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MASHING UP SUMMIT 2022

働き方に人を合わせるのでなく人に働き方を合わせる。価値創造につながるダイバーシティ経営

左から浜田さん、大薮さん、山口さん

撮影:中山実華

ダイバーシティの重要性が問われ始めて久しく、各企業が試行錯誤をしながら推進しているものの、順調に進んでいるとは言い難い。もう一度基本に立ち返り、「なぜダイバーシティ経営が必要なのか」を各人がインストールし直す必要がありそうだ。

3月24日に行われたMASHING UP SUMMIT 2022のセッション「価値創造のためのダイバーシティ経営」では、DEIの先進企業、日本IBM代表取締役社長の山口明夫さん、武田薬品工業 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ オフィサー(当時)の大薮貴子さんをスピーカーに迎え、ジャーナリストの浜田敬子さんとともにクロストークでさまざまな課題について語った。

多様な意見、公平性の視点が変革のトリガーとなる

山口明夫さん

日本IBMの代表取締役社長、山口明夫さん。

撮影:中山実華

「なぜ経営の視点でダイバーシティが必要なのか」。まずはこの問いに明確に答えられなければ、推進も難しいだろう。山口さんは「危機感」というキーワードをあげた。

「なぜダイバーシティ経営が必要かというと、まず日本企業が30年成長していない、1人当たりのGDPが下降しているという議論があります。その原因は、イノベーションが起こせなかったから。では、なぜ起こせないかというと、多様な意見を取り入れて経営をしてこなかったからです。ようやく多くの経営者は『危機感』を感じ始め、ダイバーシティ経営の重要性に気づき始めたのではないでしょうか」(山口さん)

山口さんご自身も、「多様な意見」の有用性を実感しているという。

「たとえば、同じ経験しかしていない者同士で議論をすると、従来の延長線上でしか物事を捉えられず、答えが見えています。しかし、外国籍の方、中途入社の方や性別、年代などもいろいろな人を交えて議論をすると『あっ』と気づくことがいくつもあります。それが変革するトリガーとなっていることは間違いありません」(山口さん)

浜田敬子さん

ジャーナリストで、前Business Insider Japan統括編集⻑の浜田敬子さん。

撮影:中山実華

「同質性」も成長を阻害する原因なのでは、と指摘する浜田さんの言葉を受けて、「日本は子どものころから“みんなと同じ”という教育を受け、自己主張を重視する感覚に乏しいため、『多様性を受け入れよう』と言われても、なかなか簡単に変われない部分があります。弊社もそうですが、苦労しながら進めていくのはどの企業も同じだと思います」と、山口さんは話した。

大藪貴子さん

武田薬品工業 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ オフィサー(当時)の大薮貴子さん。

撮影:中山実華

大薮さんは、武田薬品工業の山口県にある工場での興味深い事例を紹介した。この工場には薬の原料を作る部隊があり、これまで「女性にはできない仕事」と一度も女性が配属されたことがなかったという。

「それは、原料を入れる大きなドラム缶が重いため、女性には運ぶことができないという理由でした。しかし、そこに『その慣例を変えたい』という女性社員2名が配属されました。実際に、そのドラム缶を運ぶのは無理でしたが、彼女たちは別の方法を考えたのです。その結果、エアーホイスト(巻き上げ用機械)が採用され、現在に至ります。これは男性にとっても作業負荷を大きく下げました。男性も重いものを運びたいわけではありません。経営的にもケガの件数が減り、まさにイノベーティブな出来事で、工場の社員みんなが働きやすい環境へと変わりました」(大薮さん)

エクイティ(公平)という視点を入れるだけで、このようなイノベーションが生まれ、色々な人の働きやすさも見つけられるということだ。 もうひとつ、大薮さんはエクイティについて非常に明快な例をあげてくれた。

「背の高い男性と小柄な女性と3歳児に同じ自転車を与えたとします。背の高い男性はスイスイと目的地にたどり着きますが、小柄な女性と3歳児には無理でした。同じものを与えるということはイクオリティ(平等)ですが、目的を達成できたのは背の高い男性だけ。では、エクイティという考え方では何を与えればよいか。女性にはもっと小さな自転車を、3歳児には三輪車を与えることです。そうすれば3人とも目的地に向かうことができます。これがエクイティの考え方です」(大薮さん)

DEI、すなわち、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)とは、そういう概念なのだということを理解する必要がある。

「女性だから無理」なら「考え方」を変えればいい

話をする山口さんとその話を聞く浜田さん

撮影:中山実華

2021年のコーポレートガバナンス・コード(金融庁と東京証券取引所による上場企業の行動原則)の改訂により、企業はさらなる「中核的人材の多様性」「持続的成長」を求められるようになった。そして、女性のマネジメント層登用も、ますます問われるようになる。

日本IBMは「考え方」を変えることで、その課題に取り組んでいる。

「昔はたとえば『このポジションは深夜業務もあるので、女性には無理だ』といったことが当たり前のように言われていました。しかし、考え方を変えてみればいい。『今までと同じ働き方ではなく、そのポジションに就く女性ができるやり方に変える』とどうでしょうか。働き方に人を合わせるのではなく、人に働き方を合わせる。それがエクイティだと思います。そして、周りはミッション実現のためにサポートをするという考え方。これが進まない限り、インクルージョンが進みません」(山口さん)

