画像:MASHING UP
プロダクト開発やサービス設計、情報発信において、D&Iの視点はますます欠かすことのできないものとなっている。
2022年3月24日開催のMASHING UP SUMMIT 2022では、「D&I時代のプロダクトと情報発信に必要なこと」をテーマにトークセッションが行われた。Henge ディレクターの廣田周作さんをモデレーターに、ロフトワーク 取締役会長の林千晶さん、Paidy CMOのコバリ・クレチマーリ シルビアさんが登壇。これからの起業家に求められるスピリットや、リーダーシップについて議論を深めた。
バックグランドや視点の多様性がイノベーションの源泉に
2000年にロフトワークを起業した林千晶さん。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、年間数百件ものプロジェクトを手がけ、成功に導いてきた。
撮影:中山実華
「日本ではこれから、起業する人が確実に増えていく」と予測するのは、2000年にクリエイティブカンパニー ロフトワークを起業し、20年以上起業家として日本のクリエイティブビジネスをリードしてきた林さん。「多様な人たちのニーズに合わせてサービスや商品をつくる、そんなクリエイティブな仕事をする人たちが増えていくでしょう。その時代に大切なのは、“起業家精神”」とし、これにシルビアさんも同意。
あと払いサービスを提供するPaidyには、30カ国以上から人材が集まる。同社のCMOであるシルビアさんは、「バックグランドや視点の多様性が、イノベーションの源泉になっている」と、同社の急成長のカギを語った。
「D&I時代には、誰でも使える、誰一人取り残さないサービスや商品、つまりユニバーサルデザインをつくろうという感覚が重要。Paidyもそこにこだわり、そのためにも、組織に“異物”を入れることを大切にしています。異なるバックグラウンドのスタッフを入れたり、プロセスを急に変えてみたり。そうすることで、より良いものが生まれると信じています」(シルビアさん)
「これまで男性主体だったところに女性が入るだけでも、そこにコンフリクトが生まれます。そのコンフリクトこそがイノベーションの元であり、サービスやプロダクトをユニバーサルなものにするための大切なステップ」と、林さんも語る。
社会を変えるアイデアは、“ごちゃごちゃ”から生まれる
Paidy CMOのコバリ・クレチマーリ シルビアさん。「褒める文化は大事」と語り、普段注目されにくい職種にもスポットライトを当て、褒めるように努めているという。
撮影:中山実華
ユニバーサルデザインとは、すべての人、つまり“みんな”が使いやすいものをつくること。モデレーターの廣田さんは、「“みんな”を無意識のうちに“平均的な人”と捉えがちですが、決して『みんな=平均的な人』ではない」と指摘する。
林さんもシルビアさんも大きく頷き、「多くの企業は平均を求めるけれど、平均を目指すと、結局は中途半端な結果になってしまう」(シルビアさん)と語る。
しかし、「多様な人に向けた商品やサービスを作ろうとすると、時間や工数がかかる。効率という課題を、どうクリアしているか」と廣田さん。シルビアさんはクリエイティビティと効率のバランスについて、次のように答えた。
「もちろん、目指す方向性が決まってからは効率も大事ですが、アイデアを出す最初の段階では、効率を気にせず、“ごちゃごちゃ”していてもいい。性別、国籍、業界などが同じ人が集まると、同じような意見しか出てこない。暗黙知から、アイデアは生まれません」(シルビアさん)
これからのリーダーシップには、アジェンダ設定が重要
(左から)廣田周作さん、林千晶さん、コバリ・クレチマーリ シルビアさん。東京都 港区のTOKYO AMERICAN CLUBにて開催されたMASHING UP SUMMIT 2022のラストセッションとして、大いに盛り上がった。
撮影:中山実華
その“ごちゃごちゃ”をまとめ、革新的なモノづくりに導いていくのが、リーダーの役割だ。
「今後のリーダーシップには、アジェンダ設定が重要になります。これは、D&I時代ならではの大切な要素の一つ。これまでのような『俺についてこい』というようなリーダーではなく、アジェンダ設定できる能力があるか、まとめられる力があるか、が問われるのではないでしょうか。その点、女性は“ごちゃごちゃ”をオーガナイズする能力に長けています。そこは女性の強みなので、前に出てがんばってもらいたい」(シルビアさん)
