近年、フェムテックの盛り上がりや「生理の貧困」への取り組みなどにより、生理や妊娠、更年期といった女性の健康課題への関心が高まっている。企業にとっては、社員のQOLを向上させ、組織のイノベーションを目指すためにも、これからの時代に無視できないイシューだ。
組織が個々のウェルビーイングを尊重し、その能力を最大限引き出すためには、どのようなアクションが求められているのか。2022年3月24日に開催されたMASHING UP SUMMIT 2022で、その現状やニーズを語り合うトークセッション「Let’s talk! 個のウェルビーイングに組織はどう寄り添う?」が行われた。
登壇者は、オンライン診察アプリを提供するネクイノ代表取締役の石井健一さん、サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さん。パナソニック コネクト常務の山口有希子さんをモデレーターに迎え、さまざまな角度から意見が交わされた。
女性の健康課題による労働損失はどれくらい?
パナソニック コネクト常務の山口有希子さん。D&I活動を推進し、女性管理職の割合30%を目指す上でも、女性の健康問題に取り組む重要性を感じていると語る。
撮影/中山実華
女性活躍が叫ばれる一方で、生理やPMS、更年期障害といった問題を理由に、昇進を断る、もしくは断ろうと考える女性たちがいるという。「調査によると、その割合は50%にも及びます。驚きませんか?」という山口さんの投げかけでセッションはスタート。
「また、女性の健康課題が原因の労働損失は、5,000億から7,000億円にものぼるというデータもあります。これらを踏まえて、具体的にどういう課題があるのか、話し合っていきたい」(山口さん)
これを受けて石井さんは次のように話した。
「生物学的な女性の健康問題には、まず生理、次に妊娠・出産、そして更年期に関するものがあります。それらの問題は、ある日突然起こるわけではありません。必ず、そこに至るまでのプロセスがあるわけですが、そこでは手が打てず、病名を伝えられて初めて対応しようとするケースが多い。企業経営も同じで、女性のキャリアと体の問題が顕在化してきてようやく課題として捉える。それでは遅いですよね。これが大きな問題ではないかと感じています」(石井さん)
小巻さんも大きく頷く。
「日本の社会は、自分の体と向き合うという文化が薄く、生理についても学校や家庭で話題にしづらい。教育、企業文化、制度などを見ても、特に女性の健康にまつわるウェルビーイングの課題には、優しくない流れをたどってきたと感じます」(小巻さん)
また、山口さんによると、妊娠に関する日本人の知識レベルは世界的にみても著しく低く、先進国18か国の中でワースト2というリサーチ結果もあるという。それを表すかのようなエピソードを、石井さんが語る。
「助産師さんに聞いた話ですが、ある女子中学生が『私は、生理は来ましたが、月経は来ていません』と言ったそうです。なぜかと聞くと、『だって、ナプキンの中に卵がないから、排卵が起こってないんです』と答えたのだとか。笑い話のようですが、これは性教育の敗北を意味すると思うのです」(石井さん)
このエピソードに苦笑しながら小巻さんは、「まずは性教育という言葉を変えていきたい。妊娠・出産をはじめ、“命の教育”として、自分の体のことを知る機会をつくらなければならない」と話す。
「知る機会」は学校教育でも重要だが、「学校に任せるのではなく、企業が主体的にアップデートしていく時代が来ている」と石井さん。
「自分のチームにいる人たちが、幸せに生きていくために必要な知識。マーケティング能力や資産形成について教えることと同じくらい重要なのです」(石井さん)
企業は、制度をつくるだけではなく、次のステージへ進むべき
サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さん。子宮頸がん予防啓発活動「Hellosmile」を推進。
撮影/中山実華
では、企業は何をすべきか。
「企業側も必要性を理解してきていて、女性が働きやすくなる制度は整ってきていますが、社員が抱えるニーズの奥にある課題をどこまで理解できているでしょうか。制度をつくって終わりではなく、どうすれば使いやすいのか、何が必要なのか。次の段階に進んで、対話をすることが非常に重要です」(小巻さん)
ただ、社内でいざ女性の健康問題を考えようと議論の場を設けても、それまでタブー視されていたテーマだけに、どう話せばよいのかとまどう社員は多い。
