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一緒につくるからもっといい。あたらしい社会をつくるビジネス

「社会とつながる」ストーリーデザインが意識を変える。価値共創を生むCXとは?

共創特集

撮影/柳原久子

今、多くの企業が社会貢献への姿勢を掲げはじめている。しかしそれらを実際のサービスに落とし込むには、ちょっとした工夫が必要だ。どのようなストーリーデザインが求められるのだろうか。企業とユーザーの価値共創を可能にするCX/UXのありかたとは?

「利他的UX(譲り合いの心や“やってあげたくなる気持ち”を高めるUXデザイン)」や「多元的人間中心設計(関係性・つながりの観点からの人とサービスのあり方のデザイン)」を提唱する千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科教授 安藤昌也さんと、共創する自動車保険「&e(アンディー)」のCX推進部リーダー田屋和美さんに話を聞いた。

見えないところまで顧客体験をデザインしていく

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田屋和美(たや・かずみ) デジタル領域におけるデザイナーとしてキャリアをスタート。デザイン思考をベースとした広義のデザインを武器に、制作会社、スタートアップ企業、事業会社、デザインコンサルティング会社などでの経験を経て、2021年5月にイーデザイン損保に参画。CX推進部のリーダーとして、UX/CXを含む顧客体験の改善・向上に取り組んでいる。

撮影/柳原久子

2021年11月にイーデザイン損害保険株式会社(以下、イーデザイン損保)からローンチされた「&e」は、「事故を起こしてから使う保険」ではなく、「事故を未然に防ぐ保険」をコンセプトとする自動車保険だ。デジタル領域におけるデザイナーとしてキャリアをスタートした田屋和美さんは、2021年5月にイーデザイン損保に参画後、CX推進部のリーダーとして、UX/CXを含む顧客体験の改善・向上に取り組んでいる。

——田屋さんはUX/CXを設計する際、どんなことを心がけていますか?

田屋和美さん(以下、田屋):UXとCXは“似て非なるもの”というところがあります。UX(ユーザーエクスペリエンス)はプロダクトやサービスを通して得られる体験ですが、CX(カスタマーエクスペリエンス)はもっと総合的。バックオフィスの対応や倉庫の物流など、より目に見えないところまでお客様にとって最適なデザインに設計していくのがCXではないかと。

今日のテーマであるストーリーデザインでいうと、「今ってどんなストーリーを作りたいんだっけ?」とか、「理想の姿(サービス)はどんなもの?」といった問い直しを常に行っていくことが大切。イーデザインだからできる新しいアイデア、デザインとは何なのかをいつも考えています。

安藤昌也さん(以下、安藤):外資系企業から日本の金融系へ、いわば一番規制がきつい世界に転職されたというのは、大変なのは予想がつくんだけど、よくやっていらっしゃるなと。

田屋:保険の説明は、やはり難しく、分かりづらい。あれをいかにわかりやすい言葉にするか、新しい挑戦はいろいろありますね。

安藤:保険というものが、若い人にとってすごく遠いという印象はありますよね。アメリカだといわゆるP2P(ピア・ツー・ピア)型の損害保険「レモネード(Lemonade)」のようにカジュアルな保険が出てきていますが、日本では、自動車保険が“自分にとって身近なもの”というイメージが、若い人にはなかなかない。

田屋:「&e」にはデジタルネイティブ世代が30〜40代になったときに、きちんと活用してもらえる保険の土台を作っていきたい、という思いがあるんです。

「気づいたらソーシャルグッドしてた」をCXの目標に

共創特集

安藤昌也(あんどう・まさや) 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、大手システム開発会社、経営コンサルティング会社取締役などを経て、2011年より千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授、後に教授を経て2016年より現職。総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻博士後期課程修了。博士(学術)。人間中心設計推進機構認定人間中心設計専門家、専門社会調査士。ユーザーエクスペリエンス及びUXデザイン、人間中心設計の教育・研究に従事するとともに、企業とのUXデザインに関するプロジェクトを多数手がける。

