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カギは「人権の尊重」。LGBTQ+社員の心理的安全性を守るために企業ができること

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画像提供:アメリカン・エキスプレス

LGBTQ+のキャリア形成やビジネスの現場における現状、企業に求められる対応や姿勢などは変わってきている。DE&Iを実現する社会や職場づくりのために、企業にはどのような視点が必要なのだろうか。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.(以下、アメリカン・エキスプレス)は 2022年6月24日に、「LGBTQ+のキャリアとビジネスへのインパクト」と題したメディア向けセミナーを開催。

TIEWA 代表取締役CEOの合田文さん、アメリカン・エキスプレス 加盟店事業部門 マーケティング アジア太平洋地域 副社長の津釜宜祥さんをパネリストとして迎え、ジェンダー・スペシャリスト(特活)Gender Action Platform 理事の大崎麻子さんがモデレーターを務めた。

本セミナーではLGBTQ+の社員がはたらく環境やキャリアを考える際にどのような課題があるのか、また、多様性を包括的に取り入れることが急務となっている企業において、どんな対応策や解決策があるのかを、アメリカン・エキスプレスが実施した最新調査「企業とLGBTQ+のキャリア」の結果と共に考察。調査で浮かび上がった課題の背景を深掘りした。

職場でのカミングアウトは5人に1人

職場において、LGBTQ+の社員が自身の性自認についてカミングアウトしている割合は、全体で5人に1人の20%という結果に。

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画像提供:アメリカン・エキスプレス

この結果について合田さんは、「職場ではカミングアウトしにくいという可能性はまだまだ高いのではないか」と話した。

「SNS の普及によって、自分の価値観やバッググラウンドを話せる相手をネット上で探すこともできますし、若年層の中には職場がまだまだ自分にとってメインのコミュニティじゃないと感じている方もいるかもしれません。

ただ、職場ではカミングアウトをしたければできるし、したくなければしなくても大丈夫という選択肢がある状況が望ましいと考えています」(合田さん)

これに対し、津釜さんも「選択肢があることは重要だと思います」と同意。

「本来であれば自分のアイデンティティ全てを出してもらって、何のストレスも感じないで仕事に専念してもらうことが一番望ましいと思います」(津釜さん)

何気ない一言による「マイクロアグレッション」に注意

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画像提供:アメリカン・エキスプレス

次に、採用・就職・定着・昇進・離職といったキャリアのステージごとの調査結果によると、「就職活動時に性的指向、性自認に関する質問を受けた」と回答した人は15%。そのうち実に半数以上の59%が不当な待遇を受けたと回答

大崎さんは「例えばどういう質問が考えられるのでしょうか?」と合田さんに問いかけた。

「例えば面接などで自分からカミングアウトした応募者に対して、性的なことと結びつけたり、どういう人がタイプかなどプライベートに立ち入ったりする質問がありえます。

また、面接時にスーツなどの定番な見た目ではなく、自分の心地いい格好で行ったら『もしかしてセクシャルマイノリティなのか?』などと見た目で決め付けられたり、『結婚の予定は?』と聞かれたりしたことがあるという相談を受けます。

企業側も、直接的にすごく差別をしようというよりは、良かれと思って、または当たり障りなく話したつもりでも性のあり方について質問してしまって、それで傷つけてしまう。そういった、マイクロアグレッションと呼ばれる小さな攻撃性が多いのかなと思います」(合田さん)

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TIEWA 代表取締役CEOの合田文さん。「まずは自分が無意識の偏見を持っているということを自覚するというのが大切だ」と話す。

画像提供:アメリカン・エキスプレス

こうした課題が浮き彫りになる中、DE&Iを積極的に進めているアメリカン・エキスプレスでは、採用に際してどのようなポリシーを持ち、どのように組織に浸透させているのだろうか。

津釜さんは「多様な人材が必要だということをどの企業も言っているけれど、意外にその多様な人材を受け入れられる面接の方法や、インクルーシブなインタビュー、スキルセットが確立されていないのでは」と語る。

「アメリカン・エキスプレスでは、インクルーシブな面接をするために必要なことが示されているガイドラインや、人事によるトレーニングによって補っています。あとは、カルチャーの部分も大きいと思うので、日々企業のカルチャーやDE&Iについて社内で教育をおこなっているのが強みになっています