小巻さんは、「一歩を踏み出す勇気が必要。心理的な安全性を担保して、時間と場所を区切るなど、対話のルールを敷いてあげることが大切です」と、対話する際のルールづくりも肝心だと語る。
さらに、女性の健康問題について勉強会を行う企業も増えているが、「生理をテーマにすると受け入れられにくいため、子宮頸がんのような女性のがんを含めての『がん教育』をテーマにするとアプローチしやすい。自分、もしくは自分の大切な人ががんになることを考えて、健康と向き合う。そういう企業からの問いかけの方が受け入れられやすいと感じます」ともアドバイスする。
女性にやさしい会社は、男性にとっても働きやすいはず
ネクイノ代表取締役の石井健一さん。ピルの処方ができる女性向けのオンライン診察アプリ『スマルナ』を運営している。
撮影/中山実華
企業の動きについて、石井さんは「2つの壁がある」と指摘する。
「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は、本来、生理が始まった時から時間をかけて向き合っていくべきなのに、ある日突然、『会社の不妊治療の制度をなんとかしたい』『更年期で悩む人のソリューションを今すぐ考えたい』となる企業が多い。これはマーケティングコストを投下して短期的に売り上げを上げろ、ということに近い意思決定です。そうではなく、良い商品をつくって、顧客のニーズを拾い、しっかりマーケティングをして、時間をかけて5年後の売り上げをつくろうというのが本来の経営ですが、そうなっていない」(石井さん)
では、2つ目の壁とは。
「どうしても、生物的な女性だけがベネフィットになるサービスや仕組みになりがちなので、それが公平ではないという意見があがること」と、石井さん。
そうした声は、サンリオグループでもよく聞かれるという。
「女性にやさしい会社になることは、男性側にとっても実は働きやすい会社になる。そのことをきちんと啓蒙していく必要がありますね。企業の説明責任は、外部に対してだけではなく、社内に対しても必要。細かく、一人ひとりに寄り添うという姿勢を忘れないことが大切と思っています」(小巻さん)
体と向き合うことは、生き方と向き合うこと
撮影:中山実華
現在、フェムテックやDX、国の動きなど、断片的ながらも良い方向に向かってはいる。
「ソリューション自体はかなり色々な選択肢が出てきている。あとはアクセスをしっかり改善し、必要な人が医療機関に行ける仕組みを、企業と一緒につくっていく必要があるのではないでしょうか」と、山口さん。
企業の立場として、小巻さんは「対話をしながら、お互いに理解しながら、歩み寄っていくことが必要だと改めて思います」と話す。
最後に山口さんが「皆がウェルビーイングになるために、幸せでいきいきと活躍するために、まずはこの問題がフォーカスされること、それについて対話していくこと。今はその段階かなと感じました」とまとめ、3人からのメッセージでセッションは終了となった。
「働く側、雇う側の両方が対話をして、その会社ごとに合った解決策を見つけていく。そんな未来をつくるために、明日の朝起きた時に皆さんがそれぞれの会社のことを考えてみてほしいなと思います」(石井さん)
「今日のセッションのテーマに、まさに答えがある。構造化して、しっかりと仕組みをつくった上で、企業として覚悟を決めて寄り添う。覚悟すること、仕組みをつくること、対話を重ねていくことが大事だと思いました」(小巻さん)
「体と向き合うということは、自分と向き合うことであり、自分の生き方と向き合うこと。自分にとってウェルビーイングはどういうものか、家族をどういう風につくっていきたいのか。そんなことをキャリア形成と同時に自律的に考え、自分で選んでいく女性が増えるといい。このムーブメントをもっと加速させて、困っている人たちが健康課題のせいでキャリアを諦めなくて済むような会社、日本、そして世界になっていけば良いなと感じました」(山口さん)
女性にやさしく、男性も働きやすい会社を、社会を目指すためのヒントが得られるセッションとなった。
撮影:中山実華
MASHING UP SUMMIT 2022
Let’s talk! 個のウェルビーイングに組織はどう寄り添う?
小巻 亜矢(サンリオエンターテイメント 代表取締役社長)、石井 健一(ネクイノ 代表取締役)、山口 有希子(パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 / CMO デザインセンター担当役員 / DEI担当役員 / カルチャー&マインド推進室 室長)

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