撮影/柳原久子

安藤:私の研究室では、言葉の設計の研究に力を入れています。例えば、プライバシーポリシーを見てもらうために何が大切かというと、“言葉”なんですよね。言葉ひとつで、受け入れやすさや読む意欲が変わってくる。

いまSDGsを筆頭に、抽象的な、パーパス的な言葉がたくさんありますけれども、ああいうものは、わかっちゃいるけど人ごとになりがちです。それをどうやって自分ごとにしてもらうか。

田屋:そこなんです。「&e」のコンセプトは「事故のない世界をみんなで作っていこう」というもので、いわゆるソーシャルグッドをサービスを通して実現していく狙いがあります。

そのためには、大きく分けて3つの機能があります。1つ目は、自分の安全を意識してもらうこと。専用センサーとスマートフォンアプリを使い、契約者の運転傾向やリスクをレポートするサービスを提供しています。

2つ目は、家族や友人へと安全運転の輪を広げること。契約者だけでなく、身近な人とスマートフォンアプリを一緒に使ってもらうことで、安全運転が楽しく実践できるような機能があります。

そして3つ目は、その輪を社会へ、世界へと広げていく機能です。地域・自治体などにも協力してもらいながら、契約者から取得したデータを匿名性を確保した形で分析し、地域で交通事故が起きやすい場所の情報などをシェアしていく。契約者の安全運転のデータを蓄積して、平均値が良かったときはイーデザインから自治体に寄附を行い、交通安全を守る活動に役立ててもらうといった取り組みもあります。

安藤:そのサービスに入っていることで、社会との新しい繋がりが生まれる。契約者個人と社会が直接的・間接的に繋がっていることがCXを通じて見えてくるのは、面白い取り組みですね。

田屋:一番に目指したいのは、「&e」を使いながら「気づいたらソーシャルグッドしてたんだ」みたいな形。ちょっといいなとか、実はすごく近くにソーシャルグッドがあったんだ、と思ってもらえるような体験を作っていきたいなと。

——自動車保険というと、普通は“もしもの備え”ですが、自分が保険に加入することで交通安全やソーシャルグッドに寄与できるというのは、すごく新鮮な体験になりそうですね。

田屋:そうなんです。ストーリーデザインとして、そこをしれっと体感できる保険にできたら嬉しいですね。

身の回りの人が幸せになり、社会と結びついていく

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人が社会との繋がりを意識するためには、「自分が社会だ」という考え方を持つことが基本、と安藤さん。

撮影/柳原久子

——安藤さんは、UXデザインの研究者として千葉工業大学で教鞭を執られていますが、UXデザインを専門とされた経緯は?

安藤:経営コンサルタントを10年ほど、大学の教員になってからは14年になります。最初にUXデザインに関わったのは、当時の郵政省が実験していた電子マネーのシステムの利用体験でした。20年前は「UXデザイン」という言葉もなくて、僕の仕事は使えないシステムを使えるようにすることだったんです。

使えないシステム、止まっているシステムというものは、多くの場合、“エクスペリエンス”がなくて“機能”しかありません。いまDX(デジタルトランスフォーメーション)とよく言われますが、結局は、使う人のメンタル、その人がシステムをどう理解するのかも含めて、体験全体を設計しなければいけない。そう気づいて以来、ずっとUXを研究してきました。

10年くらい前は、UXのことをSNSで「ガチャをたくさん回させるのがUXだ」といった言われ方をしたりして、お金儲けというか、我田引水のための技法のように捉えられていた時期があったんです。でも本来は、「人(ユーザー)の嬉しいこと」が中心にあって、根底には「誰かに貢献したい」という気持ちがあるはずなんですね。

ちょっと昔の話になりますが、2012年くらいに私が東芝デザインセンターのUXデザインコンセプトを作ることに関わったのですが、そのコンセプトは「あなたがうれしい、みんながうれしい、社会がうれしい」といったコンセプトでした。田屋さんが仰った「&e」の3つの機能とまったく同じ。

田屋:本当ですね、それは嬉しい!

