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日本のスタートアップで初のB Corp認証取得。ファーメンステーション「目標は事業性と社会性の両立」

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画像/MASHING UP

2022年3月、日本のスタートアップとして、初めてアメリカの国際認証制度「B Corporation(以下、「B Corp」)」を取得した企業がある。未利用資源(※)を独自の発酵技術でアップサイクルし、循環型社会を構築する研究開発型バイオ・エンジニアリング企業 ファーメンステーションだ。

発酵の力で社会は再構築できる」。そう語る同社代表取締役の酒井里奈さんに、B Corp取得の経緯やメリット、認証企業としての社会的意義を聞いた。

※規格外であることなど様々な理由で、廃棄されたり有効活用されていないもの。

社会や環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる認証制度「B Corp」

B Corpとは、2006年にアメリカの非営利団体B Labが設立した国際的な認証制度だ。社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対して与えられるもので、グローバルの企業を対象に、透明性、説明責任や持続可能性、社会と環境への配慮などが、B Corp独自の厳しい基準で審査される

認証を取得すると、エシカルな消費者の信頼性を獲得できる点や、ビジネスのグローバル展開に役立つなど多くのメリットがあるため、近年取得を希望する企業は増えている。一方で、厳しい審査基準ゆえに、日本に本社を置く企業で取得したのはまだ14社のみだ(2022年8月2日時点)。

「今から約20年前、前職の金融業界に身をおいていた頃に、現在ではB Corp取得企業の草分け的な存在であるアメリカのアイスクリームブランド『Ben&Jelly's(ベン&ジェリーズ)』のことを知りました。

例えば、ベン&ジェリーズのアイスクリームのフレーバーには、社会的なメッセージが込められているものがあります」

ベン&ジェリーズでは、過去には、刑事司法改革を訴える「Justice Remix'd」や、同性婚の合法化を求める「Apple-y ever after」など、社会課題と関連する名前のフレーバーが発売されている。これについて、酒井さんは、「従業員はもちろん、顧客やこれから顧客になるかもしれない人など、全てのステークホルダーに包括的な利益をもたらす。そういったビジネスが社会に与えるインパクトに、魅力を感じていた」と話す。

そこで東京農業大学で4年間発酵技術を学んだ後、化粧品などの原材料として広く活用されているエタノールにビジネスとしての可能性を見出し、ファーメンステーションを起業。岩手県奥州市の休耕田で栽培された無農薬・無化学肥料のオーガニック米を発酵・蒸留してエタノールを製造するビジネスを開始した。ファーメンステーションでは、発酵の過程で残った発酵粕も化粧品の原材料に使用するほか、鶏や牛の餌に活用する。さらにその鶏糞や牛糞は畑や田んぼの肥料にするなど、ごみを出さない循環型でサステナブルな取り組みを実践している。

難しいB Corp認証をファーメンステーションはいかに取得したのか?

酒井さん

「料理では、多くの人が調理する食材や好みに応じて使用する油を変える。それと同じように、化粧品などを通じて毎日肌に触れるアルコールにも、選択肢が必要だと思った。生産を通じて社会課題を解決するものがあればいい」と酒井さん。

撮影/千葉顕弥

酒井さんは、B Corp取得までの経緯を「自然な流れだった」と話すが、認証を取得するのはそう簡単なことではないという。B Impact Assessment(Bインパクトアセスメント)という従業員・地域社会・顧客・環境に関する200項目に回答するのはもとより、それに伴う提出書類や手続きも膨大。そして、基準をパスするためには200項目の質問で80点以上のスコアを取ることが必須となる。

質問項目は会社全体に関する問いも多く、社員の協力を得ないと答えられないものもある。そこでファーメンステーションでは、ある社員の声からB Corpに関する社内勉強会を開始。その勉強会を通して、社員全員のB Corpへの理解が深まったという。その結果、同社はなんと約半年程の準備期間でB Corp認証取得に至る。

「B Corpは環境に限らず企業のあり方を認証する制度で、取得してからがスタート。短期的・中期的視点でアドバイスがあり、毎年改善を求められる。第三者の評価が得られること、B Corp取得企業が参加するコミュニティと繋がれることなど、取得のメリットは非常に大きい