大薮さんは「クリティカルマス(結果を得るために必要とされる量)は重要だ」と話す。

「武田のグローバル経営層は、3割強が女性です。世代も、30代から60代という多様性のあるメンバー。女性が3割いると、女性だからという意識や雰囲気がなくなると感じます。そういう意味でも、クリティカルマスは大事です。しかし、女性のマネジメント層が50%になったらダイバーシティの問題が解決されるかというと、そうではありません。ビジネスの世界は何ごとも数字で測られますが、DEIに関しては、一人ひとりの従業員が『自分はプロジェクトに貢献できているか』『自分は会社から感謝されているか』を実感できることが、最終的なインクルージョンなのではと、個人的には思います」(大薮さん)

また、登用後のフォロー体制も重要だと、数々の企業を取材してきた浜田さんは指摘する。大薮さんは自身がまさにその経験者だ。

「最初にこのポジションを打診されたとき、正直躊躇しました。子どもは当時保育園に通っていて、育児をしながらこの責任ある仕事をできるだろうかと。しかしCEOのクリストフ・ウェバーから『絶対にサポートする』と言われ、他の取締役メンバーからも『徹底的にみんなでサポートする』と言ってもらいました。そして、大前提として、夫が全面的に協力してくれると言ってくれました。それは大きかったです」(大薮さん)

この「サポート」の部分は各企業取り組みが異なると思うが、たとえば日本IBMは「W50」という管理職育成プログラムが有効に機能している。

「W50は、マネジメントの候補生を50名前後ノミネートし、1年間かけてマネジメントに関する情報共有をしていく場です。たとえばマネジメント職に就いた際の、良い話とつらい話。すべてをさらけ出し、共有することで『私もやってみようかな』と挑戦してくれる女性社員が増えています。強制的に数字を増やすのではなく、実際に困ることや起こりうることを知ってもらうことで、社内の雰囲気は変わってきました。今は男性にも入ってもらい、みんなでその環境を理解すべく、議論が活発化しています」(山口さん)

アンコンシャスバイアスをなくすことで企業は大きく変わる

左から浜田さん、山口さん、大薮さん

撮影:中山実華

多様性を受け入れる、という議論の中で、よく言われるのは「子育てをしている人に対し、していない人が仕事の負担を感じる雰囲気」というものがあるだろう。それに対し、山口さんも大薮さんも同様の意見を示した。

育児で時短の人もそうでない人も、当然、全員プライベートは大事。それぞれの立場をオープンに話すことができ、お互いに支援できるようになるのが理想的。ギブ&テイクで、それぞれがすべきことをするという環境になればいいですね」(大薮さん)

山口さんも、まさにこの部分が核心だと話す。

「マジョリティとマイノリティなど分けて考えたりしますが、大事なのは一人ひとり。育児中である、介護をしている、あるいは自身が病気であるなど、事情は様々。誰もが人生の中で、働けない時期があるかもしれない。その時に性別も国籍も関係なく、お互いの環境を理解しあってサポートしあえるというベースが大事なのではないでしょうか。ダイバーシティとは、自分を受け入れてもらい、他人を受け入れる。“人としてのベース”を問われているのだと思います」(山口さん)

また、大薮さんは「女性 対 男性、若い人 対 ベテラン」など、何事も二軸で見ることは生産性に対して疑問だと言い、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の問題点を指摘。山口さんも賛同し、自社での事例を以下のように話した。

「外国籍の方の意見に対し、日本人は『日本のカルチャーや日本人気質のお客さんを知らないで何言ってるの』と否定する。対して、外国人従業員の方は『日本企業は変革ができない』というバイアスがある。双方にアンコンシャスバイアスがあるわけですが、誠実に議論を積み重ねていくと、あるときその壁を超えるんです。お互いをリスペクトするようになり、多様性の中で仕事をすることで、仕事の深みも幅もでてくる。時間はかかりましたし、ストレスもありました。しかし、アンコンシャスバイアスをなくすことで大きく変わることを実感しました」(山口さん)

人が企業にでなく、企業が人に合わせていく時代へ

そしてSDGsが登場して以来、ビジネスの中に「人権」という考え方が出てきた。それにより、企業の在り方は変わってきたと両氏は話す。

「コロナ禍を受けて、人の価値観は大きく変わりました。これまでは企業の下に従業員がいるようなイメージでしたが、今は、従業員一人ひとりの下で企業が成り立っているというイメージ。いかに個人の価値観、生活を充実させ、人としての価値を成長させるために企業はどうサポートするかというフェーズに、変わってきているのではないでしょうか。そうすることで、企業価値が明確になっていきます」(山口さん)

大薮さんも「企業が人に合わせていく必要がある」と指摘。

「優秀な人を採用したいと思えば、企業が人に合わせていかなければならないという時代になってきたと思います。コロナ禍でオフィスに人が戻ってこないというのも、そのひとつではないでしょうか。今後はハイブリッドのワーキングスタイルになるという方向性は変わらないと思います」(大薮さん)

DEIの目指す最終形は、一人ひとりの人生が充実すること。何のためにダイバーシティ経営が必要なのか。各人がもう一度基本に立ち返り、企業の在り方、働き方を見直してみるとDEIの推進が加速するかもしれない。

左から浜田さん、大薮さん、山口さん

撮影:中山実華

MASHING UP SUMMIT 2022

価値創造のためのダイバーシティ経営

浜田敬子(前Business Insider Japan統括編集⻑/ジャーナリスト)、 大薮貴子(武田薬品工業 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ オフィサー[当時])、山口明夫(日本IBM代表取締役社長)

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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