ロフトワークでは、これまで採用人数の男女比が同じでも、マネージメントレベルや経営層レベルになると、分析力や交渉力などに重きを置き、どうしても男性が主体になっていたという。しかしこれからは、「カオスの状態にあってもきちんと整理して調整をする、ファシリテーション能力が必要。そこで、女性が生きてくる」と林さん。
続けて、話題はPaidyのジェンダーダイバーシティにうつる。
「現在Paidyの経営層には女性が一人ですが、多国籍で様々なバックグラウンドの人が集まっているという意味では、D&Iは実現されています。私はこれまで、世界の様々な国で仕事をしてきましたが、海外企業でも、トップレベルには女性が少ない。そのために苦労もしました。だから、自分に約束したのです。自分がマネージャーレベルになった時は必ず、女性の育成に注力する、と。
Paidyでも、女性に挑戦を促しています。それも、ビジネスの肝心なところでオーナーシップを持たせて、挑戦させる。女性は自己肯定感が高くなく、挑戦することに躊躇しがちですが、自分でやってみて、失敗しても、そこから学べばいいと思っています。ちゃんと見守りますし、サポートも惜しみません。そして、できなかったことに注目するのではなく、できたことを見つけて褒めるようにしています。それが、自己肯定感につながると思っています」(シルビアさん)
80%の完成度でいい。完璧を目指すから、失敗を恐れてしまう
これからの起業家たちがどんなカルチャーをつくっていくか楽しみと語る、モデレーターの廣田周作さん。
撮影:中山実華
とはいえ、誰しも失敗を恐れてしまうもの。チームの挑戦に際し、心理的安全性をどう確保するのか。スピーカーから、様々な意見が飛び出した。
「ロフトワークには、そもそも成功や失敗という概念が存在しません。例えば、10年前に『FabCafe』というデジタルものづくりカフェを始めましたが、成功を数字のみで評価すると、昨年まで成功とはいえなかった。しかし、『FabCafe』が存在することでロフトワークが社会に開かれ、認知にも繋がる。私たちにとって『FabCafe』を始めたこと自体が成功であって、失敗はないんです」(林さん)
「人がなぜ失敗を恐れるのかと考えると、完璧を目指すから。特にモノづくりにおいては、完璧なモノを出そうと考えると、一生出せないと思います。私たちは、80%の完成度でサービスをリリースします。そこでユーザーからのフィードバックを、次のバージョンに生かすのです。完璧なモノは世の中にないと認められれば、楽になると思います」(シルビアさん)
最後の質疑応答では、働くうえでの、孤独やメンタルヘルスとの向き合い方について質問が上がった。
まず、廣田さんは「ステークホルダー含め、色々な人たちと関係を構築したネットワークが励みになっています。世の中ってこんなに広いんだ、こんなに魅力的な人たちがいるんだということが、独立してより見えてきました。会社という箱の中に人を抱えるのではなく、外に開かれた多様なネットワークがあるおかげで、孤独ではありません」と答えた。
「やりがいがあれば、孤独感は生じないのではないでしょうか。やりがいを感じるのは、ユーザーが喜ぶ、世の中にインパクトを与えるようなモノをつくった時だが、そのために重要なのがパーパス。Paidyで新しいサービスや機能を出す時は、『夢に自信を、心に余裕を持てる世界を作る』というパーパスに一致しているかどうかを問いかけます。たとえお金になるアイデアであっても、パーパスに一致しなければ採用しません。これは、企業、サービスにとってのパーパスだけでなく、個人のパーパスにもなっています」(シルビアさん)
現役企業家の立場から、D&I時代に必要な起業する上での視点や、リーダーシップのあり方などが語られた今回のセッション。これから起業を志す人たちだけでなく、多くの人にとってビジネスにおけるヒントとなったはずだ。
MASHING UP SUMMIT 2022
D&I時代のプロダクトと情報発信に必要なこと
林千晶(ロフトワーク 取締役会長)、廣田周作(Henge ディレクター)、コバリ・クレチマーリ シルビア(Paidy CMO)

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