安藤:東芝という会社には、炊飯器や洗濯機などの家電を作ることで人を家事から解放し、家族の時間の充実や、女性の社会進出など社会貢献に繋がる役割を果たしてきたDNAがあります。自分にとって便利というだけではなく、身の回りの人が幸せになり、それが社会と結びついていく。いろいろな製品がありますが、どんな製品でもその繋がりを考慮してデザインしていこうという方針にしたんですね。

人が自分と社会の繋がりを意識するためには、自分と社会を分けるのではなく、「自分が社会だ」という考え方を持つことが基本になります。こうした意識の変化を促すためには、「自分、みんな、社会」というストーリーデザインが大きな力を持つのではないかと思います。

未来の街を描く「&e」のキービジュアルに驚き

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デジタルネイティブ世代が30〜40代になったときに、きちんと活用してもらえる保険の土台を「&e」で作っていきたい、と田屋さん。

撮影/柳原久子

安藤:いま学生と、CPR(救急車到着前市民対応)を広めるために、「救命戦士ソセイダー」というプロジェクトをしています。学生が真っ赤なスーツを着て「AEDはここだ!」とポーズを取る等身大パネルを作るとか……ダサいんですけど(笑)、この微妙なダサさが、実は大事。こういったソーシャルグッドのプロジェクトは、洗練されすぎていたり、お金がかかっている風に見えたりすると、“自分ごと”できなくなるという研究結果があるんです。

救命戦士ソセイダーの写真

CPRを広めるための「救命戦士ソセイダー」プロジェクト。ソーシャルグッドを”自分ごと”にしてもらうには、「微妙なダサさ」が大切、と安藤さん。

提供/安藤研究室

田屋:わかります。「&e」も従来の保険とは違う新しさというか、むしろ「保険じゃないよ」というぐらいのところを訴求したいのですが、カッコよすぎたり、シュッとした感じは違う。

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&eのキービジュアル(ホームページより)

安藤:キービジュアルも今までの保険のイメージとは違って、保険という感じがしない。色使いも特徴的ですよね。

田屋:そうですね、ちょっと優しい感じ。私たちが一番重視しているキーワードが「共創」や「安心安全な社会」なので、安心感であるとか、でもテクノロジーが使われていて、近未来的な部分もある。あのキービジュアルは「&e」がすでに生活に溶け込んでいる、ちょっとだけ未来の街を描いたものです。

——よく見るとロボットがいたりして、『ウォーリーをさがせ!』みたいな楽しさがありますね。

安藤:僕はこれを見たときにまず、「街が出てくるのがすごいな」と思ったんですよ。自動車は自ら運転するものなので、普通は自己中心的な視点になる。でも「&e」のキービジュアルは俯瞰から入っていて、「なるほど、車というのは社会の一部なんだ」と一瞬にしてわかります。

社会貢献を目指す企業と、心の中で少しは社会に貢献したいと思っているけれど、「そうは言っても難しい」と考えている個人がいるとする。その「そうは言っても」の垣根を跳び越えて、企業のパーパスと、“私の心の中にある正しさ”が共鳴するきっかけをどうすれば作れるのかを(僕は)ずっと考えてきましたが、ここではそれが実現されている。

消費者・ユーザーの理解や認識というものは、急に企業のパーパスを見せられてもなかなか変わりません。過去の自分との一貫性をどうやってアピールするか、気づきを与えるかというところが、一つのポイントになります。

そう考えると「車って、社会と繋がっていたよね」という気づきはもっとも根源的であり、ユーザーの認識との一貫性を築ける部分。その後のステートメントの言葉も含めて「保険に入ることで、社会と繋がっていくんだ」ということが伝わるというのがすごいなと思いましたね。

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消費者の心の中にある「本当はもっと社会と繋がりたい」「人助けができたら嬉しい」という思いと共鳴を生むようなUX/CXのデザインが今後は求められるのでは、と安藤さんは言う。

撮影/柳原久子

——これからはどのようなプロダクトやサービス、また、どのようなUX/CXが重視されていくと思われますか?

