムの変化に苦しんだ。まったく集中できず、仕事をうまく進める方法を模索する日々。そのとき初めて性別の違いと、男性が多数を占める業界で働くことの難しさを感じた」(永山さん)

日本のアート、映画、建築界に共通する課題として、“今までのやり方”への固執がガラパゴス化を生み、世界に飛び出しにくくなっているという意見も出た。河瀨さんは2作目をフランスで編集しようとしたところ、日本人技術者から「そんなことをすると、今後日本で映画が撮れなくなるよ」と言われたという。

また、日本独自の建築の規格やルールが多いことも、ガラパゴス化を深刻化させる要因であると、永山さん。各業界に残る旧態依然としたルールやカルチャーも、日本のジェンダー平等がグローバル水準に大きく遅れをとった一因なのかもしれない。

では、アートや芸術業界が今後目指すべき方向性とは。

2021年に第一子を出産し、現在育児中のスプツニ子!さんは、「これからは、アートと暮らしは一つになっていく」とし、大学のオンライン授業中にあった出来事を語った。ある日赤ちゃんが泣き出したため、あやしながら授業したところ、女子生徒は「アートと関係ない質問ですみません」と前置きし、キャリアと結婚や妊娠のタイミングについての質問を投げかけたのだという。

「この質問は、アートと関係ないことじゃない。妊娠・出産・育児などを、アーティストの仕事とは別の『私生活』と考えるのは過去の男性社会の産物であると思うし、これからは当たり前に一体になっていく。きっとこれから、すべての仕事の分野でそうしたシフトが起きるのでは」(スプツニ子!さん)

子育てや家族のことを、外の世界と分離させる時代はもう終わった。全てを一体として考えてこそ、表現の本質にも迫れるのではないか──というスプツニ子!さんの言葉で、セッションは締めくくられた。

ジェンダーの壁を壊すカギは「意識・慣行・制度」の変化

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(左から)ジャーナリストの浜田敬子さん、NO YOUTH NO JAPAN 代表理事の能條桃子さん、Zebras and Company 共同創業者/代表取締役の田淵良敬さん。

撮影:MIDORI YAMASHITA

Society & Policyにフォーカスしたセッションでは、ジャーナリストの浜田敬子さんのリードのもと、Zebras and Company 共同創業者/代表取締役の田淵良敬さんと、NO YOUTH NO JAPAN 代表理事の能條桃子さんが「社会におけるジェンダーの壁」をテーマにディスカッションした。登壇予定だった内閣府特命担当大臣(男女共同参画)/女性活躍担当大臣の野田聖子さんは国会と日程が重なり出席できなくなったため、浜田さんにより、野田さんのメッセージが代読された。

男性は仕事、女性は家事・育児といった意識は、男性の長時間労働、女性の専業主婦やパートタイム労働といった慣行につながり、そうした慣行が現在の税、社会保障などの制度のベースとなっている。そして、そのような慣行や制度が性別役割分担意識を強化するという悪循環にもつながっている。

こうしたジェンダー平等の壁を打ち破るためには、意識・慣行・制度のすべてを同時に変えていく必要がある。その鍵となるのが、女性の経済的自立だ」(野田さん)

社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す「ゼブラ企業」を支援する田淵さんは、「意識・慣行・制度のすべてを同時に変えるというのは、まさにこれからのキーワード」と大きく頷く。30歳以下の若者が政治参加する社会を目指して活動している能條さんも、「日本はジェンダーの壁となる様々な制度や仕組みを、今も残している。半数以上が非正規雇用という女性の経済的自立を促すためには、女性リーダーが必要」と同意する。

「2019年にデンマークに留学して、一番驚いたのがメッテ・フレデリクセンさんが首相になった翌日の新聞。新首相が41歳の女性だということは淡々と書かれているだけで、むしろ全閣僚の女性比率が低いことが取り上げられていた。自分の印象とのギャップから、意識の遅れを痛感した」(能條さん)

また、長く海外での投資に携わっていた田淵さんは、金融業界における近年のジェンダー視点について語った。

「起業・投資の業界では、ジェンダー平等は世界的な問題となっており、例えばベンチャーキャピタルでは意思決定層に2.3%しか女性がいないと言われる。また、近年は、投資先を決めるとき、ジェンダー平等を推進する投資として、創業者が女性か、女性の課題を解決する製品やサービスを提供しているか、またジェンダー平等を推進する姿勢があるかという視点を組み込む『ジェンダーレンズ投資』が広がっている」(田淵さん)