B Corp 認証にあたり評価されたファーメンステーションの実践事例の一部

<ガバナンス>
・パーパスを明確に設定し、環境や地域への配慮をコミットメントとして宣言
・取締役会や組織の構造など組織としてのガバナンスが明確であること
<コミュニティ>
・会社のオーナーシップや役員構成にダイバシティがあること(ファーメンステーションの場合は代表、社外取締役に女性)
・取引先の選定におけるダイバシティ(経営者が女性など)や地域性の考慮(地域取引先の優先など) など
<環境>
・未利用資源のアップサイクルを中心とした環境負荷低減に資するビジネスモデル
・製造における再生可能エネルギーの活用製造プロセスにおけるライフサイクルアセスメントの実践(温室効果ガス排出量の可視化) など
<カスタマー>
・商品を通じて、環境や地域コミュニティーへのポジティブなインパクトについて伝える姿勢があること など

「社会の循環の中にいる楽しさ」を消費者に伝える

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取材を実施したのは2022年7月の下旬。岩手の工場では、りんごの搾りかすからエタノールが作られている最中だという。

撮影/千葉顕弥

ファーメンステーションのパーパスは、「Fermenting a Renewable Society」(発酵で楽しい社会を!)。

2022年6月、このパーパスの実現に向けてファーメンステーションは新プロジェクトを発足。その名も「PUKUPUKU POTAPOTA」プロジェクト。商品販売に加え、社会に溢れる未利用資源がいかにアップサイクル資源に再生されるのかを、様々な媒体を通して発信していくというものだ。PUKUPUKUは元気よく発酵している様子、POTAPOTAは主力製品エタノールを蒸留している様子を指す。酒井さんは、立ち上げた背景とプロジェクトの目的をこう語る。

「弊社の未利用資源から生まれた商品は、社会を循環し、再構築する一助になっています。しかし、商品を購入することだけでは、消費者のみなさんにどのようなメリットがあるのかまでは伝えきれません。

「PUKUPUKU POTAPOTA」プロジェクトは、商品を世に送り出すだけでなく、背景にあるストーリーまでセットで伝えるべきじゃないか。私たちの思いをもっとストレートに伝えるべきではないか、という思いからスタートしました」

事業性と社会性を両立させた成功事例になる

ファーメンステーションの商品

(左)「お米でできたハンドスプレー ミントフレッシュ」岩手のオーガニック米からできたエタノールで作った、手指をケアする化粧品グレードのハンドスプレー。(中央)「お米でできたアウトドアスプレー レモングラス」岩手のお米でできたエタノール、新潟の杉蒸留水、ヒマラヤの香り高い精油を使用。ルームスプレー、マスクスプレーとしても人気。(右)「奥州サボン」無農薬・無化学肥料のお米を麹と酵母で発酵させた米もろみ粕をたっぷり配合。

撮影/千葉顕弥

B Corp認証取得企業として、これからますます社会の期待を背負うだろう。「ファーメンステーションのモットーは、『発酵の力で社会は再構築できる』。事業性と社会性を両立しているケースとして、成功事例になりたい」と語る酒井さんの次なるステップは、海外進出だ。

「2022年6月、パリとロンドンを訪れました。ヨーロッパは、サーキュラーエコノミーやアップサイクルに対する理解とニーズが非常に高い

私たちの技術は、日本の発酵技術をベースにしています。この技術を活用すれば、海外の企業には絶対に作れない原材料や商品で、海外展開ができると信じています」

日本で受け継がれてきた発酵を活用し、蒸留されたアップサイクルエタノールや発酵原料。「PUKUPUKU POTAPOTA」の輪がグローバルへと広がり、多くの人が循環の輪の中にいる社会。そんな社会がそう遠くない未来に実現しそうだ。

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石上直美
ライター・エディター。出版社にてウェルネス誌・カルチャー誌の編集者として勤務後、フリーランスに。現在は環境・ジェンダー問題などSDGs関連の記事や、ライフスタイル、インタビュー記事を中心に取材・執筆。また、社会問題をテーマとした映画レビューも手がける。

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