安藤:よくある「ユーザーセンタード・デザイン」だと、企業が勝手に利己的なユーザーを想定しているんですね。ユーザーの心の中には「本当はもっと社会と繋がりたい」とか、「人助けができたら嬉しい」という思いがある。そこと共鳴を生むような商品の見せ方、UX/CXのデザインが今後は必要になってくるのではないでしょうか。

そのための着眼点としては、ユーザーの過去の思いや、ソーシャルな行動によって「社会と繋がっている私」を認識できたような経験と、何らかの一貫性を感じさせるような商品の見せ方やポジショニングを作ることが重要でしょう。自分が持つ「いいことをしたい」種と繋がって、過去の自分とも一貫性をもった形で商品が見えたときに、他にはないパートナーのような存在として商品が捉えられていく。「&e」のキービジュアルに感心したのもそこで、「自分と繋がっている」という部分のデザインができているのが素晴らしいと思いました。

田屋:ありがとうございます。日本企業は商品を作ることは上手ですが、繋がりを作るのは苦手というところがあるのかもしれません。社会貢献に繋がる商品でも、「買ったらそれで終わり」になりやすい。そこをどう継続させて、繋げていくか。デジタルの力を使ってうまいタッチポイントを定期的に作ったり、コミュニティを作るという手法もありますが、そういうやり方がどんどん増えてくるんじゃないかなという気はしています。

AI全盛社会で「人間中心」のデザインを考える

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商品の「買ったらそれで終わり」となりがちな部分をどう継続させて、社会貢献に繋げていくかがUX/CXの課題、と田屋さん。

撮影/柳原久子

——お二人は今後、どのような価値を生み出していきたいとお考えでしょうか。

田屋:「&e」を通じて「こんな自動車保険があるんだ!」という驚きを作っていきたいですね。「事故のない世界をつくる」という「&e」の活動は、自動車に乗らない人でも参加できます。直近のゴールとしては、保険というサービスの概念を変えて、自動車保険をもっと身近に感じてもらうことですね。

安藤:今はUXデザインのコンセプトテストの技法開発に取り組んでいます。「UX評価」といわれますが、UXデザインがユーザーにとってよいものかどうかを評価する方法はまだ確立していないんです。

もうひとつは、人間中心設計(HCD)の研究です。この人工知能全盛の時代において、「人間中心」ということにどんな意味があるんだろう。AIと共にある社会で、人間(ユーザー)のことを考えるというのはどういうことかを、今一度捉え直していきたいと思っています。

結局、今の社会のAIって“お勧め”してくるんですよね。YouTubeでもNetflixでも人工知能のお勧めを選ぶだけになっていて、それが本当に自分がやりたいことかは、もはやわからない。要するに企業の人工知能が“私”になっていく、という問題をはらんでいるわけです。

田屋:コロナがまたそれを加速させていますよね。外に出ないから環境がどんどん狭くなって、偶発の出会いも観点も得られないし……そうなると新しいストーリーが生まれなくなってしまう。

安藤:それで気づいたら、“私”が企業に乗っ取られていく。AIのサービスを「便利だな」と思っている瞬間、本当はもっと違うビジョンを持っていたはずの“私”がどんどんシュリンクされて、ボタンを押すだけの人になっている……。

それが全て悪いわけではないけれど、もう一回、自分本来の目的や役割にトランジションして、意識を変えていく、認識を変えていくことができないだろうか。デザインの力でどう変えていくか。そういったデザインの力の使いどころをしっかり研究して、構築していきたいですね。


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田邉愛理
ライター。学習院大学卒業後、センチュリーミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。40代を迎えてヘルスケアとソーシャルグッドの重要性に目覚め、ライフスタイル、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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