特に、アンコンシャス・バイアスについては以前から会社全体でとても力を入れています。アンコンシャス・バイアスは誰でも持っているもので、それをきちんと自認するところから始まり、影響されないように人事判断を行うということが重要。そこに対するトレーニングを社内でいろいろなポイントで行っています」(津釜さん)

リーダーや上司がロールモデルとなることで、LGBTQ+の社員も働きやすくなる

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ジェンダー・スペシャリスト(特活)Gender Action Platform 理事の大崎麻子さん。採用の段階ですでに不当な扱いを受けたと答える人が多くいることに驚いていた。

画像提供:アメリカン・エキスプレス

採用というキャリアのスタート地点から、アンコンシャス・バイアスの問題がすでに出てきていることを大崎さんが指摘し、話題は定着・昇進・離職という次のフェーズへと移る。

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画像提供:アメリカン・エキスプレス

「LGBTQ+のインクルージョンに特化した具体的な施策が職場にあるかどうか」という質問には、回答者の65.4%が「ない」と回答

一方で、施策のある職場環境の方が、逆に職場における孤独感や疎外感を感じる割合が多くなっているという結果となった。

「プライド月間(※1)においては、多くの企業が6色の虹を掲げてサポーティブな姿勢を見せましたが、ただ示すだけという企業さんも多かったりするのでは?という疑念の声も上がっています。

突発的な取り組みだけでなく、ずっと取り組んでいく・考え続けていくことが重要なのではないかと思いました」(合田さん)

「合田さんの言うように1回2回のセミナーでやったつもりになるのではなく、企業としてやったことを社員がしっかり感じているのかというのはきちんとデータとして取るようにしています。特に LGBTQ+の人口というのは、やはり全体からすると少ないと思うので、彼らの声はデータや調査をしながらきちんと定性的にも定量的にも拾い上げています」(津釜さん)

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アメリカン・エキスプレス 加盟店事業部門 マーケティング アジア太平洋地域 副社長の津釜宜祥さん。社会人になった時、ロールモデルがいないことでキャリアパスが描けなかったと話す。

画像提供:アメリカン・エキスプレス

また、上司やチームリーダーたちがカミングアウトしている企業ほど「相談相手が社内にいる」「現在の職場で働きやすい」と答えているという傾向について、津釜さんは「上司やチームリーダーという立場の人の影響力はすごく大きいし、彼らが自分はアライ(※2)であるということを示すことで救われるセクシャルマイノリティの人はものすごく多いはず」と話した。

合田さんも「『この人だったら目指せるかもしれない』というロールモデルとなりうる存在が、チームリーダーや上司なのかもしれない」と続けた。

※1 6月は「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、 日本やアメリカなど世界各地でLGBTQ+の権利を啓発する活動・イベントが実施される月間
※2 性的マイノリティの人たちを理解し支援する人のこと、またはその考え方を指す言葉

今企業に求められているのは、社員の人権を尊重する責任

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セミナーの様子(壇上左から、大崎さん、合田さん、津釜さん)

画像提供:アメリカン・エキスプレス

最後に、ビジネスセクターに期待することとしてパネリストの2人はこう回答した。

「日本では現状まだまだカミングアウトやLGBTQ+の人をサポートする制度は整っていません。その中で、決して自分には関係ない話だと思わずに、『私の周りにはいない』とか『私の人生には関係ない』と考える人を減らし、アライシップを持つ人たちがきちんと声を上げるなど、支援したいという人の力が重要なのではないかと思います」(合田さん)

「企業でキャリアアップを積みたいと思っている人が、いかにキャリアのプランを描きやすい環境を整えられるか、そしてロールモデルを作れるのかというのがビジネス業界においてまず注力しなければいけないことです。

そしてもう一つ、自分たちの企業の中だけではなく、社会に対する影響力という意味でもビジネスは大きな役割を担っていると思います」(津釜さん)

LGBTQ+の人の中にも多様な考え方があるという事実を踏まえつつ、今企業に求められているのはあらゆる人たちの人権を尊重する責任「誰もが安心安全に働ける環境、つまり真のDE&Iを日本企業は推進していってほしい」と大崎さん。

環境が整備されたところで、カミングアウトするかどうか、どういう制度を使うかは本人の自由であるという、個人が選択できることの重要性を語り合ったところでセミナーは終了した。

画像提供/アメリカン・エキスプレス

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