男性のマインドセットを変えるには「知ること」が有効だと話す田淵さんに、浜田さんが紹介したのが、ある中小企業の社長の言葉だ。

「もともと男性が多い物流の会社を、『ダイバーシティ経営企業100選』に選出される企業に変えた方がいる。その人は、『意識を変えるのは難しいけれど、知識を高めることで意識を高めることはできる』と仰っていて、これはすごい言葉だなと。世界や日本の現状を知り、女性にはこんな不平等があると知ることで、男性の意識も自然と高まっていくのではないか」(浜田さん)

男性だけでなく、すべての人が“自分のなかのバイアス”に気づくことが必要だと浜田さん。自分を縛るバイアスを自覚し、おかしいと思ったときに声を上げる、そして一歩踏み出してみる。そうした小さなアクションを、社会をつくる一人ひとりが積み重ねていかなくてはならないと考えさせられた。

思想のダイバーシティがイノベーションを生み出す

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(左から)フリーアナウンサーの秋元玲奈さん、MPower Partners ゼネラル・パートナーの村上由美子さん、ポピンズ 代表取締役社長の轟麻衣子さん、ワーク・ライフバランス 代表取締役社長の小室淑恵さん。

撮影:MIDORI YAMASHITA

セッション「財界におけるHeForSheとSheForSheの重要性とイノベーション」には、ワーク・ライフバランス 代表取締役社長の小室淑恵さん、ポピンズ 代表取締役社長の轟麻衣子さん、MPower Partners ゼネラル・パートナーの村上由美子さんが登壇。フリーアナウンサーの秋元玲奈さんのリードのもと、すべてのジェンダーの人々が連帯し、責任を持ってジェンダー平等を推進するために何ができるか、意見を出し合った。

イノベーションとダイバーシティの関係において、もっとも重要なのは思想のダイバーシティ」だと村上さん。“今ないもの”を明日つくるのがイノベーションであり、想定外のものをつくるためには多様性が欠かせない。ここ20年の日本は製造業が強く、従業員がひとつの規格・物差しに則って労働することで利益を上げてきたが、サービス業・知識産業に世界がシフトした今は「あなたの考えは自分とは違う、だから聞いてみよう」というマインドがイノベーションのカギとなる

「日本政府は女性の社会進出を推進しようとしているが、実はこの数値は劇的に改善しており、OECDの平均を上回っている。本当の問題は、男女の賃金格差が改善していないこと」(村上さん)

この問題に対し、小室さんは「男女に能力差がなくても、時間外勝負に負ける。そこに憤りを感じてきた」と話す。

「起業したのが、産後3週目の時。残業はできないので、会食や接待をしなければ取れないような仕事は取らないと決め、クライアントは昼に説得しきる。まさに、一日8時間の“一本勝負”で社長業をこなしてきた。

2児の母として、パートナーの長時間労働がいかに自分を追い詰めるかを肌で感じ、男性を含めた長時間労働を変えなくてはと強く感じた。ようやく2021年には、育児・介護休業法が大きく改正され、男性の育児休業を企業側から本人に打診しなくてはいけないようになりました」(小室さん)


ナニー・ベビーシッター・教育・保育・介護サービスを提供するポピンズを運営する轟さんは、働く女性の支援、ライフサポートをミッションとしている。日本女性は72%が就業しているが、非正規雇用が圧倒的に多く、サポートの仕組みが整っていない、と轟さん。秋元さんも、「アナウンサー時代、出産後に復帰すると『赤ちゃんよりも仕事なの?』と言われたことや、女性を支援する会社の制度は整っていくのに、堂々と利用できない空気があった」と振り返る。

「日本はなぜか“ねばならない”に縛られる。3歳児神話、母乳神話、お腹を痛めて産むべき論、『保育園に行く子はかわいそう』……これらはすべてアンコンシャスバイアス。もっと色々な選択肢、自分らしい人生のための選択肢があっていい」(轟さん)

皆が同じ方向を向き、同じ働き方をすることをよしとする時代は終わりつつある。同質性の高い社会からイノベーションは生まれない。性別も国籍も問わず、新しいものを作っていく人を社会全体が応援していくことが重要であり、資本市場もそれを明確に求めていることを、三者がそれぞれの視点から明らかにしてくれた。

様々な角度からジェンダー平等を推進するための糸口が語られた、カルティエ ウーマンズ カンファレンス。まだまだ課題は山積みだが、それらに対して一つずつ声を上げ、アクションを積み重ねていくことで、きっと社会はより良い方向へ向かう。そして、その社会は、女性だけでなく、全ての人に優しいものであるはずだ。

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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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